「……はぁ、はぁ。先生、敬服っすわ。同世代なのに、その戦力と胆力……」
カライジの腕は震えたまま、アックスを握り潰すように力がこもっている。風と爆ぜる魔力の余波が頬を打つたび、肩が小さく跳ねる。汗が顎を伝い落ち、視線はララクとライノの間を揺れ続けていた。
「今日が初冒険、それで強靭な変形モンスターが相手なら、キミたちは戦力として機能しているほうだ。人の常識をはみ出た生命に、脅かされるのは当然の事だ」
風を維持しながら、ララクは短く言う。押し返していた気流の流れを読み取りつつ、わずかに視線をカライジへ寄せた。
「身の毛が、ぞっとするのは、予想はしてたんすけど……。俺はそれ以上に、死闘が怖いっす」
「〈命を奪う恐怖〉。都内で暮らしているだけでは味わないからな」
風の軌道が安定する。ララクは完全に顔を向けた。視線が重なる。カライジの目は揺れていた。答えを探しているのに、何も掴めていない顔。
「シンプル怖いもあるんすけど……もっともやついているっていうか。……俺は植物学のために外を、それらの現地に行って研究したかった。それが人の役に経つならって」
「可憐な思想だと思う」
「……でも、モンスターの命を奪う必要があるのかなって」
ララクの瞳がわずかに開く。
「……! そうか、キミが感じているのは根本的な冒険理念だったのか」
前方では、グレグリーライノが再び魔力を収束させている。砲口が淡く光り、熱が膨らむ。
「今のライノだって……ゼマ先生の装備強化なのは納得できるけど……、それがなくたって俺たちは生きていけるし。なのに、あいつの息の根を止めるなんて」
砕けた鉱石の匂い、焦げた空気、風に混じる鉄の味。戦場の中で、カライジの言葉だけが妙に静かに響く。
「……その連鎖の不条理に気がついているなら、答えは目の前だ」
「っえ。そっか、先生は、これを正当化できる言葉を知ってるんですね……!」
必死に縋るような視線。ララクは一瞬だけ空を見上げた。晴天。粉塵に滲みながらも、青は濁っていない。
「言葉はないさ、あるのは生き方だけ」
「……え?」
その瞬間、ララクは【ウィンドレーザー】を解いた。
押し返していた風が霧散する。遮るものを失った魔砲弾が、一直線に迫る。空気を裂き、唸りを上げ、二人の間合いへと突き刺さるように接近する。
「ボクらはどう解釈したって、破壊するものだ!」
ララクはその場で軽く跳ぶ。足裏が空気を踏み、体がわずかに浮く。迫る魔砲弾。唸りを上げて一直線に突き刺さる軌道。その真正面で、脚を大きく振りかぶる。
着弾の寸前。
「【カウンターストライク】」
効果……相手の攻撃を吸収しながら、蹴りを繰り出す。
蹴りが叩き込まれる。接触の瞬間、魔弾の圧が脚へ流れ込み、衝撃が吸い上げられる。次の刹那、そのエネルギーを乗せた一撃が弾体を打ち返す。空気が裂け、軌道が反転。輪郭を持った塊として捉えた魔弾は、そのまま一直線に押し戻される。
グレグリーライノの角へ直撃。鈍い衝突音と共に、砲口がわずかに歪む。内部で収束しかけていた魔力が乱れ、連射が止まる。重苦しい空気が一瞬だけ途切れた。
「……だったら、俺はどう立ち上がれば……」
カライジの声は震えていた。問いはまだ地に足がついていない。それでも、前を向こうとしている。
ララクは着地し、そのまま視線を外さずに答える。前方では、再び煙を噴き上げながらライノが体勢を整えている。
「ボクも悩み疲れた時はある。ボクたちは人の暮らしを豊かにするために存在している。だけど色んな冒険者について、色んな死を見てきた。
……だからこそ思う。その死地に居続けられるもの、自分の手を染める覚悟がある者。その狂気を孕んだまま生きれるものが、冒険者に成れるんだよ……きっと」
低く、しかしはっきりとした声だった。爆ぜた鉱石の匂いと、焦げた魔力の熱が混じる中で、その言葉だけが妙に重く残る。
前方で、グレグリーライノが再び動く。歪んだ砲口が軋みながら形を戻し、魔力が再収束を始める。空気が張り詰める。