世界は彼らを見守っている-最強の魔族と葬送の魔法使いの配信紀行   作:meiTo

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第三章:赤髪の戦士、バズる――「臆病」という名の英雄像

 

魔法都市オイサーストへの道中、とある宿場町にて。

 

 

私の配信魔法【天球の写し鏡】は、今日も順調に稼働していた。

これまで視聴者の関心は「フリーレン」と「フェルン」に集中していたが、私はそろそろ、このパーティーの「重戦士」を世に送り出すべきだと考えていた。

 

 

「おい、アレス。さっきからその浮いてる鏡、俺の顔ばっかり映してないか?」

 

 

シュタルクが、赤髪を掻きながら居心地悪そうに言った。

 

彼は、自分が今この瞬間、大陸中の数千万人の女性や子供、そして武芸者たちに見つめられていることに全く気づいていない。

 

 

「気にするなシュタルク。これは、いわば『宣伝』だ。君がアイゼンの弟子であることを世界に証明してやるんだ」

 

「そんなのいいよ! 俺、そんな立派なもんじゃ……」

 

 

『見て、あの赤髪の人。目つきが鋭くて怖そう……』

『アイゼンの弟子!? 相当な手練れに違いないわ』

『でも、さっきから持ってるジュース、手が震えてない?』

 

配信のコメント欄には、期待と困惑が入り混じった言葉が流れていく。

 

 

ーーギャップ萌えの衝撃ーー

 

事件は、その宿場町の近くに現れた「影龍(シャドウ・ドラゴン)」の残党を討伐する際に行われた。

 

本来なら一瞬で片付く相手だが、私はあえてシュタルクに「単独での突撃」を提案した。

 

 

「シュタルク、君の出番だ。カメラは至近距離で回すぞ」

 

「ええっ!? 無理無理! あんなデカいの、俺一人じゃ絶対に無理だって!」

 

 

涙目で首を振るシュタルク。その姿が画面いっぱいに映し出される。

 

世界中の視聴者は、最初「これは演技か?」と疑った。しかし、彼の震えは本物だ。

 

『え、この人、本当にアイゼンの弟子?』

『逃げ腰すぎるだろw』

『でも、あの構え……隙がなさすぎるぞ?』

 

フェルンが冷ややかな視線を送る。

 

 

「シュタルク様、見苦しいです。さっさと行って、あのトカゲを片付けてきてください」

 

「フェルン……お前、相変わらず厳しいな……!」

 

 

シュタルクは泣き言を言いながらも、巨大な斧を手に、震える足で龍の前に立った。

 

龍が咆哮を上げ、巨大な爪を振り下ろす。

 

視聴者たちが「死ぬ!」と叫んだその瞬間――。

 

1秒の閃光

 

「……あ、危なーい!!」

 

叫びながら、シュタルクの体が「反射」で動いた。

 

凄まじい踏み込み。斧が空気を引き裂き、龍の硬い鱗をバターのように切り裂く。

 

一撃。たった一撃で、龍の巨体が沈んだ。

 

その間、わずか1秒。

 

あまりの速さに、配信の解像度が追いつかず、画面が一瞬乱れた。

 

『……え?』

『今、何が起きた?』

『龍の頭が……消えた?』

 

数秒の沈黙の後、コメント欄がかつてない速度で流れ始めた。

 

『速すぎる!』

『何だあの威力!』

『「危ない」って言いながら龍を即死させたぞ!』

 

シュタルク本人は、返り血を浴びて腰を抜かし、座り込んでいた。

 

 

「……はぁ、はぁ……死ぬかと思った……。もうダメだ、俺には向いてない……」

 

 

私は、その情けない顔をドアップで映し出す。

 

 

「素晴らしい。シュタルク、今の君は最高に輝いているぞ」

 

 

世界が「シュタルク様」に恋をした

 

この配信の後、世界はシュタルクを「最強のビビり英雄」として認知した。

 

特に、彼の「圧倒的な強さ」と「自己評価の低さ」の組み合わせが、多くの人々の心を掴んだのだ。

 

宿場町に戻ると、シュタルクの周りには人だかりができていた。

 

「シュタルク様! サインをください!」

「あの時の『危ない』、最高でした!」

 

 

「えっ、えええっ!? なんでみんな俺の名前を知ってるんだ!?」

 

困惑するシュタルクの横で、フェルンが少しだけ不機嫌そうに、でも誇らしげに呟く。

 

 

「……あまり調子に乗らないでください。アレス様が面白おかしく流しただけですから。それに、シュタルク様の斧の振り方は、まだ少し雑です」

 

「フェルン……お前、さっきから俺への当たりが強くないか?」

 

 

フリーレンは、配信で集まった膨大な魔力供給(おひねり)で買った、見たこともないほど巨大なパフェを頬張っていた。

 

 

「アリス、シュタルクの配信、またやってよ。……これ、美味しいし」

 

「ああ、フリーレン。次は彼に『猫と戯れる戦士』というタイトルで、癒やし系動画を撮らせる予定だ」

 

「……アレス様。シュタルク様をあまりオモチャにするのは、私の許可を得てからにしてください」

 

 

フェルンが何故か私のカメラ魔法を「ゾルトラーク」で狙い撃とうとしたが、私はそれを【理の簒奪】で軽くいなした。

 

 

 

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