「あーし、バズりたいのっ!」「幽霊になってまで!?」   作:一般通過呪術師

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06:ダンジョン配信の誘惑 後編

 

 ダンジョン配信者──またの名を『D-Tuber』

 

 動画投稿サイト『D-Tube』を通じてライブ配信等を行い、ダンジョン攻略の様子を公開。広告や俗に投げ銭と呼ばれる物で稼ぎを得る仕事だ。人気になれば一回の配信で何十、何百万という金銭を得る事ができる。

 霊群紫乃の成仏を目指しつつ稼ぐなら、最も分かりやすい手段だろう。

 

「でもなぁ」

 

 ただ、弟妹に胸を張って言えるのか?

 試しに想像してみるか……兄ちゃん、今日からD-Tuberで飯を食っていこうと思うんだ、と言った場合の反応を。

 

『ねぇね! にぃに! おにぃが壊れちゃった!』真っ先に反応するのは末弟か。

 

『正気に戻れ兄さん! 兄さんが倒れたら一家離散だぞ!?』次に次男が諫めるはずだ。

 

『私も中卒で働くね! お兄ちゃんを手取り足取りサポートする為にも!』長女は間違いなく、自分もやると言い出す。

 

『ワタシも小卒冒険者やる! アニキ、兄妹D-Tuberやろ〜!』次女は長女と同じだろう。

 

 ……うん、ダメ。碌な結末にはならない。弟達は道を踏み外さないだろうが、妹達はダメだ。アイツら直ぐに周りの影響を受けるからな。

 

「霊群、悪いけど」

 

 案を出してくれて申し訳ないのだが──いや、何で俺が申し訳ないって思わなきゃなんないんだ。被害者意識が足りてないんじゃないか?

 俺が首を傾げていたら霊群が言う。

 

「おおっと! あーしのプレゼンタイムはまだ終了していないぜ!」

 

 ドンッ☆ と効果音を背負う霊群に、俺は思わず半歩下がった。

 

「変装だよひぃくん! ひぃくんがひぃくんだとバレなきゃ、ひぃくんがビビってるリスクなんてありはしないんだよ!」

 

「ひぃひぃ煩いぞ霊群」

 

「シャラップ! それよりどうなんよ、あーしの作戦は!」

 

「むっ」

 

 ……悪くないと思ってしまった。俺がそのまま配信に乗るよりキャラも立つだろうし。

 問題があるとすれば、変装に拘るほど装飾が増えて動きにくくなる所か。命の危険が生まれては本末転倒にも程がある。

 

「変装の方向性は?」

 

「フッ──そこも丸っと全部たまちゃんに、いや、たまPに任せなさい!」

 

「たまPは辞めた方がいいと思う」

 

 霊群は俺の注意など無視して、自信ありげに腕を組んでふんぞり返った。

 

「ひぃくんにはD-Tuberになるに当たって……女の子になってもらいます!」

 

「はい、この話終わりね。解散解散」

 

 チッ、期待して損した。

 ただまぁ、案自体は悪くなかったか。馬の被り物とボイスチェンジャーでも使えば、俺だとバレるリスクはかなり低減されるだろう。

 

「ちょいちょいちょーい!?」

 

「んだよ」

 

 逆さになった霊群が顔を覗き込んできた。幽霊である事を無駄に生かした画角だった。

 

「急にスンッてしたね! いいじゃんね女装! 文化祭みたいっしょ!?」

 

「あいにく、その手のイベントには縁がないんでね」

 

 高校入学を断念した俺への当て付けか?

 

「だったら尚更、こう……やったろうぜ!?」

 

「その熱意はどっから来てんだ」

 

 思わず溜息が出る。

 すると、霊群は目をかっ開いて声を張り上げた。

 

「ひぃくんあーしより小さいし、髪は大和撫子って感じの激メロ黒髪キューティクルだし! 目も大きくて睫毛長くて小顔だし!? 肌もすべすべもちもち真っ白ブルベだし!!? 眉間に皺寄ってなかったら女の子じゃん!!」

 

「そう言われるのが嫌だから眉間に皺寄せてんだよッ!!」

 

 人のコンプレックスをさも美点であるかの様に言うな!!

 

「妹と買い物に出て『お姉ちゃんとお使いかな? 偉いね』って商店街のおっちゃん達に言われる屈辱をお前は知らないだろ! 俺は!! お兄ちゃんだぞ!?」

 

「えぇー! でもでも美少女に見えるってことは、美少年にも見えるってことだよ!? めっちゃお得じゃんね!」

 

「何も得しねぇんだよ……! というか逆だろ、因果が!」

 

「インガ……? 何で急にジャガイモの話?」

 

「それはインカ、って何を言わせてんだよ!?」

 

 ふーっ、ふーっ。落ち着け、俺よ。霊群のペースに合わせるな。

 見ろ。奴はケラケラと笑いながら、宙で腹を抱えて笑っている。むかつく。何で俺はコイツに触れないんだ。触れたら頭を引っ叩いてやれるのに。

 

「はぁ──! 笑った笑った! でもでもどう? 悪くはないんじゃない?」

 

「……一理ある」

 

「難しい言葉使っちゃって。そういうお年頃なのかな?」

 

「年上ぶんなよ。お前、高校生だろ? 留年する様なバカじゃなけりゃ、精々俺の一つ上か一つ下だろ」

 

 霊群は俺の言葉に硬直した。

 

「えっ……ひぃくん、高二?」

 

「高校生やってたらな」

 

「う、嘘だ! どっからどう見ても中学一、二年生くらいでしょ!? 身長一六〇ちょっとくらいじゃん! あーし確か一六八あったけど、ひぃくんのが小さいもん! あーしとタメな訳ないって!?」

 

 その言葉で俺の頭は一気に冷えた。

 

「どうやらお前は、俺の秘密を知りすぎてしまった様だな……これ以上は生かしておけない」

 

「残念だったねぇ! あーし、もう死んでるんだわ!」

 

「何だコイツ。無敵か?」

 

 霊群がダブルピースしながら煽ってくる。俺はどっと疲れが出た。

 ただ、重なったアクシデントの息抜きにはなった。それは間違いなく霊群のおかげである……コイツのせいでもあるけど。

 

「腹括るか」

 

 家族を養う為だ──絶対にバレてはいけないという意味でも、先ずは身内から騙すという方向性は間違っていない。

 

「霊群、頼むぞ」

 

「ちっちっちっ。違うよひぃくん。たまちゃん、もしくはたまPだよ。あーし達、もう友達なんだぜ? もっと親しみを込めてくんなきゃ」

 

「えぇ……?」

 

 マジで呼ぶの……? 嫌だな。何か。

 

「紫乃でもいい?」

 

「う゛ぇ!? な、名前で呼ぶ感じ……? 別に良いけど」

 

「何でちょっと恥ずかしそうなんだよ」

 

「いやっ、名前で呼ぶの、家族くらいだったから」

 

 照れを誤魔化すように、顔を手で隠して飛んでいく霊群を目で追おうとして──違和感。

 

「ひぃくん」

 

 紫乃に名前を呼ばれて、振り向く。

 彼女は宵闇に浮かんで「呼んでみただけ」と言ってはにかんだ。

 何なんだ──そう思っている内に、河川敷を抜けて住宅街に入った。

 家までもう直ぐだ。

 

「……あれ?」

 

 何か違和感があったような。

 まあ、いいか。

 それより早く、弟達の顔がみたい。

 

 

 

「ごめんね、ひぃくん」

 

 

 

 さて、我が家である。

 五人が住むにはやや手狭。さりとて築十年足らずのまだ新しい家だ。親父が死んだ事で多額の保険金が入り、ローンは一括返済されている。

 

「ただいまぁ」

 

 鍵を開けて入ると、パタパタと小さな足音が廊下の向こうから聞こえてきた。

 末の弟、葵の物だ。いつも駆け寄って来てハグしてくれる。最高に可愛い俺の弟。

 しかし、今日は様子が違った。

 

「おかえり、おにぃ……うわぁぁぁぁあ!?」

 

 葵は俺の顔を見るなり、叫び声を上げた。

 

「ど、どうした葵!? お兄ちゃんだぞ!」

 

「うし、うしろに変なのいるぅ!」

 

 俺はバッと振り返った。

 そこには「え、あーし?」とキョトンとした顔の紫乃がいるだけだ。

 

「お、おにぃから離れろぉ! うわぁぁぁぁん!」

 

 それは間違いではなかった様で、葵は涙と鼻水で顔面をぐしゃぐしゃにしながら、紫乃に立ち向かって行った!

 俺は感動で咽び泣いた。

 

「ちょっとちょっと、何事……うわ。これどういう状況?」

 

 十歳になる妹、紅葉が欠伸を噛み殺しながらやってくる。紅葉は俺と葵を交互に見て言った。

 

「おにぃ、何であおくんは虚空に向かって対空擦ってるわけ?」

 

「頼む。日本語を喋ってくれ」

 

 対空……? 擦る……?

 

「空Nだよ、空N」

 

「もっと分からん」

 

「……あぁ、おにぃあんまりゲームしないもんね。要するに、どうして何もない所に攻撃してんのってこと」

 

 紅葉の言葉に涙が引っ込んだ。

 

「葵、そこに何が居るように見える?」

 

「青くて、モヤモヤしてるの」

 

 特徴は全く掠ってない。だが、明らかに葵は紫乃を知覚していた。

 

「とりあえず、それは大丈夫だ。何の問題もない」

 

「ほんと……?」

 

「ほんとほんと。もしもお前達に何か悪さするようだったら、即刻兄ちゃんがぶち殺すから気にしないでやってくれ」

 

 あーしぶち殺されんの? もう死んでるのに? 紫乃がそんな目で俺を見てくる。

 俺はサムズアップしてから口パクで伝えた。

 

 ああ、ぶち殺す! 完膚なきまでにな!

 

 兄というのが生まれてくるのは、自分より後に生まれてくる弟と妹を守る為だ。深く考える必要はない。お兄ちゃんとは、そういう生物なのだ。

 

「ドヤってるところ悪いけど、アネキがずっとオロオロしてたからさ。はやく顔見せてやってよね」

 

「ん。分かった」

 

 紫乃には口パクで『二階の一番手前の部屋で待ってろ』と、伝えておく。

 彼女はそれにしっかり頷き、天井をすり抜けて上の階へと向かった。俺も洗面所で手洗いうがいを済ませ、リビングへ。

 

「ただいま」

 

「お帰りお兄ちゃん大丈夫だった怪我はない!?」

 

「圧が」

 

 長女、朱里は俺を見るなり凄まじい勢いで距離を詰め、全身を弄ってきた。

 

「診療所に寄ってるから大丈夫……」

 

「怪我したの!?」

 

 ──ところで、朱里は俺よりずっと背が高い。

 紫乃も女の子の中ではかなり高い方だと思うが、朱里はそれより頭一つ分デカい。骨格もがっしりとしていて、空手・剣道・薙刀・柔道・弓道部を掛け持ちして鍛えているから、肉体に厚みがある。

 でも、決して女性らしさがない訳ではない。寧ろ逆だ。

 

「そんな……!」

 

「むごぉ!?」

 

 朱里に抱きしめられると、身長差もあってダイレクトに顔面が豊満な胸部に挟まれてしまう! ぐ、ぐるじぃ……! しぬぅ!

 二の腕をタップして降参の意を露わにしても、朱里は抱擁を止めない。

 

「はぁはぁ……! お兄ちゃん……! 私が、私が守らなきゃ……!」

 

 ──どこで俺は、育て方を間違ったんだろうか。優しい子には育ったが、何かちょっと違うんだ。ほろりと涙が出た。決して、酸欠と重量差による気道の圧迫だけが原因ではない。

 

「やめろ朱里。兄さんが苦しんでるだろ」

 

 助け舟を出してくれたのは、俺に次ぐ兄たる次男の蒼真だった。高身長。顔良し、頭良し、性格良し、運動神経良しと、全てを持って生まれて来た自慢の弟である。

 蒼真は言っても聞かない朱里から俺を引っぺがし、困り顔で言った。

 

「大丈夫かい兄さん」

 

「ありがとう弟よ……ゔぇ……」

 

「はいティッシュ」

 

 ズビッ! と鼻をかむ。

 

「あぁ……お兄ちゃんが……」

 

「僕は朱里を姉さんと呼ぶ気はないからね」

 

()()()()()大丈夫なの!」

 

「倫理的にはアウトなの。兄さんが首括って死ぬよ?」

 

「ゔ、ゔぅ〜! だって私たちが心配してたのに、女の匂いがしてたんだもん!」

 

 朱里が駄々をこねる様に言う。紫乃を近付けたら危険かもしれん。

 

「南風原さんと色々話してたからかな……? まぁ、とりあえず飯食おう。直ぐに作る。それから──」

 

「ダンジョンについてだよね」と蒼真。

 

 察しが良くて助かる。

 

「その通り。封鎖域が広がると家を出ないといけなくなるし……まぁ、ギルド経由で何処かしら借りれるだろうが、荷物は整理しないと入り切らないだろ」

 

「うん……でも兄さん、どうするの? 安全な稼ぎが減るとなると、冒険者を続けていくのは危ないだろう?」

 

 さて……ここからが勝負だ。そもそもの話、俺は家族の反対を押し切って冒険者をしていた。危険な状況に陥れば、必然的にこういう話にもなる。

 

「休職してもいいんじゃないかな?」

 

「そうだよお兄ちゃん! せめて蒼兄が冒険者資格を取るまで待ってよ! 皆で頑張れば大丈夫だから!」

 

 そもそもダンジョンに入ることすら止められているというのに──女装して画面の向こうにいる視聴者に媚びます、なんて口が裂けても言えるかって話で。

 

「飯も食わずに難しい話はできない」

 

 とにかく、俺と紫乃の呪いに家族を巻き込む訳にはいかない……! どうにか配信者になる事を隠しつつ、良い感じに言いくるめなくては!

 

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