10巻 祝・追放100回記念   作:高見南純平

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第445話 

 引率の臨時教師たちが、目の前で火花を散らしている。鋼鉄の巨体と真正面からぶつかり合い、衝撃と熱が絶え間なく弾ける光景に、カライジは息をのんだ。

 

「ぱねぇ、命の掛かった戦い……。これが俺の望む、冒険者の世界……」

 

 その横を、風を切るようにサイフウが通り過ぎる。

 

「作戦は変わらないでしょ。今こそアシストの時じゃないの」

 

 レイピアを構えたまま、迷いなく駆ける。編み込まれた縄のような髪が背で揺れ、視線はすでに標的を捉えている。

 

「サイフウ、キミもこの世界に足を突っ込みたいんだな」

 

 カライジも追う。足場の悪い鉄山を蹴り上げながら、距離を詰める。その間にもサイフウは間髪入れず突きを放つ。

 

「【刺突・空】」

 

 空気が振動し、目に見えない衝撃が一直線に飛ぶ。何度も、何度も背中へ叩き込まれる。だが、ライノは揺れない。鋼鉄の装甲に弾かれ、振動は内部まで届かない。

 

 それでも攻撃を止めない。だが、手応えが薄い。

 

 おそらく、向こうは今が攻め時だと判断している。ララクとゼマへ集中しているからこそ、こちらへ意識を割く余裕がない。逆に言えば、この程度の刺激では振り向かせることすら難しい。

 

 そこへ、レッツタが合流する。視線は鋭く固定され、完全に思考へ潜っている。

 

「俺たちの攻撃は、蚊に刺されにも満たないつたない威力だぁ。正面からじゃ、あの連携には入り込める余地なし、だし」

 

 ぶつぶつと独り言のように呟きながら、状況を分解していく。

 

「速攻で考えてくれレッツタ! 方法があるんだったら、お前ならたどり着ける!」

 

 カライジの声が飛ぶ。

 

「今の俺たちが可能で、状況を好転させる方法。相手の注意を引くのも難しいし、致命傷を負わせるのも不可能に近しい。サポートに徹するならば……」

 

 レッツタの思考がさらに深く沈む。視界のすべてを情報として取り込み、最適解を探し続ける。

 

 その視線の先で、巨人と化した犀の怪物と、ララクとゼマの攻防はなおも激化していた。衝突音が連続し、鉄山そのものが揺れ続けている。

 

「ゼマさん! フックです!」

 

 ララクの声が空気を裂く。乱撃を続けていたグレグリーライノの軌道が、わずかに変わる。ただ振り下ろすのではない。腰をひねり、圧を一点に集めるように、鋭く差し込む一撃へと移行する。巨腕が低く潜り込み、抉るような軌道でゼマの左脇腹を狙う。

 

「ぐうぇっと!」

 

 ゼマは反射的に体をねじり、ロッドを差し込む。だが間に合いきらない。その一瞬を埋めるようにララクが踏み込む。空間に大盾が出現し、拳とゼマの間へ強引に割り込む。透明な硬質の面が光を弾き、同時に鎖が地面へ突き刺さって固定される。受け止める形は整った。【チェインシールド・ハード】、防御スキルの1つだ。

 

 だが、衝突した瞬間にそれは崩れる。鈍い激音とともに、盾の中心がへこみ、ひびが放射状に走る。次の瞬間、内側から押し抜かれるように破断。穴が穿たれ、拳がそのまま突き抜ける。魔力で構築された強度では、鋼鉄の質量と速度を止めきれない。

 

 衝撃が直撃する。ゼマの左側面、顔まで巻き込む形で叩きつけられる。ロッドをねじ込んでいるが、完全には受けきれず、腕ごと押し潰されるようにめり込む。

 

「【ディフェンスアップ】! オーバーズ!」

 

 ララクが叫び、ゼマに極限までの防御強化を叩き込む。瞬間的に彼女の硬度が跳ね上がり、致命のラインをかろうじて越えさせない。それでも威力は消えない。圧が残り、衝撃が体内を駆け抜ける。

 

「一撃で、致命じゃねぇか」

 

 吐き出すように言いながら、ゼマの体が後方へ弾かれる。足元の鉱石が砕け、削れ、軌跡を残して滑る。レベル差は20近い。本来なら、その一撃で終わっている。

 

 ゼマは歯を食いしばり、自分へ回復を重ねる。光が体を包み、崩れかけた均衡を無理やり引き戻す。だが呼吸は乱れ、腕は震え、衝撃の余韻が抜けない。

 

 耐えているだけだ。

 

 どこまで持つかは、残された気力と体力にすべてが委ねられていた。

 

(真っ向勝負、どんな敵よりもやりやすい……はずなのに……、巨体でこの硬度は手に余るか……)

 

 拳と拳がぶつかるたび、鈍い衝撃が腕から肩へと突き抜ける。肉弾戦。攻撃を当てさえすれば高威力を叩き込める自分は、本来この距離で優位に立てるはずだった。同じレベル帯でも、空を支配するシームルグとは違う感触。だが目の前の相手は、質量と硬度が異常だ。

 

(装甲が崩れていたとしても、【可変形】で追加しているのか。拳で対抗するのは得策じゃない……。体に直接叩きこまないと)

 

 ララクはゼマの前へ滑り込み、拳を交差させて防ぎながら応戦する。衝撃を受け流しきれず、足元の鉱石が砕けて滑る。それでも間合いを離さない。その最中、巨体の向こう側に走る影が見えた。

 

「サイフウさん!? 離れるべきだ!」

 

「離れるべきならね」

 

 乾いた返答と同時に、サイフウが低い姿勢で踏み込み、ライノの右踵へ突きを放つ。【刺突乱舞】。振動強度は最大。空気が細かく震え、見えない刃が連続で叩き込まれる。

 

 そこへカライジが踏み込む。ブーストアックスを構え、地面を蹴り砕く勢いで接近しながら、自分に言い聞かせるように吐き出す。

 

「……肩は温まっているだろう、カライジ!」

 

 斧が唸りを上げ、脚部へと叩き込まれる。さらに反対側からレッツタが磁力で体を引き寄せ、鋭く入り込む。視線は一点に固定されたまま、ぶつぶつと指示を落とす。

 

「いいかい2人とも必要以上に粘着質に攻め続けるんだよん」

 

 三方向から、同時に脚部を削るような攻撃。恐怖はある。それでも止まらない。視線が向いていない今だからこそ成立する連携。陽動としては未完成でも、崩しの圧は確実に積み重なる。

 

 それでもライノは揺るがない。じたばたと暴れることはなく、直立したまま前面のララクとゼマへ拳を振り下ろし続ける。後方の違和感を感じ取りながらも、優先順位を変えない。

 

「……キミたちの作戦に付き合おうべき、ってことか。先生として……!」

 

 ララクは歯を食いしばり、拳を受け止めながら呟く。詳細は読めない。それでもレッツタが動いている以上、無策ではないと判断する。

 

「ゼマさん、もう少しの」

 

「辛抱だろ! 辛すぎるけどねぇ!」

 

 ゼマの息は荒く、ロッドを握る腕は震えている。防御と回復を重ね続けても、衝撃の蓄積は消えない。それでも立っている。ララクのカバーと自身の回復で、限界の線を踏み越えないように繋いでいる。

 

 前後で攻撃が交差する。前面では巨拳と防御がぶつかり、背後では粘りつくような連撃が脚部へ集中する。鉄山の鉱石が砕け、粉塵が舞い上がる中、巨獣を挟んだ攻防はさらに激しさを増していった。

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