世界は彼らを見守っている-最強の魔族と葬送の魔法使いの配信紀行 作:meiTo
オイサースト、大陸魔法協会本部。
アレスは、自身の「青い義手(予備)」のメンテナンスのため、魔力接続を一時的に切り、協会のテラスに放置していた。
それは、アレスの意識がなくても「自動追尾・自動配信」が可能な設定のままになっていた。
そこに、退屈を持て余したエルフの始祖が通りかかる。
「……ふん。これが、あの小ざかしい魔族が使っている『鏡』か。……どれ」
ゼーリエが、好奇心に抗えずその義手に触れた瞬間――。
大陸中の空に、突如として『【緊急】ゼーリエ様、降臨』という通知が爆走した。
『えっ、ゼーリエ様!? 本物!?』
『待って、アングルが近すぎる。鼻筋が美しすぎて死ぬ』
『ゼーリエ様、生配信ですよ!』
大陸中のコメント欄がパニックに陥るが、当の本人は「コメントを読み取る魔法」を知らない。
「……アレスの奴、いつも独り言を言っていると思っていたが、この義手に向かって喋っていたのか。……おい、聞こえるか。魔法を愛さぬ愚か者どもよ」
ゼーリエが義手を掴み、適当に振り回す。
画面は激しく揺れ、酔いそうになるほどのスピードで、協会の秘密の庭園や、レルネンが隠していたおやつの山(激レアな魔導書型クッキー)が映し出される。
『レルネンさん、後で怒られるなこれ……』
『放送事故すぎるwww』
ゼーリエは、カメラ(義手)を浮遊させ、自分の後ろを付いてこさせた。
「退屈だ。……せっかくだから、私が収集した『下らない魔法』のいくつかを披露してやろう。フリーレンが泣いて欲しがるようなゴミばかりだ」
ゼーリエがパチンと指を鳴らす。
すると、庭園の噴水から、水ではなく「最高級の葡萄ジュース」が溢れ出し、さらには「花びらを全て純金に変える魔法」が発動した。
『待って、それ「下らない」レベルじゃないから!』
『世界経済が壊れるwww』
『ゼーリエ様、それ、黄金郷のマハトより凄くないですか?』
「……ふん。次はこの魔法だ。『絶対に靴の中に砂が入らない魔法』。……これはフラメが昔、涙を流して喜んでいたが……あのアホ弟子め、そんなことに魔力を使うとは」
ゼーリエは毒づきながらも、その魔法を実演してみせる。
始祖の気まぐれな魔法ショーに、世界中の魔法使いが画面の前で土下座しながらメモを取るという、異様な光景が広がっていた。
一通り魔法を見せびらかしたゼーリエは、庭園のベンチに座り、アレスが置いていった「現代の甘味(前世の知識で作ったショートケーキ)」を手に取った。
「……魔族の作るものは気に入らないが。……これだけは認めざるを得ないな」
ゼーリエがフォークで一口、ケーキを運ぶ。
その瞬間、彼女の瞳がわずかに輝き、頬がほんの少しだけ緩んだ。
『尊い……』
『世界最強の「美味しい」顔、頂きました』
『一億人が同時に目に焼き付けたぞ今の』
「……? 何だこの義手。さっきからパチパチと妙な魔力振動を出しおって。……アレス、貴様…見ているのか」
ゼーリエがカメラ(義手)をじろりと睨む。そのドアップの威圧感に、大陸中の視聴者が一斉に椅子から転げ落ちた。
「……ゼーリエ様。何をしているんですか人の備品で」
ようやくメンテナンスから戻ってきたアレスが、現場に到着。
彼は、配信の接続数(同接)が一億五千万人を超え、サーバーが今にも爆発しそうなのを見て、顔を青くした。
「ああ、アレスか。この義手少し動作が重いぞ。改善しろ」
「当たり前です! 大陸中の人間があなたの一挙手一投足を観測してるんですから!……即、配信終了だ!」
アレスが慌てて魔力を遮断しようとするが、ゼーリエはそれを片手で制した。
「待て。……最後に一つだけ、言わせろ」
ゼーリエは、まっすぐにカメラを見つめた。
「……フリーレン。……見ていたか。……お前が愛する『下らない魔法』も、私が持てばこれほどまでに美しい。……お前は、まだまだだな」
そう言い残し、ゼーリエは満足そうに立ち去った。
ーー放送終了後のログ
この配信の録画(VOD)は、後に「神話級魔導書:始祖の休日」として、大陸魔法協会の最高機密に指定された。
しかし、アレスが裏でコピーを販売したため、大陸中の魔法使いの家庭に「ケーキを食べるゼーリエ」の肖像画が飾られることになったのは、また別の話である。
『……アレス。あの配信の収益、半分は私に寄越せ。……新しい魔導書を買うんだ』
「……ゼーリエ様、あなたは本当に、現世の仕組みに馴染むのが早いですね……」