「あーし、バズりたいのっ!」「幽霊になってまで!?」 作:一般通過呪術師
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翌朝、俺はいつも通りパッチリ起きて朝の支度を行なっていた。
「うそ……スキンケアゼロで、その赤ちゃんみたいな肌を維持してんの……!? 世が世ならヤバいよ!?」
「どんな世だよそれは」
朝四時半。皆まだ寝静まっている。この時間なら紫乃を自由にしても大丈夫だろうと、そう思っていたらこれだ。煩い奴。新鮮ではあるけど。
「てってってれれれってて。てってってれれれってて」
「何の鼻歌?」
景気良く弁当を作っていく。
卵焼きドーン!!
鮭ドーン!!
たこさんウインナーもドーン!!
ついでにミートボールもドーン!!
ミートボールの器代わりにレタスを使い、プチトマトを隙間に詰め込む。後は白米。白米は全てを解決する。蒼真は昆布、朱乃は梅干し。紅葉はたまごの振り掛け。葵は白米。
「末っ子くん、白米率高くない?」
「葵は米で米を食うからな」
「やっば。ライスエリートじゃん」
何だそれはと言っている間に完成。冷ましている間に、余りを搔っ食らう。これが俺の朝食。因みに昼はカロリーメイトをウィダーゼリーで流し込む。
俺が卵焼きの切れ端をもしゃもしゃしていると紫乃が呆然と呟く。
「何か……負けた気がする」
「何言ってんだお前」
「いやだって、ひぃくん女子力高すぎない?」
「今、女みたいっつったか?」
「言ってない言ってない」
ったく……やれ、女子力だのなんだの。何故人間は能力や見た目に性差を見出そうとするんだろうな。
「料理の出来る出来ないは、女の子らしさに関係ないだろ」
「ひぃくん……そ、そうだよね!」
「これは生活能力なんだから」
「……アレ? これフォローじゃないやつ?」
「お前が負けたのは女子力じゃない。人間力だ」
「ぐぅ」
お前の敗北感は人間としての至らなさだよ。出直せ、幽霊少女。俺は待ってるぜ──高みでな。
消沈する紫乃は放置して着々と支度を進める。すると、廊下から足音が聞こえてきた。
「紫乃」
「ガッテン」
紫乃がすいーっと天井に潜り込む。入れ替わる様にリビングの扉が開き、紅葉が顔を見せる。
「おはようアニキ……やっぱ早かったか……」
「おはよう紅葉。お前こそどうした。随分と早いじゃんか」
「アニキの手伝いしようと思って……」
も、紅葉……!
「起きれないからフレとオールでストXしてた」
「お兄ちゃんも怒る時はあるんだぞ」
寝不足は敵だ! 十歳児が徹夜なんて、お兄ちゃん許しませんよ!?
「まだ学校まで少し時間がある。寝なさい」
「うぇ〜? 今寝たら起きれないよぅ……アニキ、起こしてくれる?」
「ダメだ。兄ちゃん、もうちょいしたら出るから」
紅葉は唇を尖らせ「ちぇ。ダメか」とぶつくさ言いながら自室へ帰って行った。
「全く……ゲームするなとは言わないけど、自重はしてもらわないとな」
「いやぁ……今のはお兄ちゃんにダンジョン行って欲しくないってアピールなんじゃ……」
「うわっ、顔だけ天井から出すな。側から見たら怪異だぞお前」
「酷くない?」
というかだな。お前に分かって俺に分からない訳ないだろ。俺はお兄ちゃんだぞ。
それでも行かなくちゃなんないんだよ。
俺があの子達の兄貴でいる為にもな。
──さて、準備運動がてら隣町まで走って三十分。
ダンジョン入口の手前にある建物、冒険者ギルド
「ひぃくん速過ぎん? 車追い抜いてたよね?」
「冒険者は軽車両扱いだ」
「聞いた事ないけどそんな話!?」
それはお前が歴史を軽んじる系のギャルだからさ。
そう言ってやりたかったが、止めた。そろそろ人目が気になるからな。
口パク以外の意思疎通手段が欲しい。何かないだろうか。
「おや? 見ない顔ですね」
そんな風に思案していると背後から声を掛けられた。スーツに身を包んだ眼鏡の男性だ。制服は着ていないが、ギルド職員だろうか。少なくともこれからダンジョンに入る風体ではない。
「……もしや、その格好でダンジョンに入るのかな?」
「そうですけど。何か不都合でもありますか?」
今日は初めてのダンジョンという事で、お気に入りのジャージセットを着ている。気合い十分だ。
男は眼鏡の位置を直しながら言った。
「い、いえ。不都合というか……死ぬ気ですか?」
なんだぁ……テメェ……その通りです、ハイ。全面的に男の人が正しいです。弟たちがこれでダンジョンに入るって言ったら俺もぶん殴って止めてます。はい。
ただ、一つだけ言い訳をさせて欲しい。
「装備が」
「はい」
「とっても、高いんです」
鎧でも買おう物なら、余裕で給料三ヶ月分以上の額が消し飛ぶ。結婚指輪かよ冗談じゃねぇ。消耗品に使う金額じゃねぇだろうが。
そんな訳で、俺は軽量化に踏み切った。インパクトの直前に体内魔力を一気に放出すれば、余程の事がない限り死ぬ事だってない。怪我はするけど、死ななきゃ安い。鎧なんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのです。
男は「そうですか」とコチラに憐憫の眼差しを向けた後、懐から名刺を一枚取り出した。
「私は葛本と言います。本職は教員ですが、冒険者の資格も持ってます」
名刺にはクラン──ギルド内で冒険者同士が組む派閥の名前も書いてあった。
「“
ソロ活動ばかりであまり詳しくはないが、近辺だとかなり大きいクランだった筈。
「“
初心者支援……まぁ……まだ一年のペーぺーだし……装備もカスだしな……うん。
「お気遣いありがとうございます」
「いえいえ。これでも教職ですから。悩める若人には道を示すのが本業なのでね」
「神父さんも出来そうですね」
男──葛本さんは笑って首を横に振った。
「流石に神父さんという柄じゃありませんよ……っと、そうだ。ついでと言ってはアレですが、ダンジョンの中でこんな子を見ませんでしたか?」
葛本さんはそう言って、ズボンのポケットから折り畳まれた一枚のチラシを取り出した。開いていくと、そこに映っていたのは見知った顔。
「我が校の迷宮探索部の生徒でね。良い子だったのですが……十日ほど前から姿が見えず……捜索願いを出してまして」
「……そうなんですか」
「何か、ご存知ありませんか?」
葛本さんの問い掛けに、俺は──
「知りません」
俺の言葉に葛本さんは「そうですか」と短く告げた。
「力になれなくてすみません」
「いえ、こちらこそ急にすみませんね。同年代の子達なら何か……と藁にもすがる思いだったのですが。では、もし何か分かった際は名刺の方に」
「はい……えっ、と。見つかると良いですね」
「──はい。では、私はギルドにチラシの掲載をお願いするので。ダンジョンに入るなら、向こうの入口からの方が近いですよ」
葛本さんはそう言い残して、足早に別の入口の方へと歩いて行く。
「お前の知り合いだぞ。何で隠れてんだ」
気まずそうな顔の紫乃が、地面からひょっこりと姿を見せた。
「分かんないよ、反射的に隠れちゃったんだもん……」
「紫乃、問題児っぽいもんな」
「え〜? そうかなぁ……そうかも」
──にしても変だな。俺と紫乃が出会ったのは隣町の赤夢迷宮で、ここじゃない。
俺がこの辺りの冒険者じゃないと分かっていて、何で『ダンジョンの中で〜』って聞いてきたんだろう?
「キナくさいな……」
嫌な予感が拭えない。今日の下見は早々に引き上げた方が良いかも分からん。まあ、やるべき事をこなしてからだけど。
気を取り直して、紫乃を連れてギルドの入口へ向かう。
「「うわ」」
そして、俺たちは入口の惨状を見て声を揃えた。ギルドに押し掛けた人間の熱気が、空調機能を凌駕していたからだ。
「初めて見るな、このレベルの混雑は……」
確かに、冒険者ギルドが持つ役割は多い。
冒険者資格関連の講習や試験の実施。ダンジョンを出入りする冒険者を記録し、犯罪や遭難者を減らす事を目的とした管理業務。冒険者が採取した資源の買取や、競売の代行。社会に迷宮産の資材を流通させる為の卸市場を取り仕切っているのもギルドだ。
国から委託されている業務で言えば、ダンジョンの資源測定もそうだ。スタンピードの兆候をいち早く察知する為の生態調査なんかも欠かせない。
他にも農協の様な金融機関的な側面があったり、保険等を展開していたりと仕事の幅が広い。ただ、その仕事量に対して職員が全く足りていないという事が多々ある。
「ただ今、受付が大変混み合っております……くそったれスタンピードによる影響がドチクショウ出ておりますので……来場した皆様には誠にご不便を……」
恨み節が滲むアナウンスが喧騒に飲み込まれてしまうくらい、三角支店は人でごった返しになっていた。
えらいこっちゃだ。下見ついでにゴブリン辺りをしばき、昼飯代くらいは稼いどこうと思っていたのに。
「うぇぇぇ……激混みじゃん……」
紫乃はうんざりした様子でそう言った。これには無限に頷いてしまう。某千葉のテーマパークで二時間半待ちした時より、視界に映る人間の量が多い。
俺が地団駄を踏み掛けた刹那、垂れ目の若い男が人混みに負けじと声を張り上げる。
「すみませ〜ん! 入宮待ちの冒険者の方ぁ〜! 冒険者の方はこれから外のテントで受付致しますので、押さず慌てず建物から出てください〜!」
ラッキー! 今一番外に近いのは、俺ッ! これは横入りではない! 効率よく待機列を解消する為の、致し方ない合理的配慮! テントに向かって猛ダッシュ!
「受付お願いします」
「あ、こちら冒険者方のみの……えっ、あぁ、すみません。受付用紙にお名前と、滞在予定時間のご記入お願いします」
冒険者証を求められる前に提示する事で、面倒な問答をスキップできます。ヨーチューブの童顔ライフハックで見た事が生きたな。
「嘘、冒険者歴一年でE級?」
紙の備考欄に簡単な予定を書いていると、受付のお兄さんがそんな事を口走り始めた。
やめとけよお前。冒険者って血気盛んな奴が多いから、喧嘩になっちまうぞ。俺は怒らないけどな。
「それって低すぎって意味?」と紫乃。
俺は口パクで答えた──そうだが?
「えぇ……?」
冒険者には等級がある。アルファベットでAからEまで。普通に冒険者をやっていたら半年でD級までは上がり、その後、昇級試験に合格することでC級へと昇格できる。
C級からは実績に応じてギルドから依頼が斡旋されたりする。なので、専業でやっていこうと思っている人間は先ずC級を目指すのが普通だ。
でもまあ、キノコ採って夕方六時に帰るだけならE級で十分。積極的に討伐数を稼いで昇級の為の実績を積む必要が無かったので、俺はまだこのランクだ。
たまにモンスターと戦う事もあるけれど……金よりも命を優先すると、先日同様にモンスターの形が残らない。討伐を証明する為の素材が手に入らないので、やっぱり実績にはカウントされない。
「常設されてる採取依頼中心に活動していると、ランクを上げなくても稼げるので」
営業スマイルを忘れずに添えて、ペンを置く。
感じの良い人間でいた方が得をする。笑顔大事。
「ええっと、赤夢ダンジョンよりもウチは等級が高くて……」
ふむ──まだ新人さんかな? 心配ご無用。
彼が言った通り、冒険者に等級がある様にダンジョンにも等級がある。
その指標となるのが階層の多さ。例えば、俺が普段通っていた赤夢ダンジョンは全四層。等級としては最下級のE級ダンジョンだ。
ただ、この等級。ちょっとややこしい。
低い等級=危険度が低いという訳じゃない。階層が多いというのがミソで、ダンジョンの等級はそのダンジョンが有する推定資源埋蔵量によって決められているのだ。業界に明るくない内は勘違いしがちな話だが、冒険者の実力の指標とかではない。俺も冒険者になると決めるまで、等級が高いダンジョンほどやべぇモンスターがウジャウジャいると思っていた。
で、この三角ダンジョン。等級は赤夢の二つ上になるC級ダンジョンで、この辺りでは最も等級が高い。ゴブリン系のモンスターが大量に棲息している事で有名だ。冒険者になりたての頃ならいざ知らず、今なら大して苦戦もしないだろう。
「死なない程度に頑張るのでお気になさらず」
話を切り上げて、ダンジョンへと向かう。
三角ダンジョンはギルドから徒歩五分ほどの距離にある。初めて向かうが、案内標識がそこかしこに立っていたので迷わず辿り着けた。
「あ、カードリーダーはあそこにあるよ」
「サンキュー紫乃」
入退場を管理する為のカードリーダーに冒険者証を翳すと、エレベーターの扉が開く。赤夢ダンジョンの様な物々しい雰囲気はない。どこにでもありそうなそれに乗って、ダンジョンへと突入していく。
「さっき滞在予定三時間って書いてたけど、それだけで良かったん?」
「大丈夫だ。問題ない」
ゴブリンは弱い。上位種以外は全部雑魚だ。
仮に蟷螂騎士の戦闘力を四,〇〇〇とすると、通常のゴブリンはどれだけ良く言っても一三九だ。上位種の乱入にさえ気を付けておけば、どれだけ集まっても不覚は取らない。しかも手早く倒せる。素晴らしいカモだ。
「ゴブリンの魔石は一個八〇〇円……八〇〇円……」
エレベーターが開き、足を踏み入れた瞬間からタイマースタートだ。
地理はよく分からんから、とにかく真っ直ぐ進む。分かれ道は全部右。それを徹底したら、帰り道を覚えずともエレベーター前まで戻れる。
道中で出会うだろうゴブリンは皆殺しだ。
「最低でも……五〇は殺す」
──そして。
「ふぃ〜! 大量大量!」
時間一杯、持ち込んだ頭陀袋がパンパンになるまで、俺はゴブリンを殺して回った。
殺しても殺しても湧いてくるので、大変効率が良かった。昔は討伐系を敬遠していたのだが、これが毎日続けられるならやり得だ。赤夢と三角のダンジョン位置が逆だったなら……俺はゴブリンスレイヤーとして、三角ダンジョン史に名を刻んでいたことだろう。
「……?????」
「どうした、宇宙猫みたいな顔して」
紫乃が理解できない様な物を見る目で俺を見つめてくるが、これくらい誰だって出来る。
ゴブリンの魔石は心臓部に八割、残る二割が肝臓にあると統計で明らかになっているのだ。後は魔力強化した貫手で、そこを抜いてやれば良い。
「手が臭くなるのが玉に瑕だな……“水と火よ”
使うのは極端に殺傷力を削ぎ落とされた家庭用魔術。水を生み出す青魔術と、熱を操る赤魔術の二種類だ。
それらを同時に使い、血みどろになった服の洗濯と乾燥を瞬時に終わらせる。尋常な冒険者が着用している防具だと、家庭用魔術を勝手に弾いてしまうので使えない──市販のジャージだからこその芸等。唯一無二の利点だ。
「『
「数をこなせば誰でも出来る」
魔術の練習にもなるから、昔は毎日これで洗濯をしていた。どんな頑固汚れもパパッと綺麗さっぱり消えるので、今でも重宝している。
洗濯を済ませた所で、改めて魔石の数を確認していく。
「全部で一〇八……うん。キノコほどじゃないけど良い感じだな」
上振れを引けたんだろうか?
これを延々と繰り返せるなら、赤夢ダンジョンが閉鎖されても家族を養っていける筈だ。
「ふーんふん。ふっふふぅっー」
鼻歌交じりに数えた魔石を袋に詰め直していると、紫乃が頬を引き攣らせて言った。
「……ひぃくん、ランク詐欺過ぎん?」
それって、弱過ぎるって意味ですよね?
俺は渾身のドヤ顔を披露しつつ、紫乃を引き連れてエレベーターまで引き返した。
──通路に散乱した特異なゴブリンの死体の山。それを前にした三人の少女は、一様に顔を青白くしていた。
何せ、それらがあまりにも異様な死を遂げていたからだ。
三人の内、剣を背負った赤い髪の少女が真っ先に口を開いた。
「や、やべぇ……心臓と肝臓を一突きで……?」
異常。死体を表すのに、それ以外の言葉は必要なかった。
知能の高い動物が仕留めた獲物の部位を選り好みして捕食するという話はある。しかし、ゴブリンの特定の臓器だけを好んで食うモンスターなど、少女達は聞いた事が無かった。
仮にそんな化物が居たとしたら──それは間違いなく、深層域に棲息する様な怪物だろう。ダンジョン上層に居ていい類の物ではない。
黒髪の少女が手にしていた杖を強く握り締めて言う。
「これ、上級冒険者じゃないと無理よね?」
そう尋ねられたのは、細剣を腰に佩いた青髪の少女だ。
少女は青い髪を耳の裏にかけ、暫く考え込んでから頷いた。
「そうだね……ただ、そういう人達が低階層を周回する訳がない。赤夢ダンジョンでスタンピードの兆候があるって話だけど、もしかしてここも危ういのかも」
その言葉に赤髪の少女が熱り立つ。
「くそっ! 何でこのタイミングでっ!」
少女達はある目的の為にダンジョンへと訪れていた。
「シノノ……早く見つけないと」
──同じ部活に所属しているクラスメイト、霊群紫乃の捜索だ。行方不明になって既に十日が経過しており、既に一刻の猶予もない様な状態だった。
勇足になる二人に向かって、青髪の少女は冷静に言う。
「落ち着こう、二人とも。出来る事を一つ一つこなす以外、今の私たちに出来ることはないよ。一旦上でギルドに話を通そう」
「でも!」
「ダメだよ。ここはB級冒険者の僕の顔を立てて貰おうかな? だって、君たちまで行方不明になったら……僕を信じて君たちを任せてくれた、葛本先生に合わせる顔が無いからね」
「……わかり、ました」
「報告が終わったら直ぐに再アタックと行こう」
そうして少女達は殺戮の痕から踵を返し、入口へと引き返していった。
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