世界は彼らを見守っている-最強の魔族と葬送の魔法使いの配信紀行 作:meiTo
グラナト伯爵領。
そこはかつて、七崩賢の一角「断頭台のアウラ」によって滅びの危機に瀕していた。本来なら、街の人々は恐怖に震え、密かに事態が進展するのを待つしかなかったはずだ。
だが、今は違う。
「……アレス様。街の人々の視線が、怖いくらいに刺さるのですが」
フェルンが杖を握り直し、少し身を縮める。
グラナト伯爵領の広場に設置された巨大な魔力スクリーンには、今まさに街を歩くフリーレン一行の姿が映し出されていた。
『頑張れ、小さな魔法使いちゃん!』
『フリーレン様、あの生意気な魔族(リュグナー)をぶっ飛ばしてください!』
「いい反応だ。フェルン、今の君への『応援(マナ・フィードバック)』は、通常の三倍を超えている。魔法の威力も上がっているはずだぞ」
私は浮かび上がるコメント(魔力振動)を指で弾きながら、冷静に分析する。
私の配信魔法は、ただ映像を流すだけではない。
視聴者の「感情」を魔力に変換し、現場の仲間にバフ(強化)として付与する。
世界中がフェルンの勝利を願えば、彼女の放つ「一般攻撃魔法(ゾルトラーク)」は、もはや一般ではない。
「……アレス、そろそろだよ」
フリーレンが静かに告げた。
目の前には、数千の不死の軍勢を引き連れたアウラが立っていた。
「フリーレン……たった三人で私の前に現れるなんて、随分と舐められたものね」
アウラが「服従の天秤」を掲げる。
その瞬間、世界中の視聴者が息を呑んだ。
配信画面には、アウラとフリーレンの魔力残量が「視覚的なグラフ」として表示されている。
『おい、嘘だろ!? 魔力量が全然違うぞ!』
『アウラの方が圧倒的じゃないか。フリーレン様、逃げて!』
「……アレス、あのグラフ…私の魔力を低く出しすぎじゃない?」
「演出だよ、フリーレン。逆転劇こそが配信の醍醐味だ」
アウラが勝ち誇ったように笑う。
「私の魔力は五百年以上鍛え上げたもの。あなたの負けよ、フリーレン。……さあ、その首を差し出しなさい」
天秤が大きくアウラの方へ傾く。
だが、その時。私は【理の簒奪(オーダー・スティーラー)】を発動させた。
「アウラ。君の魔法は『言葉』と同じだ。強固な論理(ルール)で縛られている。だが、そのルールを書き換えたらどうなるかな?」
「なっ……魔力の揺らぎが……!? 天秤が、動かない!?」
私は配信を通じて、世界中の人々に「魔法の解説」を始めた。
「皆さん、見てください。これが魔族の傲慢さです。彼女は魔力を『量』でしか測れない。しかし、フリーレンが隠し続けてきた『質』の真実を、今からお見せしましょう」
フリーレンが、これまで抑え込んできた魔力を解放した。
画面上のグラフが、一気に限界を突破して跳ね上がる。
その圧倒的な光景に、大陸中の人々が、そして目の前のアウラが凍りついた。
「……あり得ない。これほどの魔力を隠し通すなんて……」
「アウラ、君の前に立っているのは、君がこれまでに葬ってきた魔法使いとは違う」
私はカメラをフリーレンの横顔にクローズアップさせる。冷徹で、美しく、そしてどこか悲しい「葬送」の表情。
「フリーレン、言ってやれ」
フリーレンは、感情の起伏を感じさせない声で、死刑宣告を下した。
「アウラ、自害しろ」
天秤が、音を立ててフリーレン側へ叩きつけられた。
次の瞬間、アウラが自身の首に刃を当てる。
その様子は、大陸中の子供から老人、果ては隠れ住む魔族たちまで、すべての人々の網膜に焼き付けられた。
『……勝った。』
『これが、勇者一行の魔法使い。』
配信のコメント欄が、爆発的な歓喜と畏怖で埋め尽くされる。
この日、世界は「魔族を屠る圧倒的な正義」を目撃し、同時にアレスという「魔族でありながら世界を操る観測者」への興味を深めていくことになった。