神話使いの男子生徒   作:ok.ko

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避けられぬ戦い

俺達は攻撃してくる追手たちを捌きながら、逃げていく。その合間に、セリカが俺に質問をしてきた。

 

「てかアンタ、なんでワイヤーなんて物持ってるのよ…」

 

「…さあ、どうしてだろうな」

 

俺はセリカに適当にはぐらかしながら進んでいく。セリカは俺が真面目に答える気がないことが分かったのか、諦めたような表情で、敵に向かっていった。

 

俺はメインウェポンを銃から刀に切り替え、敵に斬りかかる。マーケットガードとはいえ、脆い部分は確実にある。そこを突く。特に関節のあたりだ。そこに刀をねじ込むと、中のコンピューターがクラッシュをわずかに起こし、動きが鈍くなるのだ。その隙を、刈り取る。うなじの辺りにある僅かな隙間…そこにある主要線を切り取り、再起不能にする。これを繰り返すだけだ。

 

恐れられていたマーケットガードも、いざ相手にしてみれば恐るるに足らず……さらに先生もいるため、俺達は楽々勝利してしまったのだった。

 

数が少なくなった隙を見逃さず、俺達は包囲網を強引に突破し、走って逃げ続ける。先生の体力もまあギリギリ持ったようで、なんとか逃げ切ることができた。

 

「やった、大成功!」

 

「本当にブラックマーケットの銀行を襲って、それも成功しちゃうなんて……」

 

「よーし、よし、シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんとゲット出来た?」

 

「うん、バッグの中にある…はい」

 

ホシノが集金記録を確認するために、バッグの中をのぞき込む…その瞬間、仰天したような表情と声を上げた。

 

「なんじゃこりゃあ!? バッグの中に、凄い量の札束が!?」

 

「うえぇぇええッ!? し、シロコ先輩、現金盗んじゃったの!?」

 

「ち、違う、目当ての書類はちゃんとある、このお金は銀行の人が勘違いして…」

 

『はあ……悪いことはしないって、約束したでしょ?』

 

「……でも……」

 

先生達が、何やら話をしているようだ。まとめると、セリカとノノミはこのお金を借金返済に活用するべきだ、と主張したが、それに真っ向からぶつかったのが、先生とホシノだ。

 

「皆の選択肢に『犯罪をする』って考えを入れたくないんだよ。それが世間的に見ていいこと、悪いこととかじゃなくて、皆が未来で誤った選択をしないために、今も正しい道を歩もうってこと」

 

『後から、楽な方に逃げる道ばっか探すことになっちゃうかもしれないからね…それで、後悔することになっちゃうかもしれない!私はそんなこと、皆にさせたくないよ!』

 

と、説得を成功させ、このお金は使わないこととなった。

 

 

「……っ! 上空のドローンセンサーに反応あり、何者かの反応が接近中です!」

 

「えっ、もしかして追手のマーケットガード!? 此処までは来ないんじゃ!?」

 

「いえ、これは…べ、便利屋のアルさん!?」

 

便利屋68の陸八魔アル…何故、こんな所に? そう疑問を抱くより早く、俺達のいる路地裏にアルが駆け込んで来た。全員が仮面をもう一度つけ、俺を除いて戦闘態勢になる。

 

「あ、アゼス君!?迎撃準備を!」

 

棒立ちのままの俺を、アヤネが声を掛けて注意してくれるが、恐らく問題はないだろう。敵意をまったくと言っていいほどに感じられないからだ。

 

「はぁ、ふぅ……い、いたぁ!」

 

声が聞こえた途端、シロコが銃の安全装置を弾けば、それを見た陸八魔が慌てて手を挙げた。

 

「お、落ち着いて、私は敵じゃないから!」

 

やってきた彼女の言葉を聞く。

 

そしたらなんかめっちゃ褒められた。稀に見るアウトローだとか、本当の意味での自由な魂だとか……

 

ちょっと何を言ってるのか分からなかった。

 

「……はいっ!おっしゃることは、よーくわかりましたっ!私たちは、人呼んで……覆面水着団!」

 

「覆面水着団!?や、ヤバい……!!超クール!!カッコ良すぎるわ!!」

 

「うへ~、本来はスクール水着に覆面が正装なんだけれどね、ちょっと緊急だったもんで、今日は覆面だけなんだぁ」

 

『私は指揮官のcommander!』

 

「私はクリスティーナだお♧」

 

「だ、だお♧!? きゃ、キャラも立っているわッ!」

 

「ん、ブルー」

 

「お…私はホエールだよ〜」

 

「えっ!?ええっと、わ、私はレッドよ!」

 

皆に視線を向けられる…え、これ俺もやる流れなのか?

 

「…あー…ジョーカーだ」

 

…よし。何とか成功だ。

 

「そしてあそこにいらっしゃる紙袋の彼女こそ、リーダーであるファウスト様なのです!」

 

「えぇっ……と、ファウストです。あ、あはは……」

 

「……す、すごい……!全員個性的なメンバーなのに、その個性が干渉しあってない!全員が主役で、だれもが主人公!これが、覆面水着団……!」

 

…なんとか誤魔化すことができた。なんでだよ…と、いうか、俺の仮面がズレ落ちそうだ…慌てて仮面を押さえて、顔が見えないようにする。

 

「ハッ…その動き…怪盗のようだわ!アウトロー!アウトローそのものよ!」

 

「…ん?」

 

何故か俺の仮面を戻す仕草がかっこよく見えたらしく、陸八魔は俺のことを、めちゃくちゃ褒めだした。

 

「あの手捌き、全体を見る動き、自由自在に使いこなしていたワイヤー、転がりながらガンを的確に撃ち込む動き!まさに怪盗!」

 

「…何言ってるんだこいつ…」

 

俺は少し引きながら陸八魔を見ると

 

「……なにしているの、あの子達、それと先生」

 

「わー、アルちゃんドはまりしちゃってるじゃん、特撮モノのイベントに連れて行って貰った子どもみたいな顔しているし! 超ウケる~!」

 

「あ、アル様……」

 

と、便利屋が勢揃いした。セリカはノノミの対応がめんどくさくなったらしく、諦めて撤収の声をかけた。

 

「も、もう良いでしょ? さっさと逃げようよ!」

 

「そうですね――それじゃあこの辺で、アディオス~☆」

 

『行こう! 夕陽に向かって!』

 

「夕陽、まだですけれど……」

 

そして、アビドスまで帰ったのだが……

 

「……あれ?現金のバッグ……置いてきちゃいました」

 

「え?」

 

「えーっ!?」

 

逃げることに夢中になっていた俺達は、バッグの回収を忘れ、その場に置いていってしまったのだった。まあ、誰かが拾うだろう。集金記録は残っているのが確認出来たので、不幸中の幸いと言ったところだろうか。

 

 

「ええぇぇッ!?」

 

「うわわわわーッ!?」

 

「これ…一億位は入っているよ…」

 

「…?」

 

アルが思わず叫び、ムツキが冷や汗を掻き、カヨコが顔を顰めながら札束を一つ手に取る。ハルカはそんな皆の姿を見つめながら、小さく首を傾げ問いかけた。

 

「……もしかしてこれで、もう食事抜かなくても良いんですか?」

 

 

 

 

学校へと帰還した俺達は、少しの休憩を挟んだ後、意を決して盗み出した電子証明書を覗き込んだ。デスクの上に広げられた証明書には、金銭の流れと担当責任者…そしてアビドスが求めていた決定的な情報が記されていた。

証明書を覗き込む皆の表情は険しい。

紙面を指先でなぞりながら、シロコが淡々とした口調で告げる。

 

「現金輸送車の集金記録にはアビドスで七百八十八万円集金したと記されている、私達の学校に来たあの輸送車で間違いない……でも、その後すぐにカタカタヘルメット団に対して『任務補助金五百万提供』って記録がある」

 

「それって、つまり……」

 

「私達のお金を受け取った後に、ヘルメット団のアジトに直行して任務補助金を渡したって事だよね!?」

 

「…見事にやられてるな…」

 

つまり、奴らは俺達から奪った金を使って、俺たち自身を滅ぼそうとしていたわけだ。

 

だが、その目的はさっぱり分からない。

 

常識的に考えれば、奴らは金融機関だ。その目的は、俺達に貸した金を回収することのはずだ。

 

それなのに、どうして俺達を潰すような真似をする必要がある?

 

考えられるとすれば、俺達を潰すことで何かを得られるということだが……。

 

アビドスに、そんな価値のあるものなど――まあ、まだ分からないが…

 

阿慈谷はトリニティの生徒会……要するに長の立場であるティーパーティーに、カイザーのことやアビドスの現状を報告すると言ってくれたが……

 

「まー、ティーパーティーはもう知ってると思うけれどねー」

 

「は、はいっ!?」

 

…まあ分かっていたことだが、おそらく各学園の首脳陣はこのアビドスの現状を知っている上で、補助をしていないのだろう。メリットがほぼないからだ。

 

この後話し合いが終了し、ヒフミ(と呼べと皆に脅された)は、俺達に支援する機会があった場合、全力で助けると約束してくれた。頼もしいことだ。

 

 

 

 

翌日

 

俺と先生は、いつも通り教室に入る。扉を開けると、ホシノがノノミの膝枕で横になっていた。

 

「おはよー、二人とも〜」

 

「先生、アゼス君、おはようございます。今日は早いですね?」

 

『そうだね。ちょっと眠いかも…』

 

「でしたら、私の膝枕はいかがですか?」

 

そう言ってノノミがポンポンと自身の膝を叩くが、ホシノが「ダメだよー。ここは私の場所なんだから」と言ってノノミに抱きつく。

その後、耳元で「後で膝枕してあげますからね」と先生は言われていた。

 

「じゃ、俺がしてやろうか?」

 

俺が冗談で言うと、先生が素っ頓狂な声を上げた。

 

『…へっ!?』

 

「冗談に決まってるだろ…俺も一人の生徒だぞ」

 

俺はそう言い残し、椅子から立ち上がる。

 

「少し出かけさせてもらう。今日は何も食べてないから、柴崎ラーメンにでも行ってくる。」

 

俺は教室の扉を開き、アビドス校舎から出る。そのまま砂漠を少し歩いていき、柴崎ラーメンに到着した。今回はセリカはいないようだ。

 

一方、ホシノは先生とノノミと別れ、どこかのビルの中に入って行った。

 

そしてエレベーターで階を上がっていき、一つの部屋の中に入る。

 

「これはこれは」

 

そこに、黒い服を着た存在がいた。

 

「お待ちしておりましたよ、暁のホル……いや、ホシノさんでしたね。これは失礼」

 

 

 

「……黒服の人、今度は何の用なのさ?」

 

「……ふふ、状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして」

 

黒服が怪しく微笑む。

 

それを聞いたホシノは、訝しげな態度で反応した。

 

「提案…?それはもう…」

 

「まあ、落ち着いてください。紅茶でもどうぞ。」

 

と、ホシノに座ることを促してくる黒服、ホシノは渋々座ったが、黒服から差し出された紅茶に手を付けることは一切なく、鋭い目付きで黒服を正面から見据えていた。

 

「…私の話は…下神アゼス…一人の男子生徒についてです。」

 

「なっ!?無関係者を巻き込むつもりか!?」

 

「…下神アゼスは、あなたを凌駕する神秘を内包しております。あれは、もはや神の領域と言っても、過言ではない!

…映画のセリフを引用させてもらいます。

あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ、興味深い提案だと思いますので、どうかご清聴下さい」

 

「…この、クソ野郎が」

 

黒服は、静かに語り始めた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、いらっしゃい…おっ、アンタ先生と来てた生徒さんじゃないか。」

 

扉を開けると、一番に迎えてくれたのは柴犬の大将だった。そのまま俺は塩ラーメンを注文し、一人用の席に着く。十分もしない内にラーメンが届き、俺は麺をすする。湯気の向こうで、スープが静かに香っていた。

麺は弾力があり、スープをしっかり絡め取る。気づけば完食していた。素晴らしい味わいだった。

 

「大将、ありがとう。とても美味しかった。」

 

「あいよ!また来てくれよ!」

 

大将に代金を払い、俺は帰ろうとした…が、背後で聞き覚えのある声が聞こえた。振り向くと、陸八魔達、便利屋がここに集まっていた…少し、声を掛けてみるか。

 

「…よう、便利屋。何してるんだ?」

 

「な、何よ!…って、アゼス!?」

 

…話を聞いてみると、ラーメンを食べに来たらしい。

 

腹が減っていたようだったので、奢った。最初は躊躇していたが、一口啜ると箸が止まらなくなっていた。そこからは全員で雑談を続けた。便利屋の仕事の内容だとか、今までの活動の記録だとか、そんな話をした。仲はかなり深められたと思う。

 

ラーメンを全員が平らげた後、大将が快く便利屋に話しかけた。

 

「アビドスさんとこのお友達だろう。替え玉が欲しけりゃいいな」

 

「……じゃない」

 

「ん?」

 

「友達なんかじゃないわよぉーーーー!!」

 

…便利屋はアビドスの奴らと友達じゃなかったのか。意外だった。

 

 

「分かった!!何が引っ掛かっていたのか分かったわ!!問題はこの店!!この店が悪いのよ!!」

 

「それって…こんなお店はぶっ壊してしまおうという事ですね?」

 

…そう言った陸八魔の隣にいる、伊草がボタンを持っている…これは、不味い…

 

「おい、ちょっと…」

 

…足を踏み出して伊草の動きを止めようとしたその瞬間、俺は飛んでくる砲弾の気配に気づく。コイツラがこの店を爆発させる前に恐らく着弾するだろう。

 

「おい!この店にいる全員!」

 

俺は声を張り上げ、危険が迫っていることを警告する。

 

店内の視線が一斉にこちらへ向く。

 

「今すぐ伏せろ!」

 

「えぇ!?何言って――」

 

アルが言い返そうとした、その瞬間。

 

――轟音。

 

店の外壁が弾け飛び、衝撃波と共に砂塵が店内へとなだれ込んだ。

 

「きゃあああああッ!?」

 

「うわっ――!?」

 

悲鳴と共に、テーブルや椅子が吹き飛ぶ。

 

俺は咄嗟にカウンターを蹴り、最も近くにいた伊草ハルカの腕を掴んで引き倒し、覆いかぶさるような体勢で衝撃を逃がす。次の瞬間、視界が光りに包まれた。

 

直後、天井の一部が崩れ落ちる。

 

瓦礫が床を叩き、視界が完全に砂煙に覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イオリ、流石にやり過ぎでは?」

 

「ん?問題ないだろ。着弾点はしっかり計算してるし。建物一つで便利屋を纏めて葬れるなら安いものだろうに、この程度じゃパンデモニウムの連中は何も云わない、寧ろ便利屋を取り締まった功績でプラスだろ。」

 

そう言ってライフルを担ぎ直すイオリ。

その態度に、今さら何を言っても聞き入れられることはないと悟り、チナツは小さく溜息を零した。

目の前の友人は、本来は常識的な人物のはずだ。

だが任務となると、その苛烈さ――あるいは実直さゆえか、目的達成のためには多少の手段を厭わない節がある。

 

(ヒナ委員長がいれば、きっと止めただろうに)

 

そんなことを胸中で思いながら、チナツは視線を手元のタブレットへと落とした。

 

「情報部からです、ドローンに動体反応アリとの事、これは……」

 

「便利屋の連中、まだ動けるのか、ならさらに追撃を――」

 

「――待って下さい!」

 

チナツは思わず声を張り上げ、イオリの言葉を遮った。

 

「何だよ、チナツ。まだ何かあるのか?」

 

「……反応が、妙です。便利屋の四人だけじゃない……もう一つ、民間人ではない…ナニカが混ざっています…こ、この生体反応!まさか…」

 

「便利屋と同席していたのは、下神アゼスです!」

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ……な、なに今の……!?」

 

浅黄の咳混じりの声が響く。

 

「外からの砲撃だ……距離は近い」

 

俺は低く呟きながら、全員の様子を把握するために立ち上がる。

 

「皆、無事か?」

 

「え、ええ。私はだいじょ…って、アゼス!」

 

陸八魔がどこか慌てたように俺に駆け寄ってくる。

 

「何だ?」

 

「何だって…それ!頭が!」

 

…頭…?何があったのだろうか。俺は確認するために頭に手を当てててみた。すると、何処かドロっとしたような感触に襲われる。ふと触った手を見ると、血が大量に付着していた。傷口に手を当ててみると、ガラスの破片が実質的な刃物となり、俺の頭に突き刺さっていた。ガラスを頭から抜くと、大量に血が吹き出てくる。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!それ……普通にヤバいやつでしょ!?」

 

陸八魔が声を荒げるが、俺は淡々と言葉を返す。

 

「問題ない。」

 

「ちょっと!?」

 

と、俺が庇った伊草が何処か申し訳なさそうに、絶望したような表情で口を開いた。

 

「わ、私のせいで…うぅ……アゼスさん、死んじゃ…」

 

「勝手に殺すな…」

 

…再生が遅い。最近は何処か調子が悪いな。もしかすると、オシリスが眠りについているのかもしれない。

 

俺は血を流したまま立ち上がり、大将に無事か確認を取る。

 

「大将、ケガしてないか?」

 

「あ、ああ。俺は大丈夫だが、アンタのほうこそ大丈夫なのか!?」

 

「問題ない。この程度すぐに治るさ」

 

「いや、そんなわけねえだろ!?」

 

「外の生徒達、腕にタグを付けていたし…風紀委員会に違いないわ!私達を捕まえに来たのかもしれないわ!」

 

陸八魔の言葉に俺はしばし思案する。

 

ゲヘナの風紀委員会。キヴォトス最高の兵力を持つ組織の一つ。

とはいってもその実態は委員長である空崎ヒナのワンマンであるという噂だが……いや、それは今関係ないか。

 

何故、ゲヘナの風紀委員会が今ここに……?

…後で考えよう。

 

「…今からアビドスに居る先生達が救援に来るはずだ。それまで持ちこたえろ。先生さえ来てしまえば、こっちの勝ちだ。着いてこい。」

 

便利屋にそう言い残し、俺は風紀委員会を迎撃するために外に出る。動くたびに血が地面に垂れるが、今はそんな事を気にしている場合ではない。とにかく、風紀委員会の迎撃に向かう。刀で気絶させていく、1人目、2人目、3人目…キリがないな…

 

砂煙の外へ踏み出した瞬間、乾いた風と共に銃声が頬をかすめた。

「…包囲済みか」

 視界の先、崩れた建物の影から、規律正しく展開する風紀委員会の隊列が見える。無駄のない動き、統率の取れた陣形――さすがは精鋭、といったところか。

 

だが。

 

「――遅い」

 

ワイヤーを射出。近くの街灯に引っ掛け、一気に体を引き上げる。次の瞬間には空中から急降下し、最前列の一人の懐へ潜り込んだ。

「なっ――!?」

 

驚愕の声と同時に、刀の峰で首筋を打つ。意識を刈り取り、そのまま体を支点にして回転。背後の二人の銃口を蹴り上げる。乾いた発砲音。弾は空へ逸れた。

 

「くそ、何なんだお前等!? こんなの、聞いて――」

「――邪魔」

 

不用意に顔を出した風紀委員会のメンバーを、鬼方は素早く照準し、引き金を引く。

頭部に一発、胸部に二発。弾丸を受けた彼女は、そのまま崩れ落ちた。

鬼方は無言のまま、手元に転がった銃を蹴り飛ばす。

さらに陸八魔は文句を言いながらも、しっかりと一人一人処理していた。伊草は暴走しながら敵を殲滅しにかかっていた。的になってくれているのが幸いか。

 

「ああ、もうやってやるわよ!?」

 

「その調子だ。」

 

「……てか人数多すぎない…?爆弾使いまくっても…って……」

 

俺を凝視してくる浅黄。どうしたのだろうか。

 

「どうした?」

 

「そ、その傷……」

 

「……頭のことか?」

 

「ちっ、違う……」

 

どこか動揺している浅黄。

その言葉を引き継ぐように、陸八魔が叫ぶ。

 

「ア、アゼス!服の下……めちゃくちゃ傷あるわよ!?」

 

……しまった。

戦闘に意識を割きすぎて、忘れていた。

服の下には、無数の傷が残ったままだった。

 

――呼吸が浅くなる。

 

震えが、止まらない。

 

【お前さえいなければ!】

【死んでしまえ!】

【生まれてこなければよかったのに……】

【死んで……今すぐ死んでよ!】

 

……やめろ。

 

……意識が、霞む。

 

(主よ!私を召喚しろ!)

 

ヨグの声が響く。

召喚機に手を伸ばす――が、指が震えて掴めない。

 

そのとき。

 

『アゼス!』

 

――声。

 

聞き慣れた、頼もしい声。

 

先生だ。

 

こちらを見ている。

その表情は、どこか悲痛で――

 

……ああ、そうか。

 

傷、見られたのか。

 

(……後で、謝るか)

 

でも。

 

――先生が来た。

 

それだけで、十分だった。

 

……もう、大丈夫だ。

 

 

 

先生達――ホシノを除くアビドスメンバーは、爆心地へと急行していた。

理由はただ一つ。そこに、下神アゼスがいるからだ。

 

仲間を、放っておけるはずがない。

 

砂を蹴り上げながら駆ける。

先生はシロコに背負われていた。

 

やがて視界に入る。

 

風紀委員会。

便利屋メンバーと銃撃戦を繰り広げている。

 

その中心に――アゼスがいた。

 

頭から血を流し、爆風で服は裂け、

それでもなお銃弾を避けながら敵を無力化している。

 

――殺さないように。

 

その姿に、先生は、いや、アビドスは違和感を覚えた。

 

前提として、アゼスは再生能力が高い。

いや――高すぎる。

 

だからこそ、おかしい。

 

破れた服の隙間から見える肌。

そこには、無数の傷が刻まれていた。

 

痛々しい古傷。

 

銃弾によるものなら説明はつく。

だが、それなら――

 

(……治っているはず)

 

実際、頭の傷は既に再生が始まっている。

血は流れているが、確実に修復されている。

 

なのに。

 

服の下の傷だけは――

 

一切、癒えていない。

 

『……な、んで……』

 

呆然と、言葉が零れる。

 

その瞬間。

 

アゼスの体が、揺れた。

 

苦しむように、膝をつきかける。

 

『アゼス!!』

 

叫ぶ。

 

その声に、アゼスがわずかに顔を上げた。

 

安堵したように見えた。

 

――表情は、相変わらず変わらないままだったが。

 

 

 

 

 

アビドスメンバーも戦闘に参加し、アビドス+便利屋VS風紀委員会、という戦いが始まった。なお、俺は後ろでただサポートを続けた。そうしろと皆から言われたからだ。あと、この傷について先生から

 

『…後で話を聞かせてね…』

 

と、言われた…面倒くさい…

 

一人の生徒が物陰から出した頭をガンで撃ち抜く。気絶する程度なので怪我の心配はないだろう。俺レベルの耐久だったら大量出血で死ぬ危険性があるかもしれないが。

 

前線に切り込んでいくアビドス。いつかの時にも実感したことだが、アビドスはかなり強い。ヘルメット団との戦いを繰り返してきたからだろう。その動きには無駄がなく、実戦で磨かれた鋭さがある。

他の生徒と比べても、戦い方が一段上だと感じさせられた。そこに先生のサポートが入ると…文字通り、読んで字のごとく敵無しになる。

 

ほとんどのメンバーが戦闘不能となり、地面に崩れ落ちる風紀委員会。

それとは対照的に、多少の傷は負いながらも、全員が立ち続けているアビドス。

 

そんなこんなで、俺達は風紀委員会に勝利を収めた。

 

『や、久しぶり。チナツ』

 

「先生…アゼス君……こんな形でお目にかかるとは…」

 

先生が俺が知らない子と挨拶をしている。顔は見たことあるが、名前は分からない。とりあえず適当に手を挙げて挨拶をしておいた。

 

チナツ、という子は先生と俺がアビドス側にいた時点で即後退するべきだったと語る。先生がいる時点で、勝ち目はない、さらに俺がいると絶望的だと。先生は分かるが、俺への過大評価が過ぎるだろ…

 

ひとまず、アヤネが風紀委員会に対話を持ちかけたので、俺は傍観することに決めた。

 

『アビドス対策委員会の奥空アヤネです。所属をお願いします』

 

堂々たる立ち振る舞い。さすがである。その問いかけに風紀委員会の一人である銀髪の子が何か答えようとしたところで

 

『それは私から答えさせていただきます』

 

目の前にホログラムが出現した。そこに青い髪をした胸の横が空いている、非常に独特な格好をした少女が写し出された。

 

『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、天雨アコと申します。今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?』

 

その少女はそう言って優しげに笑った。

 

が、後ろの風紀委員会たちが明らかに緊張してるのも相まって、この少女…天雨が日頃からどんな対応をしているのか分かるというものだ。

 

ふと、アビドスの面々に目を向ける。

三人とも、鋭い眼差しで風紀委員会を睨み据えていた。

 

対する風紀委員会も、一歩も引かない。

負けるものかと言わんばかりに、真っ向から睨み返してくる。天雨が来たことにより、戦況の空気がさらに引き締まったようだ。

 

二人が話している間、俺は後ろでノノミによる頭の怪我への応急手当を受けていた。医療用ドローンを飛ばしてくれたらしい。放っておけば治るのだが…先生も皆も、心配性である。

 

「…放っておいても大丈…」

 

「アゼス君は黙っててください。」

 

「…分かった」

 

そのままアヤネ達の話は進んでいく。

とはいえ――結局のところ、和解は成立しそうにない。

こちらは便利屋を譲る気はないし、向こうも同じだ。

このままでは、風紀委員会との再戦は避けられないだろう。

 

向こうも、こちらとやり合うのは面倒なはずだ。

できることなら、このまま穏便に済めばよかったのだが……。

 

『…便利屋の方々を捕まえなければいけない…その使命のために、私達はここまで来ているというのに…』

 

「悪いが、それは無理な相談だ。コイツラはこの柴崎ラーメンを助けてくれた。客の避難誘導も行ってくれたし、住民を守るための手伝いも、一緒にお前らと戦うこともしてくれた。便利屋を回収することは、俺が許さない。」

 

俺は便利屋の前に立ち、迎撃体制を取る。便利屋は、俺の手伝いをしてくれた。恩は必ず返す。

 

アヤネが、真っすぐと立ちはだかる。

 

「先生の件もそうですが……他校の生徒が我が校の敷地内で、堂々と戦闘行為に及ぶ――それを認めるわけにはいきません。自治権の観点からしても、明確な違反です!」

 

『あら……』

 

「まさか、ゲヘナほどの大規模な学園が、このような暴挙に出るとは思ってもみませんでした。ですが――ここは譲れません。あなた達は、決して踏み越えてはいけない一線に手をかけたんですよ!」

 

『なるほど……それが、アビドスとしての答えですか…ふぅ……この兵力を前にしても怯まないだなんて。

それほどまでに自信があるということは――やはり、信頼できる“大人”がいるからでしょうか。

……ねえ、先生?』

 

先生に向けて話しかける天雨。挑発の意味合いもあっただろうが、先生は輝くような笑顔で言葉を返す。

 

『私がいなくても、皆の自信は変わらなかったと思うよ!アゼスもいるし!便利屋も良い子達だしね!私も同じ意見だし、ここを譲る気はないよ。』

 

「こちらとしても柴関ラーメンを爆発させた責任は取らせなきゃいけないし、聞きたいこともある。譲ることはできない。要するに、交渉決裂だ。」

 

…戦闘が、始まった。

 

「先生、先に伝えておく。」

 

『ん?何かなアゼス。』

 

「俺は今から、ペルソナを使う。全員、下がらせるように指示してくれ。じゃないと、アイツラにも被害が及ぶ。」

 

『…分かった。でも、無茶だけはしないでね?』

 

…それは無理な相談かもしれないな…

 

取り敢えず先生に頷き、召喚銃をポケットから取り出す。

 

『全員、戻って来て!その場で待機!』

 

先生の指示で全員が慌てながらもここに戻るのを確認する。俺は戦場の真ん中に立ち、風紀委員会が俺だけに警戒をするのを確認する。そして、召喚銃を頭に突きつけた。

 

『なっ…!?今すぐ、下神アゼスの行動を止めなさい!』

 

天雨が指示を出して俺を止めに来たが、もう、遅い。

 

 

 

『待ちなさい!あなたのその行動は、寿命を犠牲にしているのでしょう!?なら、今使う意味はないはずです!』

 

 

 

「……っは?」

 

 

誰の声か知らないが、声が思わず漏れたようだ。俺はそんな事百も承知だったが、皆には言うのを忘れていたな。そのショックだろうか?…ま、どうでもいいか。俺のことなんて。

 

空気が、一瞬で凍りついた。

 

「寿命を……犠牲に……?」

 

ノノミの手が止まる。

シロコの瞳が揺れ、

セリカは言葉を失ったまま、俺を見つめていた。

 

『アゼス……それ、本当なの……?』

 

先生の声が、震えている。

 

 

「……ああ」

 

俺は、あっさりと肯定する。

 

 

「元から、長くないしな」

 

 

その一言で、

 

空気が“壊れた”。

 

 

「……は?」

 

 

セリカの声が、低く落ちる。

 

 

「……何言ってんのよ、アンタ……」

 

 

『どういう、意味……?』

 

 

先生の問い。

 

 

少しだけ、考える。

 

 

……別に、隠す必要もないか。

 

 

「そのままの意味だ」

 

 

淡々と、告げる。

 

 

「俺は、じきに死ぬ」

 

 

 

沈黙。

 

 

誰も、言葉を発さない。

 

 

 

「時期がいつかは知らないけどな。……まあ、長くは持たないらしい」

 

 

「……何、それ……」

 

 

セリカの声が震える。

 

 

「なんでそんなこと……平然と……」

 

 

 

「平然としてるように見えるか?」

 

 

 

自分でも、分からない。

 

 

ただ――

 

 

「事実だから、受け入れてるだけだ」

 

 

 

『そんなの……受け入れちゃダメだよ……!』

 

 

ノノミの声が、今にも泣き出しそうに揺れる。

 

 

「まだ方法があるかもしれないじゃないですか!治せるかもしれないし……!」

 

 

 

「無理だ」

 

 

 

俺は即答する。どうせ、無理だと分かっているから。

 

 

 

「これはそういうもんじゃない」

 

 

 

理由は言わない。

 

 

言っても、理解できる話じゃない。

 

 

 

「だから、どう使おうが、俺の勝手だろ」

 

 

 

『違うよ!!』

 

 

先生が叫ぶ。

 

 

『短いからって、好きに使っていい理由にはならない!!』

 

 

 

「なるさ」

 

 

 

静かに返す。

 

 

 

「どうせ終わるなら、意味のある使い方をするだけだ」

 

 

 

「意味って……こんな無茶が!?」

 

 

セリカが一歩踏み出す。

 

 

「こんなの、ただの自殺みたいなもんじゃない!!」

 

 

 

「違うな」

 

 

 

首を横に振る。

 

 

 

「これは――使い切るだけだ」

 

 

 

命を。力を。全部。いらないものを、できるだけ有効活用する、それだけだ。

 

 

 

「……アゼス」

 

 

シロコが、まっすぐに俺を見る。

 

 

「……困る」

 

 

 

短い言葉。

 

 

だが、重い。

 

 

 

「いなくなると、困る」

 

 

 

 

悲痛な声…だが――

 

 

 

「……どうでもいい」

 

 

 

俺には何も感じなかった。シロコの言葉を切り捨てる。

 

 

 

「俺がどうなるかなんて、関係ない」

 

 

 

『関係あるよ!!』

 

 

先生の声。

 

 

『君がどうなるか、気にしてる人がここにいる!!それを――』

 

 

 

「……関係ない」

 

 

 

遮る。

 

 

 

銃口を、こめかみに当てる。

 

 

 

その瞬間、

 

全員の呼吸が止まった。

 

 

 

「やめてください!!」

 

 

ノノミの叫び。

 

 

「やめなさいって言ってんでしょ!!」

 

 

セリカの怒声。

 

 

「……やめて」

 

 

シロコの、小さな声。

 

「やめて!あなたのためにならないわよ!?」 

 

それと、便利屋全員の叫び声。

 

全部、聞こえている。

 

 

 

それでも――

 

 

 

「……どうでもいい」

 

 

 

指に、力を込める。

 

 

 

「どうせ、終わる命だ」

 

 

 

「だったら――」

 

 

 

「早くても問題ないだろ」

 

 

 

そして俺は

 

引き金を、

 

 

 

引いた。

 

 

 

――乾いた音が、響いた。

 

頭に強い衝撃が走る… 

 

その瞬間、

 

世界が、歪み始める。




アゼスの強さはキヴォトスにおいて、最強です。本気を出すと殺してしまうので、手加減しています。そのため、大幅に弱体化を受けています。それでもなおホシノヒナ辺りには普通に勝てます。アゼスが何らかの原因で◯んだ場合、世界が滅ぶなんてことはなく、アゼスが邪魔だと思っている奴らが全員◯にます。設定盛り込み〜
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