第412話
アルカディア・キャンパスシティ。
ヌーツ国内でも特異な都市区画の1つ。教育機関を中心に設計された巨大都市でありながら、同時に数十万人が生活する居住都市でもある。高層の講義棟、研究施設、訓練場が並ぶ一方で、その合間には寮、団地、学生向け住宅が密集している。
遠くから見ると、街の構造ははっきりと分かる。中央には巨大な学術区画。塔のような校舎群が林立し、その周囲を囲むように学生寮や研究者住宅が広がる。さらに外側には商店街、食堂街、娯楽施設が並び、都市としての機能を完全に備えていた。
朝の時間帯。
通学する学生たちの波が道路を流れていく。制服も学校ごとに違い、ローブ姿の魔術学園の生徒、武装訓練用の軽装を着た戦闘学園の学生、白衣を着た研究科の学生まで混じっている。
道路脇には大きな団地群。研究者の家族、学生、教師が共に暮らしている集合住宅だ。洗濯物が風に揺れ、子供たちが登校する姿も見える。
その光景を見ながら、ララクが歩く。
「……思っていたより、生活感のある場所ですね」
ゼマが辺りを見回す。
「学園都市って言うか、家族都市だな」
前方には巨大な広場があり、そこから何本もの通学路が伸びている。学生の流れは川のようだ。
ララクはその人波を観察する。
「あれ、全部学校なんですよね。ボクがいた田舎じゃ、考えられないです。学校というより、学び舎というか、そんな規模でした。」
「え~と、魔法学校、研究学校、芸術学校ね~、進路は選びたい放題だね。」
広場の噴水が朝日を反射する。学生たちの笑い声、電車の到着音、遠くの訓練場から聞こえる爆音。都市全体が若い活力で動いていた。
ララクはゆっくりとその都市を見渡す。
「……都市の中に、学校があるというよりは」
少し考えて言う。
「学校の中に、都市がありますね」
ゼマが笑う。
「区分はどっちでもよくない、それ」
「はは、同意義でしたかね」
アルカディア・キャンパスシティ。
知識と若者が集まる街。
そして、まだ知られていない謎が眠る都市でもあった。
「んで、あの奥で存在感出してるのが、それか」 ゼマは顎で遠くを指す。
そこには他の建物よりも一段と巨大な施設が見えた。高い塔を持つ白い校舎群。周囲より明らかに格の違う建築。
「あれが目的地の、インテグラル学院」 ララクは目を細める。
「この街のトップ校ってやつか」
アルカディア・キャンパスシティの大通りを、ララクとゼマは並んで歩く。道路の両側には寮や学生団地が並び、ベランダには干された洗濯物が風に揺れていた。小さな商店や学生食堂の前を通り過ぎると、次第に人の流れが濃くなっていく。通学時間帯。街そのものが学園へ吸い込まれていくようだった。
「これ、朝にしない方が良かったんじゃない」
ゼマは学生の波に押されながら呟く。四方から制服姿の生徒たちが広場へ流れ込み、そのまま講義棟や訓練棟へと散っていく。
「で、ですね。【ファントム化】使うのもアリですけど、不審がられて入校できないのも、めんどうですし」
ララクは冷静に答えるが、2人は完全に人の流れの中だった。問題は服装だ。学生服ではない。ララクは冒険者の軽装、ゼマはへそ出しのシャツに短いジーパン、その上で棒状武器を携帯している。どうしても目立つ。
通り過ぎる学生たちが小声で話し始める。
「冒険者?」
「武器持ってるんだけど」
「依頼とかで来たのかな」
「インテグラル学院に?」
「見学とかじゃない?」
ララクは視線を向けられても気にした様子はない。ゼマは肩をすくめる。
「観光客みたいになってるよ、あたしたち」
「まあ、事実に近いですね」
人の流れの先に巨大な建築が見えてくる。白い石造の校舎群。塔のような研究棟と広大な講義棟、訓練施設が一体化した巨大複合建築だ。入口の上部には大きな文字が刻まれている。
総合インテグラル学院。
アルカディア・キャンパスシティの中心にある最高峰の学園。魔、芸、知、体などを統合的に教育する機関だ。
学生たちは慣れた様子で門をくぐっていく。ララクとゼマも、その流れに紛れて門を越えた。敷地の中へ入ると、都市とは違う空気が広がる。広大な中庭、遠くの訓練場から響く金属音、講義棟から流れる教師の声。
ララクとゼマは注目を浴びながらも、学院の校舎へと入っていくのだった。