まだまだ砂地は続く。
前衛サチとボシュ、後衛リリとアイミー、最後尾にジョニーが付いている。
「思ったよりまともな人で良かった~」
「私、結局対面で一言も話せなかった…」
「いいんじゃない?別に。メンバーの人達には挨拶したんだし」
「そうかなぁ…」
「ねえちょっとサチ、アイミーが落ち込んでるけど」
前を行くサチに声を掛けると、歩きながら振り返ったサチが声を張る。
「アイミー!姉さま機嫌良かったよ!怒ってたのはタイタンにだから心配しないで!」
「しかし、仲間相手に解けない術を掛けるってどうなんだ?」
「何事も試してみるのは大事よ。私もよく姉さまの練習台になってたよ?」
「マジかっ。何も仲間内でやるこたねーだろうに!」
そこへリリが近づいて来て話に加わる。
「でもさ、魔物で試しても感想聞けないじゃん?」
「そうそう。どんな感じ~?ってね」
「何が、どんな感じ~?だ!アホか?」
「お兄ちゃん!今のは暴言だよ!」
透かさずアイミーも加わる。
「あ~あ~、それは済まん。あまりにアホらしくてついな!」
「術をかけ合えるもの、信頼している証拠じゃ」
さらにジョニーが口を挟む。
「ま、アタシはヤだけど!」
「私も遠慮したいです…」
「大丈夫、二人は掛けられる方じゃなくて、掛ける方だから」
「おいおい、それってもしかしなくても、犠牲者俺確定じゃねーかよっ」
「私だって魔法は使えないから対象だよ」
「お前には魔法自体が効かなそうだ」
「そんな特技があったらいいよね~」
思わぬ突っ込みにも、サチは怒りも見せず即答する。
「サチって凄いよね、嫌味とか悪口言われても嫌な顔もせず受け流せて。尊敬しちゃう!」
「ってアイミー、気づいてないって線もあるよ?」
「え…。ああ…あははっ」
「ふふっ!」
「二人、楽しそうね!何の話?」
「どんな魔法試そうか相談してたの。ね?」
「え?ええ!そうなの」
「頼むから命だけは取らないでくれ?」
「やる訳ないっしょ。感想聞けなくなるもの?」
ボシュが苦虫を嚙み潰したような顔をした。
こうして順調に歩みを進める一行であったが、早速魔物の群れに出くわした。
「量が多くて面倒だわ、私の雨雲で一気にやっちゃおう」
「待って。数は多いけどどれも小物よ。最低限の力で全部潰す」
前に躍り出たリリを手で制したサチは、ボシュに目配せして武器を手にする。
「ボシュ。行ける?」
「おおよ、いつでも!」
ボシュも剣を抜いて構える。
「よ~し、まずは私が“覚醒の炎”を使う。取りこぼしを始末して」
「了解!なら次の群れは俺が“ウィンドスラッシュ”だ。万一残ったら魔法組よろしく」
「了解」
「分かった!」
サチの巻き起こした光の柱から、凄まじい炎が魔物達に降り注ぐ。
一掃できる事もあれば数匹生き残る事もある。
今回も何匹かが残り、それをボシュが倒して行く。
息を付く間もなく次の群れが現れ、今度はボシュが剣を真横に振り抜く。
こちらも時折生き残りが発生。
それらをリリとアイミーの呪文で止めを刺して行く。
「凄いよ、二人息ピッタリ!」
「二人もいい感じじゃない。アイミー、攻撃魔法上手くなってる」
「本当に?嬉しいっ」
「だけど、あの動きにはアタシらじゃ付いて行けないわね」
「斬撃組は呪文の使い手と違って、動くの基本だからな!」
攻撃力、瞬発力、そういった純粋な力においては、サチとボシュは並み以上か。
戦いぶりはなかなかのものだ。
動きのムダも少なく隙がない。ジョニーも頷いてしまうくらいに。
「こやつら、もっともっと強くなる。ドラちんよ、のんびり構えておると追い越されるぞい!」
こんな具合に、二人はいつの間にか魔物の群れを全滅させていた。
「終わったか…?」
「ええ。お疲れ様。ボシュ、なかなか上達したじゃない?剣の腕」
「まあ、お前の教え方が良かったって言っとく」
「それと、回し蹴りもやっぱりステキ。もうちょっと威力があれば、もっと使える」
「それは俺も思ってた」
「お疲れ~!カッコ良かったよ、二人とも!アタシらの出番ほとんどなかったね~」
「あんなにたくさんいたのに。疲れたでしょ、少し休んで行こう」
「いや。俺は休まなくていい。サチが大丈夫なら先に進もう」
「私も平気。じゃあ暗くなる前に、良さそうな宿のある町まで行っちゃおう」
「タフさも半端ないってワケかぁ。アイミー、アタシらも体力もっと付けないとヤバいかもね」
「こっそり筋トレ、追加する?」
「いいかも!」
「いいアイディアじゃ!ワシがオリジナルの筋トレメニューを考えておこう。ムフフ」
「それはありがたいけど…」
ジョニーの鼻の下がヒクヒクしているのに気づいたアイミー。
不安そうにリリを見る。
「エッチなポーズで1分キープ!とかいうのじゃなければ賛成」
「そう、私も!そういう事言いたかったの!」
「ボヨぉぉ~ん…。っ」
まさにそういう事を目論んでいたジョニーの夢は、儚く散ったのであった。
・・・
その後もこんな日々が続き、時には強敵が現れてリリが雨雲の杖の本領を発揮。
「未だに慣れないわ…」
「上等じゃ。この“落陽”は巨大な火の玉じゃが、他にもこれには水による技もある」
「対極の火と水を操れるなんて、増々凄いじゃないか?」
「ホント!リリ姉最高!」
「水かぁ。名前が雨雲ってくらいだからあるとは思ったけど。けどこの技結構体力使うのよ…」
見るからにぐったりなリリ。そのため今は休憩を取っている。
「アタシにもっと体力付けばね。ゴメン、足手まといで」
「そんな事ない。さっきの敵はぐれメタルは、特定の武器じゃないと倒せないの。リリ姉の杖はかなり有り難いわ」
「そうなのじゃ。メタル系のスライムは特殊なのである。ボヨン!」
「私にリリ姉を完全回復させる魔法が使えれば…」
「気にしないで!今やれる事、コツコツやってこ?」
アネゴ肌リリは、アイミーの沈んだ気持ちをすくい上げて微笑む。
「リリ姉…。うん、そうだね!」
その夜、食事を摂りながら話題は今後のポジションの話となった。
「当分は私とボシュが攻撃メインかな。ゆくゆくは魔法とかも覚えないとだけどね」
「俺は魔法は使えなくてもいい」
「そうは行かないんじゃない?武器によっては魔力を使う物もあるし」
「まあ、強制はしない。やっておいた方がいいってだけ」
「それ十分圧力だろ、リーダー?」
「ねえ、サチはお姉さんと同じ道を行くの?」
「そうすると、バトルマスターからの魔剣士?ならサチは武闘家の経験も必要だわね」
「まだ考えてない。バトマスはボシュの方が向いていそうだし」
「俺、それ目指そっかな」
「いいと思う。で、アイミーはもちろん魔法使いも可能だから、賢者でしょ」
「うん。私もそう考えてる。もう少し魔法使いとしての経験を積まないとって」
「皆ちゃんと考えてるのね~。アタシはさっぱり方向性が定まらなくて!」
「リリ姉は、はっきり言って何でもなれるよ。希望の道に進める」
「アタシったら優秀~!だったら断然スーパースター目指すわ。舞台とスポットライトが恋しくって」
胸の前で両手を組み、天井からつり下がった明かりを見上げる。
「そりゃダメだろ。リリ姉は戦力だ。スーパースターじゃ発揮できない」
「うん。魔法使い仲間がいなくなるのは心細い」
「何言ってんの!いつかは皆一人前になるのよ?」
「サチだってお姉さんにべったりだよ?」
「そりゃ一緒にいる時の話でしょ」
「あの擦り寄り具合は尋常じゃないけどな!」
飼い主に纏わりつくネコのようだと3人は思う。
「慕っている人がいないって寂しいのよ。思い出しただけでっ、グスっ」
「待って待って、姉さんならいるじゃん、ここにっ」
「リリ姉~、ずっといて?」
「分かったから、アンタまでくっ付くなっ、アイミー」
「今だけっ、何か私も泣きたくなって来た、グスっ」
「ねえ兄貴、この子泣き上戸なの?」
「知らなかった…」
軽くでも酒が入れば、日頃口にできない事も言えてしまうというもの。
サチやジョニーが酒の席を進んで設けようとするのは、心のうちを探るため。
「ウイィ~…っ、姉さまぁ、サチはどこまでも付いて行きますからぁ…」
「サチ、大丈夫?椅子からずり落ちそうだわよ」
「ジョニーが身構えてるぜ!」
「受け止め体勢は万全であるっ」
「サチ!今日はもう飲むの禁止!ほら、お部屋に行ってから寝よう、立てる?」
テーブルに突っ伏して、ひたすら姉さまを連呼するサチ。
一番に心情をさらしたのは本人であった。