10巻 祝・追放100回記念   作:高見南純平

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第417話 

 私はあの部屋に入るたび、ついつい昔を思い出しちゃうんだよねぇ。

 

 クエディーカ少年専用の研究室。机には分解されたドローン、壁にはびっしり貼られた設計図、棚には工具と部品がぎっしり。今は静かだけど、当時はずっと機械音が鳴っていたよ。彼は授業が終わるとほぼここか試遊運転場に直行だったからねぇ。

 

 3年前。彼はまだ中等部だった。けれど、すでに優秀な成績を残していたよ。ガンユニットコンテスト最優秀賞受賞。ジュニアの部などではなく、他の研究者も含めてだ。設備はこちらで整えていたとはいえ、とととんでもない才能だ。それに技術者だけではなく、パイロットとしても優秀でね。ドローンレースでも、余裕の1位だった。

 

 彼が受け取ったトロフィーは、いくつも学院に飾ってある。

 

 とはいえ本人はそんなの気にもしてなかったねぇ。授業が終わればこの部屋に来て、機体を分解して、また組んで、改造して、試して。そんな毎日さ。ある日、私は後ろから声をかけたんだ。

 

「いつ勉強をしているんだい? また期末テストで1位だったねぇ。いや、誇らしいんだよ。だけど、君の成績は非現実的すぎてさ」

 

 すると彼、ドローンをいじりながら平然とこう言うんだよ。

 

「先生たちがよく言う『ここテストに出るから』を覚えていれば良いだけの、イージーゲーム。」

 

 いやぁ、思わず笑っちゃったね。

 

「学校のテストに知らない問題はでない、って? 応用問題もいっぱいあるでしょう」

 

 そう返すと、彼は工具を回しながらこう言ったんだ。

 

「先生の思考に寄り添えば、答えの道が見える。だからきっと、大規模な模試なんかは苦手です」

 

 その横顔見てねぇ、私はこう言ったよ。

 

「……そうなったら君は、それに合わせて勉強しそうだけどね。結構、負けず嫌いちゃんじゃない? 上昇志向もあるし」

 

 その時彼が触っていたのは、優勝したドローンだった。でもさ、普通なら飾るでしょ? 彼は違った。優勝機体をさらに分解して改造していたんだよ。

 

 そしてこう言うんだ。

 

「脳と技術にレベルは関係ないから。どんなスキルが得られるかのガチャも、そんなに気にしなくていいし。だからこそ、競い合う事に価値があると思うんです」

 

 いやもうさ、子供の言葉じゃないよねぇ。

 

 私は笑ってこう言ったよ。

 

「う~ん、説得力が子供の域を越えているよ。励んでよ~、天才くん」

 

 この世界ってさぁ、レベルによって身体能力が大きく変わるだろう? だから身体を使うスポーツって競技がややこしいんだよねぇ。階級を細かく分けたり、冒険者が強すぎたり、いろいろ問題が出てくる。

 

 でも脳力は違う。レベルアップの影響をいい意味であまり受けない。

 

 機器に関しては、才能というより調達力と環境だ。

 

 だから私はあの部屋を用意したんだよ。

 

 クエディーカくんが好きなだけ研究できる、専用の場所としてねぇ。

 

◇◇◇

 

 廊下を歩く3人の足音が、長い通路に静かに響いていた。壁には学生の研究成果や作品が並び、窓の外には広い校庭が見える。昼の光が廊下の床を明るく照らしていた。

 

 その静かな空気の中で、ゼマがぽつりと口を挟んだ。

 

「それであんな大層な写真を飾ってんだ」

 

 話を聞きながら、さっき見た額縁を思い出していた。廊下の展示スペースの中でもひときわ大きかった写真。上半身だけを切り取った構図で、学生展示の中でも妙に目立っていた。

 

 学長は歩きながら小さく笑う。

 

「意外と本人は気に入っていたんだよぉ。子供らしく目立ちたがりなところもあったし。そんで、彼のさらなる飛躍のために、リードちゃんを紹介したんだ」

 

 ララクが目を丸くする。(……プロフェッサー・リード)

 

「っあ、学長が仲介者だったんだ」 ゼマが何気なく言う。

 

 廊下の空気がほんの少しだけ重くなる。学長はいつもの軽い調子のままだが、視線は前ではなく、床の方へ少し落ちていた。

 

「後悔はしていないさ。本人の了承も得たし、何より『無謀な挑戦をしている。でもだからこそサポートしがいがあります』って張り切っていた。だけどあの子を親御さんの元に返せなかったのは、私の責任だよ……」

 

 その瞬間だけ、学長の表情がわずかに曇る。普段はどこか飄々としている彼女の顔に、ほんの一瞬だけ沈んだ影が差した。

 

 ララクは少し間を置いてから口を開いた。

 

「……学長は、その……やはり帰らぬ人になっていると思っていますか?」

 

 学長は歩く速度をほんの少しだけ落とし、静かに息を吐いた。

 

「えっと、ロドナルちゃんだっけ。あのバンドの。彼女がここに来た時に、私は答えのない問題を探しているようで不憫だった。だけど、答えを出す以上に完全否定するのも難しい事だ。私は君たちの調査を応援している……とだけ表明しておこうかな」

 

 それを聞いて、ララクとゼマは自然と顔を見合わせた。

 

(あのボーカル、自分でも結構調べてたんだな)

 

(それぞれに、それぞれを想う人がいる。……このクエストに、終わりがあると願いたい……)

 

 話しているうちに、廊下の先に大きな教室の扉が見えてくる。中からは学生たちのざわめきがうっすら漏れていた。

 

 学長はまたいつもの調子に戻って、軽く手を振る。

 

「協力は惜しみなくするけど、まっずはぁ私の依頼をこなして欲しいかな。ほら、ついたよ教室に」

 

「ええ、まずは目の前のクエストを達成します」

 

 ララクは小さく息を整え、少しだけ緊張した顔で扉を開いた。

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