神話使いの男子生徒   作:ok.ko

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last surprise

「助けてあげたお礼に、私達の探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうねー」

 

「え……ええっ?」

 

俺の傷が完治した後、阿慈谷にホシノが口にしたのは同恩を盾にした強制同行である。阿慈谷は唐突な宣言に驚きの声を上げ、しかし背後の後輩達は、それは良い考えだとばかりに頷いて見せた。

 

「わぁっ、良いアイディアですね☆」

 

「成程、誘拐だね」

 

「はいッ!?」

 

「物騒な言い方だな。間違ってるわけでもないが。」

 

「はいいッ!?」

 

俺達の言葉に阿慈谷の体が固まる。

(もしかして私、とんでもない人達に助けられちゃった?)

と阿慈谷は内心で少しショックを受けていた。

そこにフォローをセリカが入れる。

 

「誘拐じゃなくて案内をお願いするだけでしょ? 勿論、ヒフミさんが良ければ、だけれど……」

 

「あ、うぅ……私なんかでお役に立てるかは分かりませんが、アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、それ位なら、まぁ」

 

『ホントー!?ありがとー!』

 

「そうか阿慈谷、助かる」

 

「うぅ」

 

「よーし、それじゃあちょっとだけ案内頼むね~」

 

ホシノの言葉を皮切りに、俺達は阿慈谷の案内の元、歩き出した。

 

 

『そういえば…ねえ、アゼス。』

 

先生がいきなり俺に質問してくる。

 

「ん?なんだ?」

 

『ヒフミと顔見知りぽかったけど、一体どこで知り合ったの?』

 

ふむ、まあ気になるのも無理はないだろう。急に出会った奴が、知り合いだったのだ。そりゃ、気になりもするだろう。隠すほどの事でもないし、話すか。

 

「ああ、説明するのは構わないが、歩きながらでもいいか?」

 

全員が頷くのを見て、俺は歩きながら語り出す。

 

「俺が阿慈谷と初めて出会ったのは…」

 

俺が阿慈谷ヒフミと初めて出会ったのはこの世界では滅多に見つからない刀と剣の製作素材、もしくは刀か剣そのものをブラックマーケットにまで赴いて探していた時だった。

 

その時も今回みたいに阿慈谷が追いかけられていたのを覚えている。

 

「い、急いで逃げないと...うわっ!」

 

俺が歩いている時、曲がり角で見知らぬ少女にぶつかった。その時の少女は、とてつもなく焦っている様子だった。

まるで、誰かに追われているような、そんな様子だと感じていた。まあ、それが事実だった訳だが。

 

「ご、ごめんなさいっ!怪我はありません…へ?」

 

少女は俺の顔を見て、一瞬呆けた。が、すぐさまハッと意識を取り戻し、俺に質問してくる。

 

「お、男の子…ですか?」

 

「…そうだが、なんだ?」

 

「い、いえ、男の子を初めて見たもので…すみません…」

 

と、俺と少女…今は名前が分かっているが、阿慈谷が少し話していると、少し離れたところから声が聞こえてきたのだ。その声が出た方向を見ると、不良達がこちらに向かって指を指してきている…いや、正確には阿慈谷に対してだろう。

 

『いたぞー!こっちだ!』

 

『本当か!?今すぐ向かう!』

 

と言って、阿慈谷に襲いかかってくる不良達。阿慈谷はすぐに逃げようとしたが、走り続けていたせいか、体力が切れていたのか、すぐに転んでしまう…

 

「こっちだ!....ん?誰だアンタ…って、男?」

 

「ハハハ!コイツラ二人まとめて金になるんじゃないか?」

 

「ハハ!いいねえ!」

 

俺は不良達の会話を聞き流しながら、阿慈谷に手を差し伸べる。

 

「ほら、立てるか?」

 

「は、はい…うぅ…」

 

何故か申し訳なさそうな阿慈谷。俺が逃げる時間を奪ってしまった、と思っているのかもしれない。

 

「す、すみません…」

 

「…そういや、アンタの名前は?」

 

俺はこんなときに阿慈谷の名前を聞いた。

 

「えっ…えっと、阿慈谷ヒフミです…」

 

「…そうか、阿慈谷。」

 

「はっ、はい…?」

 

俺は音もなくガンを取り出し、一人の不良のこめかみに銃弾を当てる。その不良は撃たれたことに気付くこともないままに倒れた。

 

「少し、待ってくれ。コイツラを片付ける。」

 

俺は予備の短剣を取り出し、不良達に向ける。コイツラには、これで十分だろう。

2人目の意識を刈り取る、3人、4人…

気づいたころには不良たちは既に倒れ伏していた

 

「…なんとかなったな。」

 

「あっ、あの!ありがとうございました!それと、先ほどはあの不良達にビックリして、転んでしまって…助けてくれて、ありがとうございました!それと、すみませんでした!」

 

「…足が生まれたての子鹿みたいになってるぞ、歩けるのか?」

 

プルプル震えている阿慈谷の足を見て、俺はそう指摘した。

 

「う、うう…」

 

…しょうがない、乗りかかった船だ。

 

「ちょっと失礼」

 

「…え?ひゃっ!?」

 

 

俺は阿慈谷の声も気にせず、そのまま軽く抱え上げた。

いわゆるお姫様抱っこ、というやつだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!?」

 

「足が震えてるんだろ。歩けないなら仕方ない」

 

「そ、それはそうですけど……!」

 

顔を真っ赤にして慌てる阿慈谷。まあ、無理もない。初対面の相手にいきなり抱えられたのだからな。

 

「どこに行けばいい」

 

「え、えっと……近くのベンチまで戻れれば…」

 

「分かった」

 

俺はそのまま歩き出す。

背後では、さっき倒した不良達がまだ伸びている。しばらくは起きないだろう。

阿慈谷は腕の中で小さく縮こまっていた。

 

「……あの」

 

「なんだ」

 

「重くないですか……?」

 

「軽い」

 

「そ、そうですか……」

 

そのまま無言の時間が続くが、俺はその流れを無理して変えようとせずに、言葉を発することなくブラックマーケットのざわめきの中をそのまま進む。

 

「……」

 

「どうした」

 

「その……」

 

阿慈谷は少し迷ったあと、小さく言った。

 

「助けてくれて、ありがとうございました」

 

「別に」

 

俺は前を向いたまま答える。

 

「たまたまだ」

 

「でも……」

 

「それに」

 

俺は少しだけ視線を落とし、阿慈谷の顔を見る。

 

「俺も用事があってここに来てる」

 

「用事……ですか?」

 

「ああ」

 

俺はブラックマーケットの奥の方を見る。

武器屋、部品屋、怪しい店が並ぶ区域。

 

「刀の材料を探してる」

 

「刀……?」

 

阿慈谷は少し驚いたようだった。

 

「珍しいですね」

 

「この世界じゃな」

 

実際、銃が主流だ。剣や刀を使うやつはほとんどいない。

 

「でも」

 

阿慈谷は少し考えてから言った。

 

「ブラックマーケットの奥に、武器を扱う店があるって聞いたことがあります」

 

俺は足を止めた。

 

「本当か」

 

「は、はい。噂ですけど……」

 

「場所は?」

 

「えっと……」

 

阿慈谷はブラックマーケットの奥を指差した。

 

「赤いネオンの通りの先にあるって……」

 

俺は少し考えた。……まあ悪くない情報だ。せっかくだし、案内してもらおうか

 

「阿慈谷」

 

「は、はい」

 

「その店まで案内できるか」

 

「えっ」

 

阿慈谷は少し困った顔にをする。

 

「た、多分……」

 

「そうか」

 

俺はまた歩き出した。が、阿慈谷がなぜか慌てる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「なんだ」

 

「まだ私、降ろしてもらってないんですけど!?」

 

「ああ」

 

すっかり忘れていた。俺は近くのベンチに阿慈谷を下ろす。

 

阿慈谷はまだ少し足を震わせながら立った。

 

「……」

 

「歩けそうか」

 

「だ、大丈夫です」

 

深呼吸してから言う。

 

「案内、します」

 

「助かる」

 

俺がそう言うと、阿慈谷は少しだけ嬉しそうに笑った。

が、すぐに、そういえば、という顔になった。

 

「あの、そういえば、お名前を聞いていませんでしたね。教えてもらってもよろしいですか?」

 

「…下神アゼス。よろしくな、阿慈谷。」

 

俺の答えを聞いて、阿慈谷は満面の笑みを浮かべたのだった。

 

 

…そして、俺がブラックマーケットに足を運ぶとかなりの頻度で阿慈谷が追われており、俺は阿慈谷を見つけたら出来るだけ助けるようにしていたのだった。

 

諸々の説明を終える。...振り返って見ると、阿慈谷は今までのことを反省していないのかもしれないな…まあ、別に良いが。何故かは知らんが、楽しそうだし

 

「…まあ、そんな訳だ。何か質問はあるか?」

 

『い、いや、特に質問はないかな…なんというか、ヒフミってアグレッシブな子なんだね…』

 

「俺も正直そう思う。」

 

特に質問はないようだったので、俺達は歩き続けることにした。

 

 

「はぁ、しんど…きつい…」

 

「もう、数時間は歩きましたよね?」

 

「これはおじさんにはしんどいね〜。腰が痛くなってきちゃったよ〜」

 

「お前俺と同年代くらいだろ。御老体みたいに言うな」 

 

突っ込みを入れながら先生の様子を見るために、俺は振り返る。先生の体力が持つかわからないしな。

 

「先生、大丈夫か…」

 

俺が後ろを振り返ると先生は笑みを称えてはいたが、その笑みは引きつっており、滝のような汗が流れていた…

先生の体力が持たないな…

 

「…休憩するか…」

 

俺達は、近くのたい焼き屋で休憩することにした。たい焼きを今回はノノミが奢ってくれた。感謝だ。

 

「ありがとうな、ノノミ。」

 

「いえいえ、私がやりたくてやったことですから☆」

 

紙袋を受け取ると、指先にじんわりと温かさが伝わってきた。袋を開くと、焼きたてのたい焼きが顔をのぞかせる。表面はきつね色で、ところどころが少しだけカリッとしている。

 

そっと一口かじる。

 

中からとろりとしたあんこが現れ、ふわりと甘い香りが広がる。外側の生地は軽く香ばしく、中はふんわりと柔らかい。その食感が心地よく、噛むたびに小豆のやさしい甘さが舌の上に広がっていく。

 

皆で美味しい、美味しいと言って食べていると、急に先生がこちらに向かってニヤリとしながら口を開いた。

 

『ねぇ、アゼス。』

 

「ん、なんだ?」

 

『あーんして食べさせてよ』

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

唐突な先生の発言に、周りが衝撃を受けている。まあ、俺としては別に構わないが。

 

「別に良いぞ。」

 

『えっ!?ホントにいいの!?』

 

「…先生が言いだしたことだろ…」

 

俺がそう言うと、先生は一瞬きょとんとしたあと、嬉しそうに笑った。

 

『やった!じゃあお願い!』

 

「ほら」

 

俺はたい焼きを少しちぎって、先生の方へ差し出す。

 

『あーん』

 

先生が口を開ける。

 

その様子を見ていた周囲の空気が、急に固まった。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

ノノミが目をぱちぱちさせ、セリカの口が半開きになっており、シロコとホシノはじっとこちらを見ていた。

…なんなんだ?

 

そして阿慈谷は

 

「えっ……えっ……!?」

 

と、顔を真っ赤にして固まっていた。まあ、お嬢様には刺激が少し強かったのかもしれない。俺にはよく分からないが。

 

俺は特に気にせず、先生の口にたい焼きを入れる。

 

「どうだ」

 

『……ん!』

 

先生はもぐもぐと咀嚼してから、満足そうに頷いた。

 

『美味しい!』

 

「それは良かったな」

 

俺が淡々と返すと、セリカが爆発した。

 

「ちょっと待って!?」

 

「なんだ」

 

「なんで普通にやってるのよ!?」

 

「先生が頼んだからだが」

 

「そういう問題じゃないでしょ!」

 

セリカは何故か焦りながら言っているが、 先生はけろっとしている。

 

『えー?でもアゼスはいいって言ったよ?』

 

「そういう問題じゃなくて!」

 

と、セリカが何かを言っていると、ノノミもこちらにやってきた。

 

「あの、アゼス君」

 

「ん、ノノミか。何だ?」

 

ノノミはぺかーっとした笑みを浮かべると、

 

「私にも、あーんしてください☆」

 

と言ったのであった。まあ、俺としては別に構わないので、たい焼きを少しちぎり、手に持つ。

 

「ほら、口開けろ」

 

「あーん」

 

「ほら」

 

「なっ…!?」

 

俺がノノミの口にたい焼きを放り込むと、ノノミは口を動かし咀嚼してゴクンと飲み込むと、俺に笑顔を向けて口を開いた。

 

「美味しかったです☆」

 

「そうか、それは良かった」

 

「だから良くないって言ってるでしょうがー!」

 

何でこんなにもセリカは怒っているのだろうか。俺には女子の気持ちがよく分からない。というか他人の気持ちを考える余裕は今までなかったな…

俺がボーッと考えていると、ホシノまで俺にたい焼きを求めてきた。

 

「おじさんにもちょーだい?」

 

「…まあ、別に構わないが…」

 

ちらっとセリカに視線を向けると、セリカは顔を真っ赤にして怒っていた。ホシノがセリカを無視したからなのかもしれない。

 

「せーんーぱーいー?」

 

「んー?もしかして、セリカちゃん…嫉妬してる?」

 

「なっ!?」

 

ホシノがそういった途端、セリカは明らかに狼狽しながら、必死に首を横に振って否定し続ける。

 

「ち、違うし!私は食べさせてもらおうなんか考えてなかったし!」

 

俺はそんなセリカを横目で流し見ながら、ホシノの口にたい焼きを千切って放り込む。

 

「ん〜。おじさんの口にも合うねぇ〜」

 

俺はそのホシノの様子を見た後、セリカに視線を向ける。

 

「…な、なによ!」

 

「いや、たい焼き食べるか?俺はもういらないからな。お腹いっぱいだからn」

 

俺の話している途中に皆が割り込んできた。

 

「じゃあ私が食べます!」

 

「ん、ここは私が」

 

「いえいえ、ここは私が☆」

 

『私が食べる!』

 

「いやいや、ここはおじさんが〜」

 

「いいえ、私が!」

 

「わ、私まだ食べてないし、私が食べるわ!」

 

…そんなにたい焼き美味かったのか…俺の舌にも合ってはいたが、流石に熱すぎて、俺には少し食べるのは憚られた。

 

俺はそんな皆の様子をボーッと眺めながら、自動販売機で買ったお茶を飲んで喉を潤した。

 

 

『さて、そろそろ休憩終わりにして、行こっか!』

 

という先生の合図で俺達は休憩を終了し、またブラックマーケットを歩き続けるのだった。

 

 

まだまだ歩き続けているが、一向に目的の情報は見つかる気配がない。阿慈谷によると、どうやらここまで探して目的の情報が見つからないのは異常らしい。ブラックマーケットでは大体みんな大っぴらに悪さをしているから、こんな意図的に隠されているみたいなことは変な感じなのだと。

例えば、あの銀行は犯罪で得た金を違法な武器などに変え、それを流し、そしてそこで得た金を手に入れてはまた武器に変え……ということをやっているらしい。

 

ブラックマーケットはやはりとんでもない場所のようだ。

 

と、そのとき、武装集団が現れた。俺達は物陰に咄嗟に身を隠す。

 

『わ、わわっ!?』

 

「悪い、先生」

 

先生の腕を掴み、引っ張って物陰に隠す。あちらからはギリギリ見えない程度のラインでその武装集団を観察する。

 

「ま…マーケットガード!?」

 

「…マーケット、ガード?それは何?」

 

シロコの質問に対し、阿慈谷が答える。あの集団は「マーケットガード」というらしく、ここの治安機関でも最上位の組織……らしい。

 

どうやら現金輸送車を護衛しているようだ。俺たちが後を追うと、銀行に入り、中から銀行員が出てきた…何処か見覚えがあるような顔だ。

 

…今朝うちに集金しに来た銀行員?何故ここに……?

 

周りを見ると、みんなも気づいたらしく、皆険しい表情をしている。

よく見ると現金輸送車には、カイザーのロゴが付いている…なるほどな…

アビドスは、ハメられ続けていた、ということか…

 

「…カイザーローン…ですか!?」

 

「ヒフミちゃん、知っているの?」

 

「カイザーローンと云えば、カイザーコーポレーションの運営する高利金融業者です……」

 

「もしかしてマズイ所?」

 

「あ、いえ、カイザーグループ自体は犯罪を起こしていません、ただ……合法と違法の間のグレーゾーンで上手く振る舞っている多角化企業というか、何というか…カイザーは私達トリニティ区域にもかなり進出していて、『ティーパーティー』でも目を光らせているという噂なんです」

 

「ティーパーティー――トリニティの生徒会が、ね」

 

「…証拠が足りません…何か、あと一つ、決定的な証拠さえあれば…」

 

とアヤネが苦しそうに発言する。その言葉に阿慈谷が反応した。

 

「さっきサインしていた集金確認の書類――」

 

『…記録さえ確認してしまえば、証拠になり得るね…』

 

と先生が言うと、何やらシロコの目が輝いている。

 

「ホシノ先輩、ここは例の方法しかないよ」

 

「――あー、あれかー、あれなのかぁー……」

 

「えっ??」

 

…俺は先の言葉が予想できた…が、止めはしない。俺はコイツラの判断に任せるだけだ。

 

「あ…! そうですね、あの方法なら!」

 

「何、どういう事? …もしかして、私が思っているあの方法じゃないよね?」

 

「ないとは思いますけれど、もしかしてアレですか…?」

 

「えっ???」

 

ノノミとセリカ、そしてアヤネも気付いたのだろう。シロコの提案する手段に当たりをつけ、ノノミは笑顔を、セリカとアヤネは、「まさか」という表情で問いかけていた。

 

「…ん、銀行を襲うの」

 

「うへ、準備はできてるよー」

 

ホシノはいつの間にかシロコから用意された覆面をかぶりながらそう言う。ノノミも準備万端のようだ。

 

「マジで? マジなんだよね? はぁー……それならそれで、とことんやってやろうじゃない!」

 

「……了解です、こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし、どうにかなる……はず」

 

「…ま、先生がいれば、最悪なんとかなるだろうし…俺も参加させてもらう。」

 

阿慈谷を無理やり巻き込んだシロコによって、俺を除いて全員分の覆面が渡される。と、シロコが俺に覆面を渡してきたが、俺はそれを拒否する。

 

「いや、大丈夫だ。」

 

俺はそう言って、前の戦いで壊れた画面を取りだす。顔全体を隠すことはできないが、目元を隠すことはできる。暗闇ならば、これで十分なはずだ。シロコが先生に向けて話しかける。

 

「それじゃあ先生。例のセリフを」

 

『…銀行を襲うよ!』

 

作戦が始まった。

 

 

 

 

ブラックマーケットにある、とある銀行内にて。

 

陸八魔アルは、融資を受けようとしていた。

 

というのも先日、アビドスへの襲撃の依頼に全財産を使った挙句失敗してしまった彼女たち便利屋であったが、何故かクライアントは失敗を見て見ぬふりをしてくれたので、もう一度アビドスを襲撃する運びとなっていた。

 

だが、全財産を使い果たしたので前のように傭兵を雇うこともできず、このままだと前よりも劣った戦力でアビドスに負け戦を挑むこととなる。それを回避するため、お金を借りにきていたのだが……結論から言えば、融資は受けられなかった。

 

便利屋という会社を名乗っていても、所詮は学生のやること。それに加えて何故か財政破綻してるし、そのくせやたらと高いオフィスを借りてるしで、信頼が得られなかったのだ。

 

突きつけられる現実を前に、彼女の中を暗い感情が満たしていく。

 

こんなのが自分の夢だったのか?自分がなりたかったのは、何も恐れず、何にも縛られない、ハードボイルドなアウトローだ。

 

だというのに、この有様は何だ?融資だ何だとつまらないことに悩まされ、その上そんな現状を打破する勇気もない。

 

 

 

こんなのに、なりたかったわけじゃない。

 

私が、本当になりたいのは…

 

突然、銀行内の電気が消えた。

 

「な、何事ですか!? て、停電!?」

 

「えっ!?」

 

「一体誰が、パソコンの電源も落ちたぞ!?」

 

銀行が混乱に包まれる中、直ぐ傍から銃声が鳴り響いた。咄嗟に、アルはその場に屈み込む。アルの日頃の活動によって身につけられた動きだった。

 

「じゅ、銃声!?」

 

「うわぅ!?」

 

「何が、って、ぐァアア!?」

 

何が何だか分からないうちに目が慣れていくと、銀行の中央に、複数の覆面を掛けた銀行強盗と思われるメンバーが立っていた。

 

「全員その場に伏せて両手は頭の上、持っている武器は床に捨てて!」

 

「云う事聞かないと、痛い目にあいますよ☆」

 

「…無駄なことはしたくない。おとなしくしておけ。」

 

ふと、周りを見渡すと、マーケットガードが地面に横たわっていた。それも、銀行内の全てのマーケットガードが。アルは地面に屈んだまま、驚愕の表情で彼女達を見る。その瞳には、羨望、憧れの色が強く映し出されていた。

 

「ぎ、銀行強盗!?」

 

「非常事態発生! 非常事態発生!」

 

「うへー、無駄無駄、外部通報警備システムは遮断済だよぉ」

 

そして、外部に連絡しようとしていた一人の店員は…瞬時に距離を詰めた強盗の一味…アゼスによって、喉に短剣を突きつけられていた…

 

「…分かってるな…?」

 

必死で頷くしかない銀行員。そして、アヤネが全ての携帯器具を回収し、作戦完了、と大きな声で伝えると、フェーズ2に移る。

 

「あれ、あいつら、もしかして……」

 

「あ、アビドス……?」

 

「だよね、アビドスの子たちじゃん、知らない顔も居るけれど」

 

「何で、よりによって此処で銀行強盗なんか?」

 

シロコは、今しがた銀行員の一人を立たせ、先導させていた…脅していたとも言えるが。

 

「物品はこのバッグに入れて、私達が欲しいのは少し前に到着した輸送車の――」

 

「わ、分かりました! 差し上げます、現金でも債券でも金塊でも! 幾らでも持って行ってください!」

 

「え、あ、そ、そうじゃなくて、集金記録を…」

 

「も、もっとですか!? ど、どうぞ、これでもかと詰めました! どうか命だけはッ!」

 

「あ……う、うーん」

 

銀行員は、バッグの中にこれでもかと付近にあった現金を詰め込む。それを見ていたシロコは、「そういうことじゃないんだけど」という顔をしながら、しかし一応集金記録や端末など、兎に角目につく金目のものを入れている事に、まぁ良いかという一つ頷いた。

 

 

 

 

 

俺はシロコの様子を眺めながら、全体を見渡す。が、流石に見えづらかったので、一旦ワイヤーで上に登り、全体を見渡しやすいようにした。

 

銀行の天井近くに張り巡らされた梁にワイヤーを引っ掛け、俺は静かに身体を持ち上げる。

 

暗闇に目が慣れてくると、銀行内の様子がよく見えるようになった。

 

床には倒されたマーケットガード、震えている銀行員、そして覆面姿のアビドスメンバー。

 

……そして、その中に一人だけ違う反応をしている人物がいた。

 

「……」

 

陸八魔アル。

 

地面にしゃがみ込んでいるが、その視線は明らかに恐怖ではない。

むしろ――キラキラしていた。

 

(……なんだあれ)

 

完全に憧れの目だ。

普通、銀行強盗を見てあんな顔にはならない。

 

陸八魔は小声でぶつぶつと呟いていた。

 

「す、すごい……これが本物の銀行強盗……堂々としてる……ハードボイルド…これよ……私が目指してるのはこういう……!」

 

「……」

 

何か危ないスイッチが入っている気がする。まあ、俺には関係ないことだから、ほっといても問題ないか。

 

「あの、シロ……じゃない、ブルー先輩! ブツは手に入った!?」

 

「あ、うん、確保した」

 

「よっしゃ、それじゃあ逃げるよー! 全員撤収!」

 

「アディオ~ス☆」

 

「お、大きな怪我人は居ないみたいですし……すみませんでした、さようならッ!」

 

「逃走経路は設定しています、急ぎましょう!」

 

「早く、ア…ジョーカーも早く来て!」

 

一応マーケットガードが起きないか確認しておいてから、俺は再びワイヤーを使って地面に降り立つ。そのまま皆の後を追いかけた。

 

その様子を見た銀行員の一人が立ち上がり、怒り心頭と云った様子で叫んだ。

 

「や、奴らを捕まえろ! 道路を封鎖、マーケットガードに通報――」

 

その瞬間、俺は後ろを振り向きガンを構え、体を倒しながら転がりつつ銃弾を当てる。一応ここの監視カメラも同時に壊しておいた。これである程度時間が稼げるだろう。

 

「あばばあばばばッ――」

 

「いぎぎぎぎ――」

 

俺は恐らく苦しんでいるだろう銀行員を無視して、皆と合流して逃げるのであった。

 

ちなみに、俺達はあとから知ることなのだが、この事件は時間にして僅か十分足らず。後に伝説として語り継がれる事件であった。

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