シャーレのオフィスに入る少し前。
アゼスと先生たちは、道中のチンピラを次々と制圧しながら進んでいた。
刀を振るうアゼスの姿は、他の生徒たちとは明らかに異質だった。
だが、その異質さは恐怖ではなく、むしろ“頼もしさ”として周囲に伝わっていた。
戦闘が一段落した頃、先生はずっと気になっていたことを口にする。
「ねえ、アゼスって……何者なの?」
その問いに、ユウカたちは一瞬だけ沈黙した。
互いに目を合わせ、頷き合う。
「「「「……一言で言うと」」」」
「……言うと?」
「「「「とんでもないお人好し」」」」
「……ええ……」
先生は思わず苦笑する。
しかしユウカたちは続けた。
「ですが、やはり一番の特徴は――」
「……やはり?」
「唯一の男子生徒であることですね。」
「……へぇ……」
「そのおかげで、ファンクラブもあります。」
キヴォトス唯一の男子生徒。
薄い青髪に、光を宿したような薄水色の瞳。
高身長で、無口で、無表情。
それが“スパイス”になってしまうほどの美貌。
モテないはずがない。
「……そして、自己肯定感が限りなく低いです。」
「……例えば?」
「自分のことを“ゴミ”とか“道端のガムと変わらない”とか“存在意義がない”とか……まあ、底抜けに低いんですよ。」
「……うわぁ……」
先生は絶句した。
助けてくれた相手が、そんなふうに自分を扱っているなんて――胸が痛む。
「でも、他校でボランティアしたり、チンピラを更生させたり、貧困地域に支援したり……色々やってるんです。」
「……すごい……」
「なので、彼を知らない生徒はミレニアムにはほとんどいませんね。」
先生は内心で思う。
――とんでもない人と関わっちゃったな。
そして、もう一つ。
(……カッコよかったなぁ……)
抱き寄せられた時の腕の温かさ。
守られた安心感。
その後の、ふっと緩んだ彼の表情。
(……って、私は何考えてるの。)
「……先生?」
ぼーっとしていた先生に、ユウカたちが怪訝な顔を向ける。
「な、なんでもないよ!行こっか!」
慌てて歩き出した。
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先生たちが戻ってきた。
何か話していたようだが……まあ、いいか。
(問題ないと思われる。)
ヨグがそう言うなら間違いない。
「よう。遅かったな、先生。」
「う、うん。ごめんね、遅くなって。」
……ん?
先生の顔が赤い。熱か?
「……どうしたんだ?」
「なんでもないよ!さ、行こう!」
「あ、ああ。じゃあ早瀬たちはここで待っててくれ。俺は先生のお守りだからな。」
一瞬だけ複雑な顔をしたユウカたち。
だが次の瞬間には、
「「「「あとでしっかり話を聞かせてもらいます」」」」
……めんどくせ。
「……分かった分かった……」
適当に返し、先生の隣へ。
「よし、行くか。」
「う、うん。」
(……男の人と二人きり……)
「……先生?」
「ふぇっ!?ど、どうしたの?」
考え事をしていたようだが、呼びかけるとすぐ真剣な顔に戻る。
「……ぼーっとしてたぞ。そろそろ着く。」
「え、あ、本当だ……ありがとう。」
「ああ。」
(主よ、この中に小娘が一匹いる。注意しろ。)
サンキュー、ヨグ。
(まあ、そのまま行っても問題はないだろう。)
了解。
「じゃあ、開けるよ。」
「分かった。」
ドアを開けて中に入る。
薄暗いが、見えないほどではない。
少し進むと――お面をつけた生徒がいた。
「……おい、そこで何をしている?」
タブレットを持った得体の知れない生徒。
こちらを見るなり、
「し、し、失礼しました〜!!!!」
と叫んで逃げていった。
……ヨグ、なんでだ?
(……見られたからだ。自分の姿を。)
……シャイなんだな。
「先生、ほら。なんだこれ。」
タブレットを拾い上げると、電源が勝手に入った。
先生に渡すと、彼女は小さく息を呑む。
「……それは“シッテムの箱”です。」
「……行政官か。」
どうやら先生にしか扱えない代物らしい。
「じゃあ先生、あとは任せた。誰か襲ってきたら守るから。」
「う、うん!ありがとう!」
先生の意識が落ちる。
ヨグ曰く、必要な処理らしい。
なら放置でいいか。
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「ん……」
「お、起きたか。」
「ん……え?ひゃっ……」
膝枕してやったんだが……邪魔だったか?
(…………)
「おはよう。」
「お、おは……おはよう……」
顔が真っ赤だ。どうした?
(……はぁ……)
なんだよヨグ。
(……なんでもない。)
ふーん。
あ、そうだ。
「なあ先生。頼みがあるんだが。」
「な、なにかな?」
ぎこちない笑み。そんな警戒することか?
(この鈍感め……)
「俺を、シャーレで雇ってくれないか?」
「……へ? い、いいの? こちらとしては大歓迎だけど……その、学校とか……」
「ヘーキヘーキ。俺、先生を守るほうが重要になりそうな気がしてな。」
「あう……そ、そうなんだ……へへ……」
……変な笑い方だな。
(……はぁ……)
ヨグ、ため息多くね?
(気のせいだ。)
そっか。
「これからよろしくな、先生。」
「うん。これからよろしくね、アゼス。」
二人は固く握手を交わす。
先生は微かに笑いながら言った。
「なんか……相棒、みたいでいいね。」
「なんかカッコいいな。」
「ふふん、でしょ?……あ、ユウカたちにどう説明するの?」
ユウカ……ああ、早瀬のことか。
「……どうしようかな……」
「……ハハ……頑張って〜」
(手伝うか?)
いや、これは俺の本心で言いたい。
(そうか……)
言い訳を考えながら、二人は来た道を戻っていった。
読みにくいかもですが、許してください