世界は彼らを見守っている-最強の魔族と葬送の魔法使いの配信紀行   作:meiTo

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第七章:恋の包囲網 ―― 世界一「見守られている」デート

 

 

 

 

 

「……は? デート?」

 

 

 

 

宿屋のロビーに、シュタルクの情けない声が響いた。

 

目の前では、アレスが青く透き通った「魔力の左手」で、何やら複雑な配信設定をいじっている。

 

「そうだシュタルク。ヴァイゼ解放の祝祭だ。君とフェルンで街を歩いてこい。これは……そう、世界中のファンへの『ファンサービス』だ」

 

「ファンサービスってなんだよ! 俺、フェルンと二人きりで歩くなんて、緊張して死んじまうよ!」

 

「安心しろ。二人きりじゃない。……画面越しに、一億人が君を見ているからな」

 

「余計緊張するわ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー 配信開始:ハッシュタグ「#シュタフェル」ーー

 

 

大陸中の空に、ピンク色の淡い魔力の縁取りがされたスクリーンが浮かび上がった。

 

今回の配信タイトルは――

『【超・密着】不器用な戦士と魔法使いの休日:街歩きデート生中継』。

 

『待ってましたあああ!』

『今日という日をどれだけ待ちわびたか!』

『シュタルク、頼むからヘタレないでくれよ!』

 

視聴者の盛り上がりは、黄金郷の決戦時を凌ぐ勢いだ。

 

戦いには興味がない層までが、この「恋の行方」を見守るために空を仰いでいる。

 

 

「アレス様……。またこのような破廉恥な企画を」

 

 

階段から下りてきたフェルンは、いつものように冷たい視線を送るが、その頬は微かに赤らんでいる。

 

彼女もまた、画面越しに「可愛い」という数百万の絶賛コメントが流れているのを知っているのだ。

 

 

「いいから行け。……あ、シュタルク。これ、視聴者からの『投げ銭』を貰ったからブレスレットとか買って後でフェルンに渡せよ」

 

 

アレスはカメラを「浮遊モード」に切り替え、二人の背後数メートルをストーキング……もとい、追尾し始めた。

 

 

ヴァイゼの露店通り。活気を取り戻した街を、二人は三メートルほどの微妙な距離を保って歩く。

 

『おいシュタルク! 距離を詰めろ!』

『フェルンの袖を掴むチャンスだぞ!』

『あー、もう! もどかしいわね!』

 

コメント欄は、熟練の恋愛相談員のようなアドバイスで埋め尽くされる。

 

その様子を宿屋のテレビ(魔力鏡)で見ていたフリーレンは、むにゃむにゃと特大のリンゴ飴を頬張りながら呟いた。

 

 

「……アレス。シュタルクの心拍数、配信の端っこに表示したら? 面白そう」

 

「採用だ、フリーレン」

 

 

画面の隅に、シュタルクの心拍計が表示される。

 

フェルンの肩が不意に触れた瞬間、数値は「160」を突破。

 

『死ぬぞシュタルク! 心臓が止まるぞ!』

『これもう魔法じゃなくて物理的なダメージだろ』

 

 

日が傾き始め、街の広場に祝祭のランタンが灯る。

 

アレスは、カメラのレンズを「情緒モード」に切り替え、光の粒子を強調した美しい映像を作り上げた。

 

 

「あの……フェルン…。」

 

 

シュタルクが意を決したように立ち止まる。

 

 

「……何でしょうか、シュタルク様。」

 

 

フェルンが俯きながら、スカートの端をぎゅっと握る。

 

『来るか!?』

『全人類、静粛に!!』

 

一億人の視聴者が、固唾を呑んで見守る。大陸中が、まるで時が止まったかのような静寂に包まれた。

 

シュタルクは震える手で、彼女に似合いそうだと思って買ったブレスレットを取り出した。

 

 

「これ、似合うと思って……。いつも俺みたいな怖がりの隣にいてくれて、ありがとう」

 

 

シュタルクがフェルンの細い手首に、ぎこちなくブレスレットをはめる。

 

その瞬間、フェルンが顔を上げ花が咲くような笑みを浮かべた。

 

 

 

「……大切にします。シュタルク様」

 

――ドォォォォン!!

大陸中のコメント欄が、熱狂のあまり物理的に爆発しそうなほどの勢いで流れ去った。

 

人々は街角で抱き合い、酒場では祝杯が上げられた。

 

 

 

 

「……よし、最高のエンディングだ。スロー再生からのフェードアウト」

 

 

アレスは青い義手で空中に「Fin」の文字を描き、配信を終了させた。

 

しかし、放送終了後の暗転した画面には、アレスの小さなメッセージが添えられていた。

 

『本日の収益は、すべてヴァイゼの孤児院と、シュタルクの次のデート費用に充てられます』

『アレス、お前は最高だ!』

『初めて魔族を好きになったよ!』

 

 

宿に戻った二人を、フリーレンとアレスがニヤニヤしながら出迎えた。

 

 

「……アレス様、フリーレン様。今の配信、後で消去してください。絶対にです」

 

 

フェルンは顔を真っ赤にして杖を構えるが、手首のブレスレットは外していなかった。

 

 

「残念ながらフェルン。これは一億人の心に『永久保存』されてしまったよ」

 

 

アレスは左手の義手を動かし、今日一番のベストショットを空中にホログラムで映し出した。

 

 

「……アレス、次は『絶対に脈アリな態度をとらせる魔法』を探しに行こうか」

 

「いいね、フリーレン。次は結婚式の中継を目指そう」

 

「お前ら、いい加減にしろよ!!」

 

 

シュタルクの絶叫が、夜のヴァイゼに響き渡った。

 

 

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