10巻 祝・追放100回記念   作:高見南純平

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第432話 

「ありゃりゃ、適性関係ないんか」

 

 ゼマは即座に踵を返す。砕けた鉱石を蹴り上げながら距離を取り、鉄山の斜面へと駆け上がる。

 

(私があれを使うとしたら、棒状からははみ出せないんだよねぇ。角も体の一部だから、何でもありなのか)

 

 頭の中で比較が走る。自身の【棒適性】はあくまで棒状武器に限定される。扱いの精度や応用力は上がるが、形状そのものを逸脱することはできない。だがグレグリーライノは違う。武器という概念すら持たない存在が、自らの肉体を武器へと変換している。適性という枠の外側で成立している変質的な機能。

 

 グレグリーライノのショベルが伸びる。関節構造が唸りを上げ、地面を抉りながら一直線に迫る。鉄山の岩肌が削れ、埋まっていた鉱物ごと掘り起こされていく。逃げ場を削りながら追跡する動き。

 

 ゼマは斜面を蹴り、さらに上へ。足場は不安定だが、止まれば即座に追いつかれる。

 

「んうやぁ、杖だなこれじゃあ……!」

 

 崖に近い傾斜へと差し掛かる。ゼマはクリスタルロッドを岩肌へ突き刺す。深く差し込み、その反動で体を引き上げる。腕の力と足場の摩擦で一気に高度を稼ぐ。だがその下から、ショベルが唸りを上げて迫ってくる。岩を砕き、斜面そのものを崩しながら上昇してくる圧。

 

 その時。

 

 巨体の背に、別の衝撃が走る。

 

「背中を搔かれたら意識はそっちに向かうかの実験だね」

 

 低く落ち着いた声とともに現れたのはレッツタ。両手に装着された磁力クロ―が鈍く光る。発生した磁力がグレグリーライノの装甲へと吸い付き、そのまま体ごと引き寄せられる。

 

 一瞬で距離が詰まる。

 

 レッツタの体が、巨体の背へと叩きつけられるように乗り込む。靴底が金属質の表面に擦れ、火花が散る。だが磁力がそれを許さない。吸着するように固定され、そのまま四肢を使って体勢を安定させる。

 

 次の瞬間、爪が振り下ろされる。

 

 金属を引き裂くような音。赤黒く変色した刃が装甲を削り取り、連続して打ち込まれる。迷いのない軌道。思考が完全に戦闘へと集中している証拠。

 

 巨体の上で、確かな攻撃が刻まれていく。

 

 そして追い打ちをかけるように、巨体へさらなる衝撃が叩き込まれる。

 

「振動オン……! 【刺突乱舞・空】」

 

 乾いた空気が震える。サイフウのレイピアが高速で突き出され、その軌道に沿って振動が重なる。圧縮された空気と魔力、衝撃が一体となり、見えない槍となって連続で射出される。細く鋭い一撃が、何本も、何度も、ライノの背部へと突き刺さる。着弾のたびに金属質の外殻が細かく震え、鈍い音が積み重なっていく。

 

「ブーストオン。【エアスラッシュ】! カスケード」

 

 直後、カライジが大きく斧を振り抜く。ブーストによって加速した動作が空気を裂き、そのまま斬撃となって放たれる。飛翔する刃は、斧そのものの形状を保ったまま回転しながら進む。1つでは終わらない。連続して放たれた斬撃が軌道を重ね、ライノの背中と後部へと叩きつけられる。

 

 衝撃が重なる。

 

 レッツタの爪、サイフウの刺突、カライジの斬撃。それぞれの攻撃は一撃では決定打にならない。それでも確実に、装甲にダメージを蓄積し、感覚を乱し、巨体へ違和を刻み続ける。

 

 学生たちの力はまだ小さい。だが、その一撃一撃には明確な意思が乗っている。

 

 巨獣の背で、気力のこもった攻撃が連続して叩き込まれていた。

 

 彼らの目的は明確だった。注意を引き続けること。今はゼマに視線が向いている。ならば、それを自分たちへ移す。

 

 その意図は、すぐに実を結ぶ。

 

 グレグリーライノのショベルが、ぐいと軌道を変える。関節のように折れ、背面へと回り込む。その先にいるのは、背に取り付いていたレッツタ。

 

 巨体が、自らの背中へ向けてショベルを振り下ろす。

 

「視野がお広いのか~……いや犀は視力に優れている傾向はないと思う。てことは、背中の感覚を頼りに俺を壊しに来たんだ」

 

 間近で迫る質量に対し、レッツタは口をわずかに開いたまま、跳ぶ。磁力で吸着していた足場を解放し、一瞬で宙へ逃れる。直後、ショベルが背中へ叩きつけられる。

 

 鈍い衝撃音。自分の装甲を自らで打ち据えるような一撃。

 

 破片が弾け、金属質の振動が空気を震わせる。このままでは巻き込まれる。落下軌道に入る前に、レッツタは動く。

 

「磁力反転して、ここはおさらばだね」

 

 両手のクロ―が赤黒く光る。吸着していた磁力を反転させ、今度は反発へ。見えない力が一気に弾け、レッツタの体が後方へ吹き飛ぶ。空気を裂きながら距離を取り、地面すれすれで体勢を整える。

 

 そのタイミングでグレグリーライノの全身が震える。

 

 ボゴォン、ゴン、ゴン、と腹の底に響くような異音が連続する。煙が吹き出し、装甲が軋み、巨体が強引に向きを変える。背面から前面へ、一気に体を捻り、次の標的を探す。

 

 翻弄される巨獣。だが動きは止まらない。赤い布に反応する闘牛のように、刺激へ即応し、次の対象へと突き進む。

 

 離れたレッツタへ狙いを定めかけると、上空が暗転する。

 

【サンダーボルト】効果……暗雲を創り出し雷を放つ。

 

【ヴォルガニックランス】

 獲得条件……獲得可能な紋章物の一定レベルの到達、または【フレイムランス】【ヒートランス】【岩石槍】を所持。

 効果……溶岩系統の槍を創り出し射出する。

 

 黒雲が渦を巻き、稲光が落ちる。直撃した雷がショベル頭部を焼き、動きをわずかに鈍らせる。さらにその直後、空間が歪むようにして、溶岩の槍が次々と生成される。

 

 熱を帯びたそれらが、連続して射出される。

 

 ドロリとした赤が装甲に突き刺さり、接触と同時に溶けるように広がる。貫くというより、焼き侵食する攻撃。何本も、何本も重なり、ショベル形状の頭部へと叩き込まれる。

 

 焼ける音と、軋む音が重なる。

 

 巨体が、再び強く揺れた。

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