爆煙が晴れきらぬ中、巨体が再び輪郭を取り戻す。膨張していた装甲が収束し、四足へと姿勢を戻す。本来の犀の形。その頭部で、角だけが異様に変化していた。太く、長く、内側に魔力を溜め込む構造。先端が開き、圧を吐き出す口となる。
グレグリーライノ・キャノンホーン。
体内の魔力が唸り、角の奥で光が脈打つ。次の瞬間、轟音とともに魔力弾が放たれる。一直線に伸びた軌道の先は、生徒たち。狙いの理由は分からない。偶然視界に入ったのか、それとも足元を崩された報復か。
「【グランドウォール・ハード】!」
ララクが即座に応じる。地中が隆起し、分厚い土壁が生徒たちの前にせり上がる。魔力弾が直撃。衝撃で壁全体が震え、ひびが走る。破砕まであと一瞬。
「飛び散れ」
レッツタの一言で、三人は同時に散開する。崩れる壁を背に、別方向へ跳ぶ。直後に土壁が砕け、余波が周囲を削り取る。
「まだラウンド続行するんだ」
サイフウが息を整えながら呟く。視線は逸らさない。
「こんのぉ、っと」
カライジは地面を蹴り、飛来する次弾を紙一重で避ける。爆ぜた土と鉱石の破片が背中をかすめるが、止まらず走り抜ける。
「 散らばるんだ! ……追加のオーバーズ!」
ララクはライノとの距離を維持しつつ、周囲へ連続で土壁を展開する。壁、壁、壁。視界を切り刻むように配置し、標的の特定を困難にする。迷路のように組まれた遮蔽が、生徒たちの位置を隠す。
「そろそろ命を獲ってやれよ、ララク」
ゼマは壁の陰に身を滑り込ませ、クリスタルロッドを伸ばしてライノの顔面を小突く。乾いた衝撃が伝わった直後、砲口がそちらへ向く。魔力が収束し、発射。ゼマは即座に別の壁へ移動し、直撃を外させる。
それを見たサイフウが踏み込む。【刺突・空】。振動を帯びた突きが空間を裂き、側面へ叩き込まれる。直後、砲口が反転し、反撃の弾が返る。サイフウは身をひねり、掠めさせて離脱。
遠距離手段を持たないレッツタは、足元に散った鉱物の破片へ手を伸ばす。磁力が発動し、細かな欠片が一斉に浮き上がる。そのまま弾丸のように加速し、ライノへと殺到する。小さな衝撃が連続して装甲を叩き、視線を揺らす。
四方からの干渉。土壁で断ち切られた視界。標的を定めきれない中で、それでもキャノンは唸り続ける。鉄山の空気が震え、次の一撃のための魔力が、再び角の奥で膨れ上がっていった。
「……俺も、まだまだ加速しないと……!」
カライジがアックスの柄を強く握り、土壁の陰から顔を出す。呼吸は荒いが、目はまだ死んでいない。その一瞬、視線が合う。角の奥で膨らんでいた光が弾け、キャノン砲が即座に放たれる。
「うわぁ! そ、存在感がありすぎたか」
反射で身を引き、壁の陰へ滑り込む。魔砲弾は壁の端を削り取り、爆ぜた破片が周囲に散る。直撃は免れた。だが位置は割れたまま。次弾、三弾と、同一点へ連続で叩き込まれる。土壁が震え、亀裂が走り、削られていく。
「おいララク! 治せる範囲超えるぞ!」
ゼマの叫びが飛ぶ。回復は間に合うが、限界はある。直撃を重ねれば、取り返しがつかない。
「安心してください。魔法合戦なら、ボクがほころぶことはありませんから!」
ララクが一気に距離を詰める。崩れかけた壁の前へ滑り込み、カライジの前に立つ。腕の感覚は鈍い。それでも意識は冴えている。魔力は問題なく通る。
次の砲弾が壁を打ち砕く。土塊が弾け、視界が開く、その瞬間。
「 【ウィンドレーザー】! 反弾せよ!」
一直線の風が奔る。圧縮された気流が刃となり、飛来した魔砲弾を正面から呑み込む。弾体が軌道を失い、押し返され、風に乗って反転する。逆流する衝撃が一直線に伸び、ライノへ返る。
風が鋼鉄を削る。表面を撫でるだけではない。圧と回転で食い込み、細かく削ぎ落とす。その中へ、反転した魔砲弾が突っ込む。衝撃と風圧が重なり、装甲に歪みが走る。
ライノは即座に対応する。角の内部で再び魔力が膨張し、連続で砲弾を放つ。高威力の弾丸が風の流線へ撃ち込まれ、衝突。空中で爆ぜ、風の刃を削り、かき消そうとする。だがララクは踏み込んだまま、風を押し出し続ける。
前方では鋼鉄が削られ、上空では衝突が連鎖する。爆ぜる光と風圧がぶつかり合い、鉄山の空気が唸る。カライジの目前で展開されるのは、純粋な魔力の撃ち合いだった。