女神と二度目の対面を果たしたサチ達一行は、すぐに新たな旅に出発した。
ブレアことフェルドの弟リムゾンによれば、“記憶の欠片”を集める事で、トライドン王国でかつて何があったのかを知る事ができるらしい。
「だけど、過去を見るってどうやるんだろ」
「リムゾンさん、この目で見た方がいいって言ってたよね」
大抵旅の道中は二手に分かれる。
リリとアイミーが、先を行くサチとボシュに続く形だ。
今回もその典型パターンとなっている。
「おっ、最後の一個見~っけ!」
「あ!私も見つけてたのにっ、ズル~い」
「先に声に出したモン勝ちだろ?」
「え~。そこはレディーファーストでしょう、ねえリリ姉?」
サチが振り返って意見を求める。
「いいじゃん、どっちが先に見つけたって。揃えばいいんだからさ?」
「だそうだ」
「サチってば意外と負けず嫌いだよね」
ムッと口をとがらせて立ち止まるサチ。
「その不服そうな顔もソソルんだよねぇ。ネルゲルさんもこういうとこが堪んないんだろうなぁ」
「ソソルかぁ?分からん」
「チェリー君にはまだ分かんないだろうよ」
「おいリリ姉!その呼び方禁止だ!」
やいのやいのと賑やかに記憶の欠片を集め終え、地面に並べて置く。
「で?これをどうすればいいのさ」
「さあ」
「何か呪文とかあるのかな」
「やり方教えてもらうの忘れたな」
並んでしゃがみ込み、並べた石を眺めながら途方に暮れる面々だが。
不意に意識がぼんやりし始めた。
「何だか頭がクラクラっと…何事?」
「私も。朦朧とする…」
「ヤバ、クスリ盛られた感じっ」
「ってリリ姉、盛られた事あんのかよ?!」
「ある訳ないでしょーが!そこまでの人生経験はまだなくてよ?」
「こんな時にそんな言い合いしてる場合じゃ…」
「「あ~れ~!」」
気が付くと、一行はどこかの国にいた。
『ここはどこなの?』
『さっきまでの場所と違うよ!』
『なになに、どゆこと?』
『待てよ、あの建物、見覚えがある』
ボシュが少し先の建物を指で示す。
『あっ。亡霊さんがたくさんいた建物!』
『って事は、ここはトライドン王国?』
『そうか、滅びる前のトライドン王国にタイムリープしたのよ』
『マジか!』
こうして過去へとやって来た一行。
ただし自分達の体はそこにはなく、ただ傍観者として意識のみがやって来たようだ。
向こう側が透けて見えるお互いを見やり、過去に干渉してはいけない事を察する。
『とにかくお芝居を観る感じで見て行こう』
サチの言葉に無言で頷く3人。
そこへ短髪と長髪の青年騎士が二人現われた。
「着いたよフェルド兄さん。ようやく王都に帰還だね」
「ああ。ここ最近は、辺境の地で魔物と戦ってばかりだったからな。その甲斐あって王都は安全な暮らしがもたらされている」
「この国はここまで大きな都じゃなかったのにね」
周囲を見回してつぶやくように言う短髪の青年。
「今の王の才覚の賜物だろう。周辺の小国や異民族の土地を取り込んで領土を広げ、大国を築いたのだ」
「けどボクは不満だな。王は兄さんの力を過小評価してる。だって兄さんはこの国の民から英雄と呼ばれる存在なんだ。なのに魔物討伐ばかりさせて」
「誰かがやらねばならぬ事。我ら騎士は国のために力を尽くすのみ。行き場のない我ら兄弟を救ってくれた忠義は果たさねばならん。さあ、王が待っている。早く城に向かおう」
まるで本物の観劇のようだと思いながら、食い入るように見守る面々。
二人の会話が終わるや、幕が下りたように辺りが暗くなる。
『何だ?夜か?』
『いきなり過ぎっしょ、さすがに?』
『二人とも、しーっ、何か聞こえるよ』
どこからともなくナレーションが入る。
「辺境の地から呼び戻された二人。王が直々に話したい事とは?重要な用件に違いないと、足を速める二人であった」
場面が王国の城内に切り変わる。
「二人ともよくぞ来てくれた!民が安全に暮らせるのも、そなた達が魔物討伐をしてくれるお陰。そしてフェルドよ。そなたが民に英雄と呼ばれておる事、耳に入っておる」
「その名に相応しい者は他にもおりましょう。それよりも我らを呼んだ理由を」
「うむ。王国の南方に魔物使いの里がある事は承知しておろう」
彼らが魔物を操って町や村を襲っているとの事。
「どうして?彼らとはお互い領地に踏み入らぬよう協定を結んでいるはずでは」
「一方的に破られたのだ。いずれこの王都にも攻めて来る。先方の統領ガレルは凶悪な魔物を操り、衛兵達では太刀打ちできぬのだ。そこでそなた達に頼みたい。城の衛兵を指揮し、魔物使い共を討ち取ってほしい」
「分かりました。すぐ南方へ向かいましょう」
「やれやれ。今度は魔物使い討伐とは!」
「これが我らの務め。王国の平穏を脅かす者は排除せねばならん」
ここでまた場面が変わる。今度は全く別の国だ。
『話の筋からすれば、ここは魔物使いの里ね』
『魔物マスター経験者としては、悪者にされるのはいい気がしないわ!討伐だなんて?』
『あの王様、何か企んでるんじゃねーか?』
『とにかく続き見ようよ』
(以下会話文以外ナレーション)
辺境の地に着いてみればそこは酷い有様であった。
「焼き討ちに遭ったようだね。まだ焦げ臭いよ」
衛兵が二人を出迎える。
敵の戦力や被害状況について尋ねるも、衛兵達も到着した時はこの状況だったとの事。
「酷い事を…。僕達の国を思い出すな」
二人はトライドン王国の出身ではない。かつて西方に存在したオンラッド王国の生まれだ。
魔物の大群に襲われ、城も町もすべて破壊された王国。
まだ幼かった二人は、視察に来たトライドンの兵士に瓦礫の下から助け出されたのだ。
「だが今回は魔物使いが元凶との事。魔物が暴れただけなら諦めも付くが、人の手が加わっているとなれば話は別」
二人は魔物使いの里へと向かう。
衛兵を率いた二人は、立ちはだかる敵と戦いながら先へ進んだ。
そしてついに敵との対面となる。
「おのれ王国の者共め、これがトライドン王の答えか。ならばこちらも容赦せぬ!さあ行くのだ、
ドラゴンよ!」
黄緑色の大きなドラゴンが、フェルド達に向かって火の息を吐いた。
「あのドラゴン、まさか…」
目の前の魔物には見覚えがあった。
思考に集中したため、フェルドに隙が生まれる。
「兄さん危ない!」
フェルドを庇ったリムゾンをドラゴンの爪が引き裂いた。
血を噴き出し倒れるリムゾン。
「リムゾン!おのれ貴様ら、許さん!」
フェルドの攻撃にドラゴンが倒れた。
それを見て息巻いた衛兵達が統領に向かう。
「「「おおー!」」」
やがてフェルドと衛兵達は統領を討ち取った。
「リムゾン、しっかりしろ!リムゾン!」
「兄さん…無事だったか。僕は…もうダメみたいだ」
「なぜこんな真似をっ」
「兄さんは、王国の英雄…。こんな所で倒れたら、ダメだろ?」
これからも生きてくれ、僕は兄さんをずっと見守っている。
そう言い終えるとリムゾンは力尽きた。