10巻 祝・追放100回記念   作:高見南純平

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第449話

 相手の攻撃を真正面から受け止めるララクの姿が、晴天の下で光を反射し、眩しく焼き付く。砲弾と風と衝撃の中心に立ちながら、一歩も引かない。その背中を見た瞬間、カライジの中で何かがほどけた。

 

 自分は勘違いしていた。この悩みに、救いも矜持も用意されているわけじゃない。

 

「……良し悪しに頭揺らされながら、それでも突き進む……。それが、冒険者……!」

 

 足に力を込めて立ち上がる。震えは消えない。だが、止まらない。

 

(震えも俺の代謝だ……!)

 

 アックスを握り直し、ブーストを点火。爆ぜる推進力が体を前へ押し出す。一直線にライノへ。直後、砲口がこちらを捉え、魔弾が連射される。空気を裂く音が連続で耳を打つ。

 

 カライジは身を沈め、滑るように一発を回避。次の弾を横へ跳んでかわし、足裏にブーストを噴かして軌道をずらす。地面に一度着地し、砕けた鉱石を蹴り飛ばしながら加速。すぐに再び跳び上がる。直線では狙われる。だから、折れ、逸れ、沈み、浮き、進路を細かく刻む。

 

 弾丸が背後で爆ぜ、熱と破片が背中をかすめる。それでも止まらない。視線は一点、鋼鉄の巨体へ。

 

「おとりぐらいしか役目はないけど、それがあいつを狩る材料になるなら、俺は務めて見せます!」

 

 さらに加速。角度を変え、側面へ流れ込み、そのまま背後へ回り込む軌道を取る。

 

「(ボクが冒険を解く側に回るなんて、皆さんに笑われそうだ) 説得力を増すために、きっちり結果は出すよ」

 

 ララクはその動きを見逃さない。魔力を練り上げる。足元で風が渦を巻き、周囲の粉塵が持ち上がる。止めへ向けた構築が始まる。

 

 遠方ではゼマとサイフウが間断なく突きを放つ。細い軌跡が空気を裂き、装甲を叩く。決定打には遠いが、無視すれば確実に削れる圧。じわじわと神経を削る攻撃。

 

 上空ではレッツタが磁力を反転させながら舞う。吸着で一瞬だけ接近し、すぐに反発で距離を取る。その繰り返しで、ライノの意識を撹乱する。鋼鉄と磁力が引き合い、弾き合い、奇妙な軌道を描く。

 

 だが、視線の中心は変わらない。

 

 逃げも隠れもしない存在。真正面から飛び込んでくる人影。カライジ。

 

 砲口が追従し、連続射撃が一点へ集中する。だがその密度の中を、カライジは抜ける。踏み込み、滑り、跳び、ブーストで軌道をねじ曲げる。弾と弾の隙間を縫い、地面を蹴って加速し、再び空中へ。

 

 流れるように、背中へ回り込む。

 

 鋼鉄の巨体、その死角へ。

 

「大したダメージにはならないだろうけど、この一撃が俺の覚悟だ……っ!」

 

 ブーストの残光を引き裂きながら、カライジは踏み込む。砕けた鉱石が足裏で潰れ、鈍い音を返す。重心が前へ滑り、肩から腕、指先へと力が一本の線となって流れ込む。狙いは首。ただ断つ、それだけに思考を絞り切る。

 

「【ストロングスラッシュ】!」

 

 振り抜きの直前、鋼鉄の後頭部が脈打つように歪む。装甲が裂け、内側から黒い砲口がせり出す。【可変形】。死角を消し去るための変形。至近距離で口を開けたそれが、逃げ場のない軌道でこちらを捉える。

 

 この距離、この角度、この速度。脳が瞬時に理解する。回避の余地はない。脚を引くにも、体を捻るにも、すでに時間が足りない。だが、振りかけた一撃は途中で止められるものではない。むしろ止めた瞬間に無防備になる。ならば選択肢は一つしか残らない。迫る死を真正面から受け入れたまま、それでも刃を通す。恐怖が喉を締め上げても、視線は逸らさず、腕は緩めず、振り切るしかない。

 

「死ぬのはどっちだろうなぁ!」

 

 その瞬間、空間にもう一つの歪みが走る。空気が裂け、遅れて圧が押し寄せる。カライジの斧と同じ軌道に、異様な長さの刃が滑り込む。

 

「キミの死はあり得ない! 【首狩り】!」

 

 ララクが振り下ろしている。極端に細く、限界まで引き伸ばされた断刃。振り下ろされるだけで空気が押し潰され、周囲の粉塵が弾ける。

 

 二つの斬撃は、寸分の狂いもなく同一点へと収束していく。先に触れたのはどちらかすら判別できないほどの同期。触れた瞬間、硬質な抵抗が刃を通して腕に食い込み、そのまま押し返そうとする。だが次の刹那、その抵抗ごと圧がねじ伏せる。重なった斬撃が互いを増幅し、逃げ場を失った鋼鉄に集中する。世界の音が引き剥がされるように遠のき、耳鳴りのような無音の中で、ただ断ち切る感触だけが鮮明に伝わる。

 

 直後、鋼鉄が裂ける鈍い感触が走る。角ごと、頸部が断ち切られる。刃が食い込み、引き裂き、そのまま一気に通り抜ける。

 

 頭部が宙へ弾かれる。重さのある塊がゆっくりと回転し、光を反射する。切断面から、熱を帯びた血がどろりと溢れ出す。噴き上がるのではなく、重力に従って落ち、地面を叩き、砕けた鉱石の隙間へ流れ込む。赤が広がり、じわじわと足元を染めていく。

 

 カライジはそのまま地面へ落ちる。衝撃が脚を突き上げ、膝が折れかける。だが踏みとどまる。アックスを握ったまま、肩で息をする。

 

 遅れて、巨体が傾く。

 

 支えを失った鋼鉄の塊が、ぎしりと音を立てながら傾斜し、次の瞬間、一気に崩れ落ちる。鉄山全体が震え、衝撃波のように空気が揺れる。粉塵と鉱石の破片が跳ね上がり、晴天を一瞬だけ覆う。

 

 その中心で、可変魔獣グレグリーライノは完全に沈黙していた。

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