その場で作戦会議が開かれる。
「ブレアの攻撃力が半端ない。ボシュのガードと私の守りでも足りない」
「そうだよ。回復してもしても足りないんだもん。タロット占いする暇もない!」
「その言い回しは誤解を招きそうだが…言い分は間違ってない」
「私がルカニとか唱えればどうかな。守備力を落とせば少しは、」
「それはダメ。アンタとボシュがウチの要なんだよ?二人が攻撃しまくらないと倒せない」
「そう。だからその役目は私。ヤツの攻撃力を落とすわ」
「どうやって?やっぱニンジャに戻るとか言うなよ?」
「…言おうと思ったのにっ」
「はぁ~?サチ、アンタ大丈夫?言動が不安定だよ」
「こんな時、ネルゲルさんがいてくれたら!」
「はぁ~あ?アイツがここにいたら何なの?」
「…サチ怖い」
「ゴメン。アイミーが変な事言うからだよ?」
こんな妙な話になっているところに、呼ばれたと思ったのか大鎌が向かって飛んで来た。
「お前の出番はない!消えて!」
拒絶を込めて片手で大鎌をあしらうサチ。
そこへ声が響く。と同時に何やら棒のような物が現れたではないか。
『サチよ。おぬしに杖は使えぬやもしれぬが、これを試してみるがいい』
「なっ、何?!超常現象っ、コワっ」
「サチ、コワっ、じゃなくてお礼だよ」
「有り難いじゃない!使ってみなよサチ!あ、杖ならアタシがやろ…」
「リリ姉はダメ!回復できるのはリリ姉しかいないの!もう分かった、私がやるわ」
観念したサチは、目の前に浮かぶ杖を掴む。
竜の頭を象ったヘッドには紫の球体の石が付いていて、全体的に緑色の杖だ。
どこかネルゲルの衣装を彷彿とさせる。
「趣味悪い杖っ」
『サチよ。それは天魔王の杖という。おぬしの求めるヘナトスが使える。以前に我に献上された品だ。役に立てると良いのだが…』
「ヘナトスって攻撃力ダウンの呪文だよ、サチ!」
「あんまりないよね、そういう武器。珍しいよ」
「そ、そうなの?まあ、使ってみてもいいかな。ニンジャに戻るのもアレだし?」
「当たり前だ!戻られてたまるか。俺らの一か月を返せって話になるぜ?」
「そうでもないっしょ。ボシュの八竜神だって手に入れられたんだし」
「まあそうか。じゃあいいか。って、チゲーだろ」
「ほら皆、おしゃべり終わり。次こそ勝つよ!」
「あ、おー」
「やりますか」
「火種注意だね!私頑張るっ」
そして二戦目。
サチは本当にヘナトスだけを唱え続けた。
最初に一回入るもその後はミス続きだったが、後半に立て続けに入ったお陰でボシュのガードと仁王立ちで凌げる程度にまでブレアの攻撃力が低下した。
「これなら行ける!とどめを!」
「俺がやりたいところだがMP不足だ、アイミー、やれるか?」
「大丈夫!任せて。リリ姉、私にアンコールして!」
「了解!」
こうして最後にアイミーが立て続けに4回攻撃。
ついにブレアを破る事ができたのだった。
「…まさかここまでの力とは…」
「今だ、サチ、魂を打ち砕け!」
頷いたサチは玉座に駆け寄る。
杖を天に掲げ、渾身の力で魂を打ち砕いた。
「見事だ、サチ。策を練るのは重要だ。一度退いたのは正解だったようだな。最後にこれほどの相手と戦えた事、…誇りに思う」
ブレアの体は砂のように崩れ風化して行く。
「ああ…っ」
「アイミー、見るな」
『驚く事はあるまい。我は遠い昔に死んだ存在。あるべき姿に…戻るだけの事。最期に、これだけは言っておこう。我の考えは変わらぬ…人間は滅びるべきだった』
サチは無言を貫く。
ブレアが最後の力で言葉を続ける。
『だがサチよ…。多くの人間達が、お前のように澄んだ心を持てたなら…また違う未来が…あるのやも、しれ、ぬ…な』
言い終えるや体は崩れ落ち、そこからいくつもの光が四方へと飛び散った。
「手強い相手だったが、ようやく倒せたな」
「元々人間だったはずなのに…どうして分かり合えなかったんだろう」
「もし私達が、ブレアになる前のフェルドと出会っていたら…こんなふうに戦わなくて済む道が、あったかもしれないね」
城を出ると、そこにリムゾンの姿があった。
『紅霞天ブレアを止めてくれたんだね。これで兄もこれ以上罪を重ねずに済む。本当にありがとう』
「コウカテン?」
「覚醒後の名前だろ」
ああそうか、とアイミーが納得するのを見届けてから、サチが切り出す。
「お兄さんはどうしてあんなに人間を憎んでいたの?」
『それは…僕から話すより、その目で見た方がいい。ブレアが消える時、光が飛び散ったろう?あれは、ブレアの記憶の欠片だ』
「記憶のかけら?」
『それを集めれば、どうしてフェルドがブレアとなって甦ったのか分かるよ』
かつて王国で何があったのか。その真実を知った時、また会いに来る。
そう言ってリムゾンの姿は消えた。
「取りあえず、この世界から抜け出そうぜ。アイミーが暑さでダウン寸前だ」
「見て、持って来てた冷却グッズ、こんなにドロドロになっちゃったよ…」
・・・
元の世界に戻ってみれば、ガングロ妖精サンディが待ち構えていた。
「やっほ~♪アンタ達。3人目の四天王をやっつけたね!お手柄お手柄!」
「サンディ?ここで何してるの」
「何って、アンタ達をお姉ちゃんが心配してるの!引き合わせるために決まってるでしょ」
「ああ。パシリのジジイ代わりか」
「何さ、パシリのジジイって?」
「こっちの話ー」
「ほらほら、早速お姉ちゃんに報告しなよ!きっと褒めてもらえるから~」
こんなイケイケサンディを見て、後ろでひそひそ話が始まる。
「ホントに女神セレシアと姉妹?似てなさすぎ~」
「っていうか、種族の事も気になるよね」
「ちょっと?聞こえてるんですケド!自分で言うのはいいけど、人に言われるとムカつくっ」
「それでどこへ行けばいいの?」
「本当はあっちの世界に招待したいところだけど、今、天の箱舟もテンチョーも捜索中なのよ」
「え?今なんて?ハコブネとか店長とか聞こえたけど」
「あっちの世界って、女神さまの世界って事?」
「まあ…取りあえず自分で何とかしてみるから。ギブアップってなったら力貸してもらう~」
首を傾げるしかない一行を引き連れて、サンディは近くの森へ入る。
「ここでちょっと待ってて~」
少しすると、目前に突如霧のようなものが立ち込め人の形が映し出された。
『サチよ。灼爍天ブレアを倒したのですね。あなたならできると信じていました。残る四天王はあと一人。これで魔王復活も止められるかもしれません』
「女神さま!それは、そうですけど…」
「ちょっとー。四天王やっつけたのにテンション低くない?サチー」
『あなた達の気持ちは分かります。ブレアの言葉が気になるのですね。確かにこの世には悪しき心の人間もいます。争いも絶える事はありません。ですが…あなた達は知っているはずです、人間が持つ心の強さを』
これまでの冒険で出会った人々が皆の脳裏に次々に思い起こされる。
母を想って魔物と戦った幼い娘。
友を想って魔物に立ち向かった青年。兄妹もいた。父と息子も。
『その想いの強さが何度も危機を救った事を。人の心は移ろいやすいもの。時には道に迷う事もあるでしょう。だからこそ私達は、人々が正しい道を進めるよう導かねばならないのです』
「それが、導きの英雄、なのですか?」
『サチ。あなたにはできます。きっと世界を正しい方向に導いて行けると信じています』
こうして束の間の女神謁見の時を終えた。
・・・
その頃、暗闇の世界では…。
『まさか灼爍天までもが倒されるとは…。もう少し使えるヤツだと思っていたが』
「案ずる事はありません、偉大なる大魔王様。次はこの私が参りましょう。女神の好きにはさせませんとも」
『それは頼もしいな。女神…セレシアか。懐かしい名だ』
「…」
実体のない魔王の魂と最後の四天王が語り合う。
これまでにない柔らかな口調でその名を口にした魔王。
対して無言を貫く四天王の表情は凍り付くように冷徹だ。
この空間に、妙な雰囲気が漂っていた。