先へと進むと、大きな門が建っている。
「どうやらここが一つ目の関所のようですね」
「何かいるよ」
「細長いのが3本、槍持ってユラユラしてる。ズッキーニャっぽくない?」
「色味的に腐ってるな。あれが門番か?弱そうだ」
「行ってみよう」
「やあ、よく来たね!ここは第一の関所キズナの門だよ~ん。オイラは門番ブラックベジター。この薄紫ボディ気に入ってるんだ、腐ってないよん!」
「聞こえてたよお兄ちゃんっ!謝った方がいいかな…」
「魔物相手にそう律義になんなっつーの、お前は」
「キズナの門か。絆には自信ありよ。ねえ皆?」
「当然だわよ!」
ボシュとアイミーも大きく頷く。
門番と4人が対面で横一列に並ぶ。
「さあ。何をすればいい?」
「まずはオイラと勝負だ!門をくぐるのに相応しいか、その力を示してもらう」
「倒していいのか?よっしゃ、やってやるぜ!」
「ボシュ君、敵は君を狙う可能性大だわよ、気を付けて」
「お兄ちゃん、腐ってるって言っちゃったからね」
リリの予想は的中し、鋭い槍が一斉にボシュに突き出される。
そのスピードはかなりのものだ。
「うおっ、いきなりかよっ…ゴッドガード!」
「さみだれ突き!」
「串刺し突き!」
「ボシュ!よくもっ、まとめて眠れ、眠り打ちー!」
スピードの速いニンジャサチが仕掛けるも、眠りも麻痺も効かないようだ。
「やられたらやり返す!ギガ空裂斬ー!クソ、思ったよりダメージが入らない…っ」
「次は私だね、サイコストーム!凍結したよ!」
「よぉし、ならこれはどう?ヴァイパーファング!猛毒食らえー」
「やった、毒に侵されたよ!」
「リリ姉、今のうち、ラッキータロットをアイミーに!」
「よし来た!アイミーに限界突破出ろー!」
やや苦戦はしたものの、ここでもアイミーの技が際立っていた。
「勝利です!見事な戦いぶり、大変勉強になります」
「参った参った、キミ達は資格ありだ。先に進んでもいいけど、門をくぐったら大切なものが失われるよ~ん。そのつもりで!」
そう言い残して門番の魔物達は消えた。
「一体何が失われるってんだ?」
「迷ってる暇はない。覚悟を決めて門をくぐろう」
そして門をくぐるも…。
サチは自分の服装や武器を確認して首を傾げる。
「何も失くしてないみたい」
「あの、他の皆さんは?姿が見えないのですが」
「え?さっきまでいたのに?どこに行ったの!」
何と仲間が消えてしまったではないか。
「そんな…。大切なものって、仲間だったの!?」
途端にサチは大きな不安に襲われる。
一人も心細いし、皆の安否も心配だ。
「おーい!ボシュ、アイミー!リリ姉!…。ダメだ、見つからない」
サチは辺り一帯を探し回った。呼びかけの声も虚しく森に消えて行くばかり。
「サチさん、間もなく日が暮れます。暗くなる前にどこか火を起こせる場所を探しましょう」
「でも皆がっ…」
「お気持ちは分かりますが、夜の山を探し回るのは危険です。日が昇ってから探しましょう」
「そうね。そうしましょう」
付近を探索し、幸い休めそうな洞窟を見つける事ができた。
「今夜はあそこで休みましょう」
「皆、無事でいてくれればいいけど…」
洞窟にて骨休みする二人。
ふとエルシィが問いかけた。
「仲間の皆さんとはもう長いのですか?」
「ええ。駆け出しの冒険者だった頃から一緒に旅をして来たの」
一番最初の出会いは偶然訪れた村の教会だ。
アイミーが行き倒れたサチを助けたのがきっかけだった。
その後兄のボシュが現われて、どちらもサチのスカウトで仲間となった。
次の出会いは宿泊のために訪れた町。
その宿兼酒場にて、踊り子リリと意気投合した。
そこの女主人オーヴァは、身寄りを失くしたリリの将来を実の娘のように心配していた。
『あの娘はここでくすぶってたらいけない。一緒に連れてっておくれ』
踊り子としての人生を謳歌していたリリが、サチと冒険の旅に出る選択をした。
それは大好きな踊り子をやめて大嫌いな魔法使いになる事だったのに。
「皆、あの時とは比べものにならないくらい強くなった。私にとって、とても頼りになる仲間」
「そうなんですね。お会いした時も、とても仲が良さそうで。羨ましく思いました」
「でも本当は、私との旅が嫌だったのかも。私は皆の上辺だけしか見てなかった、とか…」
「サチさん。弱気は何も生みません。さっきキズナの門で言っていた言葉はウソだったのですか?」
サチは言った。絆には自信があると。
そしてそれに3人共が同調してくれた。
「ウソなんかじゃない!私は、少なくとも私だけはそう、思ってる…」
サチの言葉は段々尻すぼみになって行く。
皆の姿が消えた事で、その同調してくれた事実さえも消えかけている。
またもサチは自信を失いかけていた。
これまで何度も経験した。
いつでも力不足で皆に助けられている自分に、大いに悩みながらここまで来たのだ。
今まで乗り越えられたのは、仲間の存在があったから。
皆に支えられていたからこそだ。
「私一人で、何ができるの?」
こうして、不安な一夜が明ける。
「目が覚めたら全部夢!…じゃないのね。皆いないままだぁ…」
「サチさん。これからどうします?関所はまだ二つあります。今度は何が失われるか分かりません。それでも先に進みますか?」
「もうやめようかな…」
あっさりこんな事を言って来たサチ。
気持ちは大いに分かると頷いてしまいそうになるも、エルシィはグッとこらえる。
「ここで諦めたら呪いは解けないままです。村の皆には諦めてもらう事になりますね」
「それはダメ!そうよ、諦めちゃダメ!姉さまだってそう言うはず…っ」
「サチさんにはお姉さまが?」
「あ、ええ、血は繋がってないんですけど」
「そうですか。きっと誠実で賢くてお強い方なのでしょうね」
こんな事を言われればサチはもう止まらない。
「そうなの!姉さまはとっても強くて。カッコいいの…。だから、今の私を見たらきっとガッカリする」
「それはいけません。前に進まねば」
「そうよ。山神様に会えば、消えた皆の事が何か分かるかもしれないし」
「そうですね、とにかく会いに行ってみるしかなさそうです」
気持ちを切り替えて、前に進む事を選んだサチ。
エルシィの案内で進んで行くと、再び大きな門が見えて来た。
お約束の門番魔物が待ち構えている。
「あれが第二の関所です。さあ、気を引き締めて行きましょう」
「カカカ…よくぞ参った。ここは第二の関所カマエの門である!」
「構え?」
「我の名はヴァルハラー。ここの門番なり!さあ、オマエが門をくぐるに相応しいか確かめさせてもらう!」
赤紫の兜と手甲、ブーツを着けたオレンジの骸骨が1体、グレーのマントを羽織っている。
手にする幅広の金の剣と丸い盾を構えた。
「やっぱりこのパターンか」
「仲間がいない今、立ち回りが重要になりますよ」
「そうね…。どうかアイツにニンジャの技が効きますようにっ」
一人で戦うなら、力不足を補うためにそれらを駆使するしかない。
自分には忍術が使えるのだから。
「いざ、参る!」
「先手必勝!食らえ毒攻撃ー!」
幸運な事にこの魔物には様々な状態異常技が効いた。
そしてサチの得意技ドラゴーンだが、敵も防御してくるためなかなか攻撃できない。
何度も何度も海賊船で押し流し、時に痺れさせ、ついに勝利を収めた。
「どうにか勝ったぁ…」
「ぬおおっ。まさか破れるとは!」
「万が一の時は助太刀に入るつもりでしたが…その必要はなかったですね」
「最近薬草の消費がほとんどなかったから、たくさん残ってて助かったわ」
それはいつもリリの回復魔法のお世話になるためである。
今回は自分で回復のための薬草を何度か使った。
「カカカ。一人でも見事な戦いぶりよ。ここをくぐる事を許可する。ただし忘れるな。門をくぐれば大切なものが失われるのであーる!」
そう言い残して魔物が消えて行く。
「今度は何が?不安だけど、とにかく前に進むしかない!」
拳を握り締めて門をくぐる。
不意に体が身軽になった気がして、サチは自分を見下ろした。
何と、身に着けていた武器も防具も消えていたのだ。
「仲間の次は武器と防具か…」
「サチさん。恐らく第三の関所でも魔物が待ち構えているはず。このまま進むのは危険です。一度村に戻って態勢を整えましょう!」
「でもここで戻ったら満月の晩に間に合わない…もうこのまま行くわ!」
「そうですか…」
つま先に何かが当たって下を見ると、ヒノキの棒が落ちている。
「ちょうどいいや。これ拾っておこう」
「武器がヒノキの棒だけなんて…。心もとないですね」
エルシィのつぶやきが、サチの不安をさらに膨らませるのだった。