ぞろぞろと村に向かうと、最初に会話をした老人と若い女性の妖精が出迎えた。
「いやー。だまして済まんかった!何しろサンディに頼まれたら断れなくてのー」
「でも無事に試練を乗り越えて、女神様に認められたなら良かったわ」
「ホントだ、みんな元気だね」
「すっかりだまされたー!」
「もういいって。別に」
一人だけ盛大に謝られているだけに、ボシュはコメントしずらい。
改めてエルシィがサチ達に向けて頭を下げる。
「皆さん、本当に申し訳ありませんでした。ですが、私達妖精にとっても魔王復活は由々しき事態。皆がサンディ先輩に協力したのは、新たな英雄の誕生を待ち望んでいるからです」
「ちょっと?そこはアタシの人望って言ってくんないと?」
「ねえ?女神様がサチに試練を与えるのは分かるけど、どうしてサンディがそれを手伝ってるの?」
「ですよね。気になります」
「どーしても何も、お姉ちゃんに頼まれたからに決まってるんですケドー」
皆が同時に、お姉ちゃん?と繰り返す。
「言ってなかったっけ?女神セレシアはアタシのお姉ちゃんなんですケド!近いうちに会えると思うから、ヨロシク言っといて。んじゃ!」
そう言ってサンディの姿が見えなくなった。
「女神セレシア…って誰?」
・・・
恒例の夜の宴の席にて。
「しっかし今回はしてやられたぜ」
「アタシら出番ほとんどなかったねー」
「でもサチ、また強くなったんじゃない?だって女神さまの試練に合格したって!」
ボシュとリリも賛同し拍手を送る。
「なってないよ、やめてよ…。今回改めて実感した。皆の力が私には必要だって。皆、いつもありがとね」
「お、今日は泣かないね、偉い偉い!」
「泣くと姉さまに叱られるもの。姉さまね、ニンジャ目指してるらしいの!」
サチが目を輝かせて語る。
「って、いつの間に会ったんだ?」
「夢で会った」
「夢の話?それ現実じゃないじゃーん」
「そんな事ない。姉さまとは心で繋がってるからっ」
「それ何か妬けるー。ねえボシュも思うでしょ?」
「あ?…別に!」
「またまた強がり言っちゃって!」
「大体、姉さんに嫉妬してどうすんだよ。ヤだね~」
「皆とだって繋がってるよ。皆大好きっ!」
サチが隣りに座るリリを皮切りに、一人ずつ抱きしめて行く。
「ハグ久しぶりだね、アタシも好きよ、サチ」
「私もっ!サチ大好きー!」
「っ!だからくっつくなって!」
「…ゴメン。イヤだった?」
上目遣いでしどけなく問われ、ボシュは慌てる。
「べ、別にっ!」
「やじゃないのね、良かった!」
「よし、アンコール!」
「ぎゅっ」
リリの掛け声で再度ボシュを抱きしめるサチ。
「お前らっ、また俺で遊んでるだろ!」
「お兄ちゃん、顔真っ赤ー」
「酒のせいだ、酒が回ったんだ、テキーラもう一杯!」
「ところでさ、女神さまって妖精なんだね」
「そうそう。サンディさんのお姉さんだもんね。まさかイケイケのお姉さん系だったりして」
「それはそれでいいんじゃない?」
「いい訳あるかよ!神様だぜ?」
「どんな人なんだろ。早く会ってみたいっ」
「だが冥王がアレだし、あり得るかもな。世の中どうかしてるぜ!」
「すべては偏見なんだって。誰がどんな姿しても自由だよ。決めつけは良くないな~。サチは分かってるよね?」
「まあ、何となく」
「その顔。分かってる気がしねえが?」
「むっ。分かってるってば」
「何となく、なんだろ?」
言い合いが始まったサチとボシュを見ながら、リリとアイミーが語る。
「二人、やっぱ仲いいねぇ」
「ネルゲルさんもどっか行っちゃったし、お兄ちゃん本気でサチを奪っちゃえばいいのに」
「でもさ、波乱アリかもよ?ほら、エルシィがボシュに気があるみたいだったし!あれは間違いなく恋する乙女の顔よ」
「エルシィさんがお姉さんかぁ。まあ悪くはないけど…」
「けど?物足りないって?」
「そう、それ!サチとだったら楽しそうだもん」
「妹の言い分はそんなカンジね。そもそもボシュのタイプってどんななんだろ?」
「おい!また何か言ってるだろ、そこ!」
「え~何~?妖精の村にいいお店あったけど、サイズが小さかったね~って話してただけよ。ね?」
「あ、うんそう。妖精さんサイズだから仕方ないねって話」
元々の目的であったショッピングはまだ果たされていないが、アイミーはすでにサチの下衣を身に着けている。
サチはアイミーが魔法戦士時代に履いていた下衣にお着替え。
赤マントと白の前垂れ付きに、白のニーハイブーツ姿だ。
「はい、テキーラお待ち!」
「お、サンキュー」
可愛らしいコスチュームの妖精店員がテキーラを運んで来た。
「あっ、その服カワイイっ」
「えっ、マジ?嬉しいんですケド!」
「って、その話し方、妖精界隈で流行ってるの?」
「ねえリリ姉、この下に合うと思わない?あの服!」
「うん。露出高めだけど、かなり合うね。でも胸元平気?」
チューブトップのようなデザインのそれを見ての指摘である。
サチのバストは豊満ではない。
前中央の合わせが紐で編まれているタイプで、そこから魅惑の谷間が惜しげもなく…。
「そこは盛るっ。あの、それって大きめサイズないですか?」
「妖精さんサイズしかないよ、きっと」
「あるよ~っ。でもただじゃ渡せないな~」
「あんのかよっ」
「えっ。どうすればいい?」
対価は労働。サチはしばらくその酒場でアルバイトする事になったのだった。
「そこの店員!デカい店員、アンタだよ!酒はまだか?」
店はなかなかの盛況ぶりで大忙し。
店のコスチュームに身を包み、ロングヘアを赤いターバンで隠したサチ。
トレイにジョッキを20杯も載せてオジンキラー・スマイルを炸裂させる。
「はいはいただいま~。お~っとつまづいたぁ!」
「きゃ~何してんのアンタ?!載せすぎなの!バカなの?」
「お店が狭くてっ。でも平気、それ分身の術っ!間一髪~」
床に真っ逆さまのはずのジョッキは、もう一人のサチにより無事救出。
何事もなく客のテーブルへと運ばれたのであった。
「便利な技ね…アタシにも教えてくんない?」
「妖精ってニンジャになれるのかなぁ」
「は?ニンジャ?ダッサ…やっぱパス」
「ダサくないっ、姉さまも目指してるのよ?」
「はぁ?誰?」
店内を盛大にかき乱して、サチのバイト期間は無事に終了した。
・・・
「やったね、似合ってるじゃんそれ!」
「でっしょ~。あとね、こんなのも貰っちゃった」
サチが見せたのは赤いタンバリン。シャラランと鳴らしてポーズを決める。
「おいおい。音楽隊でも始める気か?」
「いいね!ならアタシがあのハープを…。あれ、どこ行った?最近使ってなかったからっ」
リリがゴソゴソと布袋を漁るもなかなか見当たらず。
「リリ姉のその袋、いっぱい入ってるね」
「そうなの。どんどん増えて来ちゃってー」
皆がそれを覗き込む。そこには乱雑に薬草やら衣服やらが詰め込まれていた。
「案外整理整頓苦手なタイプだな、リリ姉は!」
「そんな事ないよ?大体どの辺に入れてるか把握してるんだから」
「にしちゃ出て来んな、ハープ」
「うっさいわっ」
「アイミーを見習え、大違いだ」
実際アイミーの鞄は綺麗に整理されており、中身が一目瞭然だ。
「妹びいき反対ー!サチも何とか言ってよ」
「盛り上がってるところ悪いんだけど、音楽隊にはならないよ。これね、武器だから」
はあ~?!という声が3つ重なる。
「攻撃の威力は期待できないけど、仲間のパフォーマンスを盛り上げたり体のリズムを整えたり、体力回復できるんだって。凄いでしょ!」
「それをサチが使うのか?」
「今の私は中途半端で強敵との戦いでは使い物になってない。でもこれで皆をサポートできる」
「使い物になってないって、そんな事誰も思ってないよ?」
「そうだよ。ねえお兄ちゃん?」
「いや。事実かもな。だが分かっててニンジャ目指したんだろ?」
サチは何も言えない。
思った以上にボシュとアイミーが強くなったから。
それは嬉しい事だ。単に自分の努力不足かもしれないのに、そんな事は言えない。
「力だけが全てじゃないよ。時には小細工して敵を翻弄するのも賢い戦い方だと思うしさ」
「うん!いろんな人材がいた方が、パーティとしては上手く行くよ」
二人の意見を聞いて、サチは感激する。
「それ、姉さまも言ってた…。ありがと二人とも、私頑張るっ」
「そうだよ。姉さんもニンジャ目指してんなら強気で行けるだろ?」
「姉さま…。そこなんだよね、問題は」
「問題?」
「ううん、何でもない!とにかくレベル50までは頑張ってみるよ」
「そうだよ!皆で一緒に50になろうよ!」
「よし。んじゃ、誰が一番先に50になるか競争しようぜ!」
「好きだねー、競い合うの。アタシ一番勝ち目ないじゃん。ハンデほしいんですケド!」
「あれ被れば?スライムの」
「あっ、忘れてた!」
「残念ながら特級職には効き目がないよ」
「え~っ、残念すぎるんですケド~」
「そのしゃべり方やめてくれ。どうにも落ち着かねー」
「何で?気になるんですケド~!」
「うんうん、なるんですケド?」
「だからっ、やめろっつってんだろ!便乗してくんなよ、サチまで!」
「キャハっ」
「うふっ」
しんみりモードになろうとも、最後には皆でワイワイと賑やかな一行であった。
サチは思った。あれは本当にただの夢だったのかもしれないと。
ドラちんがニンジャになる姿は、どうしたって想像できない。
くノ一美人姉妹も捨てがたいが、ドラちんには力強くあってほしいと願うサチであった。