10巻 祝・追放100回記念   作:高見南純平

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第429話

「これまで知見してきたモンスターの中では、最大級だ。カライジくん、一度みんなの元に……んなぁ!?」

 

 ララクの言葉が途中で途切れる。視線が下へ固定され、そのまま鋭く細まる。

 

 眼下には鉄山が広がっている。むき出しの岩肌に無数の鉱物が突き出し、エメラルドや桜晶石が陽光を反射していたはずの場所。だが今は違う。グレグリーライノの出現によって砕かれた岩と結晶が散乱し、粉塵が舞い、光が乱反射して視界を揺らしている。晴れ渡った青空と、その下で崩れた大地。その中心に、あの巨体がいる。

 

 あの巨体。明らかに近距離特化の構造。突進と破壊にすべてを振り切ったような姿。そのはずの存在が、ゆっくりと角を持ち上げる。砕けた鉱石を踏み潰しながら、その動きだけで周囲の空気が押しのけられていく。

 

「……あれが俺たちの目的の、変形……!」

 

 カライジの声が震える。

 

 螺旋状のドリルが軋み、内部構造がほどけていく。ねじれが解かれ、重い音とともに展開される。その過程で、周囲に散らばる鉱物がわずかに浮き、振動に引き寄せられるように跳ねる。だがそれは単なる形状変化ではない。長さが伸びる。質量が変化し、刃が空中へと押し出されていく。

 

「だけど、形を変える事から逸脱していないか?」

 

 ララクの低い声が落ちる。

 

 ドリルは完全に姿を消し、長大な剣へと変わる。地上から空中へ届くほどの刃が、陽光を受けて鈍く光り、その下で粉塵が逃げ場を失って渦を巻く。

 

 グレグリーライノ・スラッシャースタイル。

 

 刃が赤黒く染まる。血が広がるように色が侵食し、魔力が一点に凝縮されていく。周囲の空気が歪み、鉄山の破片が押し流される。

 

【ヘルスラッシュ】効果……殺傷能力を極限まで高めた斬撃を放つ。

 

【ストロングスラッシュ】との違いは、魔力消費量と威力の違い。前者の【ヘルスラッシュ】のほうがどちらも高い。故に連撃とは相性が悪く、乱舞のようなスキル元には【ストロングスラッシュ】のほうが効率は良い。

 

 振り上げられた剣角が、ゆっくりと軌道を描く。その動きに合わせて空気が裂け、青空さえ歪むように見える。圧が押し寄せ、浮遊している二人の体をわずかに揺らす。

 

 ララクは即座に判断を切り替えた。

 

「ごめんカライジくん、皆の元へぶっ飛びかえってくれ」

 

 言い終わるより早く腕を掴む。引き寄せ、空中で一回転。遠心力を乗せ、そのまま投げる。

 

「っへ? へぇぇぇぇぇええええええ!?」

 

 叫びを残しながら、カライジの体が弾き飛ばされる。風を裂き、砕けた鉱石と粉塵が舞う鉄山の上を一直線に戻されていく。

 

 その直後、グレグリーライノの剣角が振り下ろされようとしていた。

 

 ララクは振り下ろされる剣角を視界の端で捉えた瞬間、空中で体を捻る。軌道をずらし、刃の直撃を避ける。だが次の瞬間、遅れて叩きつけられた風圧が空間ごと押し潰すように襲いかかる。空気が壁のようにぶつかり、浮遊していた体が横へと弾かれる。青空の中で位置がずれ、視界が揺れる。

 

(地上特化の鉄怪物、なんて簡単なモンスターじゃないな。これが……可変の強み)

 

 ララクはすぐに姿勢を立て直す。風に押されながらも高度を維持し、グレグリーライノから一瞬も目を離さない。その巨大な剣角が大地を裂き、鉄山の鉱物をまとめて断ち割る光景を捉えながら、同時にカライジの動向を追う。

 

「うぉおおおお、誰か俺を、受け止めてくれぇええええええ!」

 

 空中を吹き飛ばされながら、カライジが叫ぶ。体は回転し、視界が流れ続ける。鉄山の岩肌、砕けた鉱石、仲間の姿が交互に映り込む。その中でサイフウの姿を捉えるが、距離がある。受け止めるには無理だと瞬時に判断が下る。

 

「名乗りをあげよぉう!」

 

 ゼマがロッドを背中に背負い直し、地面を蹴る。鉱石を踏み砕き、粉塵を蹴散らしながら一直線に駆け出す。片手を大きく上げ、目立つ動きで位置を示す。最短距離での迎撃。

 

「磁力ターゲットはブーストアックス、そしてカライジを回収!」

 

 レッツタも同時に動く。両手のクローから発生した磁力が、カライジのブーストアックスを捉える。引き寄せられる力に身体ごと引っ張られ、地面を蹴る力と合わさって異常な加速を生む。鉱石の上を滑るように駆け、ゼマと並んで着地点へと突っ込んでいく。

 

「ブースト使えよ」

 

 サイフウの低い一言。

 

 その瞬間、カライジの意識が切り替わる。空中で無理やり体勢を整え、ブーストアックスを握り直す。内部機構を操作し、魔力を流し込む。次の瞬間、推進力が発生し、体が前へと押し出される。

 

 空中で軌道が変わる。

 

 滑空するように進路をずらし、二人の待つ地点を外れる。速度を落としながら別方向へ流れ、安全な地帯へと叩き込むように着地する。

 

「っお、おまえ! 受け止めさせろよ!」

 

「急停止不能!」

 

 減速できないまま、ゼマとレッツタは正面から衝突する。勢いそのままにぶつかり、互いの体を押し潰すように絡み合って転がる。鉱石を弾き飛ばしながら数回転し、ようやく止まる。

 

「っぐべべ。……お、男と抱き合っちゃった」

 

「……っつぅ、カライジが生存しているなら、それでいいや」

 

「おい、くっついている美女に興味を持て」

 

 ゼマの言葉には耳を貸さず、レッツタはふっと表情を緩める。緊張が抜け、視線がぼやけていく。そのまま思考の海へと沈み込み、現実から半歩離れたような顔になっていた。

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