旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第87話:ブレアの正体

 

 

 いよいよ夜の闇が濃くなり出した頃、一行は教えられた塔にやって来た。

 

 一帯には禍々しい空気が漂っている。

 

 

「アイミー、行ける?それともここで待ってる?」

「ってサチ、一人で待ってる方が怖いっしょ」

「行くに決まってる!王様と約束したんだからっ」

 

「ホントお前は律義だよなぁ。いかにも教師の娘って感じだぜ」

 

「何で他人事?アンタもそうでしょ、兄貴!」

「ああ?ああ、どうだかなー…」

 

 

 ボシュの声を遮ったのはアイミーだ。

 

「あ!ねえ、あそこ!」

 

 指で示す先に禍々しさ満点の石の塊がある。

 

 

「あれか!よおし、一気にぶち割ってやるぜ!」

 

 

 そこへ薄紫の竜に乗った赤い甲冑姿の魔物が現れた。

 

「待てい!そうはさせぬぞ!」

 

 

「お前が水晶を守る恐ろしい魔物か。意外と小さいな」

 

「黙れ!我はガーディアン。灼爍天様の命により代々この水晶を守って来た。呪いを解くなど言語道断。我が剣のサビにしてくれよう!食らえハヤブサ斬り!」

 

 いきなりの攻撃に、ボシュが皆をガードする。

 

「ボシュ、今回も私の短剣使って。フバーハ!」

「お、でかしたサチ!敵が縛られたぞ!よし、この隙に、出でよドラゴーン全速前進ー!」

 

 

 続いてアイミーのサイコストームが炸裂。

 それでも堪えた様子はなく、鋭い攻撃に見舞われる。

 

「マズい、俺一人じゃ守り切れないっ、クソっ」

「守る人と攻撃する人が一緒なのはキツイよ!」

「くっ…、私の事は守らなくていいからっ」

 

「んな訳行くかよ!バカ野郎!」

 

 

「サチ、冥王様の大鎌が…っ」

「はあ?アイミー、こんな時に何いきなり…」

 

 

 戦いの最中、なぜか大鎌がサチの元へ。

 

 持て、と言わんばかりに手元まで来て、ズシリと手に乗る。

 

 

「なっ…。持ち主同様に強引だわ!」

 

「サチ!よそ見するな!」

「きゃっ!」

 

 鎌に目を向け文句を言っていたサチは、敵からの攻撃をもろに受けてしまった。

 

 

「サチ!回復も間に合わないっ」

「サチが死んじゃうー!私今、回復呪文使えないっ」

 

 不意にサチが大鎌を両手で握り締めて構えた。

 その口から出た声はサチのものではない。

 

 

『冥府の護り!』

 

 

「…サチ?」

 

 どういう訳かサチの体力が一定量回復して行く。

 

「私は平気、ボシュ攻撃して!リリ姉、ボシュにアンコールお願い!アイミーは引き続きサイコ撃ちまくって!行くわよ、月下冥葬!」

 

 自力で立ち直ったサチが初の技を繰り出す。

 

 そんなサチの背後に、ネルゲルの姿が見えたような見えないような…。

 

 

 

 そうして勝敗が決まった。

 

「ぐおおっ…バカな。この呪いは王国の人間に与えられし罰、解く事は、許さん…ぐふっ」

 

 

「そんな姿で往生際の悪いヤツめ」

「さあサチ、早く水晶を壊して!」

 

 サチが呪いの水晶に大鎌を振り下ろした。

 

「えーい、魔瘴斬!」

 

 

 たちまち粉々になった水晶。そこから禍々しい空気は消えた。

 

 すると突如背後から声が響いた。ぎょっとして振り返る面々。

 

『そなた達!よくぞやってくれた!』

 

 

「王様?!どうしてここに…」

 

『留められていた呪いが解けたお陰で動けるようになったのだよ。これで皆の魂も天に昇れる…礼を言う。次は是非ともあの魔物騎士も倒してくれると嬉しい。そなた達ならきっとできる!頼んだぞよ!』

 

 言いたい事を言い終えた王様の魂は、鼻歌が聞こえそうなご機嫌ぶりで成仏して行った。

 

 

「何~か、押し付けられた感満載だけども?」

「ま、いいじゃねーか。元々俺達がやろうとしてる事だし」

「この水晶は鍵じゃなかったね」

 

 粉々になった水晶を見下ろしてサチが言う。

 

 そして手にした大鎌に視線が移った。

 

「…」

 

 

「サチったらちゃんと使いこなせてるじゃん、旦那の武器!も~、早く使えってハナシ!」

「まさかの自動回復機能付きとはな」

 

「自分だけ回復できても嬉しくない。本当アイツ、独りよがりで嫌いっ」

 

 

「でも凄いよ!あの技仕掛けた時、後ろにネルゲルさん見えた気がするよ?」

「アタシも見えた!愛されてるねぇ~」

「何それ。気のせいじゃない?」

「っつーか、最初のセリフ、お前の声じゃなかった。その時点で操られてるって」

 

「やっ…コワ!」

 

 サチがパッと鎌から手を離すも、落下するでもなく宙に浮いている大鎌。

 それはまるで持ち主が空を飛ぶかの如く。

 

「コワーっ!!」

 

「ダメだよ。ネルゲルさん、サチを守ってくれたんだよ?コワ、じゃなくて感謝しないと」

「む…っ」

「むくれてねーで、ほら、感謝の言葉は?」

「ボシュ!調子に乗らないでくれる?」

 

 

「だーかーらー!ケンカするなってば!」

 

 年長者リリが仲裁に入りながら、塔から撤収する。

 

 

 

 外に出てみれば、たくさんの魂が光となって天に昇っているところであった。

 

 

「これで幽霊さんがさまよう事もなくなるね」

「うん。良かった…」

 

 そしてこの魂達は冥界へ向かうのだ。

 またもネルゲルを頭に浮かべてしまい、サチの眉間にシワが寄る。

 

 

 そんなタイミングで、赤髪の騎士が姿を現した。

 

『やあ。皆の魂を解放してくれて感謝する。…って、君、どうかした?不機嫌そうだけど』

 

 

「えっ、あ…別に!って誰ー!!」

 

 突然の指摘で我に返れば、目の前にはまたも向こう側が透けて見える青年が立っている。

 究極に不機嫌な顔をしていたサチを、至近距離で見てしまった青年。

 

 

「もう驚かねえぜ、俺は!こんだけ見てんだ」

「わ、私もっ。それで幽霊さん、あなたは?」

 

『何度も挑戦したが、あの水晶を守る魔物を倒せずにいたんだ』

 

 

「その透け透けの姿で倒すのは無理じゃない?」

 

 そして慣れ過ぎたリリは冷静な突っ込みを入れる。

 

 

『僕は呪いで縛られている訳じゃない。自ら望んでこの世に留まっているんだ』

 

「それって地縛霊…っ」

「アイミー、落ち着いて。何かやり残した事があるの?」

 

 

 騎士の霊はサチの問いには答えずに続ける。

 

『ずっと君達の様子を見ていた。ブレアを倒す方法を探しているんだろ?』

 

「何か知っているの?ええと、」

『僕はリムゾン。君達の腕を見込んで頼みたい事がある。一緒に来てくれ。僕の知ってる事を話すよ』

 

 

「どうしてブレアの事を知ってるのかしら」

「とにかく行ってみよう」

 

 

 

 

 

 そうして向かった先は英雄の墓標だ。

 

 

『ここに記された英雄フェルドは、僕の兄だ。兄は王国のために戦い、そして命を落とした』

 

「もし生きてたら、ブレアから王国を守れたな」

『いや。そうはならないよ。ブレアは…僕の兄、フェルドなんだ』

 

 

 ええー?!一行の驚きの声が夜の闇に響く。

 

「どゆこと??」

 

 

『兄は王国のために命を落とし、そして今度は王国を滅ぼすためにブレアとなって甦ったんだ』

「どうしてそんな事に?」

『ブレアを見た時、その立ち振る舞いからすぐに気づいた。あれは兄だと。兄の魂はもうあの体にはない』

 

「魂が体にない…。でも操られてる訳じゃない…って、どゆこと?」

 

 つぶやいたサチの脳裏に女神の言葉が甦る。

 自らの意思で魔王に従っていると。この矛盾は全くどういう事か。

 

 

「サチ、諦めな。そんな訳の分かんない状態になってるって事は、もう魔物なんだよ」

「人間は魂がなければ動く事も考える事もできないからな」

 

 

『兄は魔物に成り下がった。どうしても倒せないのは、そこに魂がないからだ』

 

 魂を切り離して別の場所に保管しているのだろうとリムゾンは続ける。

 

 

「そんな事できるの?魔物って凄いね…」

「ならそれを見つけて壊せば、アイツを倒せるんだな!」

 

「魂を、保管…」

 

 またもサチの脳裏にネルゲルが浮かぶ。

 あの男はやはり魔物と繋がっているのか、一人拳を握り締めるサチ。

 

 

「サチ?大丈夫?」

「リリ姉。アイツ、関係してると思う?」

「ん?アイツって?」

「だからっ、魂って言えば!」

 

「ネルゲルさん?まあ…冥王って存在が悪ならあり得るけど。本来そういう立場の人って中立じゃないと成立しない。誰の味方でもないって線が濃厚だと思うけどねー」

 

 どこまでも正統派の回答が降って来て、サチが目を瞬く。

 

 

「どうしたよ、サチ?アタシの顔に何か付いてる?」

 

「リリ姉は…凄いなって」

「え~?何が?」

「偏見とかないところが。私も見習おうって思った」

 

「よしよし!一つ学んだね。それでこそ天下の冥王様と上手く行くってモンよ?」

「言っとくけど、そのためじゃないからね!」

 

 

 はいはい!とサチを諫めながらリリが問いかける。

 

「で、その魂はどうやって探せばいいの?」

『それは任せてくれ。僕なら兄の魂の在り処を感じる事ができる。案内できるよ』

「それは有り難い、探す手間が省ける」

 

 

『兄が人の道を踏み外したなら、僕は弟として止めなければならない。どうか僕の代わりにブレアを、いや兄フェルドを打ち倒してくれ!』

 

 こう訴えるやリムゾンの姿が地図に変わった。

 

 

「これってまるで、グリザードの時みたいだな」

「あの時と同じように、ブレアの支配する世界に行けるワケね」

 

「リムゾンさんは、お兄さんを止めたい一心でこの世に留まってるんだね。さっきは地縛霊とか言って怖がっちゃった…」

「アイミー。何とかその想いに答えてあげよう」

「そうだわよ、気にしちゃいないって!結果オーライって言うじゃん?」

 

 

「そうだね!よぉし、気合入れて行こう!」

 

 

 顔を上げたアイミーに、3人はそっと笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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