それでは、どうぞご覧ください。
イフリートの戦いから1週間が経った………あれからシズさんは、ずっと眠り続けている。俺は今日もシズさんの様子を見に来たのだが、起きる気配すらない………すると、
「……リムル」
シズさんの寝ているテントの中に、カノンが入ってきたのだ。
「……」
目を覚まさないシズさんを見て、カノンはどこか悲しそうな表情をした………そうなるのも無理はないのかもしれない。カノンはシズさんに、俺にも話したことがないことを話していたらしい。人間に対して苦手な反応を示していたカノンにとって、シズさんは素のまま接することのできる、数少ない人ということなのだろう……。
「……あれ……?スライムさん?」
「「!」」
そんなことを考えていると、シズさんが1週間ぶりに目を覚ました。
「シズさん!気が付いたのか?」
「うん……ありがとう。私はまた、大切な人をこの手で殺してしまうところだった………子狐さんもありがとう。仲間を守ってくれて……」
「いや……」
「……ねぇ、2人とも……」
「ん?」
「聞いて、くれないかな……?」
「シズさん、あまりしゃべらない方が―――」
「……いいよ。僕もシズさんの話、ちゃんと聞くよ」
「カノン……あぁ、もちろん聞くよ」
「……ありがとう」
それからシズさんは、これまでのこと―――この世界に召喚されてからのことを話してくれた。
「狐さんには初めて話すけど……私はね、魔王に召喚されたの」
「魔王……」
話によると、その魔王にイフリートを憑依させられ、その力でこの世界で初めてできた友達も殺めてしまった。そして、魔王の側近として仕えて何年か経った頃、勇者と呼ばれる人物に出会って共に旅もしたのだそう……ヴェルドラを封印したのとは、また別の人間なのか……?
その勇者も急に仮面を渡し、どこかに姿を消してしまった………その後は人々を助け続けて強くなり、英雄『爆炎の支配者』とまで呼ばれるようになった。それから何十年も頑張り続け、冒険者を引退した後は、自由学園というところで召喚された子供たちの先生となったのだ……。
「でも、だんだんイフリートを抑え込めなくなってきて………私は、最後の旅に出ることにしたの」
「……もしかして、自分を召喚した魔王を探して……?」
「うん……」
すると……
「それは……復讐のため?」
今まで静かに話を聞いていたカノンが、シズさんにそう尋ねる。
「ううん、そうじゃないんだ………ただ、会って確かめたいことがあったの……」
「そう、なんだ……」
そして、最後の旅の途中であの3人と出会い、ここまで来たのだという……。
「本当にいい子たち……ちょっと危なっかしいけどね」
「……そうだな」
「楽しかったなぁ………でも、もう……」
「シズさん……」
「……ねぇスライムさん、名前は何て言うの?」
シズさんは深呼吸をして、俺にそう尋ねてきた。
「名前?俺はリムルって―――」
「本当の、名前」
「!……俺は悟。三上悟」
俺は、前世の名前の方を口にした。
「……子狐さんは?」
「……」
リエンは少し間をあけた後―――
「……凪冴。天音凪冴って言うんだ」
◇
「凪冴君……うん、いい名前……君にぴったりだよ」
「……シズさんは?」
僕は思わず、シズさんにそう訊き返した。
「私は静江……井沢静江」
「静江、さん……」
すると……
「……ねぇ、凪冴君?」
静江さんはこちらを見て、もう誰も呼ぶことのないはずだった前世の僕の名前を呼んで……
「君はもう頑張ったんだから………ちゃんと、幸せになるんだよ?私から、君へのお願い……」
「……!」
そう口にした僕を見て、静江さんは微笑んだ………この人みたいな人が、僕の近くにいたら良かったのにな……。
「静江さん……僕はまだ、自分の生きてる意味が分からない……けど、見つけられるように頑張ってみる。今度は、ゆっくりとね」
「!……うん、約束ね?」
静江さんが右の小指を向けると、僕は右手を出してそこに重ねた。
「……悟さんにも、お願いがあるんだけど……聞いてくれる?」
「!いいよ、何でも言ってくれ」
その言葉を聞いた静江さんは……
「私を……食べて」
「「っ!」」
「この世界が嫌い……でも、憎めない。まるで、あの男のよう………だから……だから、この世界に取り込まれたく……ない……」
静江さんは、リムルに手を触れながら……
「最後の……お願い………私を君の中で、眠らせてくれないかな?」
「……いいよ。男の名前は?」
「……レオン=クロムウェル……最強の魔王の一人」
「レオン……そいつに、何を確かめたかったんだ?」
「……私という人間がいたことを、認めさせたいだけかも……しれない……それにもし、あの子たちが救われ………元の、世界に……」
「!」
リムルは意識が朦朧としている静江さんの手を取り……
「約束しよう!三上悟……いや、リムル=テンペストの名において、魔王レオン=クロムウェルにあなたの想いをぶつけてやるよ!」
そう約束をする……。
「……ありがとう―――」
「!………安らかに眠れ、運命の人よ……」
そうしてシズさんは、リムルの中で永い眠りに就いたのだった……。
◇
「そうか……シズさん、逝っちまったのか……」
あの後、シズさんの着替えを持ってきたリグルドや、シズさんの様子を見に来たランガ、エレン、カバル、ギドに俺の人間姿を驚かれながらも、シズさんの最期を伝えた……。
「シズさんを食べたの……?イフリートと同じように……」
「……それが、俺にできる唯一の葬送だったからね」
そう思うのも無理はない……仲間のこいつらにも、相談はすべきだったな……。
「すまんなエレン。割り切れないかもしれないけど……」
「……ううん。ただ、最後にお別れの挨拶くらい、言いたかったな……」
「……シズさん、最後にお前たちと冒険出来て楽しかったって言ってたぞ」
「「「……!」」」
俺がそう言うと、3人はどこか嬉しそうな表情をしていた……が、
「……ちょっと危なっかしいとも言ってましたけど」
カノンがそう口にすると……
「「あー……」」
「……ん?おいコラ!何だその目は!?」
「だって……ねぇ?」
「あぁ」
「っ……お、お前だって、この前落とし穴にはまってたじゃねえか!」
「あ、あれは、姉さんが急に押すからでやす!」
「ちょっと!?何で私のせいになるのよ!あの時は突然―――」
それを皮切りに、3人は言い合いを始めてしまう……しんみりするよりは、こういう方がこいつららしくていいよな………というかこいつら、シズさんに頼りすぎじゃね……?
そして翌日……
「それじゃあ、そろそろお暇させていただきます」
「国に帰るのか?」
「はい、
「ここのことは、悪いようには報告しないぜ」
「リムルさんとカノンさんのことも伝えとくね―――あっ!カノンさんが狐霊族だってことは伝えない方がいいよね?」
「あぁ、そうしてくれると助かる」
「ただの狐の魔物ってことにしてくれるとありがたいです」
すると、3人は頷き合い……
「……リムルの旦那」
「何だ?」
「もう一度、人の姿になってくれないか?」
人の姿に……?
「あぁ……これでいいのか?」
俺は頼み通りに、人間の姿へとなった。すると……
「「「シズさん、ありがとうございました!」」」
「!」
3人が一斉にお礼を言ってきたのだ。
「俺、あなたに心配されないようなリーダーになります!」
「あなたと冒険できたこと、生涯の宝にしやす!」
「ありがとう!お姉ちゃんみたいって、思ってました……!」
そう言って抱きついてきたエレンの頭を、俺は優しく撫でる……本当に、シズさんの最後の旅仲間が、この3人で本当に良かった………が、
「それにしても………お前らボロボロすぎないか?」
「「「酷い!?」」」
「リムル……わざわざそれを言わなくても………」
「「「こ、これって……!」」」
「餞別だよ。どれもウチの職人たちの力作だ」
俺は3人に、カイジンたちが作った装備をプレゼントした。その武器や防具の出来に、3人とも凄く驚いていた………製作者を知った後は、それ以上の反応だったのだが。そして、悲しみを吹き飛ばすように大騒ぎした後、3人は自分の国へと帰っていったのだった……。
シズさんの墓は、カノンの提案で村を見渡すことができる丘の上に建てた。墓標の前には、ここに来る前に摘んできた花と、シズさんが使っていた剣が置いてある。今はカノンが獣人態で、墓標に手を合わせている―――実はここに来る前、カノンは自身のスキルである霊眼で俺の人間態を解析することで、俺の人間態にあたる獣人態とも言うべき姿を手に入れたのだ。
その姿は子狐の時と同じ色の長い髪に同じ色のオッドアイの瞳、顔はシズさんを少しクールにした感じの見事な美少女になっていたのだ。さらにはそこに、髪と同じ色の狐の耳に狐の尻尾が生えていた………ちなみに背丈は、俺と同じくらいのようだ。
「……」
そんなカノンを見て、俺は1週間前にシズさんと話したことを思い出していた……。
『スライムさん……子狐さんのこと、ちゃんと見てあげてね』
カノンが外にいるタイミングで、シズさんは俺にそう言ってきた。
『もちろんだけど……急にどうしたんだ?』
『えっと、理由は直接スライムさんに言うことは出来ないんだけど………とにかくその頑張りを見てて欲しいの』
頑張りを、か………カノンは充分に頑張ってくれてるし、何なら俺よりも真面目に自分の役割を果たしてくれている。でもカノン本人は、どこか必死になってる気がしたからな……。
『任せてくれ、カノンは俺の大切な弟だからな!』
『ありがとう……やっぱり、あの子が最初に会ったのがスライムさんで良かったよ』
もう一つの約束も、必ず守らないとな……。
「―ムル――リムル?」
「!悪い、少し考えごとしてた」
「……?」
「さぁ、そろそろ行くか?」
「うん……分かったよ」
そうして俺たちは、2人で街へと戻っていった。
一方その頃……
「お前に名と食事をやろう」
干からびて荒野と化した場所で、一人の魔人が空腹で倒れていたオークにそう言っていた。
「……あなたは……?」
「ゲルミュッド……俺のことは父と思うがいい」
「……」
「……このまま死ぬつもりか?」
「っ……名前を……そして食事を……」
そんなオークに対し……
「お前の名はゲルド」
「ゲルド……」
「やがて、ジュラの大森林を治め……
ゲルミュッドは『ゲルド』と名付けた………これがきっかけで、ジュラの森に動乱が引き起こされることを俺たちはまだ、知る由もないのだった……。
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