TS転生美少女だけど世界救ったからアイドル始めた、仲間達が曇った 作:サイボーグアイドル
この世界に転生した日の事を覚えている。
最悪な世界だと思った。
空は灰色の雲に覆われていて危険な「変異種」によって人々は日々怯えている。
滅びかかっている世界で、それでも人々は辛うじて希望の灯火を未来へと伝えるために頑張っていた。
どうしてそこまでするのだろう。
私は思った。
どうしてそんなに頑張れるのだろう、誰にも頼まれていないのに。
今まで義務感で生きてきた「俺」の目にはなんの意味も分からない行為にしか映らなかった。
こんな終わっている世界に生まれてきて、それでも両親は「俺」の誕生を喜んでいた。
いつ終わるかも分からない世界で、どうしてあんな風に喜びの涙を流せるのだろう。
うすぼんやりとした頭の中で考えた。
でもどれだけ考えても答えは出ず、だから「俺」は小さくしゃっくりをした。
そんな姿を見て喜ぶ両親を見て、ますます訳が分からないなと感じながら。
這って歩けるようになって、二足歩行できるようになって、話せるようになって。
だけど私の言葉を両親はその耳で聞く事はなかった。
「変異種」の襲撃で両親は死に、私の心はどこかぽっかりとした穴が開いたような気分だった。
よく笑う両親だった。
その笑顔が、とても好きだった。
それだけが好きだった。
ただそれを見ているだけで嬉しかったんだ。
……世界は終わっている。
改めて思った。
ただ私が特別不幸だったという訳ではなく、実際私が新しく生活する場所となったそこには、私と同じように親を失った子供がいっぱいいた。
その子達は泣いている子もいたが、笑っている子もいた。
私はあの時、どんな表情を浮かべていたのだろう?
少なくとも友達は出来なかったし、だからきっと変な顔を浮かべていたのは間違いない。
そうして幼少期を過ごし、それから学び舎で勉強をするようになった私はある日、偶然「変異種」と相対する事となる。
そこで私は魔術の才能がある事を知り、そこからとんとん拍子に戦場で戦うという択を選べられるようになった。
……きっと私は戦場で死ぬのだろう。
その時の私は、漠然とそのように思った。
確か、そうだったと思う。
*
ロボットは夢を見るのか。
あるいは電気羊かもしれない。
少なくとも、私は夢を見る事がある。
充電中、スリープしている時に昔の事を思い出したりとか、とにかく夢を見る事があるのだ。
それは私自身が特別なロストテクノロジーの結晶である義体だからこそ起こりえる現象なのか、はたまたロボットのような機械生命体もまた人のように夢を見れるのか、どちらが正解なのかは分からない。
どちらにせよ、夢という形で過去の事を想起するというのは、なんとなく私が普通の人間だった頃の感覚を思い出せるからありがたいと感じる。
「懐かしかったな……」
過去の記憶を夢という形で思い出した私は、かつての青かった自分の事を思いそう感慨深く呟く。
あの頃の私は本当に青かった。
転生者として前世があるのに年相応だったなーと思う。
人間は体に思考が引っ張られる生き物なのかもしれないなとも思ったが、しかし今の私は機械のボディに思考が影響されているとは感じられない。
あるいは感じてないだけで実際は影響を受けているのかもしれないが。
「うーん」
なんだか哲学的な悩みをしている気がする。
ミステリアスな美少女って素敵じゃんとか考えながらとにかく私は習慣で一つ伸びをし、それから立ち上がる。
今日の仕事は一つだけ――即ちライブだ。
既に何度かのリハーサルは終えており、準備は万端な状態。
そもそもこの義体は覚えた動きをしっかり再現してくれるので、失敗するという事はほとんどない。
失敗する時は大抵自分が感情を載せて無理な動きをしたり、アドリブを入れたりする時だ。
そういうのはつまり「なるべくしてなった」とも言えるし、そしてそれを人間らしさとも言えるかもしれないけれども、とはいえ大切なライブを失敗するのはまずいなとも思った。
とはいえ、ライブに感情を載せまくったり、アドリブしまくったりする癖は絶対に直せないとも思うけれども。
楽屋を出て、せわしなく動き回るスタッフの人の間を通り抜ける。
その際、軽く挨拶をしたり笑顔を向けたりしてちょっとしたコミュニケーションを取る事は忘れない。
私の「アイドル活動」は、何もファンだけにするものではないのだ。
そうしてロイドが待っているであろう舞台の裏手へと向かっていたのだったが、その途中で想定外の出来事に遭遇する。
いや、遭遇するというより。
起きたのを理解したというか。
「……ッ」
今いる場所から右手の方向、距離にしておおよそ500メートルほどの位置。
恐らくこのライブを行うセクターの外壁に何らかのアクシデントが起きた気配。
「変異種」か、はたまた別の何かが原因か。
どちらにせよ、あの音は何かが壊れるような音。
そしてそれに続くように聞こえてくる悲鳴のような声。
私は自身の足のバネとモーターを全力で駆動させ、その音が聞こえてくるであろう場所を目指す。
走り、跳ね、時に転がり。
そして、その先には巨大な「変異種」がいるのが見えた。
巨大なオオカミに見える化け物。
私にとっては見慣れた異形であり、だからと言っては何だが少しほっとする自分がいた。
これがもし人災であり、明確に「悪」がいたとすれば私はどうすれば良いか分からなかったと思う。
それでも、目の前にいるのは明らかに「害」。
「害」は、排除できる。
「せいっ!」
私は移動中の速度を緩めないまま、そのままの勢いで「変異種」に突貫する。
そして、飛び蹴り。
その横腹に直撃した私の蹴りを受け「変異種」は怒りに満ちた悲鳴を上げ、遠く毬のように跳ねていく。
そのままセクターの外まで転がっていった「変異種」を追うように外にでた私は油断せず周囲に視線を送った。
どうやらあの「変異種」は一個体で乗り込んできたらしい。
それは逆に言うと「あれは一体で外壁を破壊出来た」あるいは「破壊する事が可能な能力を持っている」とも言える。
だからこそ、油断は出来ない。
「困ったな……」
この「義体」の体はかつて世界を救えるほどの魔術を使えた肉体ではない。
人並み外れた力は発揮できるが、あれらのような魔術を使えないというのはかなりハンデだ。
とはいえ、残された人間だった頃の部分は辛うじて魔術の使い方を覚えているし、だから。
「剣よ」
刹那、私の手の中に閃光で出来た剣が出来る。
それを構えた私は、再び大地を蹴って「変異種」に飛び掛かり、そして次の瞬間危機を察知した私は横っ飛びに飛んだ。
その脇を真っ赤な光が突き抜けていく。
幸い、位置が良かったのかそれはセクターの外壁を傷つけるような事はなく明後日の方向に飛んでいった。
それは、あの「変異種」の口から放たれたものだった。
恐ろしい、セクターの外壁が破壊されたのも納得の威力を感じさせられた。
「……」
あれを連発されたら、外壁がぼろぼろになってしまう。
そうならないためにも――速攻だ。
私は、ここにはいないみんな、特にロイドになんて謝罪しようかと考えつつ全力を足に込め、飛んだ。
一瞬で「変異種」の元へと肉薄した私はその光の剣を思い切り振り下ろし、その脳天を引き裂いた。
その一撃で「変異種」の頭は真っ二つに裂けたが、それでも油断はできない。
そもそも「変異種」に生物としての常識は通用しない。
頭部に見える場所を壊したところで動き続ける「変異種」なんていくらでもいた。
だが、幸いにしてその「変異種」にとって頭部は弱点だったらしく、しばらく体を痙攣させたのちばたりと動かなくなった。
距離を取り、何事も起きない事を確認する。
そうこうして警戒をしていると、そこで私と同じように異変を察知したらしい誰かがこちらにやってくる気配を感じた。
振り返ると、そこにはセーラが鬼気迫る表情を浮かべてこちらに走ってきているのが見えた。
「あ、セーラ――」
「ルナッ!?」
彼女は悲鳴のような声でこちらを呼んだ。
「どうして、こんな……!」
そこで、私のライブで使うつもりだった服がぼろぼろになり、身体も泥で汚れている事に気づく。
気まずくなった私は誤魔化すように「え、えーと」と目を逸らしてしまう。
「ご、ごめん。アイドル衣装、駄目にしちゃった」
「そんな事どうでも良い! 貴方に何かがあったら、私――……」
ぎゅっと抱きしめてこようとする彼女を、私はとっさに避ける。
拒絶するような態度をしてしまったからか傷ついたような表情をされ、私は慌てて弁明する。
「私、身体が泥で汚れてるから。ほら、うっかり肌で触れたらどんな影響があるか」
「……貴方はもう、こんな事しなくたって良いの」
彼女は絞り出すように言う。
「貴方はもう、英雄じゃないのよ? アイドル、なんだから。戦うのは、私達に任せて」
「……うん」
「私達は、頼りない?」
「そんな事ない、ごめん」
「……帰りましょう」
彼女の言葉に頷く。
心配させてしまった、その事にどうしようもない罪悪感を覚えながら私達は並んで外壁の穴を通ってセクターに戻るのだった。