世界は彼らを見守っている-最強の魔族と葬送の魔法使いの配信紀行 作:meiTo
中央諸国、森の奥深く。
「フリーレン、そろそろ出発しよう。視聴者……いや、世界が君の寝顔に飽き始めているよ」
私が声をかけると、古い大樹の根元で丸まっていたエルフが、不機嫌そうに片目を開けた。
「……あと百年くらい寝かせてよ。アレス、君はせっかちすぎる。魔族のくせに」
「転生者と言ってくれ。私は効率を愛する人種なんだ」
私の名はアレス。魔族だ。
といっても、この世界に数多いる「人を食う獣」とは少し毛色が違う。私には前世の記憶がある。文明が発達し、情報は光の速さで駆け巡り、誰もが「誰かの人生」を覗き見ていた世界の記憶だ。
私がこの世界で手に入れた最強の力は、単純な破壊魔法ではない。
【理の簒奪(オーダー・スティーラー)】。
魔法の構築式を奪い、その「意味」を書き換える力。そして、それを応用して作り上げたのが、今も私たちの頭上に浮いている不可視の魔力塊――配信カメラ魔法【天球の写し鏡】だ。
ーー 世界が「同時観測」する瞬間ーー
その時、大陸各地の主要都市の空には、巨大な「光の幕」が出現していた。
王都の広場、活気ある市場、そして辺境の村。
『な、なんだあれは!?』
『空に……エルフの女の子が映っているぞ?』
『あのお方は……まさか、五十年前に魔王を倒した勇者一行の…フリーレン様か!?』
人々は驚愕した。
伝説の魔法使いが、寝ぼけ眼で服を整え、弟子のフェルンに怒られている。
そのあまりに人間臭い、しかし美しい光景が、大陸中の数千万人の目に飛び込んでいた。
「アレス様、また勝手にこれを飛ばしているのですか」
フェルンが杖を構え、私の頭上の「見えないカメラ」を睨みつける。
「いいじゃないかフェルン。君の『一般攻撃魔法』のキレの良さは、今や大陸中の魔法学徒の憧れだよ。昨日も王立魔法院の院長が、君の杖の振り方を絶賛するコメント(魔力振動)を寄せていた」
「恥ずかしいだけです。……フリーレン様、この魔族やはり一度処分しませんか?」
「えー……でもアレスがいるとお金にも困らないし、珍しい魔法も見つけてくれるし……」
フリーレンは面倒そうに起き上がると、空を見上げた。
彼女には見えている。自分の姿が、この世界の隅々にまで届いていることが。
最強の魔族が「配信」する理由
私がなぜ、こんな面倒なことをしているのか。
それは、魔族という種の限界を知っているからだ。
魔族は言葉を解するが、心を持たない。言葉はただの「狩りの道具」だ。
だが…もし。
魔族である私が、人間たちの「感情の奔流」をリアルタイムで観測し続けたら?
数千万人が、一人のエルフの旅路に一喜一憂する。その膨大な「想い」というエネルギーを魔法の燃料に変換し、書き換えたらどうなるのか。
それは、魔王すら成し遂げられなかった「種族の壁」の崩壊。
あるいは、私がただ「寂しかった」だけなのかもしれない。
「アレス、次の目的地は?」
フリーレンが尋ねる。
「聖都へ向かう。そこには君が昔……ヒンメルと一緒に植えた花の種が、今も咲いているという噂だ」
その瞬間、空の画面には、大陸中の人々から送られた「温かい魔力の光」が降り注いだ。
画面越しに、人々はかつての勇者を思い、今を生きる魔法使いの背中に祈りを捧げる。
「……ふん。やっぱりせっかちだね。でも…悪くないよ」
フリーレンの口角が、ほんの少しだけ上がった。
それを、私は決して逃さない。
最強の画質と、最高の構図で。
私は世界中に、彼女の「心の揺らぎ」を配信し続ける。
一行が王都に近づくにつれ、配信の影響は目に見える形で現れ始める。
王族はフリーレンを国賓として迎える準備を進め、一方で魔族の残党は「手の内を晒す愚かな魔法使い」を暗殺しようと動き出す。
しかし、アレスの【理の簒奪】は、暗殺者が放った魔法すらも「配信の演出」へと書き換えてしまう。
「おっと、ここから先は有料……いや、命がけの戦いだ。フェルン、派手に行ってくれ。視聴率(魔力供給)が上がるぞ」
「アレス様、あなたは本当に最低の魔族ですッ!」