フェルドの腕の中で力尽きたリムゾン。
その事実はサチ達一行にやるせない気持ちを植え付けた。
『先にリムゾンが亡くなっていたのね…』
『そうだったんだ…可哀そうっ』
『ドラゴンに見覚えって、前に倒した敵だったのか?』
『続き、見てみよう』
場面は、フェルドがリムゾンを埋葬しているシーンとなっている。
「済まぬ…。俺もいずれお前の元へ行くだろう。それまで…待っていてくれ」
弟の亡骸を埋葬し終え、フェルドは一人王国へ戻る。
「よくぞやってくれた!統領ガレル諸共全て一掃された。フェルドよ、見事であった。まさに英雄の名に相応しい働き。そなたの弟は残念だったが、これで我が王国の危機は去った。さあ今夜は宴じゃ!」
王の陽気な態度にフェルドは不満が募る。
『やっぱそうだ。あの王様調子良すぎ!』
『弟さんを失くされた人の気持ちになってないねー』
『ガレルって人、ホントに悪者だったのかな』
『皆、続き』
シーンは夜になる。
盛大な宴が行われる中、フェルドは王に呼び出された。
「お呼びでしょうか」
「宴の最中に済まぬ。そなたの様子が気になってな。弟を亡くして気落ちするのは分かるが、別に心配事でもあるか?」
「気になる事はあります。魔物使いの里で見たドラゴンに見覚えがありました」
見間違えるはずもない、それはかつてオンラッド王国を襲った魔物の1匹だったのだから。
「ではオンラッドを滅ぼしたのは、魔物使いの仕業だな」
「しかし、そこまでして彼らに利があったようには思えません。そしてガレルの言葉…。察するにそれは、トライドン王、あなただったのでは?」
王の表情がガラリと変わる。
「気づいてしまったか」
そして王は語る。
魔物使いは自分の影の軍隊で、公に出来ない汚い仕事を任せているのだと。
「だが最近調子に乗って待遇アップを求め、町や村を襲い始めた。奴らの言いなりにはならん。だから消えてもらう事にしたのだ」
「認めるのですね?我が祖国を滅ぼしたのは、あなたの命令だったと!」
「あれはワシのせいではない。当時オンラッド王は我が国と手を結ぶ事を渋っておった。町の一部を破壊して脅しを掛けるつもりが、魔物使い共がやり過ぎたのだ」
「よくもそのような事をっ!」
フェルドが立ち上がった瞬間、背後の衛兵が一斉にその背に槍を突き立てた。
「ぐはっ…っ!」
「悪く思うな、フェルドよ。お前には遅かれ早かれ消えてもらうつもりだったのだ」
英雄は民を動かす力となる。
王はフェルドが扇動者となり反旗を翻す事を恐れた。
「…辺境の地に、送れば、いずれ魔物に倒されるとでも…、考えたか?」
「否定はせぬ。今回も魔物使いと相打ちになる事を期待したが、死んだのは弟だけだったな」
「くっ、貴、様…っ!ここで、俺が、死ねば…、民は、不審に思うぞ」
王は自信たっぷりに首を振る。
「そなたは此度の戦いで受けた傷が悪化して命を落としたのじゃ。その功績を称えて石碑でも建ててやろう。それで民も納得する。さあ、とどめを刺せ!」
衛兵の構えた刃がフェルドの体を貫いた。
ここで一行は元の世界へ戻された。
誰も一言も発せず、ただ呆然としたままだ。
そこへ声が響いた。
『誤解しないでほしい。兄はトライドン王国を第二の故郷として愛していた。だからこそ、どんな危険な任務でも果敢に挑む事ができたんだ』
「リムゾン…」
かける言葉が見つからない。ただ名を呼んで見つめるしかないサチ。
『僕達が王国の騎士として働く事になった日、兄は言っていたよ』
リムゾンよ。我らは王国に仕える身。この国のために力を尽くさねばならん。
だが、もしもこの国が誤った道を歩んだ時、諫めるのも我らの使命だ。
仕えるとはただ従う事ではない。信頼を築くという事だ。
『そんな兄だからこそ、信頼を裏切った王を誰よりも憎んでしまったんだろう』
「そうだったのね…」
サチと共に納得する面々。
『最後にもう一つだけ、君達に頼みがあるんだが。一緒に来てくれないか?』
「ここまで付き合ったんだ、何でもするぜ。なあ?」
「うん!ね、リリ姉」
「もちだよ。言ってみなさい、青年よ」
『ありがとう、それじゃ場所を移動するよ』
そうして、向かった先は王国跡地。
昼間なのに相変わらず薄暗く空気が淀んでいるそこに、一つの古びた石碑がある。
『君達も知っての通り、この石碑は王国が建てた偽りの墓標だ。例え心が闇に落ちても、フェルドは僕にとってたった一人の兄。これを打ち壊してちゃんとした墓を建ててほしい』
「何だ、そういう事なら任せろ!」
「そうだよ。是非やらせて!」
サチ達は寄ってたかって石碑をボカスカと愛用武器で殴りつけ、あっという間に粉砕した。
その様子を見ていたリムゾンから笑みが零れた。
『…気持ちがいいくらいにやってくれたね』
すると、地面から禍々しいオーラが噴き出したではないか!
「何っ?これってもしかしてまた亡霊?!」
「でも偽りのお墓でしょ?」
地面を突き破って現れたのは、つい最近も見たシルエットの…。
「灼爍天ブレア…?」
「まだ生きてたのか!」
『違う…あれは、僕達が知っているブレアじゃない』
それはブレアに命を奪われた人々の恐怖や憎しみや怒りが具現化した、ブレアの幻影だ。
『ウガガガー!』
「襲って来るよ!」
その時、サチのポケットが光り出す。
「あれ、光の玉が変っ」
取り出して掲げると、さらに強烈に輝き出し、幻影ブレアが断末魔を上げる。
『グワワワーー!!』
そして弾けて消えた。
途端に辺りは明るくなり、澄んだ空気に戻る。
「綺麗な青空だぁ」
「これならもう、呪われた場所なんて言われなくて済むわね~」
「そうだね」
「早く新しいお墓、建ててあげよう!」
「よし、力仕事は任せろ!」
燃えるような赤い夕焼けの中、サチ達は出来上がったフェルドの墓を前に手を合わせる。
『本当にありがとう。これでもう思い残す事はないよ』
「どういたしまして。ん?何だ、この光は」
サチは再びポケットを探る。光の玉はきちんとそこに収められている。
「また何か起こるの?!」
「しっ、見て」
光の正体はフェルドの霊であった。
『…リムゾンよ』
『兄さん!…そうか、この地にはまだ兄さんの人間の心がほんの少し残されていたんだね』
『どうやらそうらしい…。無数に渦巻く憎悪がなくなり解き放たれたようだ。リムゾンよ、お前には長い間苦労をかけた』
『言ったじゃないか。僕はずっと、兄さんを見守ってるって…』
『随分と待たせてしまったが、そろそろ旅立つとしよう。今度はお前と共に』
「離れ離れの兄弟がやっと再会できたのね。何か泣ける…って、アイミー号泣?!」
「えーん、だってぇーっ」
泣きそうになっているサチは、アイミーの背を擦りつつどうにか気持ちを落ち着ける。
そんなサチを振り返り、フェルドが声をかけた。
『冒険者よ…随分世話になった。最後にこれだけは言わせてくれ。お前達は灼爍天ブレアを倒しただけでなく、我ら兄弟も救ってくれた。お前達こそ…真の英雄だ』
そして二人の魂は光となって天に昇り、やがて燃えるように赤い夕陽の中へと消えた。
「今度はちゃんと、天国に行けるといいね…」
「それって愛するネルゲルさんの所ね!」
「だ~か~ら~!愛してない!それとあそこは天国じゃないっ」
「もう二度と蘇らないように、冥王様が監視するんだよ」
「そんな重要任務抱えてんなら、こんなとこまでほっつき歩いてくんな、じゃなくて飛んでくんなっつーの!」
「右に同じー!」
しんみりした一行ではあったが、無事に不幸な兄弟を天に送り出す事ができた。
何はともあれ、気持ちはこの空のように晴れ晴れであった。