世界は彼らを見守っている-最強の魔族と葬送の魔法使いの配信紀行   作:meiTo

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第八章:残影のデート ―― 八十年前の「約束」を書き換える(オーバーライト)

 

 

 

ヴァイゼの夜が更け人々が眠りにつく頃。

 

アレスは宿の屋上で、青く光る魔力の義手を夜空にかざしていた。

 

 

「アレス……何をしているの?」

 

 

背後からフリーレンが静かに現れる。

 

彼女の瞳には、先ほどの若者たちのデートを見守った後の少しだけ寂しげな色が残っていた。

 

 

「フリーレン、君の記憶を少しだけ簒奪(サンプリング)させてもらった。……君がずっと『何でもないこと』だと思って棚上げしていた、八十年前の記憶だ」

 

「私の記憶……?」

 

「ああ……北側諸国のとある湖畔の街。ヒンメルが君を誘って君が魔導書に夢中で台無しにした『あの日の午後』のことだよ」

 

アレスが指を鳴らす。

 

瞬間、宿の屋上を中心に半径数百メートルの空間が歪んだ。

 

 

 

 

 

 

全世界への「深夜放送」 ―― 追憶のメタバース

 

 

 

 

大陸中の『鏡』が、突如として不思議な銀色の光を放ち始めた。

 

寝静まっていた人々が、枕元で輝く鏡に吸い寄せられる。

 

そこに映し出されたのは、現在のフリーレンではなく『八十年前の、勇者一行がいた風景』の完全再現だった。

 

『……え、これ、ヒンメル様?』

『今度は過去の再現配信かよ……アレス…お前…神か?』

 

今回の魔法は【過去視】ではない。

アレスの【理の簒奪】とフリーレンの【深層心理】を掛け合わせ、魔力で構築された「仮想の過去」だ。

 

映像の中、若い頃のヒンメルが湖のほとりで所在なげに立っている。

 

その隣には分厚い魔導書を読みふけり、ヒンメルの言葉を右から左へ流している若きフリーレン。

 

 

『……フリーレン。この湖の夕陽は、千年に一度の美しさだって有名なんだよ。……魔導書より、僕を見てくれないかな』

 

『……今、いいところなの。夕陽なんて、明日も見れるでしょ』

 

 

画面越しに、世界中の人々が「あああ……!」と頭を抱えた。

 

 

 

今ならわかる。

 

ヒンメルがどんな想いでその言葉を口にしたのか。

そして、フリーレンがいかに「人の心」を知らなかったのか。

 

 

 

 

 

 

「フリーレン……もしもあの時、君が本を閉じて彼の目を見ていたら……どんな言葉が交わされていたと思う?」

 

 

 

アレスは、青い義手をフリーレンの心臓付近に当てる。

 

 

「簒奪(オーダー・スティーラー)……並行現実展開。……君の『今なら言えるはずだった言葉』を、この仮想現実に流し込め」

 

 

配信画面が黄金色の温かな光に包まれる。

 

仮想現実の中のフリーレンが、ふと魔導書を閉じた。

 

 

『……ヒンメル。』

 

 

映像の中のヒンメルが、驚いたように目を丸くする。

 

 

『……何だい、フリーレン。』

 

『……確かに…綺麗な夕陽だね。本を読んでるより、ヒンメルとこうして眺めている方が、少しだけ…楽しいかもしれない』

 

 

その瞬間、世界中の視聴者の鼻の奥がツンとした。

 

八十年…遅すぎた言葉。

 

しかし、魔力で構築されたヒンメルの残影は、この世で最も幸せそうな、眩しいほどの笑顔を見せた。

 

 

『……はは。そうだね。……フリーレン、君にそう言ってもらえるまで、八十年くらい待つ覚悟だったよ』

 

 

 

 

二人の影が、湖畔に長く伸びていく。

 

アレスはこの光景をあえて「モノクロ」のフィルターで中継した。

 

それは、これが「もう存在しない幸せ」であることを強調するためだ。

 

フリーレンは、屋上で空に浮かぶ自分の残影を見つめながら、静かに涙を流していた。

 

 

 

「……アレス、君は本当に性格が悪いね」

 

「知っているよ……だがフリーレン。君が流しているその涙こそが、ヒンメルがこの世界に生きた最強の証拠だ。……それを、世界中に配信してやった」

 

 

 

コメント欄には、言葉がなかった。

 

ただ、夜空に星が流れるような、静かな魔力の粒子(いいね)だけが、大陸中から降り注いでいた。

 

人は死んでも忘れられない限り生き続ける。

 

 

アレスは「配信」という不遜な手段で、一人の男が捧げた無償の愛を、全人類の記憶に「共有財産」として上書きしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……簒奪解除。……おやすみ、世界」

 

アレスが手を下ろすと、仮想現実は霧散し、静かな夜が戻ってきた。

 

宿の屋上には、涙を拭ったフリーレンとやり遂げた顔のアレスだけが残った。

「……ねえ、アレス。あの日…ヒンメルが言おうとして言わなかった言葉……君には見えた?」

 

「さあな。……だが、君が今感じているその『胸の痛み』がその答えなんじゃないか?」

 

フリーレンは、夜空の月を見上げた。

 

 

「……そうかもね……アレス、明日からもまた旅を続けよう。新しい魔法をたくさん探して」

 

 

「ああ……次は『笑顔にする魔法』でも探しに行くか…フリーレンいつも無表情だからね。」

 

 

「何それ怖い、私よりもフェルンに使ってみようよ」

 

「…君もフェルンも二人とも同じぐらい無表情だからね」

 

 

 

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