10巻 祝・追放100回記念   作:高見南純平

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第419話

「ボクたちももっと、自分を表現した方がいいですかね?」

 

 ララクは学校の方針に従うべきか、学長に聞く。

 

 多目的室の空気は、自己紹介が終わったばかりの静かな余韻を残していた。整然と並ぶ机、白い投影壁、その前に立つララクとゼマ。そして席に座る3人の生徒の視線が、自然と前方に集まっている。

 

「それもいいけれど、さっそく本題に入った方が、キミたちのことを理解できるんじゃないかなぁ~」

 

「本題……、でも何から教えれば……」

 

 ララクは少し困った顔をする。

 

 冒険者の生活はララクにとってすでに日常だ。だが日常すぎるがゆえに、どこから説明すればいいのか逆に分かりづらい。

 

「まずは冒険者のルーティーンというか、流れを教えてくれるかい? 君たちもプロのリアルを知りたいでしょ?」学長が続ける。

 

「もちろん独学で調べてるけど、生の声を聴けるのは貴重、ですからね。その歳でこの会に呼ばれているのが、不思議だけど」

 

 カライジは前のめりの姿勢でララクを凝視する。

 

 その視線は完全に観察の目だった。体格、装備、立ち方、言葉の選び方。すべてを測るように見ている。

 

「ほい、これ自動出力マイク~。キミの言葉が、ここに映し出されるよん」

 

 学長が小さなピンマイクを差し出す。

 

「授業も、進化してるんですね」

 

 ララクは感心しながら受け取り、襟元に装着する。

 

 その瞬間、白い壁が淡く光った。プロジェクションシステムが起動し、投影の枠がふわりと浮かび上がる。

 

 ララクは生徒たちを一度見渡す。カライジは真剣な目、サイフウは机に腕を乗せて前傾姿勢、レッツタは相変わらずどこか遠くを見ている。

 

「そうだなぁ、まずは何よりも仲間、パーティーに所属するのが一般的、かな。ゼマさん、はソロの時期があったみたいですけど、それはかなり特別な例で、基本は団体で行動する」

 

 ララクの言葉に反応して、壁に文字が浮かび上がる。

 

【冒険者の基本行動】

・パーティー所属が基本

 

「体感、9割はパーティーだね。私だって、最初は……地元の奴らと組んでたし」ゼマが肩をすくめる。

 

 その発言も自動で要約され、文字として整理されていく。

 

「はい、さっそく質問したい」 サイフウがビシッと手を上げる。

 

「えっと、サイフウさん……どうぞ」 ララクが促す。

 

「私はできれば1人でこなしたい。報酬も、経験値も1人に集約する。組めばそれが分散すると思うんだけど」

 

 その質問に、カライジがちらっと彼女を見る。鋭い問いだった。

 

「ゼマさんの見解は?」

 

「きっついよ。精神的にも戦闘面でもね。自由だけどさ~、冒険中に話し相手はいないし」

 

「私は最低限のコミュニティで生きていける人種だけど。戦闘面で言うと?」 サイフウは質問を追加した。

 

「ダメージの受け方が倍以上になる。ヘイト、なんてタンクたちは言うんだっけ」

 

「ヘイト? 日常的には使わない単語だな」 カライジが眉をひそめる。

 

「ヘイトっていうのは、対象に向く相手の敵意だね。例えば、10体のゴブリンが森にいる。ソロだと、それら全ての視線が1人に集約される」 ララクが説明する。

 

 その瞬間、壁の映像が切り替わった。

 

 森の簡単な背景。中央にはデフォルメされたララクのキャラクター。周囲を囲む10体のゴブリンが一斉に振り向く。ララクのキャラは汗を飛ばしながら、へとへとになっていた。

 

「だけどここに、他の仲間がいれば、それが分散。盾役のタンクが守り、攻撃役が動きやすくなる。初歩的なポジショニングだけど、熟練パーティーでも使われていた、な」

 

 映像が変わる。

 

 ララクの横に仲間が現れる。盾を持った戦士、後ろに剣士、さらに離れた位置に魔法使い。ゴブリンの視線が盾役に集まり、他の仲間が自由に動く構図がアニメーションで表示された。

 

 キャラクターは少しコミカルに動く。盾役が攻撃を受け止め、剣士が横から斬り込み、魔法使いが後方から魔法を撃つ。

 

 その後ろで、ララクのキャラクターが安心したように座り込んでいた。

 

 そしてそのパーティーの形は、ララクにとってどこか懐かしい構図でもあった。

 

「でもさ、ゼマ……先生はソロでやってたわけでしょ?」 サイフウが視線をゼマへ向ける。

 

「それは私が戦えるヒーラーだから。私は1人でも暴れるし、す~ぐにキズなんて消し飛ばせっから」 ゼマが笑う。

 

 ゼマはララクの横まで歩み寄り、わざとマイクの近くで話す。襟元についた小さな機械に向かって言葉を投げるその仕草は、半分遊びのようだった。どうやらこのプロジェクション装置の反応を楽しんでいるらしい。

 

 その瞬間、白い壁に映っていたパーティー図がふっと消える。

 

 代わりに現れたのは、棒を持ったゼマのデフォルメキャラクターだった。周囲にはゴブリンの群れ。ゼマのキャラクターが青い棒を振り回して突っ込み、次々と敵を叩き飛ばす。ゴブリンの攻撃が当たる。だがすぐに体が光り、傷が消える。回復の光が弾け、そのまままた殴り返す。

 

 戦って、治して、また戦う。

 

 その様子が軽快なアニメーションで繰り返され、画面の中のゼマは完全に無双状態だった。

 

「……つまり、1人で何役もこなせないと、非現実ってこと、か。それを聞けただけでも、この授業に参加してよかった」

 

 サイフウは映像から視線を外さない。ソロ志望の彼女にとって、それは現実的な答えだった。可能性はある。だが条件が極端に厳しい。その線引きを理解しただけでも価値があったらしい。

 

「サイフウちゃんは、相変わらず孤独スタンスだね。……よしララクくん、次行ってみよう」 学長が軽く手を叩く。

 

 ララクは小さく頷き、話を続けた。

 

「次は、モンスターを倒した後のことを話しましょうか。戦闘を行うと経験値が貰えてレベルアップ。そしてスキルを得て成長していく。それとは別に、装備も強化するな。武器、防具。

 ボクたちは動きやすさ重視だったりして、身に着けるものはあまり変わらないけど、ほらこのクリスタルロッド。これも、アイアンロッドって武器から魔晶石を追加して作って貰った製品だし」

 

 説明に合わせて、壁の映像がまた変わる。

 

 ゼマのキャラクターが最後のゴブリンを叩き倒す。すると上から光が降り、頭の上に大きく【LEVEL UP】の文字が浮かぶ。次の瞬間、画面は鉱山の風景に切り替わる。小さなララクとゼマのキャラクターが岩壁を叩き、光る結晶を掘り出している。

 

 魔晶石。それがいくつも集まると、画面中央に鉄の棒が表示された。

 

【アイアンロッド】

 

 その周囲に魔晶石が吸い寄せられる。結晶がはめ込まれ、棒の先端が光り、透明な結晶へと変化する。

 

【クリスタルロッド】

 

 武器が進化する過程が、分かりやすいアニメーションで描かれていた。

 

 広い多目的室の白い壁いっぱいに、その映像が映し出される。

 

 カライジは身を乗り出して見ている。サイフウは腕を机に乗せたままじっと観察している。レッツタは少し遅れて画面を見上げ、静かに瞬きをしていた。

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