分厚い本を抱えたシェントとやって来た天文台の書庫にて。
「ところで、流れ星はどんなモノだったの?」
「これよ」
ゼアルがシェントに持って来ていた車輪を見せる。
「って、持って来てたのかよ!」
現物があるなら調べるのも楽だと、シェントが必死に本棚と車輪の間を往復するのだが…。
「どこにも書いてないなぁ」
「ねむねむ…。今その車輪眺めてて思い出したんだけどさ、それ天の箱舟っていう乗り物の部品かもよ」
「お?起きたか、本」
「ホンって言うな!」
「いやだって、本以外の何者でもないぞ。なあ?」
ボシュの発言に反応する者はない。
皆、ただ首をひねって考えている。
「テンのハコブネ、最近どーっかで聞いたような」
「う~ん、確かに」
「ちっ。皆で無視かよ!だが、その船?に、あの化け物を倒す力なんてあんのか?」
「ボクは例えばって言ったからね?取りあえず、部品を集めて復元してみれば?」
「それがいい、そうしよう!」
アイミーがさり気なくボシュに近づく。
「お兄ちゃん、自分から敵作ってる。気を付けた方がいいと思うよ」
「あ?んだよそれ。思った事言ったら悪いのかよ」
「あらあら兄妹ゲンカ?珍しー」
「おいサチ、お前もそう思うか」
「え、私?」
「今の聞こえてたんだろ。お前の考え聞かせてほしい」
「あらま。サチに意見を求めるなんて、どういう風の吹き回し?ボシュ君」
「うるせー!リリ姉は黙っててくれ」
「心外っ、アタシの方が人生の先輩なんですケド?」
リリまでもが機嫌を損ねてしまった。
それを見ていたサチが一言。
「私からはこれだけよ。口は災いの元。以上」
「って何だよ、つまりアイミーと同意見って事か!」
「ねえサチ、それアタシにも言ってる?」
「サチ…。さらに炎上したよ。ホント、災いの元だね」
しばし険悪ムードとなるサチ達だが、そこはここまで苦楽を共にして来た間柄。長く引きずらない性格も相まって、いつの間にか仲直りしている。
部品集めも終盤となると、大賢者の記憶も徐々にハッキリして来る。
天の箱舟の構造が大体判明した。
「あ、あとさ、ガナサダイの事も思い出したよ」
大抵寝てしまう大賢者だが、随所で的確なコメントを述べる姿に、皆いつしか期待するようになっていた。
その語るところの暗黒皇帝ガナサダイ。
その昔魔帝国ガナンを率いて、世界を征服しようとしていた元は人間だったそうな。
「そう言えばゼアル、キミはどうしてガナサダイと戦うの?」
「全てを終わらせるためよ。そう…全てを、終わらせるの」
「ふうーん…まあいいや。ガナサダイの居城に行ってみよう。倒すヒント、あるかもよ」
「それはどこにあるの?」
「ガナン帝国城なんだからガナン帝国だろ、考えなくても?」
「むっ」
「あっ、口は災いの元!」
「まあまあサチ、抑えて!で、それってどこよ?」
「帝国自体は滅びてるけど問題ない。ボクの魔法で大地に眠る城の記憶を呼び覚ますから」
「ガナン帝国城…あの忌まわしい城へ…」
「気が乗らない人がいるみたい。やめておく?ボクは別にどっちでもいいよ」
「いいえ。サチ、行きましょう」
大賢者にではなくサチに言うゼアルであった。
「ゼアルさん、何か嫌な思い出とかあるのかなぁ」
「本人が行く気なんだから平気っしょ」
そうして辿り着いた砂漠地帯。
「それじゃ、ここに宿る大昔の記憶を呼び覚ますよ…むにゃむにゃ…」
「おい、寝たんじゃねーよな?」
「どうだろ」
「少し待って動きがなければ声掛けよう」
待つ事数分。たまり兼ねたボシュが口を開く。
「お…」
「えいっ!」
大賢者が唐突に声を発した。
すると目の前に不気味な城が見えて来たではないか。
「凄いっ、これって幻?」
「ちゃんと中に入れるよ。懐かしいなー!」
「懐かしいとは?」
「だってボク、元々はこの城の本棚にいたんだ」
「そうなの?!ビックリなんですケド!」
「それは初耳だね」
「マジかよシェント?その程度の仲なのか?」
「大賢者様は大抵寝ているからね。ほとんどプライベートな話はした事がないんだ」
「何か納得ー」
早速向かった書庫にて。
たくさんの蔵書を前にウキウキのシェントの方へ、見るからに禍々しい目玉の付いた分厚い本が近づいて行く。
「キサマ何者だ。イタズラに静謐を乱す事は、この悪魔の書が許さぬ!」
「わあっ、ゴメンなさい、あなたもしゃべる本なんですね」
意外と冷静に応対するシェントに、本の魔物も怪しく思ったのかこんな事を尋ねて来た。
「あなたも?キサマ。吾輩の他に言の葉を操る本を知っているのか?」
そう言われ、シェントは振り返って大賢者を呼ぶ。
「ねえ、この人…人じゃないか。知り合いかい?」
「むにゃむにゃ…知ってるような知らないような。覚える必要もなかったような?」
「キサマはっ!よくも抜け抜けと我の前に…仲間諸共討ち滅ぼしてくれる!」
「何だか分からないけど、凄く怒ってるよ。サチさん、どうしようか」
「無益な争いは避けたいけど、気が済むまで付き合おう」
そんな訳で本と戦う事と相成った。
そして当然あっさり勝利するサチ達。
「おのれ…。キサマから受けた屈辱を晴らす機会であったのに…無念」
ドサリ、と音を立てて床に落ちた悪魔の書。
「何か可哀そうな事したかな…。大賢者、この人に昔何かしたの?」
「さあ。でも悪魔の書なんてタイトルなんだったら、きっと有害図書だよ。それよりガナン帝国の記録が載ってる本を探そう」
「そうね。探そう!」
あっさり悪魔の書の話題は消え去り、運良く目当ての書物も見つかる。
それを読み進めるうちに、悲しい歴史が明らかとなる。
「この地では、天使を生け捕りにしてその力を抽出していた、か…。でも天使なんて存在するのかな。作り話だよね?」
「いいえ。それは本当の事よ。今はいないけれど、天使は昔、存在した」
「神様が創り出したって聞きました」
「フォズさんにね」
書物によれば、ガナン帝国は世界征服のために、天使達の力を兵士や魔物に与え力を増強していたとの事。
沈黙を貫いていたゼアルが口を開いた。
「この国は滅ぶべくして滅んだ。だからその諸悪の根源たる皇帝も、滅ぼさなくてはならない」
「その言い方…。ゼアルさんとガナサダイ、どんな因縁があるの?」
「先に進みながら話しましょう」
一行は書庫を出て地下へ足を向かわせる。
「地下ってのはどこも陰気クサいな」
「見て、牢屋だよ」
「ここに天使達が囚われていたのね」
「ねえ、壁に張り紙がある。この先実験室、関係者以外立ち入り禁止、だって」
「なら問題ない。ボクはこの城の元、蔵書。立派に関係者、いや関係書さ」
表情の冴えないゼアルに気づき、アイミーが声を掛ける。
「大丈夫?無理してない?つらかったらやめようか」
「いいえ。過去と向き合ういい機会よ。私は目を背けない」
「ゼアル、事情は分からないけど、この先に何が待ち受けていても、私達は味方よ」
サチも声掛けに加わりゼアルを気遣う。
「ありがとう…さあ行きましょう」