スキルレベルしか上がらない一般身体能力学生が迷宮に挑んだら   作:石田フビト

6 / 31
六話 なんか、短い

『一般人と適合者の最大の違い。

 それは迷宮に潜れるか否かではない。たとえ適合者でなくとも、迷宮に入ること自体は可能である。

 では、二者の間で何が異なるのか。

 

 力だ。

 素手で鉄をねじ切る腕力

 車を追い越す脚力。

 火や水を生み出す奇跡の魔法。

 

 適合者は魔物を倒すことで、絶大なる力を得ることができる。

 そしてその力を数値化し、視覚化したもの。

 かつて迷宮協会が黎明期に発明した新時代の技術。

 

 人はそれをステータスと呼ぶ。』

 

 もっとも、自分はこれに懐疑的な念を抱いているが。

 

 という文章で論文は締めくくられている。

 僕が愛読している深山慎太郎さんの『ステータスについて 序』は、ステータスを簡潔に言い表していた。

 つまり、ステータスを持てるかどうか。

 それが一般人と適合者の最大の違いなのだ。

 

「……ステータス、ちゃんと出ますかね」

 

 適合者検査を受けたとはいえ、結果が万が一、間違っていたとも限らない。

 これでステータスが無いとなったら終わりだ。

 僕はこの先の人生をハードに生きることになる。

 そう言い切れるほど、冒険者とは破格の待遇を受けられる職業なのだ。

 

「はは……雨夜君は、うん、そうだね。ちょっぴり怖がりな子だ」

「すみません」

「いや、悪いことじゃないよ。この世界に対して、浸透している常識に疑問を持つのは、ある意味勇敢とも言える」

「……?」

「ステータスが出るか、だったね。それも安心していい。君は間違いなく適合者だ」

「そう、ですか」

 

 朽葉さんが言うならそうなのだろう。

 この人の言葉には不思議な安心感がある。

 まるで世界の全てを知っているような……雰囲気というか。そんな感じがする。

 

 そこまで漠然と考えて、頭を振る。

 思考があらぬ方向に飛んでいくのは悪い癖だ。

 気を取り直して、ステータスについての問いを続ける。

 

「ところでステータスって、どうやって見るんでしょう。この前家で『ステータス、オープン!』って大声で言ったら母さんに怒られました」

「あぁ、それは小説の見過ぎだね。あれは結局、大衆に分かりやすく説明したものに過ぎないよ」

「え、朽葉さんも小説読むんですか?」

「読まないけど、君みたいな勘違いをする子を沢山見てきたからねぇ」

 

 恥っず。

 言わなければよかった。

 しかし伝家の宝刀、ステータスオープンが封じられたとすると。

 結局どのように確認するのだろうか。

 

「うーん」

「……雨夜君、指を出してくれるかな?」

「へ? あ、はい」

 

 言われたままに、右手を差し出す。

 手の平を上にした格好だ。

 そして朽葉さんは何やら細い針のような物を取り出し、僕の指に……って待てよ。

 

「おや」

「……すみません、手が勝手に」

 

 ステータスを見るために何が必要なのか、それなりに察しがついた。

 でも針って……それ本当に裁縫のやつじゃないすか。

 えぇ、やだなぁ。それ、血が出るくらい刺すってことでしょ。

 うーあー……。

 

「お、お願いします」

「雨夜君……」

「は、早く! 僕の決意が、変わらないうちに……!」

「雨夜君、ちょっとこっち見て」

 

 必死に目を逸らしていた僕に、彼女は追い打ちをかける。

 刺される様を見ろというのか。くそ、何たる女王様っぷり。ちょっと見たくなってきたじゃないか。

 僕の性癖が壊れたら責任取ってください……。

 そう思いながら、視線を前に戻して。

 

「は……!?」

「うん、そのまま。私の顔を見てね……」

「……!?!?」

 

 近い。やばい。まつ毛長い。いい匂いする。

 まじで顔が整いすぎている。本当に同じ人類だろうか。絶対ホモ・サピエンス由来の遺伝子じゃないよ。

 進化論覆しちゃった……。

 あかん、混乱してる。

 

「そのまま……」

「え、ちょ、まじすか」

 

 更に彼女の顔が近づく。動いた際に、長い灰髪がはらりと揺れた。 

 視界が朽葉さんに侵されていく。

 

 え、これどうなんの。

 これどうなんのこれ、ねぇ。

 そうして彼女の薄い桃色の唇が、僕のガサガサした荒野に到達すると思われたとき……。

 

「はい、ちくり」

「……あ」

 

 ちょっと、痛い。 

 手に視線を移せば、人差し指の腹にぷっくりとした血の球が出来ていた。

 

「それじゃあこのプレートに指を押し付けてくれるかな。これで登録は完了だよ」

「はい……」

 

 全く気が付かなかった。そして余韻が凄い。

 これが受付嬢。小説でも大人気なわけだ。

 けど、これからは見方が変わりそう。

 童貞には刺激が強すぎます……。

 

 僕は魂の抜けたような心地になって、白い板に指を押し付けた。

 ちょうど学生証ぐらいの大きさだ。

 じんわりと、赤い染みが広がっていく。

 

「うん、大丈夫。もう離していいよ」

「はい。……あの、これって」

「しー……見てて」

「はい」

 

 もう一生朽葉さんの命令には背けないと思う。

 自分の性癖が完全に破壊されたのを自覚しつつ、無心で板を眺める。

 その変化は、直後に起きた。

 

「……!」

「ん、無事に登録できたみたいだね」

「うわ、なんですかこれ。うねうねして……これは、文字?」

 

 赤い染みが蠢き、板の表面を動きまくっている。端的に言って気持ち悪い。

 赤はやがて黒色に。ミミズのようにくねくねしてた線は、文字を象った。

 更には枠。直線。模様。

 見る見るうちに板が出来上がっていく。

 そうか、これが。

 

「冒険者プレート……」

「おや、知っていたかい。それも講習で?」

「いえ……これは昔、父さんが持っていて、それで……」

「……ふーん」

 

 記憶が蘇る。

 勿論、講習でも習ったことだけれど。

 現在において鮮明なのは、それでも過去の思い出だった。

 ああ、そうだった。

 父さんもこれを、持っていたっけなぁ。

 

「……さ、完成だ。手に持ってごらんよ」

「……」

 

 手触りは、思ったよりすべすべしている。

 裏面を見るとラビリンスをモチーフとしたのか、大きな建物の中心に渦を巻いた紋章が描かれていた。

 重さは……薄いのに、結構ある。金属製なのかもしれない。

 

 手首を返し、表面をもう一度。

 そこには僕の名前と生年月日、顔写真が写されていた。

 ……顔写真?

 いつの間に撮ったのだろう。検査のときかな。まぁいいや。

 

「……それで、あの。結局ステータスはどうやって見れば」

「ふふ……さぁ、どうすればいいと思う?」

「おっと」

 

 来ましたね、これは。

 朽葉さんチャンス到来ですよ皆さん。

 正解すれば褒めてもらえるし、不正解でも馬鹿にしてもらえる。

 どっちにしろ美味しい夢のようなチャンスです。逃す手はありません。

 

 して、どうしたものか。

 既にご褒美が確定している状況だから、判断が難しい。

 ……まぁ取り敢えず、適当にポチポチするか。

 

 ここに来る前の僕なら、『ステータスオープン!!』と大声で言ってただろうなぁ、と思いつつ。

 プレートを色々タップしていると。

 

 ブォン。

 

「うわっ、なんだこれ、ぐぁああっ」

「攻撃じゃないから大丈夫だよ。少し距離が近かったみたいだね」

「あ、ほんとだ。痛くないや……」

 

 目の前に勢いよく飛び出して顔を貫通した、半透明の……表示?

 色は青色よりもちょっと薄い。ゲームのウィンドウみたいだ。

 触っても感触はない。

 ホログラムってやつだろうか。へー、おもしろ。

 

「ちなみに、それは他人には見えないようになってるから……傍からだと虚空を掴もうとしている変人に映るよ」

「それを早く言ってください」

 

 めっちゃ揉んでしまったのですが。

 童貞を拗らせてとうとう妄想の胸を求める、頭おかしいやつみたいじゃん。辛い。

 

「ごめんごめん……でも、その感じだと開けたみたいだね」

「まぁ、はい。顔写真のところ触ったら出てきました」

「よろしい。ステータスは長押しすると消えるから、覚えといてね」

「了解です」

 

 試しに三秒ほど写真を押すと、表示は消えた。

 これでステータスの確認方法はばっちりだ。

 後は……。

 

「じゃあ、ステータスの内容を教えてくれるかな……」

「……はい」

 

 もう一度押して、ステータスを浮かび上がらせる。

 さっきは表示そのものに興奮してちゃんと見れなかった。もしかしたら朽葉さんは、そんな僕を落ち着かせようとしてくれたのかもしれない。

 ……ありがとうございます。

 

 息を吐き、白い文字をしっかりと見る。

 ()()()()()()()()に書かれた文字と数字。

 その内容は──。

 

 

――――――――――――――

 雨夜和幸

 スキル 『剣術 Lv 1』

――――――――――――――

 

 

「……んっ?」

 

 おかしいな。

 目にゴミでも入ったのかしら。

 念入りに目を擦って、再度ステータスを確認する。

 まさかね。

 うん、まさか……。

 

 

――――――――――――――

 雨夜和幸

 スキル 『剣術 Lv 1』

――――――――――――――

 

 

「……」

 

 ……なんか、短くない?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。