「あーし、バズりたいのっ!」「幽霊になってまで!?」   作:一般通過呪術師

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15:作戦会議 -後編-

 

「割り込んで悪りぃんだけどよ。結を巻き込んで、そっからどうすんだ? そもそも巻き込む理由もよく分かんなくてェ……」

 

 眉を八の字にして申し訳なさそうに言うユウに対し、ヒメが冷ややかに言い放つ。

 

「ユウは本当におバカね。ダンジョンの奥にある紫乃のスマホの代わりに、結に証言してもらおうって事でしょ」

 

「じゃ、じゃあ巻き込めた後は!?」

 

「どうなのヒーロー」

 

「お前も分かんねぇのかよ!?」

 

 いや、ヒメを責めるのはやめろよな……喋りにくいだろ、俺が。だって。

 

「俺にもわからん」

 

「んでだよ!!」

 

 声とリアクションが大きい。

 一応、あまり周囲に聞かれたくない話だってこと、理解しているんだろうか?

 

「ユウ、五月蝿い」

 

「うっ……悪りぃ。つい」

 

 ヒメに睨まれてシュンとする姿を見る限り、どうもそういう気質なんだろう。地上にコチラを気にしている影は見えないし、屋上に繋がる階段や廊下に人の姿がないから大丈夫だろうが。

 

「一応、階下の様子くらいまでなら分かるし、聞き耳立ててる様な奴もいないけどさ。気を付けてくれよ」

 

「ああ、気を付けるぜ!」

 

 ハッとした様子で口を塞ぐユウ。裏表がないと言えば聞こえは良いが、言い換えれば相当なアホの子だ。

 苦笑していると、ヒメが言う。

 

「ヒーロー、下の階まで分かるって……何で?」

 

「魔力で身体強化してるから」

 

「嘘。だったら今頃、ギルドの警報器が鳴ってる」

 

 確かにギルドには、冒険者の諍いを未然に防ぎ、悪意をもって襲いかかる敵を感知する為の機構が備わっている。

 

 だが、それも完璧ではない。

 先ず前提となるのは魔力強化の知識だ。魔力強化には二種類ある。

 

 一般的に知られているのは、外功や魔力撃と呼ばれる身体の外側に魔力を纏うタイプの強化。混同されがちだが、技術の名前が外功。外功を使った技が魔力撃というのが正しい。これだと、ヒメが指摘した通り、ギルドの感知機構に引っ掛かる。

 

 しかし、俺が今行なっている強化は違う。

 

 外功とは真逆。体内から肉体を強化する内功と呼ばれている技術だ。

 これは魔力を擬似的な筋肉として扱い、更には骨から強化することで衝撃にも強くなる技術だ。他にも、内臓の性能や免疫力も上がるから風邪知らずだし、聴覚・嗅覚・視覚なども鋭くなる。階下の様子まで分かるのはこの為だ。

 

 そして、この技術は魔力を内側で回して肌の下に留めているので、外に漏出しない。だからギルドの感知機構にも抵触しない。

 そういう点では、かなりガバガバなセキリュティにも見えるが……実際に事件が起きたという話は聞いたことがないな。

 

「──という訳だ。内功は川島も使ってたぞ」

 

 俺から見てもあまり上手くは無かったが。

 

「……マジか」

 

 下唇を噛むユウの肩をヒメが叩いた。

 

「直ぐ追いつけるよ」

 

「B級を目指すなら必須技能になってくるんだろうが、焦らずに覚えたら良いよ」

 

 外功だけの強化には限界がある。肉体が付与された魔力に耐えきれないのだ。だから、魔力撃はインパクトの瞬間にしか使わない。上位冒険者ではそれが主流だと南風原さんから聞いている。

 まぁ、最上位の冒険者は常に外功と内功を同時に使用しているのだが。同時使用の常態化はまだ俺も出来ない。

 

 話が逸れた。

 

「榊結に動いてもらうのは前提だ。問題は葛本を何処に呼び出して、カメラに映すのかって話」

 

 場所はダンジョンを想定していたのだが──そこが奴らのテリトリーであると分かった以上、それは難しい。数の差でゴリ押しされると勝ち目がない。やはり、状況は絶望的だ。

 唸っていると、ヒメが首を傾げて言った。

 

「場所だけが問題なの?」

 

 場所だけと彼女は言ったが、それが一番の問題なんだ。

 

「戦闘になる可能性が高いのに、戦える場所がないんじゃ作戦になんないだろ? 物を壊したら罰金云々とかじゃないぞ。魔術行使を許可された土地がないんだよ」

 

 これだと良くて道連れだ。

 

「それを解決できたら、勝てるの?」

 

「……確約はできない」

 

「ふふっ、もう勝てるって言ってる様な物でしょう。それは」

 

 ヒメは上品に笑い、そして。

 

「それ、私が何とかするわ」

 

「……良いのかよヒメ」

 

「良いも何も、そんなに苦労しないわよ。お爺様にちょっとおねだりするだけだもの」

 

 俺が首を傾げていると、紫乃がこそっと教えてくれた。

 

「ヒメちゃんのお爺ちゃんね。私たちの学校の理事長なの。土地も建物も全部、お爺ちゃんの物らしいよ」

 

「……マジか」

 

 お嬢様やん。

 

「ま、冒険者になりたいって言ったら、お父さん達からは『縁を切る』って言われたけどね。お爺ちゃんは元冒険者だったし、後進育成にも熱心だから……お爺ちゃんだけが私の味方だった。今回の件も力を貸してくれるよ」

 

 エクスポーションの代金も返ってきそうだな、これは。

 

 うん──俄然、やる気に満ちてきたぜ。

 

「ヒメの段取りがつき次第、作戦開始だ。取り敢えずダンジョンには近付かず、まとまって動けよ」

 

「ヒイロはどうすんだ?」とユウ。

 

「危ないのは承知で、家に帰る。弟達の送り迎えもしたい」

 

 下手に離れて家族を人質に取られる方が危ない。下の子と朱里は送り迎えする。蒼真は自力でどうにか出来るから、帰り道に気をつける様に注意させれば大丈夫。

 夜間の見張りは紫乃に頼み、いざという時に起きればどうにかなる。

 

「だから連絡先を交換してお、く……」

 

「どうした?」

 

「スマホ壊されたんだった……クソッ! 俺に弁済する前に死んでんじゃねぇよカスが! クズ教師から取立てれっかな!?」

 

 本体代の分割払いがまだ残ってんだけど!?

 

「いや、知らねぇけど……取り敢えずアタシの貸してやるよ。ヒメの連絡先入ってるし」

 

 アタシの貸してやるよ? 

 ヒメの連絡先入ってるし?

 

 はいっ、と手渡されたウサちゃんカバーのスマホを見て、身体が震えた。

 

「いや、ダメだろ……個人情報の塊だろうが……見ず知らずの男に渡すなこんなん……カバー可愛いな……」

 

 ユウは俺の言葉に鼻を鳴らした。

 

「裏切られたら、アタシの見る目が無かったってだけだ。お前に助けられなかったら死んでた命。そうなったらそうなったで、身の振り方はまた考えるさ」

 

 生き様が潔いなんてレベルじゃないが?

 紫乃とヒメに助けを求めてみるが、二人揃って首を横に振った。

 

「ユウちゃんは言ったら利かないよ」

 

「頑固。だけど、見る目はあると思ってる。これは私たちの信頼の証とでも思って欲しい」

 

 危機感が無いのか、はたまたこの見た目がそのラインを下げているのか──何にせよ。

 

「いいよ。分かったよ。預かる。ヒメの名前が表示された時以外は触らないから、安心してくれ」

 

 話は終わりだ。解散しよう。

 

「その前に……ギルドの購買に服、買いに行かない? ヒーローのも私が買っとくよ。ポーション代から引いといて」

 

「マジ? それは助かる」

 

 この後、めちゃくちゃ買い物して。

 

「あ、そうだシノノ。シノママに頼んでさ、シノノの魔導籠手と魔導脚甲、持ち出してもいい? サイズ的にヒーローくんなら使えるでしょ」

 

「……! ヒメちゃんナイスアイデア! いいよ、持ってきて! ひぃくんにあげちゃうから!」

 

「はぁ!? いいよそんな高いの!! 受け取れるかよ!!」

 

 魔導籠手と魔導脚甲!? バカ言うな、二つ揃えばフルオプションの軽自動車くらい買えるだろ!!

 

「くまさん代と、今回の報酬として受け取ってよ! 私だって貰いっぱなし、迷惑掛けっぱなしだと気が済まないもん! 装備は先輩が使わなくなったのを格安で譲ってもらって、自分でチマチマ改造しただけだし……気にしないで!」

 

 ぬ、ぬぐぅ。

 

「そこまで言われたら……まぁ、受け取るしかないか」

 

 欲しいか欲しくないかで言えば、喉から手が出るくらい欲しい物だ。貸し借りはこれで概ねチャラとしておけば、まぁ、気持ち的にも踏ん切りはつく。

 俺が頷くと、紫乃は満面の笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、そういう事で」

 

「ホテル探すか〜 ヒメ、学校はどうする?」

 

「行かなきゃでしょ。怪しまれるよ」

 

 新しい服に袖を通した二人を見送って、俺たちは帰路に着いた。

 

 

 

 全速力で実家に帰ってきた。紫乃には先に二階へ上がってもらって、それから夕食を家族全員で食べる。

 暫く他愛のない話をしてから「大事な話があるので」と紅葉に葵を連れて二階へ上がる様に促し、蒼真と朱里に話を切り出した。

 

「単刀直入に言う。兄ちゃん、事件に巻き込まれた」

 

 朱里が顔を青くしながら倒れ掛けた。蒼真が上手く受け止めてくれたが、その顔はとてつもなく険しい。

 

「……どうするつもりなの?」

 

 蒼真が絞り出した言葉に簡潔に返す。

 

「徹底抗戦。二度と関わらないで済む様に、ぶちのめす」

 

 俺の言葉に対して二人は無言を貫いた。重い空気が部屋を満たし、壁掛け時計の秒針が動く音だけが響く。

 一体、どれ程の間そうしていたのか──朱里の目が潤み始めた所で、蒼真が口を開いた。

 

「止めても聞かないのは分かってる。だから、条件がある」

 

「……分かった」

 

「一つ、無事に帰ってくること。二つ、僕たちが協力する事……家事とかだけだよ。三つ、これにケチをつけないこと。それから……その、事件の原因は二階に居る女の人なの?」

 

「ぅ、ぇゲホッ!?」

 

 つ、唾が!! 唾が気管に入った!!

 というかお前、見えてたのかよ!? 葵とは違ってしっかり見えてたんだな!?

 

「やっぱり何かいたよね蒼兄!? 乳のデカい女でしょ!! 見えなくても分かるよ私!! 斬り殺してやる!!」

 

「うるさい」

 

 蒼真が朱里の頭を叩き、快音を響かせた。

 

「兄さんが家族以外を優先するの、初めて見たからさ」

 

 と、蒼真がどこか遠い所を見る様に言う。

 カッコつけてる所、悪いのだが……

 

「いや、普通にお前たち優先だけどな?」

 

 頑張ってる理由の大半は、放置してたら家族に迷惑掛かるからだ。独り身だったらこんな頑張ってないんだよ。まぁ、金をケチったせいで付き合いが伸びて、情が湧き始めてるのも否定できないけど……

 予想を外したのが照れくさいのか、蒼真は少し頬を赤らめた。

 

「そ、そうかな……でも、事件に巻き込まれたって割には、兄さん楽しそうだよ? だから朱里も怒ってるんだし」

 

「え? 私は一彩さんが女と連んでるのが嫌なだけだけど?」

 

 朱里はブレなかった。芯が通った真っ直ぐな子になってくれて、お兄ちゃんは本当に嬉しい。両目から感涙が溢れて止まらない。決して、妹が変な育ち方をしてしまった事について悲しんでいる訳じゃない。本当だ。

 

「一彩さんって呼ぶな。兄さんだぞ」

 

「はぁい」

 

 語尾にハートマークでも付いてそうだった……いや、指でハートを作ってウインクしてきた。多分付いてるわこれ。

 

「蒼真頼むぞ本当に」

 

 お前だけが頼りなんだブラザー。

 

「……兄さんがさっさと結婚してくれたら、朱里も諦めるよ」

 

「諦めたらそこで試合終了ですよ」

 

 往年の名言を汚すな──俺たちが結ばれるなんてことは無い。絶対に無いんだよ、朱里。

 確かに俺たちは義理の兄妹で、実際の血縁関係は従兄妹だ。でも、俺が兄で、朱里が妹である事実は揺らがない。妹に手を出す兄なんて、首括って死んだら良いんだ。

 

 頭が痛い。

 話が凄く逸れたので、無理矢理戻す。

 

「蒼真の言った通りだ。上にいる幽霊、霊群紫乃に関わった事で俺は巻き込まれた。ただ……出会い方からして、これはもう避けようが無かったと思う」

 

「うん」

 

「俺のやるべき事は、お前たちの安全を守りながら、霊群紫乃を見送ること。んで、その邪魔をしてくる悪い奴がいるから──これから数日中にそいつをぶっ飛ばす」

 

 蒼真と朱里は黙って相槌を打っていた。納得出来ない事もあるだろうに、それを飲み込んでくれている。

 

「いつも我儘ばっかでごめんな」

 

「それは違うだろ。兄さん」

 

 蒼真は首を横に振り、言った。

 

「僕たちは家族だ。いつも兄さんが支えてくれてる分……今は僕たちが、兄さんを支えるよ」

 

「家は私たちで護るから。その為にずっと鍛錬してきたんだし。鳴るね、腕が!」

 

 力瘤を作って笑う二人に、俺は。

 

「……頼りにしてるぜ。蒼真、朱里」

 

 家の事はこれでどうにかなりそうだ。

 蒼真と朱乃が冒険者を目指して訓練していたのも知ってる。不安はあるが、弟達を信じるのも兄の務めだ。まぁ、二人が戦わなくていい様に動くのが第一なのだけど。

 

 話を切り上げて自室へ戻る。

 

「紫乃、入るぞ」

 

 二階の自室に入ると、紫乃は俺のベッドに横になって足をばたつかせていた。

 

「やめろお前パンツ見えるだろ!?」

 

「あわわわわごめんごめん!!」

 

 扉を閉めると同時に紫乃からそっぽを向いた。

 緊張感のない奴だな。スカートの丈も短いし。

 ……変な空気に染まり切る前に、話を切り出そう。

 

「榊結の病院は分かってるんだよな」

 

「勿論。三角駅まで行ってくれたら、後は私が案内するから」

 

「頼む」

 

 今の時代、スマホがあれば大抵どうにかなるのだが、そのスマホを潰されてしまった以上、どうしようもなかった。

 

 そこで会話が途切れ、無言の時間が生まれた。

 今の内に調べ物でもしようかと俺が格安タブレットに手を伸ばした所で、紫乃が。

 

「ひぃくん」

 

 いつの間にか立ち上がって俺の背後に居た。

 

「なんだ?」

 

「あらためて……嘘吐いて、巻き込んでごめん! それと本当にありがとう!」

 

 何だ畏まって。とは思うものの──普通の神経をしていたら、謝罪と礼の一つでも言いたくなる様な状況だ。榊結が絡まない限りコイツはまともでいられるらしい。

 

「だから良いって。装備もくれんだろ? ポーション代だって返ってきそうだしな。十分貰ったよ」

 

「でもっ」

 

「でもじゃねぇよ。それともあれか? 友達だぜって言葉まで、嘘だったのか?」

 

「ぇ」

 

 紫乃が小さく呟いたので、俺は声を張り上げた。

 

「嘘だったの!?」

 

「いやいやいや!! 私でいいのかって話だよ!? 自分で言うのもあれだけど……かなりアレじゃない!?」

 

「ああ、自覚はあるんだ」

 

「急に落ち着かないでよっ! ……だからこうっ、悩んでいると言いますか……距離を測りかねていると言いますか」

 

 ろくろを回す様な仕草をする紫乃に、俺は思わず吹き出してしまった。

 

「何がおもろかったの……?」

 

「いいや? お前の根っこがまともな奴で良かったなってだけ」

 

 霊群紫乃は──普通の女の子だったんだなと、改めて思う。

 親友の自殺。先輩の死。黒魔術の影。色んな物に触れて、殺されて、現世に留まっていても……根本にあるのはきっと、変わらないんだろう。

 

「迷惑とか、嘘吐いたとか。一旦忘れろ。お前は謝って、俺も許した。お前は報酬を提示して、俺もそれに頷いた。これで話は終わりだ」

 

 終わったんだからもう掘り返すなよ。

 

「後は──友達だから助ける。そんだけだ」

 

「……っ! ありがとう、ひぃくん!」

 

「いや、だから別に良いって」

 

「友達にありがとうを伝えるのは当たり前だもんね! つまり何回言ってもいい! お得じゃんね!」

 

 ……こういう奴だから、放っておけなかったんだろうな。それだけは言わないでおこうと思った。

 

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