それでは、どうぞご覧ください。
宴会の翌日、俺は宛がわれたテントの中でオーガの若様を見据えていた。そして……
「オーガの一族は戦闘種族だ。人に仕え、戦場を駆けることに異存はない。主が強者ならなおのことだ」
そう言って俺の前に膝を突いた。
「昨夜の申し出、承りました。我らオーガ一同、貴方様方の配下に加わらせていただきます」
「……分かった。他のオーガたちをここに呼べ」
「はっ!」
そう返事をした後、若様は仲間を呼びにテントの中から出ていく………もっと、こいつの気持ちを汲んでやるべきだったか……今すぐにでも敵を討ちたいところを、その気持ちを抑えて仲間のためにこの決断をしたのだろう。俺にしてやれることは、この選択を悔いのないようにしてやることだけだ……。
『カノン、今から俺のテントに来れるか?』
『いいけど……何かあるの?』
『オーガたちが配下に加わることになってな?これから名付けをするから、お前にはそれの見届け人になってほしいんだけど……』
『分かった。すぐに行くよ』
俺はカノンを思念伝達で呼んだ。それから少しして……
「リムル様、失礼します」
オーガの若様が他の仲間を連れてテントに入ってきた。
「少し待っててくれ、カノンも来るからさ」
「カノン様も?」
すると、数秒もしない内に……
「リムル、お待たせ」
『!?』
俺の後ろから、突然カノンが現れたのだ。
「お前、一体どこから……?」
「霊体化して来たんだよ。これならわざわざ遠回りする必要もないしね」
霊体化……スキルの名前らしいけど、今のは多分テントの幕をすり抜けてきたのだろう……というか俺、カノンのスキル詳しく知らない気が―――おっと、今はそれよりも……
「気を取り直して……配下となった証として、お前たちに名をやるよ」
『!?』
俺の言葉に、オーガたちは驚いたような表情をする。
「俺たちに、名を……?」
「お、お待ちください!名付けとは本来、危険な―――」
「大丈夫だって」
姫様の心配は最もだが、名付けで魔素を消費し過ぎるとスリープモードになることは既に分かっている。それに、今回は今までよりも数も6人と少ない……つまり、心配する要素は何もないのだ!
「それとも、俺に名を付けられるのは不満か?」
「!そ、そういう訳では―――」
「異論はない」
「お、お兄様!?」
「ありがたく頂戴する」
どうやら話はまとまったようだ。
「じゃあ、見届け人もいることだし、早速始めるぞ」
実を言うと、見た時から付ける名前は決めていたんだよな。さて……
「お前は―――」
◇
配下となるオーガたち6人に名付けをしたリムルであったが、それをした直後にスリープモードになってしまった………僕は見届け人として、オーガたちの名付けに立ち会っていた。今回は6人だけだから、スリープモードとかの心配をする必要はないと思っていたんだけど……。
《解。名付けには、個体に見合った量の魔素を消費します。》
見合った量………オーガはゴブリンよりも格上の魔物だから、6人だけの名付けで全ての魔素を持っていかれてってこと……?
《解。その通りです。》
そういうことか………完全に想定外だったし、そういうことは先に言って欲しかったな……。
「り、リムル様!?」
突然スリープモードになったリムルを見て、驚くオーガたちだったが……
「大丈夫、魔素を消費して寝てるだけ。多分……3日したら目が覚めるよ」
「そ、そうなのですね……」
僕がリムルを持ち上げながらそう言うと、すぐに落ち着いてくれたようだ。
「それよりも、今日はみんな休んだ方がいいよ……進化すると思うから」
「し、進化ですか!?」
リムルに名付けられた魔物たちは、基本的に進化してきた………オーガたちも、これから進化を遂げるのだろう。
「わ、分かりました……」
そう言って、オーガたちは自分たちに宛がわれたテントへと戻っていった。
◇
リムルがオーガたちに名付けた翌日、いつものように弓の鍛錬をしていた僕は、思念伝達でリグルドに呼ばれ、リムルのテントへと来ていた。そこには………
「カノン様……!」
オーガから進化した鬼人たちが待っていた。名付けられた影響か、全員の容姿が大分変化しており、おまけに魔素の量も増えている。オーガの頭領が紅丸、姫様が朱菜、紫髪が紫苑、青髪が蒼影、白髪が白老、黒髪が黒兵衛と名付けられている………一体、何の用だろう……。
「どうかしたの?リムルはまだ目覚めてないけど……?」
僕がそう訊くと……
「カノン様、改めてご挨拶を」
「あ、うん……」
あぁ……配下になった挨拶的なものかな。そういうのは、僕よりもリムルに言ってほしいんだけど。
「この度、リムル様より名を承りました。ベニマルと申します」
「……うん、よろしく」
そうして他の鬼人たちからも同じように挨拶された………クロベエはオーガの里でも鍛冶師をやっていたらしく、ベニマルたちの刀もクロベエが作ったものらしい。もしかしたら、僕の刀も打ってもらえるかもしれない……まぁ、僕の刀は最後になるだろうけど……。
それに加え、ハクロウはオーガの里で鬼人たちを鍛えていたという………もし、ハクロウの剣術を教えてもらえるとしたら―――
「カノン様」
「!どうかした?」
「昨日は、我らの名付けを見届けてくださり、ありがとうございました」
そんなベニマルの言葉に続いて、鬼人たちは頭を下げた。
「大袈裟すぎだよ……僕はただ、見ていただけだから」
「それでも、主の一人にそれを見届けてもらえることは、ありがたいことなのですよ?」
「そう……なんだ……」
鬼人たちも僕のことを『主』と………一応、鬼人たちにも言っておこうか。そう思った僕は、6人に目を向け……
「えっと……あらかじめ言っておくけど、僕はあくまでリムルの補佐兼代理の立場だから、正確には君たちの主ってわけじゃない。でも、リムルと同じようにオークたちを討ち果たすのに協力する……それまでは、どうかよろしく頼むよ」
『はっ!』
そう告げておくのだった。
◇
オーガたちに名付けをしてから3日後、俺はスリープモードから目を覚ました。そこにいたのは、オーガから進化を果たした鬼人たちだった………ほとんどがイケメンや美少女、美女、ロマンスグレーになっていたのには驚いたが……。
目覚めた俺は、鬼人たちにそれぞれ役割を与えた。ベニマルには、リグルたち警備隊と一緒に街の警備を、ソウエイには、隠密が得意だということなので、街の周囲の偵察を任せた。シオンには、俺とカノンの手伝いをしたいとのことだったため、秘書兼護衛の役割を与えた。ハクロウには、里でベニマルたちを鍛えていたということなので剣術指南役を任せ、クロベエには、オーガの里で鍛冶師をしていたということなので、カイジンたちと一緒に武器製作などをしてもらうことにした。そして……
「もうこんなに出来て……流石だな!」
「あっ!リムル様!」
俺はシュナのいる工房へと訪れていた。シュナには織物などの製作と、ゴブリナたちへの指導も頼んだ。
「いらして下さったのですね?」
「あ、あぁ!衣類の製作は順調そうだな?」
「はい!カイジンさんたちが作ってくれた織機のお陰です!」
なるほどな……流石はうちの職人たちだ。
「あっ、ところで……シオン、リムル様とカノン様のお世話は、ちゃんと出来ているのですか?」
「えぇ、もちろんです」
実際シオンは、俺の与えた役割の秘書兼護衛をしっかりとこなしてくれている。すると……
「そうですか……シオン?私がリムル様とカノン様のお世話をしてもよいのですよ?」
「いいえ姫、それには及びません」
何故か張り合い始めたのだ………あ、ちょっと、引っ張らないで……!
「さてリムル様、そろそろ行きましょうか。お昼が冷めてしまいます」
「っ!?」
「それに、カノン様も呼びに行きませんと」
「そうだな……じゃあ、また来るな?」
「!は、はい、お待ちしております……」
そう言って、シオンは俺を抱えてシュナのいる工房を後にしたのだった……。
「せ、せめてカノン様だけでも―――」
◇
リムルがシュナの工房を訪れている頃、僕はいつものように街の外れで弓の鍛錬をしていた。すると……
「お見事ですな」
「!ハクロウ……」
僕の後ろから、ハクロウが現れたのだ。
「いや……僕なんてまだまだだよ」
「御謙遜を……それにあの時みせた体術もお見事でした」
「いや、謙遜してるつもりは―――」
「儂は若たちよりも長く生きてはきましたが、カノン様ほどの弓の使い手は今まで見た事がございません。もっと、自信をお持ちください」
「あ、ありがとう……?」
事実を言っただけなんだけどな……。
「そういえば……ハクロウは、何でここに?」
「儂もカノン様と同じですぞ。まだ進化して日も浅いですからな」
どうやらハクロウも、僕と同じように鍛錬に来たみたいだ………よし―――
「……ハクロウ、頼みがあるんだけど」
「頼み、とは……?」
そして、僕は……
「僕に……剣を教えてくれないかな」
ハクロウに向かい、剣を教えてほしいと頼む。
「それはもちろん構いませんが……カノン様は弓を主な武器としているのでは?」
「そうだね………もちろん、弓が一番得意だけど……僕は、もっと強くならなきゃ、役に立たなきゃいけない。だから、やれることはやっておきたいんだ」
もっと強くならないと、頑張らないと―――
「承知致しました。このハクロウ、カノン様にお力添えしましょうぞ」
「!……ありがとう」
「ですが焦りは禁物。まずは基本からやっていきましょう」
「うん……よろしくね、
読んで下さり、ありがとうございます。
カノンが早速、ハクロウに弟子入りしましたが、果たしてどこまで強くなれるのか……。
それでは、次回の話もどうぞよろしくお願いいたします。