「討伐対象は、グレグリーライノ。ボクがメイン攻撃を担当するから、皆は相手の意識を奪うように攻撃して。ただし……」
言葉を継ごうとした瞬間、サイフウが一歩踏み込んで先に答える。
「犀に近すぎない事、先生たちから離れすぎない事」
「……絶対に守るよ、キミたちの事を」
ララクは一瞬で戦闘構造を組み替える。この戦いでは役割の分離が成立しない。自分が攻撃の軸でありながら、防御の要にもなる必要がある。敵の注意を引くのは生徒たち。その全員の位置と生存を同時に管理し続ける戦い。
「それじゃあ、一定の距離を保つ戦闘隊形になろう。……レッツタくんは、聞こえてるのかな」
「……ふぅ、レッツタ。お前なら注意事項を守りつつ戦えるだろ?」
肩を叩かれたレッツタの意識が切り替わる。ぼやけていた視線が一点に収束し、グレグリーライノを捉える。
「相手の表面材質は鉄に近いから、俺の磁力が最大限に発揮できるよ」
次の瞬間、全員が動く。鉄山の起伏と砕けた鉱物を利用し、それぞれが距離を取って散開する。足場は悪いが、逆に死角が増える。視線を分散させるには十分な地形。
正面に残るのはララクただ一人。
迫り来る巨体を前に、ララクは静かに手をかざす。
「まずはボクへの意識を減らさないとか。 【ディープミスト】」
足元から霧が噴き上がる。湿り気を帯びた白が一気に広がり、鉄山の光景を飲み込んでいく。砕けた鉱物の輪郭がぼやけ、ララクの姿も影のように曖昧になる。
それでも、グレグリーライノは迷わない。
広げたブルドーザー状の角を構え、その影へ一直線に突進する。霧を押し裂き、地面を削りながら進むその軌道は、一直線の破壊。
その正面へ。
別方向から同時に、光と衝撃が走る。
【ウォーターレーザースパイラル】
効果……螺旋状の水流を発射する。
【バーストスパーク】
効果……発火性の強い雷を発射する。
【ゴールデンハンマー・ハード】
獲得条件……【ゴールデンハンマー】【耐久性強化】を所持。
効果……頑丈な金系統の大槌を創り出し、振り下ろす。
螺旋を描く水流が霧を切り裂き、雷が空気を焼きながら直撃する。さらに上空から、質量そのものを叩きつけるような黄金のハンマーが落下する。三方向から重なった衝撃が、ブルドーザー状の角へと集中する。
轟音が弾ける。
衝突の瞬間、鉄山全体が揺れた。金属を砕くような振動が足元から伝わり、散らばった鉱石が跳ね上がる。突進の勢いが削がれ、巨体がわずかに押し戻される。角の先端が砕け、頭部が崩れ落ちるように沈む。
確実にダメージは入っている。
だが、止まらない。
グレグリーライノは砕けた頭部を無理やり持ち上げる。潰れたはずの構造が、軋みながら再び形を保つ。小さな目が鈍く光り、次の踏み込みへと力を溜めていた。
「ボズゥウウウウウ」
奇烈な音が炸裂する。次の瞬間、グレグリーライノの全身から煙が噴き上がった。装甲の継ぎ目、脚部の隙間、頭部の奥から白い噴流が一斉に放出される。鋼鉄の体と相まって、その姿はまさに稼働する重機そのもの。噴き出した煙は濃く重く、【ディープミスト】の霧を押しのけながら広がり、やがて視界を覆っていた白を塗り潰していく。
やがて煙が晴れる。
青空の下、削れた鉄山の地表だけが露わになる。だが正面にいるはずのララクの姿はない。標的を見失った巨体が、わずかに頭部を揺らす。
その瞬間。
鈍い衝撃が、巨体の後方に走る。
ライノの巨大な尻に、何かが叩きつけられた。致命的なダメージではない。装甲を貫くほどでもない。それでも、確かに肉体へと届いた感触。わずかな違和感が神経を逆撫でする。
巨体が急停止する。地面が削れ、砕けた鉱石が前方へ滑る。すぐさま脚を踏み直し、180度、向きを変える。
その先にいたのは、ゼマ。
クリスタルロッドが不自然な長さに伸びている。【伸縮自在】が付与されたそれは、距離を無視して空間を貫くように延び、ライノの背後へと届いていた。ゼマは軽く踏み込み、さらに突きを繰り出す。
「よこせ、その変形スキル!」
狙いは明確だった。この討伐において、最も恩恵を受けるのは彼女と、その武器であるこのロッドだ。強化しようとしているその武器で、対象をぶん突く。これは冒険者の武器づくりとしては、王道的な流れと言える。
「ボシュウうう」
喉ではない。体内から響く低い音が漏れる。怒りとも警告とも取れる振動が、空気を震わせる。
次の瞬間、グレグリーライノが踏み込む。
頭部の角が再び変形を始める。直線だった構造に節が生まれ、関節のように折れ曲がる。先端が広がり、厚みを持ち、巨大な刃ではなく面へと変わっていく。形成されるのは、土石を掻き出すための形状。
グレグリーライノ・ショベルホーン。
地面を抉り、押し退けるための構造。突進と同時にすべてを排除する形。鉄山の岩肌に食い込み、鉱物ごと削り取りながら前進するその姿は、土木機械そのもの。
この変形が意図的なものなのか、それとも本能的な進化なのかは分からない。重機を模したのか、それともこの存在を元に重機が生まれたのか。専門家の多くは後者を推しているが、グレグリーライノの変形は個体差が激しく、いまだ解明には至っていない。
ただ一つ確かなのは、その巨体が再び破壊の軌道に乗ったという事実だった。