「戦闘ユニットに名は、ARC(アーマード・リアクティブ・コア)だ。簡素に見えるかもしれないが、内部構造と素材は、最先端中の最先端だ」
モドムは胸を張る。ARC。その3文字は胸部装甲の下、刻印として組み込まれていた。外装は滑らかで無駄がない。だが内部には多層装甲フレーム、瞬発型駆動筋束、自己最適化演算コアが搭載されているという。静止しているだけでも、圧のある存在感があった。
「生物ではなく、技術そのものとの戦闘は、別の緊張感がありますね」
ララクは低く構えながら観察する。呼吸も鼓動もない相手。疲労も恐怖も存在しない。ただ設計思想と命令系統だけで動く兵器。
「君の実力は、今の私には測りかねる。だが兵器を使用したとしても、このルームは破壊できないように作られている。安心して、本領を発揮してくれ。このユニットも、代用品はいくらでもある。木っ端みじんに破壊でもしない限りは、研究に損傷はない」
壁面の補助装置が点灯し、床下の衝撃吸収層が起動する低い振動が伝わる。空間そのものが巨大な防御機構だ。
「ララク、肌が割けて肉が見えても、私がついているよ」
ゼマが軽く笑う。赤髪が揺れ淡く光る。
「君、もしかしてヒーラーか」
「そうだよ~ん、超高性能回復ユニット、ってところ」
「う~ん、夜通し研究ができるなぁ……!」
モドムの本気の声音に、ゼマはうきうきと歩きはじめる。そして2人は、部屋を出る。
「っぇ、ボクも休息は欲しいんですけど……」
言い終わるより早く、鉄板の扉が閉じた。重い衝撃音とロック機構の作動音が響く。照明が一段と強くなり、影が消える。解析用のセンサーが赤から青へと切り替わる。
その瞬間、ARCの頭部装甲に細いスリットが走った。内部から青白い光が灯る。低く唸る駆動音。関節部のロックが外れ、足裏アクチュエーターが床を押す。重心が滑らかに前へ移動する。
これは誤作動ではない。
起動だ。
ララクは静かに息を吐き、重心を落とす。視線を光るスリットへ固定する。
無機質な光が、彼を正確に捉えていた。
ARCの頭部スリットが強く発光する。
「ターゲットと戦闘を開始」
女性に聞こえる機械音声が、空間全体に響いた。抑揚のない冷たい声。
次の瞬間、床がわずかに沈む。
「!?」
ARCは爆発的な脚力で跳躍した。金属の身体が天井近くまで一気に到達し、空中で姿勢を制御する。重力を無視するような滑らかさで、軌道を修正。
「跳んだ……。充分、自由自在じゃないですか! 【フレイムランス】!」
ララクの手に灼熱が収束する。圧縮された炎が巨大な槍へと形を成し、一直線に放たれる。空気が歪み、赤い軌跡がARCを貫く。
外の観測室で、モドムが目を輝かせた。
「これは確かに、レベル以上の高規模スキルだ」
モニターに表示される出力値が跳ね上がる。
「……高火力検知……問題なし」
ARCは空中で両腕をクロス。炎の槍が直撃するが、装甲は崩れない。爆炎の中から、銀色の影が突き抜ける。そのまま脚を伸ばし、回転を加えた蹴りをララクへ叩き込む。
「!! レベル70代にも、ボクのスキルは通用するんです……がねぇ!」
ララクは横へ滑るように回避。床を蹴り返し、反撃の蹴りを放つ。鋭い一撃がARCの顔面へ直撃。
金属音。
頭部が勢いよく2回転する。だが内部フレームが瞬時に制御を取り戻し、何事もなかったかのように正面へ戻る。
「続行」
間髪入れず、拳が振り下ろされる。ララクは両腕で受け止めるが、衝撃が骨まで響く。床にひびが走るほどの圧力。
鈍い痛みが体を走る。
「……そうか!」
防御しながら、ララクは気づく。
動きはすでに完成域に近い。踏み込み、重心移動、連撃の組み立て。戦闘技術そのものは十分すぎる。ただ、自立できないだけ。
この空間が補助している。
天井、床、壁面。全てから微細な魔力波が流れ込み、ARCを支えている。
「(もう戦闘技術は十分すぎるんだ。ただ、完全に自分で自立できないだけで。それを補助しているのが、この室内の魔力……!)」
外で観察するゼマが眉をひそめる。
「な~んかすげぇ強いし、動きまわってるけど、どういうこと?」
「あの部屋自体が、脳なんだ。ここからでは分かりくいが、あの中には神経魔力という物体を制御し動かす補助できるエネルギーが充満している。そして最新AIによる戦闘思考力。だが……AIは人の体の仕組みを完全に理解していないようでね。まぁそれは、私たち人もそうなんだが」
モドムはモニターを睨みつけたまま答える。数値が高速で流れていく。
「ふ~ん、だっからこの部屋以外では動かせないんだ」
「ああ。冒険者ララクとの戦闘で、何かを掴んでくれよ人工知能よ」
その言葉の直後。
ARCの足裏が再び床を抉り、加速する。
ララクへ向けて、無駄のない一直線の踏み込み。
実験は、すでに本気の領域へ踏み込んでいた。