旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第82話:孤独な闘い

 

 

 進んで行くと、門が見えて来る。

 ここを通過すれば山神様の祠に行ける。

 

 

 そして魔物の登場である。

 左右に魔性雲を従えた、ピンク色の雲に乗った老人型の魔物だ。

 

「ふぉっふぉっふぉ。ここまで辿り着いた人間は久しぶりじゃ。ワシはヘルミラージュ。ここシンカの門の門番じゃ」

 

「ここを通るためには、あなたと勝負して力を示さないといけないのね」

「ふぉっふぉっふぉ。いかにも。分かっておるではないか?では。仲間を失い装備も失ったそなたの力が如何ほどか。見せてもらう!」

 

 

「来ます!サチさんお気をつけて!」

 

 

 サチはヒノキの棒を固く握りしめた。

 

「ニンジャを舐めないでね!忍びカッター!」

「何やら天候が悪くなり始めたわい」

 

「悪くなってないけど?まだまだ行くわよ、忍びカッター!」

「黒い雲が漂い始めたわい」

 

「さっきから何言ってるの?」

 

 

「サチさん!それは攻撃の合図です、防御を!」

 

 

 サチが慌てて防御の体勢になると、敵が竜巻を起こした。

 

 

「エルシィの忠告がなかったらまともに食らってた。ありがとう!もう眠ってもらうわ、眠り打ちー!」

「ナイスです!眠りましたよ!」

 

「この隙に力を蓄えて…」

「とどめです、サチさん!」

 

「しびれ突きー!」

 

 

 そして結構長引いた戦いにようやく決着がついた。

 

「ひょええっ、やられてしまったわい!」

 

 

「やっと勝った…」

 

 またもボロボロの自分。

 これがボシュやアイミーだったならもっと楽に勝てたのだろうとサチは思う。

 

 

「凄い…ヒノキの棒だけで倒してしまうなんて…」

「全然凄くない、こんなになってるのよ?」

 

 

「さあ門をくぐるがよい。山神様にお会いする資格が与えられよう」

 

 

 何はともあれここまで来た。来れた。一人でも!

 

 だが、また何かが失われる…。

 

 

 

 

「もうここまで来たら、どうにでもなれ!」

 

 

 やけくそで門をくぐるサチ。その途端、がくりと膝をつく。

 

 

「どうしたんです?しっかり!」

「ああ…何て事…っ」

 

 自分の体から力が消えて行くのが分かる。

 これまでの冒険で培われた経験や力だ。何をすればそうなるのか。

 

 

 サチの力は失われてしまった。

 

 

「ふははは。人間よ、我はこの山を司る神である。よくぞここまで辿り着いた。最後の試練に臨む前にひとつチャンスを与えよう」

 

 顔を上げると、そこには頭の天辺に小さな角を一本生やした、小太りの黄色のドラゴンが立っている。

 

 

「あなたが、…神様?」

 

「村に掛けられた呪いを解く事を諦めれば、失ったものをすべて返そう」

「え…?」

「村の妖精達を救うか。失ったものを取り戻すか。よく考えるがよい」

 

 

 そんな声を聞きながら、サチの意識は遠くなり、そして意識を失った。

 

 

 

 

 サチは夢を見た。それはいつかに光の中に現れた、濡羽色の髪の男性。

 

 

『いいか、サチよ。導きの力を宿したお前は、いつの日か大きな選択を迫られる時が来るだろう』

 

 

「あなたは誰?」

 

 サチの問いに答える事もなく、男性が語る。

 

『その時は、自分の力を信じるんだ。導きの先に必ず答えがある』

 

 

 

 

 薄っすらと目を開けるサチ。

 

「誰?…あ、エルシィ」

 

 

「気が付いたようですね。サチさん」

「ここに他に誰かいた?」

「いいえ、誰も。それより、山神様の話は覚えていますよね?もう十分です、失ったものを取り戻してください。山を、下りてください…」

 

 沈痛な表情でエルシィが言う。

 

 

「でもそれでは村の皆が!」

「サチさんにはサチさんのやるべき事があるはず。小さな村一つのために、今ここで全てを失っていいのですか?」

「それは…っ」

 

「さあ、すぐに山神様の祠に向かいましょう。私達の事はお気になさらず、答えを出してください」

 

 

 

 

 誘われるままに山の頂上へと向かう。そこには洞窟があった。

 

 

「恐らくあそこに祠があります」

 

「あそこに昨日の…」

 

 魔物のような神様がいるのか、とサチは思う。

 

 

 そして思った通りそれはいた。

 

「ゴゴゴ…よくぞ来た人間」

 

 

山のように大きな太っちょドラゴンだ。やはりこれが神様とは思えない。

 

「答えを聞こう。失われたものを取り戻して、このまま山を下りるか?それとも最後の試練として、ここで我と一戦交えるか!選ぶがよい」

 

 

「やっぱり戦うのか…」

 

 一瞬考え込んだサチだが、キッと斜め上のドラゴンを見上げて言い放った。

 

「逃げるのはイヤだから戦うわ。考えたら、ここ最近いろいろむしゃくしゃしてたしっ」

 

 サチはヒノキの棒を構えた。

 いろいろ、というのはつまりネルゲル絡みに他ならない。

 

 

「ほほう…。戦いを選んだか」

 

 

「そんな、どうして…!」

「小さな村一つ救えない者が、魔王の驚異から世界を救えるはずがない」

 

 これが、サチが導きの先に見出した答えだ。

 

 

「サチさん…やはりあなたは英雄になるべき人なのですね…」

「よろしい!おぬしの覚悟が如何ほどのものか、しかと見せてもらおう!」

 

 

「必ず村の皆を助けるわ!」

 

 

 

 力を失ったサチの最後の戦いが始まった。

 もうお得意の忍びカッターも使えない。眠らせる事も毒で侵す事もできない。

 

 とにかく、先にヒノキの棒でボカリと攻撃を加える。

 

 

「ふほほ!可愛らしい攻撃よ!お返しじゃ!」

 

 ドラゴンが全身で押し潰して来た。

 

 

「きゃあっ!何するのよ、威圧ー!」

「うぬぬ…」

「咆哮!」

「ぐぬぬ」

 

 ドラゴンは様子を窺っている。

 その隙にサチはヒノキの棒でボカスカと叩きまくる。

 

 

「何やらとてつもない力を感じるぞい…」

「私の力がそんなに強い?ウソに決まってるでしょ、逆に嫌味よ、ムカつくー!」

 

 怒りに任せてひたすら棒で殴るサチ。

 

 

「いけません、サチさん!今のは合図です!」

 

「山神の怒り!受けてみよー!」

「きゃ~!!忠告遅いよ、エルシィ…」

 

 ガラガラと落ちて来た土砂に埋まりそうになるサチ。

 辛うじて抜け出して訴える。

 

 そしてポケットに潜ませておいた薬草をパクリと頬張る。

 

 

「これ、足りるかなぁ。痛いじゃない、威圧!」

「うぬぬ」

 

 

 

 こんなやり取りの繰り返しがどれだけ続いたか。最後にサチの分身が現われた。

 

「やった、分身の術は使えるのね!これなら勝てる!二人分よ、受けてみなさい!」

 

 

 コツコツと溜まったダメージに耐え切れず、とうとう太っちょドラゴンがくず折れた。

 

「ぐおおお…っ、見事である。おぬしの覚悟は見せてもらった」

 

 

 

 そこへサンディが突然姿を見せた。

 

「はいは~い。そこまで~!皆、お疲れ~!」

 

 

「え、サンディ?ここで何してるの?」

「何って、種明かしですケド。エルシィ、もういいから術を解いちゃって~」

 

 

「はい。…我に宿りし力よ、彼らをまやかしの記憶から解き放ちたまえ!」

 

 エルシィが呪文を唱えると、光と共にサチの装備と力が戻って来た。

 

 

「力がみなぎって来る…、装備も短剣も!」

 

 

 そして仲間3人がどこからともなく現われた。

 

「どういう…事?皆無事なの!?」

 

 

「あれ?アタシ何してたっけ。最近物忘れ酷いなぁ」

「やだ、リリ姉ったら!あれ、私も何してたか分からなくなってる…」

「しっかりしろよお前ら!って、俺もだ…」

 

 

 サチだけが皆に駆け寄って3人まとめて抱き込む。

 

「え~ん!もう絶対離さない~!」

 

 

 目を瞬く3人。

 

 

「おい、お前らサチに何かしたのか?」

「もしそうなら、例え妖精さんでも許せないですっ」

「ちゃんと話してくれるよね?」

 

 

 冗談では済まされない雰囲気となり、慌ててエルシィが説明する。

 

 

「私は代々、幻術師の力を受け継ぐ妖精なのです。サチさんは何も失っていません。全てはまやかしの記憶でした。皆さんには別の場所で少し眠っていただいていただけです」

 

「じゃあ山神様は?」

 

 サチが、たった今叩き潰した太っちょドラゴンに目を向ける。

 

 

「神なんていねえ。オラはこの山に住む、ただのギガントヒルズだべ」

 

「やっぱり神様じゃなかった!」

「門番達も皆、サンディにスカウトされた魔物だべ」

「何のためにこんな事!皆まで巻き込んで!」

 

 こんな大それたドッキリ演出に、さすがのサチも怒りが込み上げる。

 

 

「まーまー、抑えてよ!これは全部女神様から与えられた英雄の試練だったの。そんでもって、アンタ達は合格しちゃったみたい!」

 

 

「女神、さま…?」

 

 村での一件が全て女神の仕組んだ事と知らされ、サチ達は怒るに怒れなくなった。

 

 

 

 そこへ、どこからともなく不思議な声が一行の耳に響いて来る。

 

『サチよ。まずはつらい思いをさせた事、謝らねばなりませんね』

 

 

「どういう事なの?」

 

『あなたは本当に強くなりました。ですが…英雄は時として孤独な存在なのです。どんなに大切なものを失っても、己の信念を貫かねばならない事もあるでしょう。その時、あなたがどんな選択をするのか…それを確かめたかったのです』

 

「それが英雄の試練?」

 

 

『かつて同じような選択をして世界を救った者達を、私は知っています…。サチよ。あなたは英雄の名を継ぐに相応しい存在。これで私も心が決まりました。近い将来、あなた達にこの世界の真実を告げると約束しましょう』

 

 そして声は聞こえなくなった。

 

 

 

「この世界の、真実…」

 

「話は終わった~?これで分かったでしょ。今までのが全部お芝居だったって」

「山神様の呪いは?妖精達も無事なの?」

「ご安心ください。村の皆はサンディ先輩に頼まれて、病気のフリをしていただけです」

 

「え、何、そうだったの??」

「私何だか頭が回らないっ」

 

「要はだまされてたって事。どうもスッキリしねえが!」

 

 

 怒り気味のボシュに、エルシィがもじもじしながら申し訳なさそうに近づく。

 

「あの…この度は、だますような事を…本当にスミマセンでしたっ!」

「そんな、面と向かって謝られたら怒れねーじゃねえかよ…。いいよ、別にアンタが悪いんじゃなさそうだし」

 

「そう言っていただけると助かります…」

 

 

 二人の微妙な空気に、リリが敏感に反応する。

 

「なになに?エルシィ、もしかしてボシュに気がある?最初に会った時から視線が違ったもんね

 ー!」

「えっ、視線?!そんなつもりは…!」

 

 途端に真っ赤になるエルシィ。実はとても分かりやすい性格のようだ。

 

 

「思えば初めから妙に胡散臭かったもんな~。お前ら演技下手すぎだ」

「何度かギクシャクしました…あの時点でバレてしまったらどうしようかと」

 

「その点アタシは完璧でしょ~?」

 

「先輩は私に丸投げだったじゃないですか!サチさんが可哀そうすぎて、何度打ち明けようと思った事か…」

 

「へ~。アンタにも情があったんだ~」

 

「ありますっ!仲間の大切さは、…私にはよく分かりませんが」

「アンタ友達少ないもんね!アタシがズットモじゃなかったら孤独よ?」

 

 

「そうかもしれません。サチさんが皆さんを思う気持ちが伝わってきて…私もそんな仲間を持ってみたくなりました」

 

 自分の話のせいで空気がしんみりしてしまった。

 

 

 それに気づいたエルシィは、黒ぶち眼鏡を指で押し上げる。

 

「関係のない話をしてしまいました。早く村の皆に、英雄の儀式が無事に済んだ事を報告しに行きましょう」

 

 

 淡々とした口調に戻して言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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