戦闘ユニット・アークの脚撃が床を抉る。ララクは体をひねり、紙一重で回避。
「 【ハイスピードステップ】 !」
床を爆発的に蹴り出す。視界が流れ、金属壁が一瞬で遠ざかる。数歩分の距離が、一呼吸で引き離される。
着地と同時に、両手へ魔力を集中。
「【ソードクリエイト・ハード】 破衝のコギリ」
硬質化した魔力が収束し、小型のノコギリ状ブレードが形成される。細かい刃が高振動を帯び、破砕特化の構造。あの装甲には貫通よりも削りが有効と判断した。
「【スラッシュムーブ】!!」
大きく回転。遠心力を乗せたまま弧を描き、アークへ急接近。ノコギリの刃が銀の装甲を削り取る。甲高い音とともに、細かな火花が散る。
装甲表面に細い傷が走った。
「あー、さっそく修正箇所が増えてしまったな。手間は増えるが、私の望んだ破格の戦闘データだ!」
モニター越しにモドムが笑う。ララクの高速移動軌跡が、光の線となって表示されている。
「刃物確認。ブレードスタイルに移行します」
アークの音声が変化。肩部装甲が展開し、内部から武器が射出される。展開と同時に大型の剣へと変形。銀色の刃が重く輝く。
「収納型ブレード・イレイションだ。君の仲間を、断ち切ってしまうかもな」
モドムの声は楽しげだ。
「生きてれば、なんとかくっつくんじゃない」
ゼマはあっさり言う。どこまで治せるか深く考えたことはないが、切断面が揃っていれば繋がるだろう、くらいの気楽さだ。
アークの剣が振り下ろされる。ララクはノコギリで受ける。だが刃同士が触れた瞬間、破衝のコギリが軋み、砕け散った。質量差と出力差が明確すぎる。
破片が床へ散る。
「距離を取るべき、そして電化製品には、雷特攻が定石なのかな」
後退しながら魔力を練る。空気が震え、青白い閃光が両手に収束する。
細長い両手持ちの槍が形を成す。雷の槍・ボルテクスピア。内部で雷流が渦巻き、放電が槍身を走る。
「 【刺突乱舞】!」
踏み込み。連続刺突。雷光が線となり、連打でアークへ迫る。槍先が装甲へ触れるたびに、火花と電光が弾ける。
「正確に対処します」
アークは一撃ごとの軌道を読み取り、大型剣を軽やかに動かす。最小限の動きで受け流し、弾き、角度をずらす。金属と雷がぶつかり、火花が激しく散る。
床に焦げ跡が刻まれる。
乱撃は止まらない。だがアークの防御もまた、崩れない。
実験室の中央で、雷と鋼が激突し続けていた。
「過去の戦闘データ、更新。最上クラスのエネミーと断定」
アークの機械音声が淡々と告げる。頭部スリットの光が一段と強まった。
「すごい、機械に褒められたんだ」
ララクは短く笑う。だが攻撃は通っていない。雷槍を握り直し、即座に投擲。
「【槍投撃】!」
青白い軌跡を描いて飛ぶボルテクスピア。しかしアークは大型剣で迎撃。空中で粉砕され、雷光が霧散する。
その瞬間、ララクは背走。出入り口の扉に背中をつける。冷たい金属の感触。これで背後からの奇襲はない。前方だけに集中できる。
「……ふぅ、魔獣使いに成るんだ……! 〈水獣魔合撃〉」
床に魔力陣が展開。空気中の水分が一気に凝縮され、濁流が生まれる。
【水虎魔操撃】
【水蛇魔操撃】
【水狐】
咆哮とともに、水で形作られた獣たちが顕現する。巨大な水虎が牙を剥き、水蛇が長い体をうねらせる。さらに3体の水狐が、俊敏に跳ね回る。
かつての仲間たちの技術が、ララクの中で融合している。水虎使いシヲヌ、ウォーターマスター・ヘルメサ、魔獣使いゲッテベデロン。その記憶と技能が、今ここで牙を剥く。
大量の水がアークとララクの間を埋め尽くす。床一面が瞬時に水没する。
「水没、にも弱いですかね? さぁ皆、激流襲撃だ!」
一斉突撃。
水虎が正面から叩きつけ、水蛇が脚部へ絡みつく。3体の水狐は散開し、多方向から連続で体当たり。水圧が装甲を打ち据えるたび、鈍い衝撃音が響く。
ララクの体は動かない。両腕を前に出し、魔力制御に全神経を集中している。魔操撃は操作に意識を割かれる。複数同時制御となればなおさらだ。
だからこそ背後を封じ、さらに広範囲の水で空間を制圧。アークが接近する余地を奪う。
「実際、水には弱いの?」
ゼマがモニター越しに尋ねる。
「防水など、はるか前からある技術だ。問題は水圧だな。あの規模の水は、触れただけでも指が吹っ飛ぶだろう」
モドムは冷静に答える。
事実、水虎の一撃がアークの胸部に叩きつけられ、装甲に歪みが走る。水蛇が締め上げるたび、関節部から火花が散る。
水狐は小型だが、3体が連携し、死角を突くように同時攻撃。狐型は自動協力の特性を持つ。曖昧な指示でも隊列を組み、挟撃を仕掛ける。その分大きさと火力は控えめ。しかし多方向からの圧力は確実に蓄積する。
激流が渦を巻き、銀色の機体を呑み込む。
水と鋼の衝突音が、実験室を満たしていた。