第79話:サンディのお願い
サチ達一行は、宿敵魔王の巨腕を討ち倒して次なる旅へと乗り出した。
おなじみの服装で登場したサチを見て、ボシュが尋ねる。
「サチの服、アイツに捨てられたんじゃなかったのか?」
「それがね、朝起きたら枕元に置いてあって。私もビックリ。あとこれも…」
サチはポケットから光の玉を取り出して見せる。
「ね~。捨てたとか言っといて実は大事に取っとくとか、なかなかやり手じゃん?冥王サマ!」
「そういう事できる人なら、ちょっとホッとした」
「ありがた迷惑っ!意味分かんない」
「まーまー。で?旦那どこ行ったのよ」
「旦那じゃない!知らなーい。このままどこか行っててくれればいいのよ」
「まあ…そうだね。上から付いて来られるのって何か落ち着かないし」
「でっしょ~?さあ!買い物行こう、買い物!」
「何買うんだ?」
「服よ」
「戻って来たなら必要ないだろ」
不意にサチが立ち止まり、ボシュに急接近する。
「違うの着たいの。…ダメ?」
「な、何だよ!近いよっ、別にダメじゃねーけど!」
「なら良かったっ」
「ねえサチ、その服着ないなら、私ほしいな」
「いいよ!アイミーのロングスカート動きにくいでしょ。こっちの方がいいと思う」
「嬉しいっ、じゃあ下だけ。それ可愛いな~って思ってたんだ」
サチの下衣は、チェリーピンクと黒、紫を基調としたもので、後ろ側だけスカートのように覆われた黒タイツスタイル。
シルバーのハート型膝当てが可愛らしい。
アイミーの今の紫系上衣ともよくマッチする。
「アタシはまだこれでいいや。サチ、次はどういうのにするの?」
「女共は着替えんの好きだな」
「お兄ちゃんだって替えたじゃない」
「俺は最初に買ったブルー系の一式に戻しただけ」
冒険を始めた当初は一人だけ浮いてしまったものの、今では違和感はない。
手に入れたのは、今や欠かせない相棒闇払う大剣と出会った最初のショッピングであった。
「これ買っといて良かったぜ。そういや、あん時サチに借りてた金、返してないな」
「そんな昔の事忘れたー。別ので返してくれればいいよ」
「別の?」
サチがおもむろに自分の頬を人差し指で突く。
「ここ?何か付いてるか?」
意味が分からず、ボシュは自分の頬を触る。
「だぁ~じれったい!ほっぺにチューしろって意味でしょうが!」
「っ、はあ~っ?!何でだよ!」
「ダメだサチ。このチェリー君はまだまだ先が長そうだわよ」
「分かってた。ちょっと遊んだだけっ」
サチが肩をすくめて笑う。
「怒るぞ?サチ!俺で遊びやがって。あとリリ姉、そのチェリー呼びやめろっつってんだろ!」
「半分は本気だったんだ。ボシュ君になら、されてもいいもん」
「だっ、だから…」
言い返そうとしたものの、サチは真顔であった。
「あんまりふざけてると、マジで押し倒すぞ?」
「えっ」
「あらまっ」
「お兄ちゃん…」
いいよ、と返されたらどうしようと真剣に悩んでいたボシュ。
だが返事が返される前に、聞いた事のある甲高い声が耳に飛び込んで来た。
「きゃ~っ、気になる展開!っと、続きが見たいトコだけど待ち切れずに割り込んじゃった」
何かが近づく気配もなかった。
あまりに突然の声掛けに、一同はバッと振り向く。
「アンタ達、元気してた~?」
そこにいたのは、細い木の枝に座り足を組む日に焼けた妖精だ。
「誰だ?お前。いつからいた!」
「この声、どっかで聞いたんだけど誰だっけ?」
「覚えてないの?!マジであり得ないんですケド!」
「あっ、このヘンテコな話し方は、目に見えない妖精さん?」
「まさかのガングロギャルとは…」
「今まで見えなかったのに、どうして見えるの?」
「それはね。サチが原因だと思うよー」
「私が原因?」
「最近何か変わった事なかった?」
変わった事と言えば冥界に行った事だ。そこでの事を思い出すサチ。
「あっ、そう言えば、普通の人は見えないっていう魂が見えたとかなら」
「タマシイ?」
「まあ…その辺は流してよ。話せば長くなる!」
「つまりネルゲルさん関係って事だね」
「ネル、誰?」
「いいからそういう事なの!話続けろ、ガングロ小ギャル」
「ムカっ、そこのお兄さん口悪いんですケドっ!」
「ゴメンなさい妖精さん。お話、聞かせてくださいませんか?」
「…アンタ、いい妹持ったわね。いいわ、話したげる!要は、サチとアンタ達が固い絆で結ばれてるってコトでしょ」
「で、何の話だっけ?」
「妖精さんが見えるようになった理由」
ポンと手を打ったリリ。話が逸れすぎて忘れてしまった。
「それで、あなたは?」
「ああ、まだ自己紹介してなかったか。アタシは妖精サンディよ。早速だけど、アンタ達に一緒に来てほしいの」
「どこにだ」
「知り合いの村。妖精がたくさん暮らしてんだけど、今大ピンチなワケ!だからサチに助けてもらいたくて…って、何か反応薄いなぁ。助けてくれるの?くれないの?」
「もちろん行くわ。ねえ皆?」
「買いモンはいいのかよ、リーダー」
「買い物とアタシの願い、どっちが大事なのっ」
「仕事とアタシ、どっちが大事なの!ってノリだわね」
「やっぱキャラ被ってないか?お前ら!」
買い物は妖精の村でしようという事になり、まずは村に向かう事に。
村は森の中にあった。
「いかにも妖精の世界ってカンジ~」
「随分入り組んだ森だな」
「迷子になりそう」
「ヘーキヘーキ。そう見えるだけなんですケド」
「どういう事?」
「人間が入って来れないように、まやかしを見せてるってワケ」
なるほどなーと納得の面々。
「でも森に棲んでる魔物達は本物だから気を付けてね!」
そんなサンディの忠告を聞きつけたように、早速何かが飛び出して来た。
二本足で立つ白っぽいウサギが3匹登場だ。
顔部分だけピンク色の一見可愛らしい容姿だが。
「やい人間!オレたちゃこの森に住む荒くれチャッピーだい!この先に進みたかったら食い物を渡すっピー!」
「アタシは退避っ、あとヨロシク~」
「食いモン渡せだ?人にもの頼む態度じゃねえだろうが!」
「同上。一息にやる、ジャッジパラライズ!ボシュ、止めを!」
「よし来た!ギガ空裂斬!」
合間に蹴りを放って来るウサギに、アイミーがキレる。
「大人しくしてれば可愛いウサギさんなのに。おいたは、めっ、だよ!サイコストーム!」
こんな愛のムチは見事にウサギ達を蹴散らした。
「ひゃあっ、やられた~。逃げるが勝ちだっピー」
ボロボロになりながらも、ウサギ達は森の中に逃げて行った。
「止め刺さなくて良かったの?アイミー」
「ブチ切れてたクセになー」
「だって。あんなに可愛いのに足癖が悪いんだもん」
「つまり可愛いから手加減したと?甘いんだよ、お前は!」
「まあまあ!アイツらはいても害になんないから。それよりやるじゃん!やっぱアタシが鍛えただけの事はある~」
「鍛えてもらった覚えはないが?」
「細かい事はいいから。ほらほら行くよ!その調子で村のピンチもパパっと解決しちゃって!」
「何か…調子いいね、あのコギャル妖精」
「本当に村がピンチなのかなぁ」
「とにかく行こう」
村に着くと、別の妖精が出迎えた。
こちらはブルーのボブカットに黒ぶち眼鏡の真面目そうな印象だ。
全体的にブルー系の衣裳でコーディネートされている。
「お待ちしてました。サンディ先輩、こちらが例の冒険者さんですね」
「あなたはこの村の?」
「紹介するね。この子はエルシィ。アタシのズットモ」
「私はちっともそう思いませんが。エルシィです。以後お見知りおきを」
付近にちらほらと見受けられる村の住人は、誰も彼もが咳をしている。
そのうちの老人妖精と若い女性妖精がこちらへやって来た。
「ゴホゴホ、どうかこの村を助けてくだされ」
「ゴホゴホ、冒険者さんが頼りです」
「実は、この村に呪いが掛けられてしまったのです」
一同は、え?と同時に声を発した。
「…先輩、まだ話してないのですか」
「あ、まだだったー。エルシィから話しといてくんない?」
これ見よがしにため息を吐くエルシィ。
立ち話もなんですので、と家へ案内される。
「エルシィさんってすごく真面目そうだね」
「サンディを見た後だからそう思うんじゃ?」
「どーゆー意味?!聞き捨てならないんですケド!」