いつも、無力で。
大切なものは、何一つ守れなくて。
自分を犠牲にしようとしても、何も出来なくて。
だから俺は…ペルソナを…使う。
さあ来いよ…
「来い…『繝翫う繧「繝シ繝ゥ繝医ユ繝??』」
私は、彼の事を何も知らなかったのかもしれない。ここに来てからは、先生として彼と一緒にずっと仕事をしたり、苦楽を共にしてきたつもりだった。それが、どれだけ短い時間であっても、私は『相棒』として、少なからずの感情を彼に…アゼスに向けていたのだろう。
だが、今起こっていることを脳が受け入れまいとしている。いつも、アゼスは優しかった。顔に出ることはなかったが、それでもセリカを全力で助けたり、便利屋を庇ったり、優しい、とても優しい人だった。
だが、今のアゼスの瞳はとても冷たい。見るだけで凍ってしまいそうなほどに。何がアゼスを変えたのかは分からない。
『……アゼス……』
思わず名前を呼ぶ。
けれど――
彼は、こちらを見ない。見ようともしない。
アゼスは頭に銃を突きつけた。止めようとしたが、無駄だった。私達が何を言っても、アゼスは止まらなかった。
ふと、疑問が生じた。
――風紀委員会の天雨アコは、アゼスの秘密をいつ知ったのだろうか…と。
寿命が削れていくデメリットを持つ、そんな武器をアゼスが周囲に言いふらすメリットはないし、労力の無駄だ、とか言って恐らくアゼスからは言うことはないだろう。
だが、何故アコはその情報を知っていたのだろうか。
もう、私には、何も分からない………
――俺が呟いた瞬間、辺りに静寂が満ちる。
風も吹かない。光も変わらない。
ただ、風紀委員会の面々は、どこか怯えたような表情を全体的に浮かべていた。
本能的な恐怖感なのかもしれない。飢えた猛獣を目の前にすると足が竦むような、そんな恐怖だ。
「……なに、これ……」
誰かが、かすれた声で呟く。
理由は分からないはずだ。何も起きていない。静寂が満ちている。誰も動いてない。
それなのに――
“何かがいる”と、本能が理解している。
「っ…ああ、もう、焦れったいな!」
風紀委員会の一人の銀髪の生徒が、耐えきれずに引き金を引いた。
『っ!?待ちなさい!』
天雨…だったはず…が静止をかけるが、意味はない。もう敵対反応として『アイツ』は認識してしまった。俺に攻撃したことによって。
天雨の制止は、間に合わない。
引き金は、既に引かれていた。
乾いた銃声が響く。弾丸が一直線に、俺へ向かう。
だが――
届かない。
「……え?」
弾は、俺の目の前で静止していた。
空中に固定されたように、微動だにしない。
「な、何…これ……!?」
誰かが叫ぶ。風紀委員会かこちら側からの声かは分からなかったが。
が、声を発したその瞬間。
弾丸が――消えた。
弾けたわけでも、逸れたわけでもない。
ただ、元から射たれていなかったみたいに。この場から…いや、この世界から完全に消えたかのように。
撃った生徒の体が、ぐらりと揺れた。
「っ……!?」
膝から崩れ落ちる。傷はない。血も出ていない。外傷は全くと言っていいほど見えない。
それでも――立てない。
「な、んで……動け……」
言葉が途切れる。
一人、また一人と。
同じように、膝をついていく。
見えない何かに、押さえつけられているように。
『っ…!?総員、撤退!』
焦ったように天雨が撤退の指示を出そうとするが、それは叶わぬ願いとなる。この瞬間、全員の制圧が完了したからだ。全員地面に押さえつけられ、苦しげに呻いている。
「う…ぁ…」
「なん…で…うご…け…な…」
『…アハハハハハ!!』
直後、誰もいない空間から高笑いが響き渡った。
『……フフ……やっと、来れた』
その声は、確かに“そこ”にあった。
だが――姿はない。
空間のどこからともなく響く、柔らかく、それでいて底知れない声。
『まったく……あなた、呼ぶのが遅いのよ』
軽く拗ねたような響き。この場に合っていない、明るい声。だが、その一言で――場の空気が、さらに重く沈む。
風紀委員会の生徒達が、息を詰まらせる。
誰も、その声の主を視認できない。
それなのに――
“そこにいる”と、全員が理解していた。
『ねえ……私、ずっと待ってたのに』
甘えるような声音。
だが、その裏にある“何か”に、誰もが言葉を失う。
『あなたが呼んでくれるの、ずっと』
呟いた直後、割れた時空から1人の人物が姿を現した。
容姿は整っており、どこにでもいそうな少女の姿だった。
だが――
その“在り方”が、明らかに異質だった。
光の当たり方が、どこかおかしい。
影の落ち方が、現実と噛み合っていない。
そこに“存在している”はずなのに、どこか現実からズレている。
彼女は、ゆっくりと足を踏み出す。
コツ、と小さな音が鳴るだけで、場の全員の意識が引き寄せられる。
「……」
俺は、何も答えない。
どうでもいい。来たなら、それでいい。
『……ああ、でも』
声が、ふっと低くなる。
『あなたを撃ったのは――あれ?』
一瞬、空気が揺れた。
次の瞬間。
ドン、と――
見えない何かが、さらに強く“圧し掛かる”。
「ぐっ……ぁ……!?」
「や、め……っ……!」
既に押さえつけられていた風紀委員会の面々が、さらに地面へと沈められる。
まるで重力が何倍にもなったかのように。
『ふーん……あなた達なんだ』
声が、少しだけ冷える。
『私の“主”に、手を出したのは』
その一言で、
空気が完全に凍りついた。
「…殺すなよ。気絶させる程度にしろ。」
俺は『繝翫う繧繝シ繝ゥ繝医ユ繝??』に指示を出す。受けたそいつはふわりと笑い、ゆっくりと頷いた。だが、目は笑っていなかった。
『大丈夫、アゼス。力加減には気をつけてるよ。』
「…なら、いいか。とっととやってくれ…めんどくさい」
『はいはい…そっけないなぁ…』
不貞腐れたような表情を浮かべるが、一瞬で元の顔に戻る戻る。そして、ある種の死刑宣告を下した。
『…我、ナイアーラトテップが、貴様らに私刑を実行する…安心して、殺しはしないから…「殺しは」…ね?』
ナイアーラトテップは朗らかに微笑んだが、風紀委員会の表情は絶望に染まっていた。そんな姿を見ながら、俺は思わずため息をついた…無駄な時間だ…と、思わずもう一度ため息をついた。
そして…『私刑』が実行される…神の手、ナイアーラトテップによって…