旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

99 / 100
第98話:残された導き

 

 

 先に進むと、ボソボソと声が聞こえて来る。

 

 

「誰かいる?…訳ねーよな、この声って…」

 

 ボシュはこっそりアイミーを確認。霊関係が苦手なアイミーは案の定震えている。

 

 

「幽霊…っ、でも私も目を背けないっ」

「ありがとうアイミー。あなたこそ無理はしないで」

 

 珍しくゼアルがサチ以外に自ら声を掛けた。

 

 

 

 扉を開ければ、ぼんやりと人の形が幾体も浮き上がっている。

 

 

「これは…死んだ人間の魂…っ」

 

 魂を実際見た事のあるサチがつぶやく。

 

「長い年月でも癒されなかったんだね。ゴメン、人間の想いまで呼び覚ましちゃったみたいだ」

 

 

 その魂達が声を掛けて来た。

 

『そなたらは…生者か』

 

 

「あなた方は?」

 

 普通に会話を始めるサチ。これに答えたのはゼアルだった。

 

「天使の力を取り出していた研究者達よ」

 

 

『己の罪の意識にさいなまれ、殺されてもなおあの世へ行けずにおる』

「殺されただと?誰にだよ」

『他でもない帝国の同胞にじゃ。ここでわし達がした事が外に知られぬように』

 

 

「つらかったでしょうね」

 

 

 この声掛けに一人が気づいた。

 

『あなた様は…!ゼアル様!?ご存命であったのですか!』

『我らの施術のせいで、あなた様こそおつらい思いをなさったでしょう。ああ、どうお詫びをすれば…』

 

 口々に謝罪の言葉が述べられる。

 

 

「憐みは無用よ。私は自分の成すべき事をする。あなた達、皇帝を倒す方法を知らない?」

 

『…もし、天使の力を宿すものがあれば、あの力に対抗し得るやもしれませぬ』

『どうかそのお力で、成し遂げてください!』

 

 

 

 ゼアル以外は腑に落ちない様子でその場を離れた。

 

 

「皇帝に対抗し得るのは、天使の力を宿すもの。皇帝に不死を与えたあの力は、天使の力で打ち消せるという事ね…」

 

「ゼアル、あなたは昔ここにいたのね。ここの、お姫様だったの?」

 

 皆が注目する中、ゼアルが小さく息を吐いた。

 

「…あなた達には私の事を知ってもらうべきね。サチの指摘通り、私は皇帝ガナサダイの娘よ」

「ここにもお姫様がっ!」

 

「「にも?」」

「あ…え?今アタシなんか言った?」

 

「と言っても、正統な血筋ではないのだけれど」

 

 

 そしてゼアルは語る。父は先代の健君だった父王から力で国を奪い、世界をも我が物にしようとしていた事を。

 

「私はそんな裏事情も知らず、ただ父に認めてもらいたい一心で軍に入り、先兵となって戦った」

 

 その後頭角を現したゼアルは、ある時この実験室に呼び出される。

 そして天使から奪った力を植え付けられたのだ。

 

「父は無敵の兵士を作ろうとした。実験は想定以上に成功したわ。…私の体内に不死の命を与えるコアが生み出されたの」

 

 それを知ったガナサダイは、自らも不死を得ようとゼアルからコアを奪った。

 

 

「それであなたはどうなったの?」

「用済みの私は捨てられたわ」

「何て酷い事を…!」

 

「でも、長い年月が過ぎて私は目覚めた。どうやら奪われたコアが父の中で動いている限り、私も死なないみたい」

 

 自分が生きているイコール、ガナサダイも生きているのだと続ける。

 

「だから私は、父を倒すため旅に出たの」

 

 

「父親のせいで、悲しい思いをして来たのね…」

 

 自分はまだマシだとサチは思う。

 考えは相容れなかったが、殺し合うような状況などではなかった。

 

「とにかく、外に出よう。ここでの用事はもう済んだわ。さあ、ゼアル」

 

 

 サチの配慮で早々に城を出る。これ以上つらい思い出に触れさせたくなかった。

 

 

 

 

 外へ出ると、そこは来た時と同じ砂漠地帯に戻っていた。

 

 

「でも、今ガナン帝国は滅んでいるから、誰かが一度は打ち倒したんだね」

 

「そう。天使達が反旗を翻して打ち倒したと聞いたわ。ガナサダイの行方は分からなかった。でも、長い長い旅の果てに、ついに見つけ出したの」

「それであの洞窟に封印したんだな」

「ええ。何しろ相手は不死の化け物。あの時の私には、それしか手がなかった」

 

「それからずっと一人で旅を?」

 

「死ねない私は、永遠のような年月を旅しているわ。アイツを確実に倒す事、それだけが私の存

在意義」

 

 

「そう、なんだね…」

 

 もうそれしかかける言葉がない。

 

 

「でもガナサダイの不死は、ゼアルさんのコアがもたらしているんだよね?皇帝を倒したらゼアルさんだって…」

 

 そこで言葉を切るシェント。本人を前に、死ぬなどと口にしずらい。

 

 だがゼアルは平然と言う。

 

「死ねない事に比べたら、死ぬ事なんて怖くないわ。皇帝を倒せば私も死ぬ。皇帝を倒して死ぬ事が私の望みよ」

「そんなっ、ゼアルさん…」

「さあ、皇帝を倒すため、天使の力を宿すものを見つけに行きましょう」

 

 

 ゼアルの強い意志を前にしては、誰も何も言えなかった。

 

 

 

 

 大賢者の記憶を辿りつつ、箱舟の復元が進む。それを眺め一行が圧倒される。

 

 

「こんなのが、本当に空を飛ぶのか?」

「そうだよね。僕も信じられないよ」

 

 箱舟の復元は願ってもない事。だがしかしそれは…。

 

 

「もしこれで、ガナサダイを倒す方法が見つかったら、その時はゼアルさんも…」

 

 アイミーは声を絞り出すように言う。

 どうしてもそんな結果になってほしくない。

 

「言ったはずよ。私は死ぬ事なんて怖くないと」

「でも…っ」

 

 

「同情や感傷で進むべき道を見失ってはいけない」

 

 やはりゼアルは淡々としている。

 

 

 そんなゼアルとは正反対のガングロ小ギャルの顔が、ふとリリの脳裏に浮かんだ。

 

「あーっ!!」

「リリ姉、どうかした?」

 

「今思い出したんだけど、サンディが探してるって言ってたヤツ!」

「そういや、そんな事言ってたな」

「それがこの、天の箱舟の事なんじゃない?あと一個あったよね、何だっけ」

「確か…店長さん?」

 

「そうそう!だけど船に店長って組み合わせは変だわね」

「店長じゃなくて船長って言ったんじゃねーの?」

 

 

 こんな会話をしつつ、早速船内に入ってガナサダイ討伐の手がかりを探す一行。

 

 

「言っとくけど、まだ完全じゃないんだからね?」

「時が惜しい。こんだけ出来上がってりゃ上等さ」

「ゴメンなさい大賢者様、私達せっかちで」

 

 アイミーのエンジェルスマイル付きの詫びに大賢者の機嫌は戻った。

 

 

 ゼアルが足を踏み入れた瞬間、箱舟が一瞬輝きを放った。

 

 

「何で?起動したみたい。まだ完成じゃないのに」

「もしかして、ゼアルに宿っている天使の力に反応したのかも」

「それは好都合。サチ、隈なく探しましょう」

 

 

 あちこちを見て回る中で、客車の荷物棚に宝箱が乗せられている事に気づいたサチ。

 

「皆!来て、ここに宝箱が」

「お!きっとそれだ。開けてみろ」

 

 サチが開けてみると、そこには短剣が収められていた。

 

「手紙も入ってるよ」

 

 サチがリリに手紙を渡す。

 

「読むわね。何々、この手紙を読むヤツへ。俺はアギロ。天の箱舟の運転士だ。この舟は元々、天使達を乗せて神の国へと運ぶための乗り物だった。だが天使達が星空の守り人となり、最後の乗客だった仲間も来なくなって、仕事がなくなった」

 

「星空の、守り人…?」

「…星になった天使達、か。私も、全てを成し終えたその時、叶うならば星になりたい。空で静かに光る星に…」

「ゼアル…」

 

「ゴホン。いい?続けますよー。ええと、助手も出て行っちまってやる事もないので、俺は放浪の旅に出る。一先ずは人間界を見て回るつもりだ。この箱舟は自動運転で空の上を周回させておく。いつかまた使う時が来るかもしれないからな」

 

「何だ、そのアギロってヤツ、この地上にいたんじゃねえか」

 

「この箱に、天使界に残されていた短剣を入れておく。邪悪なるものを指し示し、刺し貫く優れモノだ。それじゃ、いつか会う時があれば、最高の空の旅に連れて行ってやるぜ!だってさ」

 

「文章だけでどんな人か想像ついたね。豪快な感じ?」

「用意のいい人で有り難いじゃん。ちゃんと説明してくれてさー」

「本当だね」

 

 ゼアルはサチの手にした短剣を見つめる。

 

「天使の短剣…。これが私が探し求めていた、力…。それがあれば皇帝を倒せる。サチ、これでガナサダイを倒せるわ!」

 

 

 これに応えるように、短剣の先から一筋の光が生まれた。

 

 遠くにそびえる岩山を示しているようだ。

 

 

 

「あそこにガナサダイがいる。さあ、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。