スキルレベルしか上がらない一般身体能力学生が迷宮に挑んだら 作:石田フビト
ジュウジュウとソーセージが焼ける音がキッチンで響いている。
味付けは非常にシンプルな塩コショウのみ。少し焦げたこの匂いがたまらない。
小さなフライパンをひっくり返し、皿へと盛り付けていく。
「うーん、あともう一品……」
そうだ。昨日、迷宮の帰りで買った卵も焼いてしまおう。
賞味期限が迫って安くなっていたものを買ったのだ。
これを半熟にして、ご飯の上にのせて食べると美味いんだなこれが。醤油まだ残ってたっけ。
「たまごー、たまごよー、君はおいしいねー。生はちょっと苦手だけどー、焼いたらあら不思議、おーいーしーいー」
知性を失った卵焼きの歌を熱唱していると、ドタバタという慌てた音が廊下から聞こえてきた。
どうやら、お寝坊さんも起きたようだね。
「ごめん今何時!?」
「大丈夫、まだ八時だよ。眠たいんなら、もうちょっと寝てれば? 今なら特別に熊のポンちゃん貸したげまっせ」
「……ほんと、ごめん……目覚まし、かけたんやけど……」
「……」
僕は半熟に焼けた目玉焼きを皿に移し、炊飯器の中の米をかき混ぜながら笑った。
「あー、ごめん。それ消したの僕やわ。ジリジリ煩くてさぁ、ついね」
「え? いやでも……」
「全然聞こえんかったでしょ? 僕は目覚まし時計を止めるプロだからね。毎朝あの忌々しい音を消し去るために特訓してますの。おほほほ」
「それでも……ご飯、ごめんね。私が今日の当番やったのに……」
「……その、当番のことだけどさ」
二人分の朝食を作り終えた僕は、テーブルに皿を置いていく。
今から話す内容は母さんを傷付けてしまうかもしれない。だが、このままでいいはずもない。
きっとどこかで、話すべき内容なのだ。
「僕、最近朝早いでしょ? でもちょっと暇でさぁ。これから毎朝、朝ご飯作りたいんだけど、どうかな」
「どうかなって……そんなの、和幸だけにやらすわけには」
「んー、別にそこまで深刻に考えることかねぇ? 朝食っていっても、こんぐらいだし。負担にならんよ? いやまじで」
「そういう問題じゃっ……」
母さんの言わんとすることは分かる。
もし僕が同じ立場だったら、きっと全力で止めることだろう。
けれど、今のままでは無理を重ねて、また更に自分を責めるだけになってしまう。
そんなのは駄目だ。
僕は母さんに、笑っていてほしいのに。
「ほら、ご飯できたよ。一緒に食べ……る前に、顔洗ってきたら? 目ヤニ付いてまっせ」
「ちょっと待って。さっきの話を……」
「いーや、まずは顔を洗いなさい。そして服着替えて、お水飲んで。……待っとるから、ね?」
「……先に食べとっていいよ」
「ほーい。では行ってらっしゃいませ、雪子姫様」
「誰が姫じゃ。……ほんと、そういうとこそっくりなんだから」
釈然としない面持ちのまま、母さんは廊下に消えていった。
僕は天井を見つめ、深く息を吐く。
背もたれがギシリと鳴った。これもいい加減、寿命かもしれない。
「……」
日に日に、母さんが起きていられる時間が減っている。
昨日寝たのは確か、十時前だったはずだ。以前はもっと遅くに寝ていた。
以前はもっと早くに起きていた。
早く起きて……僕と父さんに、朝ご飯を作ってくれていた。
「……薬、用意しなきゃね」
立ち上がり、病院から処方された薬を持ってくる。
下手をすると母さんは飲まないから、こうして食卓に置いておく必要があるのだ。
薬を買うにもお金がかかる。
当たり前のことだが……それでも、やるせない気持ちを抱かずにいられなかった。
「……」
母さんの病名は、『魔力欠乏症』というもの。
極稀に非適合者が、適合者の子供を産んだ際にかかる病らしい。
僕らは全員、大小はあれど魔力を持って生まれてくる。
そして適合者とそうでない者の最大の違いは、魔力を吸収できるか否か。その特殊な体の構造をしているか否か、なのだ。
現在の技術では適合者がなぜ、魔力を吸収できるかは解明できてない。
だが少なくとも、適合者の子供を産んだ母親が『魔力欠乏症』にかかるということだけは、確かな事実だった。
その症状は少しずつ起きる時間を奪っていく。
最後には永遠に目を覚まさなくなる。
生きているのに、死んでしまう。
「……ちくしょう」
もし、僕が普通の子供ならば。
母さんはこんな目にあってなかったのではないか。
そうすれば父さんだって、母さんの病気を治すために頑張らなくてよくて。もしかしたら、今も家族三人でいられたのではないか。
そんな在りもしない幻想を抱く自分に、ほとほと嫌気がさす。
全てが自分のせいだと思うことこそ傲慢だ。
お前は何もできないロクデナシなのだから。せめて精一杯、目の前の現実を生き抜かなくてどうする。
「ちくしょう……」
そう、頭では分かっているのに。
心の中ではどうしても暗い感情が消えてくれない。
自分が段々と起きれなくなる感覚は、どれほど恐ろしいのだろう。
自分が世話をしていた子供に頼るのは、どれだけ勇気がいることなのだろう。
自分を蝕む、その病が。
現時点で不治のものだと認定されたのなら。
それは一体、どれほどの恐怖で、絶望なのだろう。
僕は何も分かってやれない。
僕は何もしてやれない。
その事実が、ただただ、悔しくて。情けなくて。
拳を痛いほどに握りしめる他なかった。
「……」
ペタン、ペタン。
廊下から母さんのスリッパの音が聞こえてくる。
頭を切り替えろ。いつもの自分に戻れ。
ほんの少しでも気取られてはいけない。不安な顔などさせてはいけない。
僕は努めて、馬鹿らしい笑みを浮かべた。
「よいしょっと……って、まだアンタ食べてなかったの」
「えぇ、えぇ。そりゃあ、お姫様より先に食べるなんざ執事失格でございますゆえ」
「次お姫様呼ばわりしたらビンタね」
「申し訳ありませ……ぐはぁっ」
恭しくお辞儀しただけなのにデコピンされた。
ちょっと痛い。
「な、なんて破壊力だ……」
「今のはただのデコピンよ。この上にビンタ、そしてチョークスリーパーが待っていると思いなさい」
「最後なんか変じゃない?」
額を擦りながらコップにお茶を注ぐ。
コップの中に入っていた氷が溶け、カランと音がした。
「……んじゃ、いだたきますか」
「そうね。……うん、美味しそう。これでいつでもお婿として送り出せるわ」
「へへへ、ほんと頼んますよ姐さん。こちとら女に飢えてんでさぁ」
「送る先は警察でよかったかしら」
「うーん……美人警察官がいるなら、それもありですな」
「もう手遅れか……」
和やか?な会話をしつつも僕は考える。
現状、母さんの薬代だけでも結構な出費になっている上、完全に進行を止めるなら何千万という大金が必要だ。
完治の目途は未だ立っていない。
なら、今は少しでも延命に力を注がなくては。
……この前、医者に言われた。
母さんが起きて活動していられるのは、あと三年が限界だと。それも理想的な治療を施した場合で。
もし金がなければ、その期間はどんどん減っていくと。
結局、どこまで行っても金が付きまとうのだ。
いいさ、やってやる。たとえ死の危険が迫ろうとも構わない。
「……あ、そういえば母さん。その服似合ってるね」
「はいはい、どーも」
たった一人の家族なのだ。
命なんて、いくらでもかけてやる。
そのために今日、僕は二階層へ赴くのだ……。
「ということで、バナナポーション三本ください」
「対面した瞬間から意味不明だけど、買ってくれるならヨシ! えーと、三十本って言ったっけ?」
「可哀想に。もう耳が……」
「うぅ、そうなの。私もうボロボロで……たくさん買ってくれたら、元気になるかも……ちら」
期待を込めた視線を無視し、バナナポーションを三本手に取る。
『みつみつポーション』の店主、美月さんはガックリと肩を落として倒れこんだ。
うーん、ワザとらしい。
「よよよ……酷い、雨夜君ったら。私を焦らして……一体何が目的だというの!?」
「お会計ですかね」
「一体、何が目的だというの!?」
「だから会計ですよ。イエスと答えないと会話が進まないNPCですか貴女は」
「うえーん、えんえん」
下手糞な泣き演技だなぁ。
近所の子供がお母さんに玩具ねだるときのほうがよっぽど名演技だよ。
……しっかし、それにしても。
「このバナナポーション、ほんとに売れないですね。ちゃんと僕が教えたやり方で売ってます?」
「も、もちろんだよ。まず、力尽くで拉致するでしょ? それから無理やり飲ませて、無理やり押し付けるの!」
「美月さん。それ、犯罪です」
彼女は一度、商売という意味を辞書で調べたほうがいい。
「そんな方法じゃ買わせられないですよ。……今度僕がまた教えますから、頑張りましょう」
「うー……あ、そうだ! もう雨夜君が売ったらいいんじゃないかな? そしたら在庫も減るし、私が儲かるしでウィンウィンじゃん!」
「一人勝ちって言うんですよそれ」
強欲の権化か。
そもそも、僕は商売の才能がない。いや正確には、売るという土俵に立たせてもらえないのだ。
「美月さん、もし貴女が不審者丸出しの男に、『いいものありますよ。ちょっとこっち来てください』と言われたらどうしますか」
「え、殴るけど」
「つまりそういうことです」
「あっ……」
何かを察したように彼女は憐みの表情を浮かべた。
これでも僕は自分の容姿を客観視できているつもりだ。無駄な傷は増やさない。
もうこれ以上話す必要はないだろう。
僕はお金を払って店を出た。
そのとき、いつもなら煩いほどに追いかけてくる彼女がいないことが、何故か無性に悲しかった。
おかしい、僕は傷付かない選択をしたはずだ。
なのにどうして、こんなにも胸が痛むのだろう……。
深い悲しみを背負いつつ僕は通路を歩き続ける。
この重苦しい感情を発散するには、スライムを狩りつくすしかない。危うい殺意の衝動が僕を襲った。
長い通路を抜け、受付所に足を踏み入れる。
今の僕は悲しき殺戮マシーンだ。
傷付きたくなきゃ、僕の傍に近寄らないことだな。
「あ、朽葉さんだ~」
しかし悲しき殺戮マシーンも女神の前では無力だった。
殺気立った心が彼女の妖しい笑みに浄化されていく。
ほんま、朽葉さんの退廃的な笑顔は最高やで! 彼女になら人生を狂わされてもいい。いや、何なら既に狂わされている。
これは責任を取ってもらわないといけませんね……。
そんな気持ちの悪いことを考えながら、僕は朽葉さんに手を振りつつ、装備室へ向かった。
「ん、しょ……」
黒い防護服に手を入れ、足を通す。この服に着替えるのも大分慣れてきた。
前までは一度着替えるのに結構かかったが、今では随分とスムーズに着替えられる。
こんなでも一応、冒険者として力が付いてきたってことなのかね。
まぁ、未だに逆立ちもできない貧弱さだけどさ。
「……いいね、全部持ったね。……んじゃ、行きますか」
個室の扉を開けて、そのまま装備室から足を進める。
目的地はもちろん始まりの迷宮だ。
行き交う冒険者を避けるように体を斜めに、空色の彼女の元へ歩いていく。
人混みを抜けると、そこにはいつもの光景があった。
不自然なほどに空いているポータルのすぐ傍。まるで氷のような冷たい雰囲気を持った彼女は、今日もそこに立っている。
僕は駆け足気味に近寄り、挨拶をした。
「どうも、こんにちは。約束通り来ましたよ、メリアさん」
「……はい、こんにちは。お待ちしておりました、雨夜様」
両手を丁寧に前で合わせ、お辞儀する彼女の姿は気品に溢れている。
以前も思ったが、本当に自分が偉い人間になったと勘違いしてしまいそうだ。
今度、お辞儀の仕方教えてもらおうかな。
何かの役に立つかもしれないし。
「雨夜様」
「ん、何ですか?」
「昨日は……大変、申し訳ありませんでした。ガイド役である身として、あるまじき失礼をいたしました」
「は、え、どうしたんですか急に」
再度、深くお辞儀をした彼女に、本気で困惑する。
昨日と言ったが……はて?
そんな失礼なことなど、あっただろうか。
「とある『存在』から助言をいただきまして。昨日の行動……仮説は、全て誤った知識によるものだと知りました。重ねて、謝罪を申し上げます」
「仮説……って、ああ! あれですか」
「はい。その他にも、冒険者である雨夜様のプライベートに関する質問など……不適切な言動の数々、お詫びいたします」
「……んむむぅ」
どうしよう……何が駄目なことなのか全くわからない。
何に対して言ってるかは分かったけど、別にそんな謝ることかね?
正直、これっぽっちも迷惑だなんて思ってないんだけど。
いやしかし、だからって『気にしないで下さい』と言うのも上から目線だよなぁ。
うーん。
「メリアさん、その謝罪は受け取れません」
「……はい」
「だって僕は、メリアさんにとっても感謝しているんですから」
「は、い……?」
重々しく頷こうとした彼女の顔が、僅かに困惑の色をのせる。
流石に一ヶ月以上関わっているのだ。彼女の無表情の中に、確かな想いがあることを僕は知っている。
僕から見て、不思議そうな顔をした彼女に対し、笑みを浮かべて口を開く。
「もう、昨日言ったことを忘れたんですか? 僕がどうしてこんなことをするかと聞いたときに、メリアさんは何と答えました?」
「……それ、は」
「言いにくいのなら言いましょう。貴女は、よりよきサービス向上のため、と言ったんですよ」
「……」
僕は腰をかがめ、彼女に視線を合わせる。
彼女は瞳を逸らせようとしたけれど、やがて観念したように僕を見返した。
「あのときはちょっと、困惑してましたけど……あれはきっと、本当だったんですよね。メリアさんは、僕のために調べて、行動に移してくれました」
「ですが、結果は失敗に終わりました。失敗に意味などありません。やはり、私は……」
「なにが失敗ですか。僕は、嬉しかったですよ」
「……雨夜様、私にお気遣いなど……」
メリアさんの言葉が、途中で切れる。
その空色に輝く美しい瞳がわずかに揺れた。
少しでも伝わってくれればいい。僕が本当に、貴女に感謝しているということを。
「いつもありがとうございます、メリアさん」
「……っ」
「僕は、きっと貴女が思っている以上に感謝してるんですよ? そりゃ、時々これはどうかなぁ、って思いますけど」
でも彼女が、本当に悪意を持って僕を貶していると思ったことは、一度もない。
「メリアさんは、メリアさんの考えがあって。それで、僕のために努力してくれたんですよね」
「……」
「……なら、怒る理由なんてないですよ。迷惑だとか、謝ってほしいだとか、そんなの全く思いません」
「……では、私は」
そこで初めて、メリアさんが口を開いた。
無表情ながらもその唇は震えている。中々、言葉が出ないようだった。
僕は柔らかく笑……えているかわからないけど、できるだけ穏やかに彼女の言葉を待った。
「私は、どうすれば……雨夜様に、喜んでもらえるのでしょうか。このような私に、一体何が、できるのでしょうか」
「うーん、それは……」
本音を言うなら、特に何かをしてほしいとかは、ない。
けれどそう言ったところで納得できないだろうし。
僕が喜ぶこと、かぁ。
……あ、それなら。
「メリアさんがしたいこと、ですかね」
「……? 私の、したい……こと?」
「はい。いや、色々考えたんですけどね。やっぱり一番嬉しいのは、メリアさんが自分で、これがしたい! って思ったことを、するっていうか。あー、難しいな……」
「……」
なんとなく伝えたいことがあるんだけど、言葉にするのが難しい。
自分の馬鹿さが嫌になる。
だからつまり、えーと。
「メリアさんが喜ぶことは、僕も嬉しいんですよ。うん、これだな。これが一番しっくりくるや」
「……私が、喜ぶこと」
「はい。僕、人の幸せそうな顔が好きなんですよ。だからメリアさんも、僕を助けると思って幸せになってください。その手伝いなら、いくらでもしますから」
「ですが、私には」
「……ん? ちょっと待てよ。メリアさんは僕が喜ぶことがしたい、でも僕もメリアさんに喜んでほしい……」
つまり……どういうことだ?
くそ、ここに学年きっての秀才、田中君がいてくれたなら。
話がこんがらがって混乱してきた僕は、やや強引に結論を出すことにした。
「まぁ、とにかく! メリアさんはメリアさんがしたいことをすればいいんですよ。それでも見つからないなら、その時は一緒に探しましょう。きっと何か、見つかるはずです」
「……私のしたいこと。私、は……」
キュッ、とスカートを握りしめ。
彼女は胸の内を吐き出すように、小さく、されど確かな意思を持って。
「……私は、雨夜様のサポートがしたいです。ずっと、貴方の冒険を、支えていきたいと思います……」
「……それが貴女の『したいこと』ですか?」
「はい。これが私の……生まれて初めての、願いです」
上目遣いでじっと見つめられる。
その瞳は願いを叶えてくれるのかと、訴えかけてくるようだった。
勿論、僕の答えは決まっている。
「こちらこそ、これからもよろしくお願いしますね、メリアさん」
「……はい、どうかずっと、貴方を支えさせてください」
互いに瞳を合わせ、僕は喜びのままに笑みを溢した。
そのときに……見間違いかもしれないが。氷のように冷たい、その無表情が。
小さく微笑んだような。そんな気がした。
「……さて、それじゃあ早速、お力を貸していただいても?」
「了解しました。確認中……完全一致。第一階層の踏破、および第二階層へのチェックが確認できました。第二階層からの攻略を希望なされますか?」
「はい、お願いします」
「希望を確認。迷宮への介入を開始します」
メリアさんの右手から、突如として青白いウィンドウが浮かび上がった。
ふーん……なにそれ?
え、メリアさん、そんなことできたの?
えー、すごー、かっけー、めっちゃ動いてるー……。
複雑に変化する画面に感嘆していると、ふと柔らかい感触が手に伝わった。
「ほぇっ?」
「冒険者プレートをお返しいたします」
「あ、あぁ、はい。ありがとうございます……」
ドギマギしながら頭を下げる。
びっくりした……急に手を握られたから、変な声出ちゃったよ。
全く心臓に悪いなぁ。童貞は女性に触れられただけで消滅する、か弱い生き物だというのに。
「準備完了。ご健闘をお祈りいたします、雨夜様」
「はい、頑張りますね。といっても、今日は様子見って感じですけど」
「……それでも、どうかお気を付けください。貴方の帰還を、心よりお待ちしております」
「……は、はい」
ど、どうしたんだろう。
なんか今までと……違う? 具体的にどう変わったのかは分からないけど、どこかいつもより柔らかな印象を受ける。
……もしかしたら、さっきの会話のおかげかな。
メリアさんとの距離が縮まった感じがして、少し嬉しい。
きっと彼女からすれば、僕なんて数ある冒険者の内の一人だろうけど。
それでも、ほんのちょっとでも仲良くなれたのなら幸いだ。
「ほんじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、雨夜様」
手を小さく振って、ポータルへと足を踏み入れる。
未だ見ぬ第二階層。
希望と絶望が入り混じった迷宮に、僕はまた挑むのであった。