10巻 祝・追放100回記念   作:高見南純平

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第431話

「討伐対象は、グレグリーライノ。ボクがメイン攻撃を担当するから、皆は相手の意識を奪うように攻撃して。ただし……」

 

 言葉を継ごうとした瞬間、サイフウが一歩踏み込んで先に答える。

 

「犀に近すぎない事、先生たちから離れすぎない事」

 

「……絶対に守るよ、キミたちの事を」

 

 ララクは一瞬で戦闘構造を組み替える。この戦いでは役割の分離が成立しない。自分が攻撃の軸でありながら、防御の要にもなる必要がある。敵の注意を引くのは生徒たち。その全員の位置と生存を同時に管理し続ける戦い。

 

「それじゃあ、一定の距離を保つ戦闘隊形になろう。……レッツタくんは、聞こえてるのかな」

 

「……ふぅ、レッツタ。お前なら注意事項を守りつつ戦えるだろ?」

 

 肩を叩かれたレッツタの意識が切り替わる。ぼやけていた視線が一点に収束し、グレグリーライノを捉える。

 

「相手の表面材質は鉄に近いから、俺の磁力が最大限に発揮できるよ」

 

 次の瞬間、全員が動く。鉄山の起伏と砕けた鉱物を利用し、それぞれが距離を取って散開する。足場は悪いが、逆に死角が増える。視線を分散させるには十分な地形。

 

 正面に残るのはララクただ一人。

 

 迫り来る巨体を前に、ララクは静かに手をかざす。

 

「まずはボクへの意識を減らさないとか。 【ディープミスト】」

 

 足元から霧が噴き上がる。湿り気を帯びた白が一気に広がり、鉄山の光景を飲み込んでいく。砕けた鉱物の輪郭がぼやけ、ララクの姿も影のように曖昧になる。

 

 それでも、グレグリーライノは迷わない。

 

 広げたブルドーザー状の角を構え、その影へ一直線に突進する。霧を押し裂き、地面を削りながら進むその軌道は、一直線の破壊。

 

 その正面へ。

 

 別方向から同時に、光と衝撃が走る。

 

【ウォーターレーザースパイラル】

 効果……螺旋状の水流を発射する。

 

【バーストスパーク】

 効果……発火性の強い雷を発射する。

 

【ゴールデンハンマー・ハード】

 獲得条件……【ゴールデンハンマー】【耐久性強化】を所持。

 効果……頑丈な金系統の大槌を創り出し、振り下ろす。

 

 螺旋を描く水流が霧を切り裂き、雷が空気を焼きながら直撃する。さらに上空から、質量そのものを叩きつけるような黄金のハンマーが落下する。三方向から重なった衝撃が、ブルドーザー状の角へと集中する。

 

 轟音が弾ける。

 

 衝突の瞬間、鉄山全体が揺れた。金属を砕くような振動が足元から伝わり、散らばった鉱石が跳ね上がる。突進の勢いが削がれ、巨体がわずかに押し戻される。角の先端が砕け、頭部が崩れ落ちるように沈む。

 

 確実にダメージは入っている。

 

 だが、止まらない。

 

 グレグリーライノは砕けた頭部を無理やり持ち上げる。潰れたはずの構造が、軋みながら再び形を保つ。小さな目が鈍く光り、次の踏み込みへと力を溜めていた。

 

「ボズゥウウウウウ」

 

 奇烈な音が炸裂する。次の瞬間、グレグリーライノの全身から煙が噴き上がった。装甲の継ぎ目、脚部の隙間、頭部の奥から白い噴流が一斉に放出される。鋼鉄の体と相まって、その姿はまさに稼働する重機そのもの。噴き出した煙は濃く重く、【ディープミスト】の霧を押しのけながら広がり、やがて視界を覆っていた白を塗り潰していく。

 

 やがて煙が晴れる。

 

 青空の下、削れた鉄山の地表だけが露わになる。だが正面にいるはずのララクの姿はない。標的を見失った巨体が、わずかに頭部を揺らす。

 

 その瞬間。

 

 鈍い衝撃が、巨体の後方に走る。

 

 ライノの巨大な尻に、何かが叩きつけられた。致命的なダメージではない。装甲を貫くほどでもない。それでも、確かに肉体へと届いた感触。わずかな違和感が神経を逆撫でする。

 

 巨体が急停止する。地面が削れ、砕けた鉱石が前方へ滑る。すぐさま脚を踏み直し、180度、向きを変える。

 

 その先にいたのは、ゼマ。

 

 クリスタルロッドが不自然な長さに伸びている。【伸縮自在】が付与されたそれは、距離を無視して空間を貫くように延び、ライノの背後へと届いていた。ゼマは軽く踏み込み、さらに突きを繰り出す。

 

「よこせ、その変形スキル!」

 

 狙いは明確だった。この討伐において、最も恩恵を受けるのは彼女と、その武器であるこのロッドだ。強化しようとしているその武器で、対象をぶん突く。これは冒険者の武器づくりとしては、王道的な流れと言える。

 

「ボシュウうう」

 

 喉ではない。体内から響く低い音が漏れる。怒りとも警告とも取れる振動が、空気を震わせる。

 

 次の瞬間、グレグリーライノが踏み込む。

 

 頭部の角が再び変形を始める。直線だった構造に節が生まれ、関節のように折れ曲がる。先端が広がり、厚みを持ち、巨大な刃ではなく面へと変わっていく。形成されるのは、土石を掻き出すための形状。

 

 グレグリーライノ・ショベルホーン。

 

 地面を抉り、押し退けるための構造。突進と同時にすべてを排除する形。鉄山の岩肌に食い込み、鉱物ごと削り取りながら前進するその姿は、土木機械そのもの。

 

 この変形が意図的なものなのか、それとも本能的な進化なのかは分からない。重機を模したのか、それともこの存在を元に重機が生まれたのか。専門家の多くは後者を推しているが、グレグリーライノの変形は個体差が激しく、いまだ解明には至っていない。

 

 ただ一つ確かなのは、その巨体が再び破壊の軌道に乗ったという事実だった。

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