10巻 祝・追放100回記念   作:高見南純平

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第430話 

「……ゼマさんがいるし、命の保証は確立されていると思うけど。(……あの子たちの安否が最優先、これが保護者の気持ち……)」

 

 年齢は同じでも、引率という立場が意識を引き上げる。空中で姿勢を維持しながらも、視線は一瞬だけ地上へ流れる。

 

「ボクも死ぬ気はしないけど、可変が驚異的だな」

 

 次の瞬間、グレグリーライノの頭部が歪む。長大な剣だった角が内側からほどけるように崩れ、硬質な直線が粘りを持った曲線へと変わる。重い軋み音とともに構造が組み替わり、角がそのまま鞭へと変形する。

 

 振り抜かれる。

 

 空気が裂ける音が連続する。しなりを活かした軌道は読めない。頭部ごと振り回す動きで、何度も空間を叩き割るように打ち込まれる。風圧が重なり、空中にいるララクの体を押し流そうとする。

 

「っき、レベル70台の攻撃力だな」

 

 ララクは体をひねり、わずかな隙間を抜ける。それでも完全には避けきれない。鞭の先端が肩を打ち、腹をかすめ、衝撃が遅れて内部に響く。浮遊が乱れ、位置がずれる。

 

(思い出すのは、シームルグか。……それ以外は、精霊だったり神様だったり、測りかねない者が多すぎる。純粋な化け物なら、ボクの攻撃が通じるけど、防御力にも優れているのは殴らなくたって分かる。本来の頑丈さに、【防御力上昇】もあるだろう。……それなのに、この対応力……)

 

 回避しながらも、意識は一点に固定されている。角。すべての変化の起点。攻撃の合間を縫い、視線と魔力をそこへ集中させる。

 

「 【サーチング】」

 

 発動と同時に、揺れる視界の中で情報だけが切り取られる。青白い半透明のパネルが目の前に展開される。

 

【可変系】

効果……物質の量、長さ、形を変更可能

 

 

 その一文を捉えた瞬間、ララクの目がわずかに細まった。

 

(そうか、【伸縮自在】とは似て非なる存在。あっちはあくまで長さを変えるだけだから、質量の変化は最小限。けど【可変】は、魔力で物質を加える事ができるんだな。だから、頭部形状が変わるだけではなく、異様なまでに肥大化するのか)

 

 分析を終えたララクは、風を裂くように高度を落とす。粉塵が渦巻く鉄山へ滑り込み、着地の瞬間に膝をわずかに曲げて衝撃を逃がす。砕けた鉱石が足元で砕け、乾いた音が連続する。顔を上げると、視界の先にグレグリーライノ。距離はあるが、互いの動きも呼吸も感じ取れる間合い。巨体がゆっくりと向き直るたびに、地面が沈み、散らばった鉱物が軋む。

 

「……帰りましょう、と言いたいところですけど……そもそもの標的はあの可変魔獣なんですよね」

 

「っ確かに、もう初戦闘はこなしたけどさ、もともとこれの強化だもんねぇ~」

 

「授業のチャイムはないよここには。最後まで勤めてよ、ララク先生」

 

 サイフウが軽い足取りで近づく。砕けた結晶を踏みしめながらも、その視線は一切ぶれない。巨大な影を正面から捉え、歩幅も呼吸も変えない。

 

「……冒険者向きな覚悟思考だね、キミは。素晴らしいけど、ルーキーの敗北原因は主に2つある。過信と不足。怯えているぐらいが、生存率をあげるよ」

 

「じゃあ、そうする。だから戦わせて」

 

「……はぁ、教育って難しい。ボクも学んでいる人生なのに……」

 

「つってもさ、私の攻撃ですらあいつに通用しないよ? レベル差、20以上あったら与えるダメージなんて微々たるも~んよ」

 

「でもララク先生は?」 サイフウは戦う姿勢を崩さない。

 

「倒せるよ。これまでもクエストは達成してきた」

 

「だったら私たちは陽動だ。結構、アクティブなのは証明したよ……さっきの猫狩りで」

 

 ララクは一瞬だけ目を閉じる。耳に届くのは、一定の間隔で鳴る重低音。グレグリーライノの踏み込みが、大地そのものを叩いている。空気が震え、足元の小さな石が跳ねる。

 

「……カライジくん、キミは? 恐怖に抗えるかい?」

 

「冒険者、目指したいので。……サイフウが前を向くなら、俺も肩を並べたい」

 

「並列に歩くのは嫌いだけど……その感じでもっと戦う意思を示して。ララク先生、説得できそう」

 

「……ええんじゃん、ララク先生。私の前で骨折なんてさせない、っていうか維持させないっていうか。即死級でも、あんたなら【テレポート】で退避できるっしょ」

 

「……レッツタくんは……指示さえすれば、集中してくれそうだしな。……学長との約束、皆の安全もだけど、貴重な体験をさせてあげないとか」

 

 ララクはゆっくりと目を開く。視界の中で、巨体がさらに圧を増して見える。だがその重さを受け止めるように、思考が定まる。覚悟が決まる。

 

 その瞬間。

 

 グレグリーライノが動いた。

 

 頭部の角が横へと広がる。骨格が軋み、内部から押し広げられるように幅が増す。刃のような縁を保ったまま左右へ伸び、まるで大地を削るための巨大な板へと変形する。次の一歩で地面が沈む。踏み込んだ箇所から衝撃が波紋のように広がり、周囲の鉱物が一斉に跳ね上がる。

 

 突進。

 

 爆発的な加速。巨体が一直線に滑り出す。進路上の岩肌が削れ、突き出していた鉱物が根元からへし折られ、粉砕される。エメラルドの破片が弾け、光の粒となって宙に散る。そのすべてを巻き込みながら、鉄の塊が迫る。

 

 グレグリーライノ・ブルドーザーホーン。

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