それでは、どうぞご覧ください。
ハクロウに弟子入りした僕は、剣の構え方などの基本から教わっていた。
「……こうかな」
「!ほう……カノン様は筋が良いですな?」
「それ、お世辞じゃなくって?」
「本当ですぞ?さて……では早速、儂と打ち込み稽古をしてみますかの」
「え?もう?」
僕の向かいに立つと、ハクロウも木刀を構えた。
「さぁ、どこからでもかかってきなされ」
「……じゃあ、いきます」
こちらも木刀を構えると、ハクロウに向かって駆け出していく。そして正面に打ち込もうとしたが……
「!」
難無く避けられてしまう………が、簡単には当たるはずはないと思っていたので、僕は振り下ろした木刀をすぐさま上に向かって返す。
「!?」
その攻撃もハクロウに避けられ、僕は一度後ろへと下がる………やっぱりそう簡単には当たらないか……。
「カノン様、今の動きは……?」
「今の……?正面に打ち込むだけじゃ当たらないと思ったから、そこから前に踏み込んで木刀を返したら当たるかなって思ったんだ………まぁ、自分なりに工夫してみたって話だよ」
その言葉を聞いたハクロウは……
「ほっほっほっ!まさかここまでの才能をお持ちだとは……教え甲斐があるというものですじゃ……!」
何やら笑みを浮かべながら、木刀を構え直していた。それからも、ハクロウとの稽古を続け……
「はぁ……はぁ……!」
「さて……今日はここまでにしておきましょう。そろそろ昼時ですからな」
昼頃に剣術の稽古が終わったのだ。剣については前世ではやっておらず、獣人態を手に入れてから自分で鍛錬はしていたものの………
「あ、ありがとうございました……やっぱりまだまだだね、僕は」
「そんなことはありませんぞ?カノン様は筋が良いのに加え、今日の稽古にも真剣に取り組んでいらした……もしかすれば、将来は儂を超える剣士になるやもしれませんな」
「………それって、僕に期待しているってことなの……?」
「その通りですぞ」
「!そう、なんだ……」
………じゃあ、頑張らないといけないな―――
「カノン様、昼食なのですが……」
「ん?」
「シュナ様から伝達がきまして……『今日はシオンがお二方に手料理を作るようですので、こちらにカノン様をお連れするように』………とのことでして」
「え?」
シオンが手料理を作ってくれるのに、何でシュナのところに―――いや、別にシュナのところに行きたくないとか、そう言う事じゃなくて……何やらハクロウがさっきから冷や汗をかいてるんだけど……?
「それはいいけど……シオンが手料理を作ると何かあるの?」
僕がそう尋ねると……
「その……シオンの手料理は………」
「あっ……」
なるほど、そういうことか………おそらくシオンの手料理は―――
「……」
やっぱりか………僕の目の前には顔を真っ青にして口から泡を吹いて倒れているゴブタと、リムルに謝っているシオン、そして机の上に置いてある得体の知れない『何か』があった……いや、本当になんなのこれ?
「えっと………リムル?」
「……来たか、カノン………お前、昼飯は?」
「シュナのところで食べてきたけど……?」
「シュナ様から、カノン様をお連れするように言われましたので……儂も一緒にいただいてまいりました」
「あー……いや、それならいいんだそれなら……」
「……で、何があったの?」
リムルの話によると、シオンの手料理を食べないで済む方法を大賢者―――リムルが持っている観測者さんのようなスキルに訊いたところ、スプーンを右後ろに出すように言われたらしい。そして言う通りにしたところ、そこにはゴブタがおり、スプーンがその口に入っていた……というわけみたいだ。
「まぁ、今度からはベニマルの許可を得ないといけないようにはしたから、大丈夫だろう」
「……それ、ベニマルが凄い頑張らないといけないやつじゃ……?」
「……」
◇
シオンの手料理事件の後、俺はカイジンとクロベエのいる工房に来ていた。2人は鍛冶に関する専門的な話をしていた……。
「「な?鍛造って面白いだろ(べ)?」」
「お、おう……」
まぁ、俺にはサッパリだったけど。すると……
「リムル様、ここにいらっしゃいましたか!」
おっ!ナイスタイミングだ!
「どうした、リグルド?」
「はっ!リザードマンの族長の使者を名乗るものたちが来ているのですが……」
「リザードマンの……?」
一体何の用で―――はっ!まさか、カノンが狐霊族だってことを聞きつけたとか……いや、それは考え過ぎか……?
どちらにせよ、話を聞く必要はあるだろうな……。
「分かった。すぐに行く」
「はっ!」
俺はリグルドの肩に乗り、リザードマンが待つ街の入り口に向かおうとすると……
「リムル様、俺たちも同席していいか?リザードマンの思惑を知りたい」
「あぁ、もちろんだ」
ベニマルたちも同席を求めてきたため、俺はそれを許可した………さて、どうなることやら……。
◇
「……ここならいいか」
シオンの手料理の騒動がひと段落―――ゴブタを霊眼で見たところ、どうやら『毒耐性』というスキルを手に入れたらしく無事だった―――した後、僕は封印の洞窟へと来ていた。今日ここに来た目的は、この前手に入れたスキルを実際に確認するためだ。
「じゃあ早速………黒風!」
僕はこの前にリムルの黒炎や黒雷を解析して手に入れた『黒風』を試してみた。
「!これが………って―――」
黒風は僕を中心として竜巻のように吹いており、威力が高いのか近くの岩肌をどんどん削っていたのだ。
「ふっ!………これは練習あるのみかな……」
僕はそう呟いた後、しばらくは黒風の威力調節や黒風を矢や剣などの形に変化できるかどうかを試したりした。そうして一通り試し終わったため、洞窟から出ようとした時……
『カノン!今どこにいるんだ?』
リムルからの思念伝達が届いた。
『封印の洞窟でスキルを試してたところだけど……?』
『今からちょっと会議をするから、戻ってこられるか?』
『丁度終わったからいいけど……何の会議なの?』
僕がそう訊くと、リムルは……
『……オークの大軍勢が、ジュラの森に迫ってきているらしいんだ。だから、その対策を立てたい』
いつもより少し重い口調で、そう伝えてきたのだ。
◇
「20万のオーク………その本隊が大河に沿って北上している。そして、本隊と別働隊との合流地点と考えられるのが、ここより東の湿地帯……」
「そこはつまり、リザードマンの支配領域―――と、いう事ですな」
ソウエイが偵察したところによると、本隊と別働隊のオークが合計20万が進軍しているということが判明した。
「20万、か………実感が湧かないくらい馬鹿げた数だな」
にしても……
「オークの目的って、何なんだろうな……?」
これだけの大群だ。何か目的があって進軍しているはずなのだが……
「オークはそもそも、あまり知能の高い魔物じゃねぇ………この進軍で何かの目的があるとすれば、バックの存在を考えるべきだな」
「バックの存在だべか?」
バック、ね……。
「例えば……魔王、とかか?」
『!』
俺の発言に、みんなの空気が一気に張り詰める。
「お前たちの村に来たという、ゲルミュッドという魔族が絡んでいるとしたら……ま、今のところは何の根拠もないが」
魔王だとしても、そいつがシズさんを苦しめたレオンだとは限らないもんな……。
「魔王が絡んでいるかどうかは分からん。だが……」
「だが……?」
「オークロードが出現した可能性は、強まったと思う」
「数百年に一度生まれる、ユニークモンスターだったよな?」
「はい……20万もの軍勢を普通のオークが率いているとは考えられませんから」
「いないと楽観視するよりは、警戒すべきかと思います」
「!?」
「どうかした、ソウエイ?」
「偵察中の分身に接触してきた者がいます」
「接触?」
「リムル様とカノン様に取り次いでもらいたい、と……」
「僕も?」
俺とカノンに?一体、何者なんだ……?
「誰なんだ?ガビルみたいなのはもうお腹いっぱいだし、変なやつは勘弁してもらいたいんだけど……」
「変………ではありませんが、大変珍しい相手でして……」
「珍しい?」
「はい。その……
『!?』
その言葉に、みんなが一斉に動揺した表情を見せた。ど、ドライアドって………ゲームとかに出てくる、樹の精的なお姉ちゃんか!?
『ねぇリムル。みんな驚いてるけど、ドライアドって……何?』
『知らないのか!?ゲームとかに出てくる樹の精だよ!それもお姉さん!』
『は、はぁ……?』
俺が説明しても、カノンはピンと来ていない様子だった………そういえばカノン、初めて会ったときに俺がやったネタも分からなかったらしいし、もしかして前世じゃ厳しい家庭であまりゲームをやってこなかったのか……?
今度、思念伝達で色々と見せてやるとするか!
「か、構わん!お呼びして―――」
「はっ!」
そうして、ソウエイがそのドライアドを呼んだ瞬間……
『!?』
「『魔物を統べる者』及びその従者たる皆様……そして狐霊様、突然の訪問相すみません。私は、ドライアドのトレイニーと申します。どうそ、お見知りおきください」
テーブルの上に葉が落ちたかと思えば、そこから緑がかった金髪のお姉さんが出てきたのだ。このお姉さんがドライアドのトレイニーさんというらしく、丁寧に自己紹介をしてきたのだ。
「えっと……俺はリムル=テンペストです。トレイニーさん、一体何のご用向きで……?」
「本日はお願いがあって参りました………」
「お願い……?」
「リムル=テンペスト、魔物を統べる者よ。あなたに………
オークロードの討伐を依頼したいのです」
◇
「オークロードの討伐……俺が、ですか?」
困惑した様子でいるリムルに………
「えぇ、そうです」
トレイニーさんは、笑みを崩すことなくにそう言った。
「いきなり現れて、随分な物言いじゃないか?ドライアドのトレイニーとやら………何故この街に来た?ゴブリンよりも強い種族ならばいるだろう?」
「そうですわね………オーガの里が健在ならば、そちらに出向いていたでしょう」
『!』
「まぁ、そうであったとしても……この方たちの存在を無視することはできないのですけど」
この方たち………そういえば、僕には何の用なのだろう?僕が狐霊族ってことは既に知ってるみたいだし……。
「我々の集落が襲われれば、ドライアドだけでは応戦できませんので。ですからこうして、強き者たちに助力を願いに来たのです」
「オークロードがいるってこと自体、俺たちにとっては仮説だったんだけど……」
「ドライアドはこの森で起きたことならば、大抵把握しておりますの………いますよ、オークロード」
トレイニーさんはポテチモドキを摘まみながら、笑みを浮かべてそう言ったのだ。
『……』
「ドライアド様がお認めに……」
「ならば、本当に……」
みんながざわつく中、リムルは……
「……返事は少し待ってくれ。鬼人たちの援護はするが、率先して藪をつつくつもりはないんだ。情報を整理してから答えさせてくれ……こう見えても、ここの主なんでな?」
「!……分かりました」
この件について慎重に考えることにしたようで、返事を保留にすることにした。
「会議を続けるぞ?オークたちの目的について、何か意見のあるものはいるか?」
「……思い当たることが、1つあります」
どうやらシュナには心当たりがあるようだった。
「ソウエイ……私たちの里、調査してきましたか?」
「……はい」
「!……その様子では、なかったのですね」
「はい……同胞のものも、オークのものも、ただの1つも………」
なかったって、何が―――!まさか……
「何が?」
「……死体です」
「え!?」
やっぱり、オークたちは死体を食べて……。
「20万の大群が食えるだけの食料をどうやって賄っているのか疑問だったが……」
「それって、まさか……」
「ユニークスキル『
「飢餓者………」
「世に混乱をもたらす災厄の魔物、オークロードが生まれながらにして保有しているスキルで、オークロードの支配下にある全ての者に影響を及ぼし、イナゴのように周囲の者を食べつくす……喰らった相手の力や能力までもを取り込み、自分の力とするのですわ」
飢餓者………もし、強い種族が食べられでもしたら、まずいことになるってことか……。
「あなた様の捕食者と似ていますわね?」
「……」
そう言われてしまったリムルは、すごい複雑そうな表情をした。
「飢餓者の代償は、満たされることのない飢餓感。オークたちは果てしない飢えを満たし、力を得るためだけに進む………ただそれだけの、彼らの王の望みのために」
オークたちの目的は、ジュラの森に住む生き物を蹂躙することだけでなく、他の種族のスキルとかの力を奪うことか……。
「さて、となるとだな……ウチも安全とは言い難いな?テンペストウルフに鬼人、ホブゴブリン。味はともかく、オークたちの欲しがりそうな獲物だらけだ」
「1番やつらの食いつきそうな獲物を忘れてはいませんか?」
「え?」
「いるでしょう?最強のスライムが」
「どこに?はむっ……!」
リムルはそう言い、ポテチモドキを口にする………オークロードがいるというのに、リムルちょっと気楽すぎないかな?
「それに、オークロード誕生のきっかけとして、魔人の存在も確認しております……あなた様は放っていけない相手かと思いますけど?」
「魔人、か……」
「いずれかの魔王の手の者ですから」
「……」
リムル……もしかして、シズさんのことを考えて………すると、トレイニーさんは椅子から立ち上がり……
「リムル=テンペスト様。改めてオークロードの討伐を依頼します。暴風竜ヴェルドラの加護を受け、牙狼族を下し、鬼人を庇護し……狐霊様と兄弟であるあなた様なら、オークロードに遅れをとることはないでしょう」
改めてそう頼んだのだ。リムルはトレイニーさんの話を聞いても、悩んでいる様子でいたが……
「当然です!」
「えぇ!?」
「リムル様ならば、オークロードなど敵ではありません!」
「まぁ!やはりそうですよね?」
シオンが勝手にそう言ってしまったのだ………これによって、リムルがオークロード討伐の依頼を受けることが確定した。思わずスライムになったリムルも、覚悟を決めたのか……
「分かったよ。オークロードの件は俺が引き受ける。みんなもそのつもりでいてくれ」
リムルのその言葉に……
「もちろんです、リムル様!」
「どうせ、最初からそのつもりだ」
「俺たちは旦那を信じてついていくだけだ」
「その通りですぞ!我らの力を見せつけてやりましょう!」
『おぉ!』
「ふふふっ!」
みんなはやる気を出してそう答えたのだ。その光景を見て、トレイニーさんも満足そうに微笑んでいた。すると……
「あっ、そういえばトレイニーさん。カノンにも用があるらしいけど……?」
「えぇ、そうですわね」
リムルがそう言うと、トレイニーさんは僕の前に来て―――って、えっ?
「改めて、お初にお目にかかります狐霊様―――いえ、カノン=テンペスト様。このトレイニー、ドライアドを代表してご挨拶申し上げます」
急にそう言い、跪いてきたのだった……。
読んで下さり、ありがとうございます。
次々回あたりに、カノンの本格的な戦闘が見られると思います。
それでは、次回の話もどうぞよろしくお願いいたします。