旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第15章 燃ゆる騎士(1)
第84話:不吉な知らせ


 

 

『…。感じるぞ、強い、導きの力を…!』

 

 

 暗闇の中から、おどろおどろしい声が響く。

 

 その場に集う二つの魔の気配が、もう一つの存在と言葉を交わしている。

 

 

「例の冒険者、女神による試練を乗り越えたようね。英雄を名乗る日もそう遠い話でもなさそう。これってどういう事?ねえ冥王サマ!」

 

「何の事よ。我には一向に分からぬ」

 

「とぼけないでよ。知ってるクセに?この調子じゃ、あなたとの契約は白紙ね」

「おぬしとの契約条件、こちらはすでに履行済みぞ。勝手にすり替えるでない。我の世界征服の時はまだか?そちらこそ話が違うではないか」

 

「あら何の事かしら」

 

 

「不毛な言い合いはその辺にしろ。名乗り出る前に始末すれば良い事。これ以上我らの邪魔をさせる訳には行かぬ。この…大魔王様より頂いた生命に代えても、この灼爍天ブレアがヤツを葬ってくれる!」

「そうしてちょうだ~い!」

 

「…」

 

 

 

・・・

 

 

 

 サチ達一行は妖精の村を後にし、心機一転、冒険の旅を再会した。

 

 

「さあ、張り切って行こう!」

 

 赤系の衣装に身を包み、頭部を覆った赤のバンダナもそのままに晴れやかな表情のサチ。

 以前とは違う出で立ちも相まって一皮むけた様子だ。

 

 

 そんな姿を眺めつつ、後に続く3人が口々に言う。

 

「やけに気合入ってんな、サチ」

「そりゃそうよ。サチは女神さまから英雄を継ぐ者と認められたんだもん。その期待に応えないとさー」

「私達も気を引き締めなきゃ。必ず魔王の復活を止めてやるんだから」

 

「お、威勢がいいなアイミー。感心感心!その勢いで四天王あと二人、さっさと片付けようぜ」

 

 

「四天王…そうだったっ。うえぇ~ん、きっと恐ろしく強い感じだよね、全然自信ないよぉ」

「何情けない事言ってんだ。今やお前が俺に次ぐ攻撃役なんだぜ?なあサチ」

「そうだよ。アイミーがいるから私も頑張れるんだから。自信持って!」

 

 前を行くサチが振り返って輝く笑顔で答える。

 

 

「けど、やっぱあと二人いるんだよね~。くわばらくわばら!」

 

 

 

 不意に上空に影が掛かり、上を見上げる面々。

 

 

「ん?何かこっちに飛んで来るぞ」

「何かキラッて光ったよ!」

「まぶしっ」

 

 背に悪寒を感じたのはサチだけだ。立ち止まり身構える。

 だがしかし、今手にしているのは短剣ではなくタンバリンのため全く締まらない。

 

 

 愛用の大鎌を優雅に振りさばいて降り立ったのは、冥王ネルゲルに違いないのだが…。

 

 

「ヤベ、太陽直視したせいか、何か目が変だぜ…」

「奇遇ね、アタシも」

「向こうが透けて見えてる!」

 

「…幻影?」

 

 

 ネルゲルの姿はモヤモヤとしている。そのモヤモヤが言葉を発した。

 

『サチ。不在にして済まぬ。我が花嫁よ、その身に変わりはないか?』

 

 

「魔物の術みたいな真似を…。何しに来たのよ。謝る必要はないわ、清々してたから。今すぐに帰って」

 

 怒りのあまり力が入り、タンバリンがシャランと音を鳴らす。

 あわよくばこの聖なる音色で消えてくれとの願いを込めて。

 

 

 そんな願いは叶わず、モヤモヤネルゲルはサチを上から下まで眺め回す。

 

『その装いは…我の与えた衣裳でも返却した衣裳でもない…が、似合っている』

 

「それはどうも!」

「わざわざこ~んな姿で旦那が会いに来てるってのに、その態度と言い方、ちょっとキツイよ?サチ」

「旦那じゃないったら!」

 

「ヤダよサチ、行かないでよね?」

「痴話ゲンカは別の場所でやってくれー」

 

 

「私はどこへも行かない。行くのはこの人だけよ。早く消えて!」

 

 どんなに冷たい言葉を掛けられても、それが全て愛の裏返しと思っているためネルゲルはめげない。

 

『恥ずかしがるでない。寂しかったと顔に書いてある。供をすると言っておきながら…その節は済まぬ』

「寂しくないです。お供も結構です」

 

 

『どうやら、こちらに滞在できる時が確保できそうにない。サチ、これを』

 

 ネルゲルが大鎌を差し出す。鎌は透けていない。どうやら実物のようだ。

 

 

「何のつもり?そんな物騒な武器はいりません!」

『我に代わり、この大鎌がおぬしを守ろう』

 

 おぬしは狙われている、ネルゲルは心の中だけで言う。

 

 自分が表立って守る訳には行かない。そしてそんな状況でもなくなった。

 ネルゲルの実体は今、例の闇の世界に強制的に留められているのだから。

 

 

『全てを終えた時、また迎えに来る。その時まで…どうか無事でいてほしい』

 

 

 そう言い残してモヤモヤはかき消えた。

 その場には大鎌だけが未だフワフワと宙に浮いている。

 

 

「なあ、意外とカッコいいじゃねーか、その鎌!お前がいらないなら俺が貰っていいか?」

「どうぞー!」

 

 

 ボシュが大鎌の柄に手を伸ばすも、バチンと弾かれた。

 

「いって…っ!んだよ!」

 

 

「サチ、一応受け取っときなよ。冥王様、何か意味深だったしさ」

「そうだよ、きっと何か事情があるんだよ」

 

 膨れっ面をしながらも、仕方なく大鎌を掴んだサチ。

 何の抵抗もなく掴み取る事ができた。

 

「全然似合わねーな」

「だわねぇ」

「同上」

 

「重いしかさ張る!大迷惑っ」

 

 

 文句オンパレードのサチの目に、こちらに向かって来る人の姿が映る。

 

「また誰か来る…」

「え、冥王様ってば舞い戻って来た?」

 

 リリが空を見上げるも、サチの指先は地上を示している。

 

「走って来てるね。誰だろう」

「もしや今度はアタシの追っかけ?困っちゃうー」

「いねーだろ、そんな奴」

「フンだ」

 

「リリ姉のなら、スライムだからすぐにシルエットで分かるね!」

 

 アイミーの真っ直ぐな瞳が向けられ、頷くしかないリリであった。

 

 

 

 現われたのはダーマ神殿で出会ったロイスだ。

 

「会えて良かったっ…フォズ大神官の、読み通りの場所にいましたね、ハアハア…っ」

 

 

「そんな息切らして、慌ててどうした?」

「緊急事態です!すぐに神殿までお越しください。フォズ大神官がお待ちです」

 

 到着があと少し早ければ、ロイスはあのモヤモヤ冥王を目撃していたところだ。

 この小心者ならば腰を抜かした事だろう。サチは少しホッとする。

 

 

「皆、行ってみよう」

 

「あの慌てぶり、よほど大変な事が起きたみたいね」

「何だろう…不安しかない!」

 

 

 

 

 

 

 

 急ぎダーマ神殿へと向かう一行。

 そこではフォズが待ち構えていた。

 

 

「急にお呼び立てして申し訳ございません」

「一体何があったんですか?」

 

「はい。サチさん達が魔王の巨腕を倒した後も、魔王の肉体発掘は続けられており、私達は魔物の動向を警戒していたのですが…先ほど出張所から、ある山で怪しい動きがあると報告があったのです」

「怪しい動き?」

 

「多くの魔物達が山を掘り起こしているとか」

 

 

「それって、肉体がそこにもあるって事!?またあの手みたいなのが…っ」

 

 アイミーの顔が青ざめる。

 その肩にそっと手を置いて、フォズが続ける。

 

「かもしれません…。それをサチさん達に調べていただきたいのです」

 

 

「もしそうなら、すぐにでも阻止しないと!」

「よし、行くか!アイミー、大丈夫か?」

「もちろんだよ。リリ姉みたいに、こうやって見ないようにして戦う!」

 

 アイミーが目を細めて見せる。

 

「あのマスク被れば平気だよ、アイミー」

「えーあれ…?あんまり気に入ってないんだけど」

 

「まあ、可愛くはないよな!」

 

 ここぞとばかりに同調するボシュ。あれを被ると過激になるような気がする。

 いつまでも穏やかで優しい妹であってほしいと願うシスコン気味のボシュだ。

 

 

「この際見た目は目をつぶるしかないよ。だってあれ、かなりいい品だよ。ねえサチ?」

「そう。少なくとも闇の衣を使う時は必要だよ」

 

 

「そうだね。分かってる。よし、行こう!」

 

 なり振り構ってはいられない状況で我がままは言えない。

 アイミーはキュッと唇を結んで前を向いた。

 

 

 

 その表情に、ボシュは改めて妹の成長を感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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