新しい職にも慣れて来て、実戦形式での鍛練となる。
ダーマ神殿所属の高位職戦士らが対戦相手だ。
とは言えアイミーは基本職。基本出番はない。
「俺達を魔物と思って全力で来てくれて構わないよ」
「そんじゃ遠慮なく!」
「残念~、スピードは魔物マスターの方が上みたいよ!じゃあ早速。出でよドラゴーン!」
リリのドラゴーンはすでにニンジャサチに匹敵しそうなパワーである。
スピードに加え様々な持ち技もあり、魔力もパワーも上々。魔物マスター恐るべし。
その後守り人のサチが続く。
一番乗りで登場したかったボシュは悔しさでいっぱいだ。
「マジか…魔人って遅ぇんだな。ゴッドハンドもそうだったし。クッソ」
「そうだね。魔人は実際スピードというよりもパワー重視だから。スピードがほしいならダントツでニンジャだよ?」
「だってさ、ボシュ!ニンジャどう?」
「勧めてくんな!俺がやると思うか?」
「でも海賊は魅力的って言ってたじゃん」
「海賊ってゆーより、そのドラゴーンがな!」
「そうだよ!俺初めて見た!ウワサには聞いてたけどこの目で見たのは初めてだ。一回貸してくれっ」
どうやらダーマの戦士にも水竜の短剣は魅力的な武器のよう。
その後鍛練そっちのけで、ドラゴーンの順番待ちが発生したのだった。
こんな調子でもとんとん拍子にレベルアップして行く。基本職はなおさらだ。
いつしか、サチ達がドラゴーンを受ける側となってしまった。
「ちょっ!タンマっ!きゃー流されたー」
「リリ姉!クソっ、いい加減その武器こっちに返せっつーの!うおー痺れたー」
「こういう時の守り人よ。私が皆を守るーっ!」
守り人になりたてのサチ。タイミングが掴めずイマイチ役に立っていない。
とうとう踊り子アイミーの出番がやって来てしまった。
「大丈夫、やってみる!こうだよね、覚醒の炎ー!」
「完璧だよアイミー、凄い、踊り子なのに上出来!」
先方に見事ダメージが入っていた。
「マジ凄い、アタシの踊り子時代なんて、どの技も全然威力なかったよ?」
「これまでの経験が少しずつ積まれてるからね」
「そっか~」
そして合間には皆をハッスルダンスで回復させたりと、アイミーは戦況をよく見ている。
かなりの奮闘ぶりだ。
そんなアイミーの踊り子体験はあっという間に終了となった。
「もうちょっとやっても良かったなぁ。楽しかった!」
「大活躍だったね、アイミー」
「でも次はそうは行かないよ~」
「アイミーの遊び人なんて想像つかねぇ!」
どうなる事やらの第二幕となった。
案の定、戦闘中に居眠りをしたり、自分で怪談話を始めて怖くなって動けなくなったりと、遊び人ならではの自由奔放さが繰り広げられる。
「これも懐かしー」
「おっ、アイミーの投げた石が命中したぞ」
「でかしたわ、この隙に、ギガ空裂斬ー!」
ようやくサチにもパワーが付き始め、ニンジャの時とは別格の威力で大剣を振るう。
「使いこなせてるじゃねーか、サチ!」
「うん。ありがと、ようやくね」
「あっ、アイミーが転んだ」
「おーっと、つまずいたー!」
アイミーは「勢い良く転ぶ」を学んだ。
それも見事に先方にダメージを与えている。
「アイミーこそ戦士の才能ありなんじゃない?」
「予想外にな」
「だわね」
起き上がって振り向いたアイミーが、てへっと笑う。
この愛くるしさはどう見ても戦士ではないのだが。
才能というのは見た目だけでは判断できない。
こうして順調に修行は進み、ついにアイミーがスーパースターとなり、リリは魔物マスターを卒業して天地雷鳴士となった。
第三幕は、いよいよリリの天性の魔力が発揮される時だ。
魔人ボシュは相変わらずスピード感がなく、さらにガードが弱いためボカスカとやられまくる。
「うおっ、何で、俺ばっかっ!」
「ゴメンボシュ、上手く守れないー!」
「大丈夫だよお兄ちゃん、私がウルトラハッスルダンスやってあげるから!」
アイミーは念願のエンジェルロッドを手にしている。
すっかり使いこなして技を繰り出し、回復と同時に敵を魅了してみせる。
「こりゃヤバい、何て愛らしいっ俺惚れた!」
「俺もだっ」
「俺も!」
「んなっ…おいコラ!ざけんなっ、二刀流で攻撃二倍、怒りでさらに二倍じゃー!」
デメリットばかりが目立つ魔人だが、そのパワーはやはり侮れない。
レベルが上がるにつれてそれが顕著になって来た。
妹に向けられるアツい視線にも原因があるのだが…。
こんなダーマ神殿での生活がひと月近く続き、最初に声を上げたのはリーダーではなく他のメンバーであった。
「それにしても、この八竜神の剣はやっぱスゲーわ。これならブレアに勝てそうだぜ!なあサチ、お前はどう思う?そろそろいいと思うんだが」
「そうだね。サチも仁王立ち覚えたんだし。行けるんじゃない?」
「もしかして、まだ自信ない?」
不安そうに控えめに訴えて来る3人を順に見て、サチが笑った。
「ううん、大丈夫。私もそろそろと思ってた。皆で行こう!今度こそブレアに勝つ」
「「「そう来なくっちゃ!」」」
・・・
ダーマ神殿に別れを告げ、守り人となったサチと元職に戻った3名は、再びトライドン王国に足を踏み入れた。
すぐにリムゾンが姿を現す。
『来たね。覚悟はいいかい?』
「ええ。ブレアの所へ連れて行って」
『君、前よりも断然いい顔してる。期待してるよ』
サチは一度皆を振り返ると、言葉の代わりに強い瞳を向けて頷く。
『じゃあ、地図の示す場所に向かって』
「よし来た!行くぜ、皆」
「暑さ対策もしてきたし、今度は万全!」
「アタシのメイクも型崩れ防止のにしたよ!」
「…。で、サチは」
「ん?私のメイク?」
「じゃなくてっ」
「ああ、意気込みよね。正直ちょっと不安だけど、ここまで来たら突っ込むしかない」
「それでいい。お前は一人じゃない」
「ありがとっ、ボシュ大好き」
そう言って、さり気なくボシュの頬にチュっと唇を押し付けた。
「なっ、何してる、こんな時にっ!」
「さあ皆、行くよ!」
「っておい!聞いてんのかサチ、コラ!」
「お兄ちゃん張り切ってるね~」
「やけにテンション高いじゃん」
現場を目撃していなかった2人には、ボシュの騒ぐ理由が分からず。
こうしていつものように、ワイワイと目的地へ向かう一行。
やがて灼熱地獄へと辿り着いた。
そびえる城へと足を踏み入れる。
「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
「悪かったな。だが逃げずに待ってた事は褒めてやるぜ」
「お兄ちゃん、そんな上からっ」
「頼もしいねーボシュ君!」
「今度こそ、間違っているのが魔王の方だという事を分からせる」
「体力は十分のようだ。口ではなく行動で示せ。先制を許そう、その力遺憾なく発揮するがいい」
「余裕こいてんと痛い目見るぜ!こっちには八竜神の剣があるんだ」
愛用の闇払う大剣は全くダメージを入れられなかった。
今度こそという意気込みを込めて、ゴッドハンドボシュは美しい赤の刀身を見せつけるように構えた。
その横で変わらず水竜の短剣を握り締める守り人サチ。
「ほう、小僧。なかなか良い剣を手に入れたようだ。で、そちらは変わらずのようだが」
「全然違う!ボシュ、先手必勝よ。やって!」
「なぜ自分から来ない?何か策があるのか?」
「ブツブツうるせえな、食らえドラゴンソウル!」
早速放った第一弾は、これまでの5倍はあるだろう。凄まじい威力で直撃した。
続いて大魔道士アイミーの安定の氷攻め攻撃で凍結させる。
大神官リリがラッキータロットでボシュに攻撃力アップを付与。
順当に進んで、これまでよりも早いペースでブレアが覚醒する。
「ここからが勝負…」
例のごとく辺りを火の海と化したブレアが皆にトラップを仕掛けて来る。
こうなると動くたびにダメージが蓄積されてしまう。
「サチ、回復が追っつかないよ!あっ、またアイミーに火種がっ」
「その娘が死ねば両隣も道連れだ。生き延びてみるがいい!」
「クッソ、俺にしとけよな、そういうの仕掛けるのは!アイミー、無理すんな?」
「大丈夫、まだ体力半分あるし!戦えるよ、サイコストーム!」
「仁王立ちしてもトラップは防げない…このままじゃ皆力尽きるっ」
やはり敵のパワーは圧倒的であった。
まだまだ攻撃の術はあるのに、体力だけどんどん削られて行く。
「向こうの攻撃力をもっと下げさせないと…こういう時、ニンジャの威圧が効いたのに!」
今は守り人のためそのスキルはない。
手元の短剣をチラと見る。これは海賊やニンジャが使う事で良さを発揮する武器。
今の自分には意味がないと気づく。
どこかお守りのように肌身離さずにいた武器だが、手放す必要がありそうだ。
「ゴメン皆、ちょっと考えがあるの。一回出直していい?」
「あー、言われる前に体力尽きてたわ俺」
「お兄ちゃんゴメーン、私の道連れだよね。私が死んじゃったから」
「リーダーがああ言ってるんだし、異議なーし!」
いそいそとその場を引くサチ達一行であった。