先に進むと、ボソボソと声が聞こえて来る。
「誰かいる?…訳ねーよな、この声って…」
ボシュはこっそりアイミーを確認。霊関係が苦手なアイミーは案の定震えている。
「幽霊…っ、でも私も目を背けないっ」
「ありがとうアイミー。あなたこそ無理はしないで」
珍しくゼアルがサチ以外に自ら声を掛けた。
扉を開ければ、ぼんやりと人の形が幾体も浮き上がっている。
「これは…死んだ人間の魂…っ」
魂を実際見た事のあるサチがつぶやく。
「長い年月でも癒されなかったんだね。ゴメン、人間の想いまで呼び覚ましちゃったみたいだ」
その魂達が声を掛けて来た。
『そなたらは…生者か』
「あなた方は?」
普通に会話を始めるサチ。これに答えたのはゼアルだった。
「天使の力を取り出していた研究者達よ」
『己の罪の意識にさいなまれ、殺されてもなおあの世へ行けずにおる』
「殺されただと?誰にだよ」
『他でもない帝国の同胞にじゃ。ここでわし達がした事が外に知られぬように』
「つらかったでしょうね」
この声掛けに一人が気づいた。
『あなた様は…!ゼアル様!?ご存命であったのですか!』
『我らの施術のせいで、あなた様こそおつらい思いをなさったでしょう。ああ、どうお詫びをすれば…』
口々に謝罪の言葉が述べられる。
「憐みは無用よ。私は自分の成すべき事をする。あなた達、皇帝を倒す方法を知らない?」
『…もし、天使の力を宿すものがあれば、あの力に対抗し得るやもしれませぬ』
『どうかそのお力で、成し遂げてください!』
ゼアル以外は腑に落ちない様子でその場を離れた。
「皇帝に対抗し得るのは、天使の力を宿すもの。皇帝に不死を与えたあの力は、天使の力で打ち消せるという事ね…」
「ゼアル、あなたは昔ここにいたのね。ここの、お姫様だったの?」
皆が注目する中、ゼアルが小さく息を吐いた。
「…あなた達には私の事を知ってもらうべきね。サチの指摘通り、私は皇帝ガナサダイの娘よ」
「ここにもお姫様がっ!」
「「にも?」」
「あ…え?今アタシなんか言った?」
「と言っても、正統な血筋ではないのだけれど」
そしてゼアルは語る。父は先代の健君だった父王から力で国を奪い、世界をも我が物にしようとしていた事を。
「私はそんな裏事情も知らず、ただ父に認めてもらいたい一心で軍に入り、先兵となって戦った」
その後頭角を現したゼアルは、ある時この実験室に呼び出される。
そして天使から奪った力を植え付けられたのだ。
「父は無敵の兵士を作ろうとした。実験は想定以上に成功したわ。…私の体内に不死の命を与えるコアが生み出されたの」
それを知ったガナサダイは、自らも不死を得ようとゼアルからコアを奪った。
「それであなたはどうなったの?」
「用済みの私は捨てられたわ」
「何て酷い事を…!」
「でも、長い年月が過ぎて私は目覚めた。どうやら奪われたコアが父の中で動いている限り、私も死なないみたい」
自分が生きているイコール、ガナサダイも生きているのだと続ける。
「だから私は、父を倒すため旅に出たの」
「父親のせいで、悲しい思いをして来たのね…」
自分はまだマシだとサチは思う。
考えは相容れなかったが、殺し合うような状況などではなかった。
「とにかく、外に出よう。ここでの用事はもう済んだわ。さあ、ゼアル」
サチの配慮で早々に城を出る。これ以上つらい思い出に触れさせたくなかった。
外へ出ると、そこは来た時と同じ砂漠地帯に戻っていた。
「でも、今ガナン帝国は滅んでいるから、誰かが一度は打ち倒したんだね」
「そう。天使達が反旗を翻して打ち倒したと聞いたわ。ガナサダイの行方は分からなかった。でも、長い長い旅の果てに、ついに見つけ出したの」
「それであの洞窟に封印したんだな」
「ええ。何しろ相手は不死の化け物。あの時の私には、それしか手がなかった」
「それからずっと一人で旅を?」
「死ねない私は、永遠のような年月を旅しているわ。アイツを確実に倒す事、それだけが私の存
在意義」
「そう、なんだね…」
もうそれしかかける言葉がない。
「でもガナサダイの不死は、ゼアルさんのコアがもたらしているんだよね?皇帝を倒したらゼアルさんだって…」
そこで言葉を切るシェント。本人を前に、死ぬなどと口にしずらい。
だがゼアルは平然と言う。
「死ねない事に比べたら、死ぬ事なんて怖くないわ。皇帝を倒せば私も死ぬ。皇帝を倒して死ぬ事が私の望みよ」
「そんなっ、ゼアルさん…」
「さあ、皇帝を倒すため、天使の力を宿すものを見つけに行きましょう」
ゼアルの強い意志を前にしては、誰も何も言えなかった。
大賢者の記憶を辿りつつ、箱舟の復元が進む。それを眺め一行が圧倒される。
「こんなのが、本当に空を飛ぶのか?」
「そうだよね。僕も信じられないよ」
箱舟の復元は願ってもない事。だがしかしそれは…。
「もしこれで、ガナサダイを倒す方法が見つかったら、その時はゼアルさんも…」
アイミーは声を絞り出すように言う。
どうしてもそんな結果になってほしくない。
「言ったはずよ。私は死ぬ事なんて怖くないと」
「でも…っ」
「同情や感傷で進むべき道を見失ってはいけない」
やはりゼアルは淡々としている。
そんなゼアルとは正反対のガングロ小ギャルの顔が、ふとリリの脳裏に浮かんだ。
「あーっ!!」
「リリ姉、どうかした?」
「今思い出したんだけど、サンディが探してるって言ってたヤツ!」
「そういや、そんな事言ってたな」
「それがこの、天の箱舟の事なんじゃない?あと一個あったよね、何だっけ」
「確か…店長さん?」
「そうそう!だけど船に店長って組み合わせは変だわね」
「店長じゃなくて船長って言ったんじゃねーの?」
こんな会話をしつつ、早速船内に入ってガナサダイ討伐の手がかりを探す一行。
「言っとくけど、まだ完全じゃないんだからね?」
「時が惜しい。こんだけ出来上がってりゃ上等さ」
「ゴメンなさい大賢者様、私達せっかちで」
アイミーのエンジェルスマイル付きの詫びに大賢者の機嫌は戻った。
ゼアルが足を踏み入れた瞬間、箱舟が一瞬輝きを放った。
「何で?起動したみたい。まだ完成じゃないのに」
「もしかして、ゼアルに宿っている天使の力に反応したのかも」
「それは好都合。サチ、隈なく探しましょう」
あちこちを見て回る中で、客車の荷物棚に宝箱が乗せられている事に気づいたサチ。
「皆!来て、ここに宝箱が」
「お!きっとそれだ。開けてみろ」
サチが開けてみると、そこには短剣が収められていた。
「手紙も入ってるよ」
サチがリリに手紙を渡す。
「読むわね。何々、この手紙を読むヤツへ。俺はアギロ。天の箱舟の運転士だ。この舟は元々、天使達を乗せて神の国へと運ぶための乗り物だった。だが天使達が星空の守り人となり、最後の乗客だった仲間も来なくなって、仕事がなくなった」
「星空の、守り人…?」
「…星になった天使達、か。私も、全てを成し終えたその時、叶うならば星になりたい。空で静かに光る星に…」
「ゼアル…」
「ゴホン。いい?続けますよー。ええと、助手も出て行っちまってやる事もないので、俺は放浪の旅に出る。一先ずは人間界を見て回るつもりだ。この箱舟は自動運転で空の上を周回させておく。いつかまた使う時が来るかもしれないからな」
「何だ、そのアギロってヤツ、この地上にいたんじゃねえか」
「この箱に、天使界に残されていた短剣を入れておく。邪悪なるものを指し示し、刺し貫く優れモノだ。それじゃ、いつか会う時があれば、最高の空の旅に連れて行ってやるぜ!だってさ」
「文章だけでどんな人か想像ついたね。豪快な感じ?」
「用意のいい人で有り難いじゃん。ちゃんと説明してくれてさー」
「本当だね」
ゼアルはサチの手にした短剣を見つめる。
「天使の短剣…。これが私が探し求めていた、力…。それがあれば皇帝を倒せる。サチ、これでガナサダイを倒せるわ!」
これに応えるように、短剣の先から一筋の光が生まれた。
遠くにそびえる岩山を示しているようだ。
「あそこにガナサダイがいる。さあ、行きましょう」