それでは、どうぞご覧ください。
牙狼族との戦いから一夜明け、俺はゴブリンたちと生き残った牙狼族を集めた。俺の左横にはカノンが座っており、右横には村長が立っていた。さて……
「まず、みんなにはペアを組んでもらおうと思います」
俺はゴブリンと牙狼族たちに、ペアを組んでもらおうとしたのだが……
『……?』
……みんなの反応、薄くね?
「り、リムル様……ぺあ?とは一体何でしょうか……?」
「えっ?」
『リムル、多分通じてないんじゃ……』
「!」
そっか……俺たちの世界の言葉は通じないか……。
「悪いな、ペアっていうのは―――」
俺はペアについて簡単に説明してから、ゴブリンと牙狼族で二人一組を作らせる。それから、この村の衣・食・住の問題を解決するために、三つのチームに分けて行動させようとしたのだが………
「あれ?そういえば……お前たち名前は?」
「普通の魔物に名前はありません。名前がなくとも意志の疎通はできますから」
「そ、そうか……」
確かに、ここに来てからゴブリンたちが名前で呼び合っているのを聞いたことがないな。牙狼族も同じだ………でもないとこれから不便だよな―――よし!
「でも、あった方が便利だから、お前たちに名前を付けようと思うんだけど……いいか?」
『!?』
「な、名前……よ、よろしいのですか……?」
俺がそう言うと、何故か村長が恐る恐るといった感じでそう訊いてくる……俺、何も変なことは言ってないよな……?
「え?あ、あぁ……」
すると……
『う……』
「「う……?」」
この流れ、何処かで見たことあるような―――
『うおおおおおお!!』
ゴブリンと牙狼族たちは俺の予想通り、歓声を上げて喜び始めたのだ………やっぱり、カノンパニックみたいになってるぞ……!?まぁ、がっかりされるよりはいいけど……
「まぁ、いいか……じゃあカノン、半分ずつ名付けるってことでいいか?」
俺はさも当然のようにそう言ったが……
「え?」
「え?」
「いや、名付けをするのは全然いいんだけど………僕までそれをやるのは止めた方がいいんじゃ……」
「え……?」
何故かそう言われてしまったのだ……。
「な、何でだ……?」
「これは僕の考えだけど、もし主が2人ってなったら混乱すると思うよ?それに、派閥争いとか起きたら最悪だし」
「な、なるほど………確かにそれは困るな……」
「とにかくさ、名付けは主のリムルがやるのが理想だと思うよ?補佐とか代理は、全部僕が引き受けるから」
カノンは俺に全てを押し付けようという気ではなく、俺の補佐と代理を買って出てくれた………それにカノンの言う通り、俺もそうなってほしくはないからな……。
「……分かった。補佐や代理が必要な時はカノンに任せるよ」
というわけで、カノンは俺の補佐や代理をしてくれることになった……だが俺は、ヴェルドラに『俺を支えてくれ』と言われたときのカノンの様子を思い出し、少し心配になっていた……無理や無茶はしないで欲しいんだけどな……。
そんなことを思いながらも、俺はゴブリンたちや牙狼族に名付けをするために、全員を一列に並べた。最初は―――村長とその息子か……。
「確か、村一番の戦士だった村長の息子の名前って……」
「はい、リグルです」
「なら……村長の名前は『リグルド』だ」
「ありがとうございます……!」
「お前は兄の名を継げ。『リグル』だ!」
「あ、ありがとうございます!」
「息子にリグルの名を継がせていただけるなんて……ありがとうございますリムル様!」
「お、おう……」
さっきも思ったけど、すごい喜び様だな………何でだ……?
◇
リムルの補佐兼代理となった僕は、側で名付けの様子を見守っていたが……
「お前は……ゴブタ」
「は、はいっす!」
「ゴブツ」
「はい!」
「ゴブテ」
「ありがとうございます!」
「……お前はゴブゾウだな」
「……!」
「……」
何だろう……最初は良かったのに、だんだんとリムルの名付けが適当になってる気がする。すると……
「あ、あのカノン様」
「どうしたの?」
「リムル様に名付けをしていただけるのは大変ありがたいのですが……一度に大量の名付けをされて、本当に大丈夫なのでしょうか……?」
村長さん―――リグルドにそう尋ねられた。
「え?大丈夫だと思うけど……?」
「ならば良いのですが……」
何かまずいことでもあるのかな……。
『観測者さん、名付けって何かデメリットとかあったりするの?』
《解。名付けの際には、個体の強さに応じた魔素が消費されます。一度に大量の名付けを行うと、魔素切れを起こす可能性があります。》
『魔素切れ……?』
《尚、次の牙狼族への名付けを行った場合、個体名:リムル=テンペストは魔素切れを起こし、スリープモードへと移行すると推測。》
!?それまずいんじゃ……!
「リムル、一旦名付け止め―――」
「り、リムル様!?」
「こ、これは……!?」
「あ……」
僕がリムルの方を向くと、牙狼族の族長の息子の名付けをしたところで、リムルの身体が何故か溶け始めてしまった様だ。それを見たゴブリンや牙狼族たちは、慌てふためいた様子でリムルへと駆け寄っていく………一足遅かったか……。
《告。個体名:リムル=テンペストの体内魔素量が一定値を割り込み、スリープモードへと移行しました。尚、完全回復の予想時刻は、三日後となります。》
三日後か………その間、僕が責任もってこの村やみんなを守らないと。じゃなきゃ―――
「みんな落ち着いて」
「!カノン様……」
「リムル様は大丈夫なのでしょうか……?」
「大丈夫、魔素切れで眠っているだけだから。3日経てば目を覚ますと思うよ」
「!そ、そうなのですね……」
僕はスリープモードになったリムルを抱え、混乱しているみんなを落ち着かせる。
「だから、みんな冷静に」
『はい!』
「あと……リムルを休ませられる場所ってある?」
「!でしたら、あちらの小屋をお使いください」
「分かったよ」
そうして小屋の中へと入り、リムルを休ませるための台の上に置いた後、村の中や外の見回りをして過ご―――
「カノン様はどうぞお休みになってください!」
「カノン様のお手を煩わせるわけにはいきませんよ!」
「カノン様はどうぞリムル様のお傍に!」
そうとしたのだが、みんな狐霊族というものを神聖視しているせいで、村の外には出歩かせて貰えなかったのだ………仕方ない、リムルのいる小屋の近くでスキルの練習でもしよう……。
リムルがスリープモードになった翌日………
「………っ!」
朝早くに目が覚めた僕は、軽くスキルの鍛錬をするために村の外れへと向かった。それから一時間くらい経った頃、リムルのいる小屋へと戻ってきた………その直後、
「おぉ!カノン様、お戻りになられていましたか!」
「………え?」
小屋の中に、大柄で筋骨隆々なゴブリンが入ってきた……だ、誰だこのゴブリン?僕の記憶じゃこの村にこんなゴブリンは―――いや、何だか顔に見覚えが………
「もしかして………リグルド?」
「はい!リグルドでこざいます!」
………1日の間に何が―――
「おはようございます、カノン様!」
「君はリグル………だよね?」
「はい!」
リグルドに続き、すっかりと成長(?)したリグルも入ってきたのだ。一体、何が起こって……?
《解。これらの変化は、全て進化によるものと推測。尚、雄のゴブリンはホブゴブリンに、雌のゴブリンはゴブリナへと進化しています。》
なるほど……だからあんなに喜んでいたのか。さらに……
「おはようございます!我が主!」
今度は族長の息子だった牙狼族―――嵐牙が入ってきたのだ。今は嵐牙が牙狼族の長となっている。
「お、おはよう……うん、嵐牙も立派になったね」
「!ありがたきお言葉、ありがとうございます!」
進化した姿を褒めると、嵐牙は尻尾を振り始め……って―――
「嵐牙、尻尾。小屋飛びそうになってるから」
「!も、申し訳ありません………」
進化すると、そういうところも強くなるんだ………そうして嵐牙の尻尾が止まったところで……
「……一つ、訊くけどさ」
「はい!何なりと!」
「何で僕も主って呼ぶの?主は名付けをしたリムルだけのはずじゃ……確かに僕は守護者ではあるけど、主ってわけじゃ……」
僕は疑問に思っていたことを直接訊いてみた。すると、返ってきたのは………
「何を仰いますか!」
「えっ?」
「カノン様はリムル様の弟君にして狐霊様……さらには、リムル様と共に我らをお救いくださいました!敬うのは当然のことです!」
「そ、そういうものなの……?」
「「「はい!」」」
みんな息ぴったり………今は取り敢えず、補佐兼代理としての責任を果たそう。
「……リムルが目覚めるまでは、協力して食料の調達や村の守りを固めておこう。詳しいことは、リムルが目覚めてからにしよう」
僕はリグルド、リグル、嵐牙にそう指示を出す。
「「了解しました!カノン様!」」
「承知いたしました!我が主!」
「……」
………主呼びについては、目が覚めたらリムルから言ってもらうとしよう。あと、狐霊族だからって神聖視するものやめて欲しい、と……。
読んで下さり、ありがとうございます。
カノンは基本的には名付けをしないという方針となりました。ですが、何事にも例外はあるもので……?
それでは、次回の話もどうぞよろしくお願いいたします。