3人の装備に、ララクの目が鋭く光った。
小さな金属装置が瞬時に展開し、それぞれの武器へ変わる。その動作は滑らかで、最初からその形だったかのように自然だった。金属同士が噛み合う音がわずかに響き、斧の重い刃、細身のレイピア、そして鋭い金属の爪が並ぶ。
「これが最先端国の武装……!」
ララクは思わず声を漏らす。技術として知識はあったが、実際に目の前で展開される様子を見るのは初めてだった。
「おいおい、もう変形してんじゃん」
ゼマが肩の傷を気にしながら、呆れたようにぼやく。
「流行りなんで。でも、正確には拡張ですよ。ここからさらに形を変えたりは出来ないんすよねー」
カライジが斧を軽く振ってバランスを確かめながら説明した。
ヌーツの装備は、小型状態から長型武器へ展開する物が多い。携帯性と実用性を両立させた技術だ。しかし武装の規模が大きくなればなるほど、内部構造は複雑になり、作成や修繕のコストも跳ね上がる。だから多段階の変形を持つ武器は少なく、多くは今のように一度の拡張で完成する形式に落ち着いていた。
ララクは3人の武装を改めて観察し、小さく頷く。
「……その機能に興味があるし、戦闘を許可するよ。……作戦はボクが考えてもいいけれど、ここはレッツタくんに任せた方が良いかな」
岩陰のどこかで、ストークキャットの気配がまだ動いている。静かな鉄山の空気の中で、3人はそれぞれの武器を構えた。
岩陰のどこかに、ストークキャットは潜んでいる。姿は見えない。だが視線の外側で、こちらの動きをじっと窺っている気配だけがある。鉱物の影が多すぎる。巨大な結晶柱、岩肌から突き出した鉱石塊、砕けた鉱脈の段差。そのどれもが、猫一匹を隠すには十分すぎた。
レッツタはゆっくり息を吐き、金属の爪が伸びたグローブを口元へ持っていく。カチ、と軽く爪の先端を歯で噛む。思考に入るときの癖だった。
視線は周囲の鉱物をなぞる。岩陰。結晶の影。鉱石の裂け目。
多すぎる。
ここでは、猫の方が圧倒的に有利だ。
「……ストークキャット、別名影猫。物陰に隠れて、相手を追い詰める変質的な狩人」
小さく呟きながら、レッツタは鉱石の影を指でなぞる。猫が潜める場所を一つ一つ想像していく。
「逆に言えば、影がなければ狩りは成立しない」
レッツタの目が細くなる。
視線が、周囲に突き出している巨大鉱物へ向いた。人の背丈を超える結晶柱。肩ほどの高さの鉱石塊。山肌から斜めに飛び出している岩塊。
全部、隠れ場所だ。
レッツタはゆっくり口元の爪を離した。
「……決めた」周囲を見回す。「全部壊す」
カライジが眉を上げる。
「全部?」
レッツタは鉱物の並ぶ岩場をぐるりと指さした。
「この辺りの鉱物、全部ストークキャットの隠れ蓑だ。隠れる場所があるから奇襲できる」
岩場に風が流れる。結晶がかすかに触れ合い、細い音が鳴った。
「鉱物を壊せば影が減る。影が減れば猫は動く。動けば追える」
カライジは斧を肩に乗せ、周囲の巨大結晶を見上げる。
「でもさ、それ全部鉱石だろ。依頼的に大丈夫なんすか」
それに答えるべくララクは軽く周囲を見回した。突き出した鉱物の大半は、人の腕では到底運べないサイズだった。地面から根のように食い込んでいるものも多い。
「比較的自由に発掘していいはずだから、問題ないよ。それに持って帰るにしても大きすぎるし、引っこ抜かないといけないし」
「……じゃあ破壊行動に対して、気を負う事はないっすね」
作戦を飲み込んだカライジたちに対して、レッツタはさらに細かな指示をする。
「カライジと俺は走って捜索。猫が動いたら追う。サイフウは振動レイピアで壊して欲しい。」
レッツタは爪を軽く打ち鳴らすと、最後にゼマとララクを見る。
「先生たちはこの場で鉱物を壊して影を減らしてくれ」
「おっけー。派手にやっていいんだな」 ゼマがロッドを肩に乗せる。
「モンスターは一旦、キミたちに一任するよ」
作戦の方向性が決まった瞬間。カライジのブーストアックスが振り上げられた。
「……出力微力で、充分かな」
カライジの斧が巨大な結晶柱へ叩き込まれる。内部機構が作動し、刃が加速する。鈍い衝撃音とともに結晶がひび割れ、砕けた破片が地面へ散る。
ゼマのロッドが別の鉱石を打つ。光の衝撃が走り、岩肌から突き出していた塊が砕けて崩れる。
サイフウは細剣を突き込み、振動で鉱脈の裂け目を崩す。細い音が続き、岩の一部が崩れ落ちた。
鉄山の空気が変わる。
今まで静かだった岩場に、鉱物が砕ける音が次々と響いた。結晶柱が倒れ、鉱石の影が崩れ、隠れ場所が消えていく。
そしてどこかの岩陰で、気配が動いた。