「悩みますねぇ、完成度が高い分、これ以上どう強化すれば……」
ララクはクリスタルロッドを見ながら考え込む。店内の照明に照らされた透明な結晶の芯が、淡く光を返している。棒としての形は整いすぎているほど整っていた。重心、素材、付与されている【伸縮自在】。すでに実戦で長く使われてきた武器だけあって、欠点らしい欠点が見当たらない。ララクはロッドを横から眺めたり、先端の結晶を光にかざしたりして、角度を変えながら観察していた。
「ララク先生、悩むんだったら、代行がおすすめですよ。ほら、こいつに任せればいいんです」
カライジが横を指差す。
指された先では、レッツタがまだロッドの先端を触っていた。寝癖が昼間までそのまま残った髪があちこちに跳ね、視線は少し上の空。武器を触っているのに、意識は別の場所にあるようなぼんやりした顔だ。
「思考の代行って、面白いこと言うね」ララクが笑う。
「おいレッツタ、こっちに集中。今触ってるロッドを、強化するならどう試行錯誤する? できれば元の長所を伸ばす方向で」
カライジが背中を軽く叩く。
その瞬間だった。
レッツタの目の焦点が急に合う。
ぼんやりしていた瞳が、ぴたりとロッドへ固定された。思考のスイッチが切り替わるのが、見ている側にも分かるほどだった。
「クリスタルロッド、魔晶石が素材で、【伸縮自在】の効果が付与されてるのか。長さは自由自在。ゼマ先生、これでどういう戦い方をするの? 教えて、はやく、いますぐに」
言葉が一気に加速する。さっきまでのぼんやりした様子が嘘のようだった。
ゼマが思わず半歩下がる。
「うわわ。えっと、伸ばしてまた縮めて移動したり、あとは相手に巻き付けたり」
レッツタはロッドを見つめたまま、空中に指先を走らせる。頭の中で戦闘の動きを再現しているようだった。
「伸ばす方向性も決められるんだ。だったら、それをもっと複雑化させるのが、最適なのかなぁ。【棒適性】があるなら、棒の形を逸脱しない限り、使用できるんじゃないかな。うん、【形状変化】、それが多機能化出来て、実用性高いと思う」
店内が一瞬静かになる。
サイフウは髪を肩に揺らしながら腕を組み、レッツタの言葉を聞いていた。加工職としての視点で、その発想の意味を考えているらしい。
さっきまで寝癖の少年だった人物が、今は別人のような速度で思考を展開している。
「聞いた事ないスキルだな。変形って、こと?」
ララク自身もそのスキルを持っていない。だからこそ興味が湧いた。
ララクは少し身を乗り出し、ようやく会話の軸がこちらに向いたレッツタへ視線を向けた。
「希少スキルだけど、存在が確認されているスキルだよ。それを模倣して、変形武器の開発が今、流行しているから。んね? カライジ」
レッツタはクリスタルロッドを見つめたまま言う。寝癖の跳ねた頭は相変わらずだが、目の奥だけがはっきりと覚醒していた。思考が完全に武器へ向いている。
「盾と剣を両立している武器とか、開発中って聞いたことあるな」
カライジが頷く。背の高い体を少しかがめ、壁に並ぶ武器を眺めながら言った。短髪の頭がわずかに動き、工業製品を分析するような目つきで棚を追っている。
「変形武器の安定化は、技術面とコストの問題で、まだまだ研究期間が必要だと思う。だけど、スキルを組み込むなら、失敗の可能性の方が低い。……そんで、変形先だけど、例えばこれとか。」
レッツタが指を伸ばす。
示されたのは、壁に掛かった三叉の槍だった。中央の刃を軸に左右へ刃が分かれ、三つの矛先が並んでいる。刺突の威力を増しつつ、引き裂きにも使える特殊な形状だった。
「あ~、確かに三方向に伸ばせなくはないけど、あ~、これは戦闘じゃポンコツだな」
ゼマはそう言いながら、すぐに試す。
クリスタルロッドを構え、先端を伸ばす。透明な棒が音もなく前へ伸びる。そこから三つに分かれるイメージで操作してみるが、先端はただ伸びるだけで綺麗に分岐しない。少し歪んだ形になり、すぐ元へ戻る。
どうやら【伸縮自在】は長さの変化には優れるが、形そのものを変えるのは得意ではないらしい。
「これで突きの威力が増すだろうし、破壊力を高めたいならこっちの棍棒とかもおすすめ」
レッツタは今度は棚の別の武器を指した。
太い頭部を持つ棍棒だった。単に大きいだけではなく、岩のような突起が無数に出ている。殴れば衝撃だけでなく、砕く力も加わる構造だ。
カライジが自然と歩み寄り、柄を持ち上げて重さを確かめる。ごつっとした体格の彼の手の中で、棍棒がわずかに唸った。
だがこの形状を再現するとなれば話は別だ。突起の一つ一つまで再現するなら、単純な伸縮では到底足りない。
「まじか、こんなんで敵をぶっ叩けたら爽快、破壊だなぁ~。まじか、棒って言っても幅広いんだな」
ゼマの目が完全に輝いていた。
棚に並ぶ槍、棍棒、斧。
それから自分のクリスタルロッド。
それらを順番に見比べながら、頭の中で戦い方を想像している。
その様子を横で見ていたララクは、静かに息を吐いた。
(決まりだな)
ゼマの武器への意欲は、完全に火がついていた。
「それじゃあ、【形状変化】のスキルを持つモンスターを狩猟、それを目的にしよう」ララクが言う。
店内に並ぶ武器の光が、わずかに揺れる。鍛冶場の奥から漂う熱気の中で、話題は自然と狩猟へ移っていった。
「該当するモンスター知ってるぞ。ケルベアス、それ以上の凶暴高レベルモンスターだ」
その言葉にララクは小さく息をつく。
「なんと……。けれど強敵の方が、強化素材としては理になってますよね」
ララクの言葉を受けて、顎髭の店主がゆっくり頷いた。
「最上の代物になるのは間違いないな。そいつは、可変魔獣グレグリーライノ。鉄山の暴獣だ」
重たい名前が店内に落ちる。
こうして、ララクたちの課外授業はもう1つ先へ進むことになった。