『…じゃあ、またね、アゼス』
「ああ、またな。」
そう言って、ナイアーラトテップは俺の身体の中に光となって入り込む。そして、光の粒子も完全にこの場から消えた。
「っ…はぁっ!」
風紀委員会の生徒達の胸の奥から、空気が一気に押し出される。
まるで、今まで何かに押さえつけられていたみたいに。
「……終わった、のか……?」
誰かが、かすれた声で呟く。
さっきまで場を支配していた『圧』は、もうない。
空気は動き、音も戻っている。
それなのに――
誰も、すぐには動けなかった。
「……あー……」
俺は、軽く首を鳴らす。
「やっぱ、だるいな……」
それだけ言って、肩の力を抜いた。
やはりペルソナを使った後の負担はそれなりにあるようだ。俺でも一瞬クラッと来てしまった…まあ、もう終わったからいいか…?
いや待て…1人、こいつらより強い気配持った奴が来ている…どうやら、まだ休むわけにはいかないらしい…話し合いで解決できれば良いのだが…
彼女は音もなくそこにいた。
「なに…これ…なに?なんで皆倒れてるの?」
「――嘘でしょ?な、なんでここに…風紀委員長が!?」
「委員長……じゃあ、トップの人?」
「……アコ、説明して」
『ひ…ヒナ委員長……』
ホシノと近しい小柄な体躯でとても長くふわふわもこもことした白い髪。
彼女こそが風紀委員の委員長であり、最強と謳われる空崎ヒナである。アゼスはその事をまだ知らないが。
そして空崎は俺の方をゆっくりと見る。空崎の少し疲れているような瞳と、俺の瞳が交差した。
「…」
すると、どこか呆然としたようにこちらを見つめてくる。いったいどうしたというのか。
「…あなた…どこかで…私と…」
「…」
言うまでもないが、俺とコイツは初対面である。まあ、俺が覚えていないだけの可能性もあるのだが。
「…あ〜…始めまして。俺は下神アゼスと言う。よろしく…?」
「っ……」
俺が言葉を発した瞬間、少し空崎の表情が歪む。まるで言い放つ言葉を抱え込んでいるかのような、そんな悲痛な表情で。
「…そ、う…」
「…何か悪かった。」
嘘だ。『悪かった』なんて思ってもない。心が動くこともない。彼女の悲痛な表情を見ても何も感じていない。
それから、彼女は撤収準備を始めた。その間に先生に何かを話しかけていたらしい。便利屋は逃げていた。逃げ足の速い奴らである。事前にモモトークを交換しておいたため、謝罪の言葉はすぐに来た。
『借りは必ず返すわ!』
…あいつららしい。
そんなこんなしている内に、小鳥遊が到着した。
「うへー…遅刻しちゃったー?ごめんねー。お昼寝が気持ちよくてさー」
「昼寝ぇ!?こっちは色々大変だったのに!?」
「ん。でも大体片付いてる」
「これから大変になりそうですが…」
「…そうみたいだねー。制服からしてゲヘナの風紀委員会でしょ?」
「…………」
「ホシノ、みんなもう帰るって」
「あれー?そうなのー?」
先生の言葉にいつもの調子を崩さずに答える小鳥遊。だが、瞳の奥では何かが揺れていた。こちらに視線を向けると曖昧に微笑む小鳥遊…まぁ、いいか。
それから何やら空崎と小鳥遊が話し始めた。小鳥遊の過去についてらしいが、まあ、別に気にするようなことでもない。
…結局、全員帰ることになった…
…俺も帰ろうか。
…今は、何もかもが…
「どうでもいい…」