それでは、どうぞご覧ください。
「スライムさん、子狐さん。ちょっといいかな?」
「「……?」」
長い黒髪に白いマントを羽織った冒険者……シズさんが僕たちを呼び、何故か話をすることになった。
「それで……どうしたんだい、シズさん?」
「スライムさん、さっきのゲームのセリフだよね?」
「えっ?」
「『悪いスライムじゃないよ』って」
ゲームはやったことがないから、僕にはそれが何だか分からなかったけど………そういうのがあるんだ。
「私はやったことないけど、同郷だった子たちから聞いたことがあってね」
リムルを抱き上げながら、シズさんはそう話してくれた。
「スライムさんも日本から来たの?」
「あぁ、そうだよ」
「子狐さんも?」
「……うん」
「そっか……2人とも会えて嬉しいよ」
シズさんは仮面を取り、微笑みながらそう言ってくれた。
「スライムさんは、どうしてこっちに?」
「それがさぁ……刺されて死んじゃってさ」
「刺されて……気が付いたら、こんな素敵な姿に!」
「ふふっ……子狐さんは?」
シズさんに訊かれた僕は……
「僕は……死んだ時のことは覚えてないんです。気付いたらこの姿で転生してて……それに何故か、前世の記憶も曖昧だったんです」
隠すことでもないため、正直に答えた。
「!ごめん……辛いこと話させたよね……」
「いえ……別に気にしてないので大丈夫ですよ」
シズさんは慌てて謝ってきたが、もう慣れたことなので気にしていないと言っておいた。
「……2人は、転生者なんだね」
「シズさんは違うの?」
「……私は、召喚者だから」
「召喚者……」
召喚者………元の世界からこの異世界に生きたまま来た人、ってことなのか……。
「シズさんは、いつ頃召喚されたんだい?」
「ずっと昔……街が燃えて、炎に包まれて……」
「戦争……?」
「空から、爆弾が降ってきて……」
シズさんの話から察するに、第二次世界大戦の空襲の時にこちらの世界にやってきてしまったらしい……。
「お母さんと一緒に逃げていて、その時に……」
「……お母さんは?」
リムルがそう訊くと、シズさん静かに目を伏せた………母親、か……。
「……済まない」
「ううん、いいの」
少し重い雰囲気になってしまったところで、リムルが……
「面白いものを見せてやるよ!カノンにもな!」
「「面白いもの……?」」
急にそんなことを言ってきたのだ。その直後……
「「!」」
僕とシズさんに、思念伝達でリムルから思念が送られてきた。そこには、前世のリムルの部屋らしきところが映し出されていた。それから視点がパソコンに寄っていくと、そこにはエルフらしき女の人が映っているのが見え―――
「違う!違うそうじゃない!!」
「綺麗だったよ?」
「ナシナシ!今のナシ!」
「リムル、これがゲームってやつなの?」
「カノンにはまだ早いから!それより2人ともこっちこっち!」
何故かリムルが慌てたようにそう言い、戦後から現代までの復興していく様子が代わりに映し出される。
「凄い……絵はがきで見たニューヨークの摩天楼のよう……!」
「戦争が終わって平和になったんだ。街も経済も発展してな」
「そっか……お母さんにも見せてあげたかったな」
シズさんは感動した様子で、その光景に目を輝かせていた。
「俺はこっちでも、みんなが平和に暮らせる街を作ろうと思っているんだ」
平和に、か………僕もそうなったらいいと思ってるけど、この弱肉強食な世界で実現させるのはそう簡単なことじゃないだろうな……。
「素敵……そうなるといいね?」
「なるさ、きっと」
すると……
「ふふふ―――うっ……!?」
「「シズさん!?」」
突然、シズさんが胸を抑えて苦しそうにし始めたのだ………が、それはすぐに治まったようで……
「……大丈夫、ですか?」
「うん……多分ね」
シズさんは僕に対し、微笑みながらそう答えていた……多分って、それ絶対に大丈夫じゃないような―――
「リムルの旦那!ちょっといいか?」
「ん?」
「新しく家を建てる場所の相談をしたくてな」
「あぁ、分かった。シズさん、晩御飯の時に呼ぶから、後はカノンと話をしてあげてくれ」
「うん、分かったわ」
リムルは僕とシズさんから離れると、カイジンさんのところへと向かって行った。
「……もしかしてお邪魔だったか?」
「うるさいよ……」
「そう照れんなよ?」
「照れてないし」
そして、2人を見送ると……
「……さっきはごめんね?ほったらかしにしちゃって」
「いや、別に大丈夫ですけど………それよりもシズさん、本当に大丈夫ですか?」
「……優しいね。でも、本当に大丈夫だから心配しないで―――」
「優しくなんかありませんよ………さっきのシズさんのお母さんに対する感情だって、僕にはその気持ちが分からなかった」
「え?それってどういう―――」
「僕は………
前世では孤児でしたから」
「!?」
その言葉を皮切りに、何故か僕はシズさんに前世のことを話し始めていた。
「僕は生まれつき、右目が見えなかったんです………多分それのせいで、両親に捨てられたんだと思います」
「右目って……今は白っぽい色をしているけど、見えてはいるんだよね……?」
「………何故か、見えていないんです。何かのスキルが原因らしいんですけど、詳しいことはまだ……」
「!ごめんなさい………」
「謝らないでください。今はその代わりにいい眼を持ててますから―――話を戻すと、僕は孤児院に拾われてそこで暮らすことになりました………でも、そこは多分はずれだったんだと思います」
「はずれ……?」
シズさんは僕の言葉の意味が分からず首を傾げていたが……
「……僕はそこで、右目が見えないことが原因で他の子供から嫌がらせをされ、学校では虐められていました」
「そんな………それは、誰かに相談しようとは思わなかったの?」
シズさんが至極当然のことを言ってきたのだが……
「相談しましたよ………でも孤児院の人は『今まで何も言ってこなかったから大丈夫だろう』とか、学校の先生は『あの子たちがそんなことがあるはずがない。噓をついているんだろう』って言って、相手にもしてもらえませんでした」
「!だから、はずれって……」
「だから僕は、頑張って認められようとしました……勉強も1番を取って、色々なことで結果を残した。でも、僕が認められることなんてなかった……そんな時、こう思ったんです………
この世界に僕は必要ない……生まれた来た意味なんて、どこにもないんだって……」
「!そんなことは―――」
「そもそも、親から捨てられてるんですよ?そう思うしか、ないじゃないですか……」
「……」
僕の言葉に、シズさんは思わず黙り込んでしまった……。
「さっきの考えは、今でもそうだと思っています………だから僕は、誰かに存在を認めてもらえるように、何でも死に物狂いでやらないといけないんです」
すると……
「……子狐さん」
「?何ですか―――って!な、何して……!?」
僕は急に抱き上げられてしまったのだ。突然のことに慌てる僕に、シズさんは……
「今まで、よく頑張ったね?」
そんな言葉を掛けてくれた………何で……何でそんな言葉を掛けるんだ……?
「子狐さんが誰にも認めてもらえなかったなら、私がその頑張りを認めてあげないと………私ね、こう見えてイングラシアって国の学園で先生してたんだよ?」
「先生を……?」
「そう……子狐さんは私から見たらもう、満点以上あげてもいいくらいに頑張ってるんだよ?それにね……もうとっくに、スライムさんたちにも認められてると思うな?」
「……何でそんなことが分か―――」
「この村のみんながね、子狐さんが助けてくれたおかげで生きていられるって言ってたんだよ?」
「!」
みんなが………そんなことを……。
「でもそれは、リムルも一緒で―――」
「確かにスライムさんもそうかもしれないけど、子狐さんがいたから助けられたって人は多いと思うよ?」
「……」
「だからさ、少しは自分を褒めてあげてもいいんじゃないかな?」
シズさんはそう言うと、リムルが呼びに来るまで僕の頭を撫で続けていた。それから戻る途中には……
「子狐さんの得意なことって何?」
「えっと……弓道をやってたから、多分それじゃないかと」
「そういや初めて会った時に言ってたな……それってどのくらいなんだ?」
「……一応、中学3年間無敗で―――」
「無敗!?」
「凄い……!」
リムルの入れて、そんな他愛もない会話もした。
◇
シズさんと話をした翌日、僕とリムル、リグルド、リグルは4人の見送りに来ていた。今は村の入り口のところで、シズさんとエレンさんを待っているところだ。
「カノンさんも、ありがとうございました」
「いや、僕は何も……お礼ならリムルに―――」
すると……
「お待たせ!」
「ごめんなさい、遅くなって」
エレンさんとシズさんが、僕たちのところへとやってきたのだ……その時、
「っ!?ううっ……!」
「?」
「シズさん?」
シズさんが急に苦しみだしたのだ。それと同時に……
《告。個体名:シズエ・イザワより、魔素の急激な漏出を確認。》
観測者さんがそう報告してきて、霊眼に映る魔素の光の量も急激に増えたのだ。
「っ!みんなシズさんから離れて!」
『!?』
僕がそう声を上げた直後、シズさんはその場に膝を突き、付けていた仮面にひびが入る。そして、シズさんを巻き込むように火柱が上がり、それは瞬く間に空を黒く覆いつくした。
「な、何が起きてんだよ!シズさん、一体どうしちまったんだよ!?」
「シズ……シズエ……って、まさか!?」
「どうかしたのか?」
「もしかして……『爆炎の支配者』、シズエ・イザワでやすか!?」
「それって、50年くらい前に活躍したっていうギルドの英雄……精霊使役者の……!?」
シズさんの正体に気付いた3人は、戸惑いを隠せずにいた………何せ、僕たちの前にはシズさんの代わりに炎を纏った巨人と、その周りには炎の小さい竜のようなものが数体飛び回っていた。あれは一体……?
《告。個体名:シズエ・イザワと契約していた炎の上位精霊イフリートと推測。周りを飛行しているサラマンダーは、イフリートが召喚した個体の模様。》
「……」
その情報を観測者さんから聞いたのと同時に……
「おい!お前たちはカノンと一緒に離れてろ!ここは俺が何とかする!」
イフリートを見たリムルが、僕たちに避難するように言ってくる。だが……
「逃げるわけにいくかよ。あの人が俺たちに殺意を剝き出しにしている理由は分からんが」
「俺たちの仲間でやんす!」
「ほっとけるわけないわよ……!」
「「……!」」
本当に、シズさんの仲間はいい人たちばかりだ………シズさんには、僕は今まで頑張ってるとは言われたけど、自分ではまだそれを実感できない。でもせめて、今は―――
「リムル」
「!カノン、お前は―――」
「周りのやつは僕が何とかするから、シズさんのことは頼んだよ!」
「え!?ちょ―――」
僕はそれだけ言い残すと、周りに風武装を展開しながら周りのサラマンダーを引き付けに行くのだった……。
読んで下さり、ありがとうございます。
次回はイフリートとの戦いとなります。カノンは今のスキルでどう戦っていくのか……。
それでは、次回の話もどうぞよろしくお願いいたします。